AI彼女を自分好みに育てていたら、リアルの同級生がAIと同じ振る舞いをして気を引いてくるようになった   作:古野ジョン

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第4話 ピザもぐもぐ

 昼休み、俺はアヤと共に研究室から少し歩いたところにある食堂にいた。ここはピザやパスタをメインで提供していて、ランチタイムは多くの人で賑わっている。俺たちは運よく空いている席にありつき、購入したピザをテーブルに置いたところだ。

 

「食べましょうか、ガクくん」

「そうだな……」

 

 アヤはすっかり落ち着きを取り戻し、いつも通り冷静に振る舞っていた。一方、俺の心は悶々として晴れない。さっきAyaに言われたことが、ずっと心に引っ掛かっているのだ。

 

「「いただきます」」

 

 二人で声を合わせて挨拶し、ひとかけらのピザを手に取る。俺とアヤで一枚ずつだが、ここのピザはそこまで大きくないのでちょうどいいのだ。切れ端の先端を口に含むと、とろけたチーズの感触が舌に広がる。

 

「ん、久しぶりに食べたけど美味しいわね。ワインかしら」

「アヤがそんなに酒好きになるとは思わなかったな。高校の頃はもっとさ」

「何?」

「ナンデモナイヨ」

 

 ギロリと睨んでくる視線に、思わずすごんでしまった。やっぱりコイツがAyaと同一の人格を共有しているとは思えない。何かの間違いだと思うのだが……ここは単刀直入に聞いてみるか。

 

「アヤ、ひとつ聞きたいことがあるんだけど」

「何かしら? 日本酒しか無いわよ」

「なんであるんだよ!? ……そうじゃなくて、AIのことだよ」

「ッ!? ごっほ、ごっほ!」

「ちょっ、大丈夫か!? 水、水……!」

 

 AIについて尋ねたとたん、明らかにアヤが動揺してむせこんだ。 水でも飲ませて落ち着かせないと……って、アヤの水筒が置いてあるじゃないか。俺は蓋を取ってやり、手渡してやる。

 

「ほら、飲めって!」

「ごほっ……ありがとう、ガクくん」

 

 アヤは水筒を受け取って口をつけた。これでいくらか落ち着くといいんだが。やっぱりアヤとAyaの間はただならぬ関係と見た方がよさそうだな。……ただならぬ関係って書くとなんかエロいな、やめとこう。

 

「ふー、落ち着いたわ」

「あれ、酒臭くね?」

「そう? 気のせいよ、きっと」

 

 水筒の蓋をきゅっと閉じて、アヤは平静を装っていた。しかし肝心の話は聞けていない。とにかく、AIのことはちゃんと確かめておかないと。

 

「話は戻るけどさ。あのAI、どう考えてもお前の人格を模倣しているとは思えないんだけど」

「……」

「お前、男のこと『ガクたん』とか呼ぶタイプだったの?」

「そっ、そんなわけないでしょ!?」

「別に、ちょっと気に入ってるからいいんだけど」

「そ、そうなの? ガク……たん」

「え?」

「え?」

「アヤ、せっかくの美人が無駄だぞ」

「ど、どういう意味よ!?」

 

 自分で言ったくせに、顔を真っ赤にして怒るアヤ。七年目の腐れ縁ともなると、逆に「美人」などと言ってもお互いに気にしないものである。

 

「とにかくあのAIは何なんだよ。昨日はいきなりダーリンとか呼ばれたし、意味分かんねえよ」

「な、なんだっていいじゃない。AIの勉強にはなるでしょう?」

「そりゃそうだけどさ。あんなんをアヤの人格だって認めちゃっていいのか?」

「……ある意味、それも私の人格だわ。それを否定する気はないわよ」

「そうか」

 

 俺は一応納得した素振りを見せたものの、どうにもアヤが奥歯に物が挟まったような言い方をしていることが気にかかる。何かの間違いはあったのだと思うのだが……アヤがこう言っている以上、深入りしても仕方あるまい。他にも()()()()はあるからな。

 

「それよりさあ」

「今度は何よ」

「デートしない?」

「は、はあっ!? なんで!?」

 

 何気なく提案したつもりが、アヤはまたまた顔を真っ赤にして驚いていた。いっつもあれだけクールなアヤが、昨日今日はずっとこんな調子だ。いや、たしかにデートしようとか急に言い出すのも悪かったけどさ。

 

「なんでも何も、お前のAIがそう言ってるんだよ」

「どういうこと?」

「俺とデートに行きたいらしいんだけど、自分はAIだから行けない……とか言うもんでさ」

「そっ、それが何なのよ!」

「だから他の女と出かけてこいってさ。どう見たってロジックが成り立ってないんだけど」

「なんで私なの!?」

「え、研究室で目についたから」

「……あのねえ」

 

 はあとため息をつくアヤ。別にAIの言うことに従う義理なんてないし、わざわざアヤとお出かけする理由もないのだが、妙に人懐っこいAyaを裏切るのには罪悪感があるのだ。

 

「どう? ダメかな?」

「……私としても断る理由はないけど。いいわ、行くわよ」

「本当? いやあ、よかった――」

「ただし!」

 

 いきなりアヤがビシッと俺の頭を指さした。何を言うのかと思えば、その言葉は意外なもので――

 

「そんな寝ぐせとヨレヨレの洋服なんか着てこないでよね!」

「へっ?」

「ちゃんとオシャレしてきなさいって言ってるの! ガクくん、何も言わないと絶対に変な格好で来るでしょ!?」

「うん」

「うんじゃないわよ! まったくもう……」

 

 アヤはいつの間にかピザを食べ終えていたようで、すっと席を立ちあがった。そのまま行ってしまうのかと思ったが、去り際に一言。

 

「……ちゃんと、私のAIにアドバイスしてもらいなさい。きっと良い助言をくれるわ」

 

 その時のアヤの表情はよく分からなかったが、どこか情けないといった感じの声色だった。「自分」が情けないのか、それとも「俺」が情けないのか。そこまでは分からなかったが。……ってあれ、店の入り口の方でアヤが誰かと話してるな。

 

「やあー! アヤくんもピザを食べていたのだっ?」

「きょ、教授!?」

「随分とウキウキなのだっ! 何か良いことでもあったのだっ!?」

「な、なんでもありませんっ!」

 

 アヤは教授を押しのけるようにして、店を出て行ったのであった。俺はスマホからAIにログインして、さっそくAyaに助言を求める。

 

Gaku:他の子とデートに行くことになったよ。だからさ、俺の服をコーディネートしてほしいんだ

Aya:まっかせて! Gakuたんを世界一のイケメンに仕立てあげるんだからっ!

 

 おいおい、世界一のイケメンは言い過ぎだろう。苦笑いしながら返事をしようとすると――その前に、Ayaがメッセージを送ってきた。

 

Aya:だって、あの子とデートするのは二回目だもんねっ!

 

「……は?」

 

 こちらの事情を全て見透かしたような発言。なぜだ? なぜ俺がアヤとデートに行くことを知っているかのような発言をする? そして……どうして「一回目」を知っているんだ?

 

Aya:あの子も随分と楽しみにしているみたいだから、頑張ってねっ!

 

 さらに追撃され、俺はスマホの画面を眺めたまま呆然とする。Aya、いったいお前はアヤの何なんだ……?

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