もしもあの決闘者達が現代のトレカショップを訪れたなら 作:葉隠 紅葉
「亀のゲーム屋」と呼ばれるその店は
店内には所狭しと、世界中の多種多様なボードゲームやカードゲームが棚にぎっしりと置かれており、中には随分と年代物のゲームまで存在する。大昔の玩具屋のようなノスタルジックな雰囲気を残したその店は、地元民に愛されるまさに名店である。
その店内のカウンターの前で一人テレビを眺める老人がいた。
武藤双六
あの伝説の決闘者、武藤遊戯の祖父である。画面に映し出されていたのは、アメリカの公式大会の試合映像。レベッカ・ホプキンスとインセクター羽蛾のデュエルであった。
もうずいぶんと見直していたのだろう。何度も何度も使いまわしたビデオデッキからキュルキュルと巻き戻す音がなる間、老人は肩をもみながらそっと天井を見上げた。
さてお茶でも入れるかと立ち上がりかけたその時、店内に元気な青年の声が響いた。
「おーっす、じいさん!久しぶりー!」
元気ハツラツと言った様子の青年、城之内克也が勢いよく扉を開けてきた。勝手知ったるなんとやらで店内に入ってくるこの様子、どうやら随分となじんだ常連客らしい。彼は店内に入ると双六に対して声をかけた。
「またその大会のビデオ見てるのかよ」
「ほっほっほ。飽きなくてのぅ」
双六は目を細めながら、いつものようにお茶を啜る。城之内はカウンターに背中を預けながら、同じようにビデオの映像を眺めるのであった。
ビデオの中ではインセクター羽蛾が壊獣に踏みつぶされていた。あまりにも巨大な壊獣による、大迫力の映像の中のラストアタック。愛している自身の昆虫が暴力的な大怪獣に成り果て蹂躙された羽蛾は地面に尻餅をついて呆然と天を見上げたまま試合は終了した。
今テレビで話題沸騰となっているかの録画映像を眺めながら、城之内はため息をついた。
「壊獣だったか。凄まじい効果だよなぁ」
「ほぅ…どう凄いんじゃ?」
「そりゃ…相手のエースカードを無力化できる所だろ?」
「ほっほっほ」
「どんな強いモンスターも壊獣にしちまえば意味ないんだし。不利な盤面を0に戻せるのはやっぱり強いぜ」
「それじゃ満点はやれんのぅ」
「…ダメなのか?」
怪訝な顔を浮かべる城之内に対して双六は楽し気にこたえる。彼に指導したことのある身としては、まだまだ彼の洞察は甘いと言えた。老人は茶をすすりながら陽気に答えた。
「不利な盤面を0にではない…有利な盤面にできる点が強い所じゃよ」
「有利…?」
「きっと壊獣はあの2体だけではないじゃろう?」
「あっそうか…他にもあんなのが居るって事か!」
「おそらくのぅ。そしてそれらは強力にして固有の能力を持っているはず…」
映像の中では2体の怪獣しか登場しなかった。確かあの後レベッカが使用した壊獣の名は…ジズキエルだっただろうか?
羽蛾が使用した起死回生の魔法カードを無効にし、更に場に伏せていたフィールドのカードまで破壊するという強力な効果を持つ壊獣については、今でもネット中で多くの決闘者から考察されている。
あんな強力な効果を持つものが他に何体も存在するかもしれないのか…内心ぞっとする城之内。そんな彼に対して双六は更に言葉を続けた。
「それにこれは推測じゃが…壊獣というテーマにはそれらを支援する魔法や罠カードも存在すると儂は睨んでおる」
「…まだ強力なカードが存在するって事か」
レベッカはまだまだ手の内を見せていない。そう考えてごくりと唾を呑む。壊獣という名が持つその暴力的なまでの攻撃力、カードパワー。一体あのデッキにはどれだけ恐ろしい真価を秘めているのだろうか。
果たして彼女と決闘したときに、自分は勝てるだろうか…。考え込む城之内に対して双六はなおも言葉をつづけた。
「テーマデッキの強さは、それらを補佐するサポートカードにもあるからのぅ」
「そうか。相手のモンスターを壊獣にしちまえば、そのデッキが持つ強力なサポートカードも同時に無力化できるって訳か!」
「相手の得意なデッキをエースモンスターごと封じ、自身の得意な戦場を強制させる…まさに理不尽にして暴力の化身じゃのう」
昆虫デッキならば昆虫を指定して蘇生させる罠カード。戦士族のみをサーチできる魔法カード。様々なサポートカードが存在するが、それらも属性が異なる壊獣にしてしまえば無意味にしてしまえる、確かにそう考えると非常に強力である。
腕を組んで考える城之内。一方の双六は大昔の特撮を思い出してか、或いは単純に友人の孫であるレベッカが活躍する事が嬉しいのだろうか。双六はなんとも嬉しそうな笑みを浮かべているのであった。
「じゃがわしが思うにデメリットもある。効果は強力じゃが、その分扱いは難しいじゃろうな」
「まぁ羽蛾のフィールドに召喚してたラディアンだったか?あのモンスターも攻撃力が高かったしなぁ」
「見方を変えれば強力なモンスターを相手に送り付けてるとも言える…使い方を誤れば自分の首を締めるだけじゃな」
「プレイング次第ではむしろ自分が追い込まれちまうって事もあるのか」
感心したように頷く城之内。やはりDMは奥が深い。果たして自身が持つデッキで、彼女の壊獣達に立ち向かうことはできるだろうか。脳内で考え始める城之内の横で、双六は湯呑みを手に取り、静かに2杯目のお茶を注いだ。
「所で城之内、最近は公式戦の方でも好成績を残してるそうだのう?」
「どこが好成績だよ…結局2位止まりだったさ」
「いやいや、2位も立派な成績じゃよ」
「遊戯や海馬が出てこない大会なんか意味ねーさ…なんて下らない意地を張っていたからこの間も負けちまったんだけどな…」
「あの試合はおしかったのぅ。特に最後のレッドアイズが…」
「あぁ…俺がこいつをもっとうまく使いこなしていれば勝つ可能性はあったはずだ」
そういって大きくため息をつく城之内。彼が手にしていたそのカードには真紅眼の闇竜なる文字が刻印されていた。
自分の墓地に存在するドラゴン族モンスターの数だけ自身の攻撃力を増すという、強力な効果を持つこのカード。まさに深淵にして漆黒なる支配竜。
友人である本田から託された更なるレッドアイズの可能性。本来の黒竜よりも禍々しく、漆黒のオーラを身にまとう城之内の新たなる切り札である。そのカードを静かに見つめる城之内。彼は双六に対してこのカードを見せながら、ぽつりとつぶやいた。
「あいつさ、このカードを500円で買ったって言ったんだぜ。笑えるだろ?」
「……」
「500円なんかじゃ買えるわけないのによ…全く…」
そういって落ち込む城之内。これは紛れもないレアカードである。誰も見たことがない程の、あまりに貴重なレアカード。そんなカードが500円で買えるはずがない。そんな事子供でも分かり切った事実だ。
金を支払う。たとえ何年かかっても払いきってみせる。だから幾らで買ったか教えてくれ。そういった城之内に対して本田は手を振って否定したのだ。
いや見栄張ってねーよ
マジで500円だったからそんな気にすんな
いやホントマジで
そういって何度も、何度も否定していた友人の姿を思い出す。そんな姿を思い出すだけで、城之内は目に熱い何かが込み上げてしまうのであった。
きっと本田は強がりを張っているのだろう。通常では考えられないくらいの大金でこのカードを購入したはずなのだ。それこそローンを組んで購入していたって何もおかしくはない。
それ位希少なカードなのだ。かつてあのレッドアイズを購入するだけでもダイナソー竜崎が全財産を使いはたしたとまで言っていたのだ。事実城之内が使い始めてから価格は高騰し、一枚のレッドアイズがオークションに出されるだけでネットニュースになる程なのだ。
そんなカードを、本田は購入してくれたのだ。城之内の為に、より強くなってほしいという願いの為に。城之内の中で本田は、友人の為に身銭を切って贈り物をしてくれた友人思いな漢である。少なくとも城之内の中ではそのイメージで固定されていた。
だからこそ、そんな熱き友人の強がりに城之内は応えてやりたかった。そう考え奮闘したものの、大会の結果は惜しくも2位であったのだから不甲斐ない。城之内は静かに、消え入りそうな声でつぶやいた。
「どうすればよかったんだろうな…」
カードを手に、つぶやく。やはり未熟な自身ではこんな強力なカードは使いこなせないのだろうか。口にした言葉に対して双六が的確につぶやいた。
「シナジーが薄いのぅ」
「うぐっ…っ!」
「もっとドラゴン族を主体にしたデッキじゃないとそのカードは生かせんじゃろう」
「それはまぁそうだけど…でも、外せないカードもあるしなぁ…」
そういって頭をかきむしる城之内。確かに真紅眼の闇竜は墓地に眠るドラゴン族の数だけ攻撃力を300ポイント増すという強力な効果。だが城之内のデッキにはドラゴン族は非常に少ない。精々ベビードラゴンと千年竜位なのだ。
なんとかして本田の思いをくんでやりたい。なにより自身が、この格好いい黒竜を使いこなしてみせたい。そう思う物の、なんともうまくいかないものだ。頭を抱えて悩む城之内に対して双六はアドバイスを行った。
「もっとドラゴン族を増やしてデッキを組んでみても良いかもしれんのぅ。最近は遊戯もブラックマジシャンを主体とした魔法使い族のサポートカードを増やしておるし」
「ああ、超魔導士とかも入れてたな。あれ、遊戯喜んでたし」
「それ以上に守護神官の方が嬉しそうだったがのう。あんなに嬉しそうに笑う遊戯は久しぶりに見たわい」
双六の顔にも自然と微笑が浮かぶ。超魔導士や守護神官なるカードを本田から手渡された遊戯。
どうやら本田はあの後「おっこのカードにもブラックマジシャンが写ってるな!」と気が付き、忘れずに【超魔導師-ブラック・マジシャンズ】のカードも購入していたらしい。
これをどこで手に入れたのかと珍しく動揺した表情で問い詰める遊戯に対して、本田は
あの後本田の案内の元、仲間たちを連れて一緒に探しに行ったのだがこれがダメだった。店自体が見当たらなかったのだ。何度も何度も往復したり、路地裏の端まで探してみたのだがどうにもたどり着く事すら出来なかったのだ。
本田の見間違いだったんじゃないの、と杏子がいってこの話は終わったが…結局これだけのカードをどこで購入したのかという謎は未だに付きまとう。そしてなによりも興味を引くものがまだあった。
「そういや、あのエラーカード…あれどうしたんだ?」
「知り合いのカードショップに見せてみたがのぅ。誰も分からんかったよ」
「うーん…謎だな」
「謎じゃのう」
二人して首をひねる。そう、謎のエラーカードの存在だ。あれは明らかに異常なカードであった。上半分がモンスターカード、下半分が魔法カードをしたデザインのカードなど誰も見たことも聞いたことも無かったのだ。
あの遊戯すらも、このカード単体では意味も使い方もまるで見当がつかなかったのだ。
そう、本来は二枚あってはじめて意味を成すペンデュラム。さすがに1枚だけではこの世界の誰も、その意味すらも理解できないのは当然であるとも言えた。
心中でもやもやとした思いを残したまま、あのカードの謎について思いを馳せる。そんな城之内に対して双六は手をポンと打って問いかけた。
「いっそ海馬君にでも聞いてみたらどうじゃ?ほら、元クラスメイトの馴染みとして」
「げーっ、俺やだぜ! あいつとはプライベートでまで会いたくねーよ!」
「随分嫌われたもんだのぅ」
「『ふぅん。凡骨の分際で。この俺の貴重な時間を奪うとはいい度胸だな』とか言ってくるぜ多分」
「う、うーん…その姿が目に浮かぶのぅ」
目を細めて腕組みをし、やたらうまい物まねをする城之内。そのあまりのクオリティの高さに、双六は声をあげて笑った。静かな店内に、のんびりとした笑い声が穏やかに響くのであった。
決闘描写で矛盾やおかしな点が生じているのは純粋に筆者の力量不足です。
ご指摘いただいた点を元に
矛盾が出ないように後で修正しておきますね。
良い作品を書きたいという思いは本当ですので
これからもおかしな点等あればぜひ、お気軽にご指摘いただけますと幸いです