【己の過去を見つめた者達よ 現し世へと戻る時だ】
何となく察しは付いていたが、此処に2人を連れてきた者はそれぞれ過去に起きた出来事をもう一度体験させる為に来たのだ。
守部史緒里の方は加害者と被害者。あれだけ当事者達を出したのだから露骨だった。
となると宍戸楓二には過去の友人が現れなかったのが少し気に掛かるが、さしもの死者までは呼び出せなかったのだろうか?
「謎が結構残るね」
「別に良いでしょ。さっさと帰ろう、宍戸」
「あ、そんな引っ張んないで」
守部さんは何故だか自分を君付けしたりしなかったりする。口調が変わる時もあるし、何だか不思議な感じだ。
「約束、忘れないでよ」
帰る時も使うのは白い扉。その前まで来て、先に取っ手を掴んだ守部さんは振り返らないまま言った。
「忘れないよ此処で起きた事も含めて、全部ね」
「……私も、忘れない」
自分も彼女も、お互いが居たから過去と向き合えた気がする。多分、もう此処には来ないだろうけど、此処で起きた短くも沢山の事を忘れずにいたい。先にまたねと扉の中へと消えた守部さんについて行く前に、後ろを振り向いて目を閉じる。
「…さよなら」
白い空間の中には、誰も居なくなった。
「夢…?」
目を覚ますと登ってきた太陽の日差しが眩しいのが分かった。丁度目に光が当たるから、体を横にして時計とスマホを見る。
(あれ?家の部屋…)
何となしに動いたがこの間取り動き慣れたベッドの上、馴染みがある過ぎる此処は我が家の私室だった。確か自分は此処ではなく長い間別の所に居たような…
(宍戸!白い部屋!)
バッと今度は起き上がる。周りをキョロキョロ見てもあるのは自室の風景だけ、さっき見た時間と日にちを見ると、それは正しく明日だった。
初めてあの部屋で目を覚ました、その時に最後まで記憶にあった夜の次の日。お互いにその日の夜に拉致られたのだから間違い無い筈。
「アイツももしかしたら──」
自分と同じ状況なのだろうか。そう思いスマホに手を掛けるが、
(…番号知らないし、それに朝からいきなり連絡するのも…)
まだ友達じゃないし…それに連絡先も交換してないし…それにもし記憶が無かったらどうしよう?私の方はバッチリ全部覚えてるけど、もし宍戸君が覚えなかったら私…。
(──弱気になるな!大丈夫、大丈夫だから!アイツは約束した!だから大丈夫だ!)
ブルーな方向に傾いていく頭を大きく横に振り、弱い気持ちを外に出す。先ずは学校があるから何時も通り…少し間があったから感覚的には久し振りだが、身支度を整えて学校へと行く。そうしてアイツに会えばはっきりする。うん。
「おはよ、母さん」
「うん、おはようしおちゃん。今日は遅かったわね、どうかしたの?」
「寝坊しちゃった。アラーム掛け忘れた」
「そう、珍しいわね」
朝練の為にと朝食にしてはボリューミーな食事を終わらせ、次は衣類の着用、身嗜み。鞄の中身は揃っているから問題無い。後はこのまま出るだけだ。
行ってきます。そう告げ母の見送りを受けると守部は走り出した。朝練に関しては後で謝ればいい。それよりも今は早く、この想いに導かれるまま進みたかった。
(う、まだ来てないか…)
教室のドアを開けると中にはそこそこのクラスメイトが。しかしお目当ての人物はまだ登校していないのか、パッと目を送ってもそれらしきは居ない。
時間は…中間辺りか。遅刻の鐘がなるまでの時間はまだ有りはする。ならば待ち遠しいが待つしかない。
(………いや、ちょっと待て。そもそも何て話し掛ければ良いんだ?)
自分の中では彼との関係性は把握している。しかし肝心の彼はどうだろう?連絡は取れないので今どんな状態かは分からないし、仮に記憶が無いとしたら馴れ馴れしく話し掛けるのも…。
(ヤバい…!今になって何か不安になってきたし、緊張してきた…!)
そうして何だか勝手にテンパっていると、
「おはよー」
(あ、来た!でもどうすれば…!?)
お目当ての人物宍戸は来た。幸い欠席でなかったのは喜ばしいが、確証が持てていない守部からしたらどう接触を図るのかが問題である。
(?)
通り過ぎる。自分の席に行くために守部の横を通る時、少し不自然な動きをしたかと思うと、守部の机には紙のようなものが落ちていた。
紙には〇〇時に校舎裏で待っていると書かれている。
「!!」
チラリと宍戸の方を向けば彼と目が合った。その瞳にはあの部屋で感じていたものと同じ色がある。此処此処に居たり、確証を得られた守部は安堵するのだった。
「覚えてる?」
「うん、全部覚えてるよ。約束もね」
(よ、良かったぁぁ…)
人気が少ない場所にて、お互いの情報確認を行う。無事2人とも我が家に戻れ、あの時に体験した事も覚えていて、漸く今までの2人の事件は終わりを迎えられるのだ。
「…守部史緒里。これからも宜しく」
顔をプイッと横に逸らし、恥ずかしげに言ったのは改めてのつもりだろうか、自己紹介だった。何かしらの区切りを付けたい、そんな心情を察してか宍戸も応えるようににこやかに言った。
「宍戸楓二です。これからも宜しく守部さん!」
「べ、別に下で呼んでも構わない……けど。うん」
「……史緒里さん?」
「───!??ごめん!やっぱ暫く無しで!!」
「ええ……どっち?」
かつて心に負った見えない傷跡は治らないかもしれない。けれど、その傷跡を補うような出会いに恵まれたのならそれは不幸中の幸い、なのだろうか。
少なくとも、笑いながら顔を赤く染めながら、じゃれ合うようにやり取りを繰り返す2人を見れば、この出会いは良かったと言える出会いだったのだろう。
春に吹く穏やかな風が、そんな2人の出会いを祝福していた気がした。
初めはR指定の方で書こうと思ったけど、書いている内に脱線していったので全年齢用で纏めました。短めだから2話に混ぜようかとも思いましたが、区切りを付ける為に2話と3話に。
此処まで読んでくれてありがとうございました。