幽鬼エレナの旅   作:なーみょ

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・時の流れぬ淑女『エレナ』
幽鬼の処刑人。注目と賞賛をたっぷりと浴びられるので演奏依頼が好き。
・快楽にふける純白『アイリーン』
サキュバスのピアニスト。呪われた結婚指輪を大量生産する為に毎日水を探している。


パルミアにて

 城下町、パルミア。ノースティリスで最も大きな都市である。冒険者達にとっても居心地の良い街で、カジノ『ラッキーフォーチュン』の景品を目当てに訪れる者も多い。

 

 そんなパルミアの酒場に2人の冒険者がいたが、客の多くが2人組の片割れに釘付けになっていた。その女はとても魅力的だったのだ。美人は探せばいる。豊満な身体つきの女も探せばいる。しかしその2つを完璧に持ち合わせる女はそういない。その女は露出が多い服を着ているわけではない。むしろ、露出は少ない方だ。貴族の娘が着るような、足首まで隠れた品のあるドレス。だが、服越しに胸や尻が主張していた。

 

「ヒューッ、人気者じゃない。あいつらの相手でもしてやったら?」

「……貴方、そういう事をあまり言うものじゃないわ。あの人達にも失礼よ」

 

 艶のある豊かなプラチナブロンドの髪をかき分け、魅力的なその女……サキュバスのアイリーンが透き通るような声で答えた。エレナはその答えにふぅんと気の抜けた相槌をして、クリムエールを呷る。

 

 ガルシアと別れパルミアに訪れたエレナは演奏依頼を受けた。歌を得意とする彼女は、演奏依頼でいつものようにプラチナコインを稼ごうと思っていたのだ。だが、その日の演奏依頼はいつもと違っていた。人々の目を引く美しいアイリーンが注目を掻っ攫ったのである。結果としてエレナの得た報酬はごく僅かとなったが……エレナの歌を気に入ったアイリーンに飲みに誘われ、そして今に至るのである。

 

「しっかし、あんた程の歌姫がいるなんてね。あたしも中々の美声の自負はあったんだけどねぇ、あんたみたいなのを見ると自信がなくなるわ」

「あら、ありがとう貴方。貴方も綺麗な声だったわ」

 

 アイリーンはカクテルをごくりと飲んで、答えた。容姿は勿論、その所作まで美しい。高貴な生まれの人間でもそう身に付かない気品だ。エレナは横目でアイリーンを見ながらグビグビと勢い良くクリムエールを飲む。

 

 アイリーンについてもっと知ってみたいとエレナは思った。世を傾けんばかりの美しさに惹かれているのもあるが、それ以上に好奇心が疼いたのだ。普通のサキュバスは性に奔放で華やかだが、彼女はそうは見えない。普通のサキュバスが気ままに咲く野薔薇だとすれば、アイリーンは月の光を受けて咲く百合で、蝶よ花よと育てられた深窓の令嬢のような品があった。きっと面白い人生を送ってきたのだろう。どこかの王族の愛妾でもしていたとか……もしかしたら高貴な血を引いているのかもしれない。所謂私生児、隠し子とかいう奴だ。

 

 だがやめた。冒険者にはそれぞれの事情がある。深入りするのはマナー違反だし、何より余計なトラブルを招きかねない。エレナは冒険者らしく奔放な性格をしていたが、身の程は弁えている。何の後ろ盾もない冒険者なんて、権威ある人間からすれば消そうと思えばいくらでも消せるだろう。こういういかにも高貴な雰囲気の者には近寄り過ぎぬが吉だ。

 

「ねえ、貴方」

「エレナ。時の流れぬ淑女エレナ!」

「……エレナ、貴方の話を聞かせてちょうだい」

「はぁん?」

「私、お話ができるアンデッドに会ったのって初めてなの。どんな冒険をしてきたのか、聞いてみたくて」

「……」

 

 エレナは思わず目を丸くした。このお嬢様は……かなり世間知らずなようだ。こういういかにも高貴そうな者程ではないが、アンデッド達も中々の厄ネタ持ちだ。特に死を超越しようとした野心的なリッチは、生前にその野心から何らかの悪事を働いている事が多い。幽鬼はそれ程でもないが……生き返っても生前の仕事に戻らず冒険者となって放浪している時点で、ある程度察せられると思うのだが。

 

「あんたねぇ、そういうの言うもんじゃないわよ。お嬢様っぽいとは思ってたけどさぁ」

「不躾なのは分かっているつもりよ。でも聞いてみたいのよ」

「うぇえ……」

 

 アイリーンは真っ直ぐな瞳でエレナを見つめる。宝石のような透き通る瞳に見つめられ、同性だというのにエレナは思わず顔を赤くしてしまった。

 

「はぁ、しょうがないわね。でもあんま言いふらさないでよね?人様に聞かせて良い顔されるような事してないからさ……」

「分かったわ。秘密にするから」

「それなら良いけど……えっとね、あたしは元々……」

 

 

 

「……すごい。夜読み聞かせてもらってた御伽噺みたいだわ。他のアンデッドもそういう暮らしをしてきたの?」

「馬鹿ね、そんなわけないでしょ。あたしより酷いのばっかよ。冒険者やってる時点で大体カスよカス。まともな奴なんて滅多にいないんだから」

 

 語り終わる頃にはアイリーンからエレナへ向けられる視線は変わっていた。まるで物語の中の存在を見る子供のようにキラキラとした目をしている。エレナは困ったように頭を掻いた。そんな顔をされるような大層な事はしていないのだ。それに、このアイリーンという女は自分が思っていた以上に世間知らずなようだ。本当に冒険者なのだろうか?自分が知らないだけで、実はただ冒険者を自称するだけの普通の娘なのだろうか。

 

「エレナにばかり話させるわけにはいかないわよね。私も話すわ。私ね、実は……」

「良い良い!言わなくて良い!」

「……聞かないの?」

「そういうのは普通ね、あまり言いふらしたら駄目なの。ましてやあんたみたいなお嬢様はね。言った側だけじゃなく聞く側も大変になりがちなんだから。ね?」

「そう……」

 

 アイリーンの表情はあまり変わりないが、悲しそうにしているのは分かった。エレナは少し罪悪感が刺激される。

 

「あーもう、分かったわよ。じゃあここの酒の分奢ってくれたらそれでチャラにしてあげるわ」

「……それだけ?」

「それだけ。あ、じゃあ耐熱ブランケットでもついでに奢ってよ。あたし暑いの嫌いなのよね」

「……変な人ね」

「あんた程じゃないと思うわ」




ぼんやり仲良くなってぼんやり別れて旅をする、そんな冒険者生活もきっとある。
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