もしもあの決闘者達が現代のトレカショップを訪れたなら   作:葉隠 紅葉

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第9話

なんなのだろうかこれは

 

 三沢大地は目の前に広げられたそれを見つめ、じっと押し黙った。それは自身の常識からかけ離れたものであった。

 

 それは一枚の布だった。大きさはテーブルを邪魔しない程度に横に広がる程で、その厚さは薄い。そしてマットの表面にはカードを置くための枠が設けられていた。どうやら民間販売の非公式品なのだろうか。真っ黒な布地に印刷されたそれは最低限の表記しかされていない。

 

そう、プレイマットである。

 

 カードを置き、そして決闘(デュエル)をするための物だ。決闘(デュエル)を補佐する為に存在するそれは、三沢にとってもなじみある物ではある。

 

 幾ら決闘者(デュエリスト)とは言え常にデュエルディスクを使用して決闘(デュエル)をする訳ではない。あれはどこでも手軽に扱え、ソリッド・ビジョンによる大迫力のデュエルが楽しめるが、決闘(デュエル)の際にはかなりのスペースを取る。デッキを調整した後に誰かと手軽に試したいとき等には少々不便なのだ。

 

 そういった理由から、座って行う古き良きスタイルの決闘(デュエル)もそれなりに行われてはいる。少なくともデュエルアカデミアではそうだ。

 

 さすがにプレイマットまで持ち歩いている人間こそ少ないが…それでも三沢の自室にだって決闘(デュエル)用のプレイマットは存在している。

 

 ではなぜ彼がこのような反応をしているのか。それは彼が知っているものとはデザインが異なっていたからだ。

 

 そう、デザインが異なっている。

 

 目を引くのは魔法罠ゾーンだ。本来は5枚ほど置くことができるそのゾーン。その左右の端にそれぞれ、独特な形の四角形が書かれているのだ。なんとも歪で独特なその四角形同士が、お互いを向き合っており、その2枠が少しだけほかの魔法罠ゾーンよりも異なった色で塗られている。

 

そして何よりも

 

そう、何よりも目を引くのは…

 

(この謎の枠はなんだ…?)

 

 見慣れない枠がそこにはあった。通常は5体置くことができるモンスターゾーン。そこから上部へ更に、2枠分だけ謎のゾーンが存在しているのだ。

 

 自身が記憶する決闘(デュエル)マットの中には絶対にこんな場所は存在しなかった。あまりに見慣れない枠。しかも奇妙なことに、そのどちらもが上半分だけが欠けた形をしているのだ。

 

 無論、それはエクストラモンスターゾーン。リンク召喚として使われる為の物だという事を彼は知らない。否、理解できない。それはあまりにも彼らが知る常識からかけ離れたものであるが故に。三沢は腕を組んだままじっと思考にふける。

 

一体この枠はなんなのか

 

一体どうやって使うのか

 

 自身の中の知的好奇心が刺激されるのを自覚する三沢。いや、待てよ…。どうやら彼は何かを思いついたようだ。三沢は慌てて先ほどレジ籠に投入していた一枚のカードを取りだした。

 

デュエリスト・アドベント

 

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

①:自分か相手のPゾーンにカードが存在する場合に発動できる。デッキから「ペンデュラム」Pモンスター1体か「ペンデュラム」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

 

ペンデュラム…

 

ペンデュラムゾーンッ!

 

 三沢はカードの効果欄をじっと眺める。ペンデュラム。それは振り子を意味する英単語だ。三沢の中でパっと何かがひらめいた。

 

 もしやペンデュラムなるカードをこのモンスターゾーンの上に存在する謎の空間に置くのではないか?

 

 右と左。そのどちらも利用する事でペンデュラムゾーンなるものが形成される…?

 

 そう考えればつじつまが合う…のかもしれない。物珍しく購入を検討したこのカードが、謎を解決するキーカードになりうるかもしれないのだ。

 

謎の魔法カード

 

意味不明な枠

 

ペンデュラム

 

 点と点があと少しでつながりそうなこの感覚。三沢は古本の陳列を行っていた店主に対して声をかけた。

 

「店長、このプレイマットについてなんですが…」

 

「あぁ、子供たちの忘れ物ですか?ありがとうございます」

 

「あ、いや…」

 

 三沢からの言葉に笑顔で答える店長。どうやら三沢の言葉を、マットの忘れ物に気がついて声をかけてくれたものだと勘違いしたらしい。

 

 店主はプレイマットを裏返す。どうやら裏には持ち主の名前が書かれていたらしい。店主はプレイマットの端に目を寄せながら、そこに書かれた名前を読み上げた。

 

「これは浩太君のかな?今度来た時返さなきゃなぁ」

 

「…それってDMのですよね?」

 

「ん?ああ、いろんなカードゲームを持ち込む子がいますからねぇ。ゲーム名まではちょっと分からないんですが」

 

「そうですか…」

 

 そういってため息をつく三沢。どうやら勘違いをしていたのは自分もらしい。

 

 つまりこれは、DM以外のカードゲームのプレイマットだったという事だろう。よくよく考えてみれば、存在しない意味不明な枠をわざわざDM用のマットで書くというのもおかしな話だ。

 

 ならばこれはDMとは全く関係ないカードゲーム用のプレイマットという訳だ。きっとそういう事なのだろう。納得した三沢は内心で頷いた。謎が解決し一安心とばかりに再びストレージボックスへと戻ろうとした彼に対して、店主は声をかけた。

 

「可愛らしい絵柄のカードですね」

 

「っ!」

 

 無邪気に声をかけてきた店主。彼に対して三沢はとっさにレジ籠に入れていたそのカードを手で覆い隠した。どうやら良くない声掛けだったようだ。店主は慌てたように三沢に対して謝罪した。

 

「ご、ごめんなさい!つい絵柄が目に入ってしまって…」

 

「あぁいや…貴方が悪いわけでは…」

 

 そういって三沢もまた罰が悪そうに視線をそらした。

 

 三沢が隠したそのカード。それは紛れもなく美少女が描かれたカードであった。

 

 見目麗しい少女がこちらに向けてほほ笑んでいる。いわゆるアイドルカードという奴だ。三沢はとっさに隠してしまった自身に対して恥じた思いを抱きつつ、苦笑しながらつぶやいた。

 

「男がこんな可愛らしいカード…変ですよね」

 

 自嘲するようにそうつぶやく三沢。その表情は少し悲しそうな笑みだった。

 

 アイドルカード。それは見目麗しい美女、美少女キャラが描かれたモンスターカードである。

 

 アイドルカードを持つ決闘者(デュエリスト)は総じて少数派である。決闘(デュエル)とは強いモンスターを扱って行うものであり、こうしたアイドルカードの多くはその例には当てはまらない。その多くは攻撃力は低く、効果も弱い物が多かった。

 

 ゆえに、アイドルカードの使い手は偏見の対象でもあった。差別…とまでは言わないが、どうしても遠巻きに噂話の対象にはなるだろう。ましてやデュエルアカデミアという孤島の中ではそうした噂はあっという間に広まってしまう。

 

 彼女たちは非常に女性的で魅力的な格好をしていた。肩や太ももなどの部位は肌の露出が多いし、その見た目は成人というよりは確実に少女という年齢に近しいだろう。

 

 このカードはきっと独自のテーマに違いない。見たことも無いそのテーマ。彼女たちの攻撃力はお世辞にも高いとは言えなかった。先ほどから見つけた数枚のカード達は攻撃力が1800も超えてはいなかったのだから。

 

 だが効果は弱くはない…と思う。サーチ効果も強力である。テキストから察するに、恐らく魔法や罠を主体とした搦め手を得意とするカードテーマなのだろう。

 

 少々…いやかなり癖が強いカード達だ。きっと使いこなすのが難しいデッキに違いない。

 

 好奇心が刺激されるのは確かだがそれ以上に怖かった。アイドルカードを持つことで誰かに変な目で見られるのではないかと。三沢は悲しげな手つきで、カードのふちをそっと撫でた。そんな彼に対して店主は何の気なしに気軽に答えた。

 

「いえいえ、別にそんなことは。好きなカードで楽しむのがそういったゲームの醍醐味でしょう」

 

「好きなカードで楽しむ…」

 

「それにね?カードゲームにとって一番大事な事は…『ワクワクを思い出す事』らしいですよ」

 

「ワクワク…ですか?」

 

 店主の言葉に思わず聞き返す三沢。彼に対して店主は古本をテーブルの上に置きながら、穏やかにほほ笑んだ。

 

「えぇ。姪が言っていた言葉なんですがね。良い言葉ですよね」

 

「……」

 

「そのカードを手に取っていた時の貴方は、ワクワクとした子供のようで…本当に良い表情をしていましたよ」

 

私にはカードの事はさっぱり分かりませんがね

 

 そういって笑いかける店主。彼の言葉に、三沢もまた少し笑みを浮かべた。

 

そうだ、ワクワク感だ。

 

 このカードを手に取った時に浮かんだ自身の感情は確かにそれだった。複雑な効果を持つモンスターをどうやって使おうか。癖が強くて…けれどユニークな効果を持つ彼女たち。そんなカード達を使いこなす自身の姿。

 

 可愛らしい姿に好感を覚えたのは確か。だがそれ以上に抱いたのは高揚感であるのもまた事実だ。

 

 初めて決闘(デュエル)をした時のような、ドキドキとワクワクが詰まったあの高揚感。店主の…いや店主の姪の言う通り、決闘(デュエル)にはそんな少年のような無邪気な心こそが大事なのかもしれない。

 

 くすりと笑う。随分と前に抱いて以来久しいこの感覚。ワクワク感…その言葉に、三沢の脳裏にふと浮かぶのは自身の学友の姿であった。あのオシリスレッドの制服を身に着けたヒーローデッキを愛してやまない彼ならばきっと同じような事を言うだろう。

 

「ふふっ、十代のようなことを言う人だな」

 

「十代?」

 

「そういう名前の友人がね、いるんですよ」

 

 そうだ、きっと十代ならば。今手にしているこのカードを無邪気に喜ぶのだろう。どんな強い効果を持っているのだろうかと、どうすれば使いこなせてあげられるかと。敵であれ、誰であれ一枚のカードに対してどこまでも純粋に楽しむことが出来るアイツなら。

 

(きっと、楽しいに違いない)

 

 胸の奥に炎が灯る。子供の頃に感じたような、あの懐かしく高鳴るような気持ちが蘇る。あぁそうだ、この気持ちさえ抱けるのならば例え誰かに後ろ指をさされようが構わない。小さな事だと胸を張って笑ってみせようではないか。三沢は自身の中で決意した。

 

「このカード…買いますね」

 

「あぁ、ありがとうございます」

 

「関連カードも向こうで一通り探してみよう…もう少しだけ長居しても?」

 

「どうぞごゆっくり」

 

 そういって古本の陳列をしに戻る店主。三沢は手に取ったカードを手に決心を固めた。俺がお前たちを使いこなして見せると。胸に抱いたこの気持ちを忘れないうちにと、彼はストレージボックスの棚へと戻っていくのであった。

 

【--------っ】

 

「ん?店長、今誰かの声がしませんでしたか?」

 

「いや…別にしませんでしたが?」

 

「おかしいな。少女のような声が聞こえた気が…」

 

 気のせいだろうか。自身の背後で少女のような声がした覚えがするのだが。振り返ってみるものの当然そこには誰も居ない。

 

 おかしな事もあるものだ、と首をかしげる三沢の背後でその精霊が、優しく微笑んだ。

 

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