「………え?」
戦いはあっけなく終わった。帆夏からすれば、自分たちの命を脅かす敵が消えてなくなったのだ。その幕切れに驚くのも無理はない。
「取り合えずこれでお終いだ。この怨霊をどうするかは、俺たちが話し合うさ。少なくとも、嬢ちゃんは暫くは安心して過ごせる」
胸ポケットから煙草を取り出し火をつける護に言われたものの、今すぐには実感を持てていない。すると札を握りしめている奏が戻ってきた。
「まあ護の言う通り、もうあの学校に取りついている怨霊はもういないさ、仮にお前を襲う穢れがいるなら祓除するよ」
(とは言ったものの、学校の地下の穢れについてはどうしようかね……)
天城中学校の穢れについては任務とは別に奏と護は調べてはいたが、全く分からなかった。結局備えるしかないという事が結論だった。
「そっ、そうですか、安心しました」
何故か帆夏が赤面していることに奏は首をかしげるが、ジジイは面白がって、
「ひゅーひゅー!」
とか茶化してくる。またブチッと音が鳴る。
「よしジジイタイマンだ。上着脱ぎな」
「まてまてまてまて」
「やめてください……」
すぐに喧嘩を始めようとする二人を、3人は止めに入っていった……。
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報告書
■■県九瀬市立天城中学校 井戸に住まう怨霊祓除について
※事件概要については別資料を参照
5月3日、■■県九瀬市立天城中学校での事件を受け、学校と市からの要請を受けた神楽家所属の神楽奏1級祓除師と神楽護中占師は怨霊祓除に向けて情報収集を開始した。
一週間の捜査は難航したが、神楽家からの嘆願書を受諾した一条家は14日に資料を提携、その情報をもとに16日、■■山で待ち構えていた怨霊と戦闘、結果式神化に成功する。
総死者数 5名
総式神化怨霊数 1体
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あれから3日たち19日、奏に誘われて放課後帆夏は神楽家の屋敷に来ていた。二人は机を挟み対面していた。
「何でしょうか、奏くん」
「お前にこれを渡そうと思ってな」
そう言って奏は手を出す。その手には例の札が握りしめられていた。
「これは……」
「プレゼント、お前は体質的に穢れがよりやすい」
「私の体質?」
「その前に、式神の主としての登録をする」
そういうと奏は申し訳なさそうに針を毛布にくるまれた果物ナイフと絆創膏を出すと、帆夏はギョッとする。
「悪いが登録のためには一滴血が必要なんだ。この果物ナイフは清潔だから、指先を出してくれ」
帆夏は指示に従い、ネイルをする体勢になり、奏は集中する。帆夏は少し緊張しながらも軽口を言う。
「何だか、ネイルみたいですね」
「今からナイフで指を切られるというのにそれかい、それだったら遠慮なくぶった切れるな」
「言っておきますが、ほんの少しですよ」
帆夏がそういった後、右人差し指に痛みを感じる。指先から血が出てくると同時に、痛みとドクドクとした感覚が感じる。
「では、これを札に押しますね」
「あぁ、どこでもいいぞ」
針を出てきた血を札に触れさせると札に書いている黒い文字が明るく赤色に光る。光は段々と収まり、素早くあらかじめ準備しておいた絆創膏を指に貼る。
「これでお前はこの式神の主になった、次はこれに触ってみろ」
どこからか水晶をスッと出し机に置き帆夏の方に近づけさせる。帆夏は触ってみると、透明な水晶が透き通った紫色に変色した。
「水晶の色が…紫色が変わりましたね」
「こういうことだ」
「いやそう言われても……」
「つまりだ、話はあれになるが、お前の体は穢れからしたらとんでもない上質な肉体なんだ」
「私が?」
水晶は触れた者の特性を表す鏡のような存在だ。赤なら祓除師、青なら穢れ、緑なら一般人、紫なら特異体質と、触れた者を正確に映し出す。
「この式神を渡すことで、式神を駆使しお前に寄ってくる穢れの数を減らすことが目的だ。お前のような体質はほぼいないし、持ってくれないと困る。因みに札を持った状態で念じれば出てくるぞ」
「そこまで言うなら、持ちますが……」
「?なんだ?」
「どうして私にそこまで気をかけているんですか?」
「俺が助けた人間が、穢れで死んでしまうのも気分悪いだけだよ」
「なるほど、そういうことにしておきます」
クスクスと帆夏は笑いながら札を手に取る。奏は帆夏が笑っていることに疑問に感じるが、一旦話は終わり雑談になる。
「そういえば、明後日中間テストがありますが、テスト勉強をしていますか?」
「いや全く。最近穢れで忙しかったからな」
「じゃあ、明日勉強しますか?」
「そうだな、自信はあるけど一応しとくか」
「おや?勉強では負けませんよ」
「言ったな、じゃ勝負だ」
他愛もない会話をした後、日が暮れてきたので帆夏は帰っていった。
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一学期は終わり、7月22日に全生徒が待ちに待ち、来たことに歓喜した夏休みに突入した。平和で何も起きずに過ごしていた。そして8月4日、帆夏は神楽家の屋敷にて、奏と様々なゲームのキャラクターを操作できる某対戦型ゲームをしていた。奏はピンクの丸いキャラクターを、帆夏はごつい亀のキャラクターを操作している。
「………」
「よし、また俺の勝ち。これで6勝目だな」
思えば一学期は、奏の人生の中でも激動の時期だった。入学初日で穢れ、二日目で穢れ、5月は怨霊、少なくとも任務以外でここまで穢れと遭遇することは滅多にない。
「あの……手加減をしてくれませんk」
「ん?なんて?『私は貴方にボロ負けしているので、貴方は手を抜いて私を勝たせてください』って言ったのか?」
「……潰す」
煽りに帆夏はかち切れその後10戦するが、全くダメージを与えることが出来ずに敗北する。顔は笑っているが殺気があふれ出ており、奏は煽ったことに後悔し始めている。
なんて事を話しながらゲームをしていると、外側の障子から気配がした。「失礼します」と、女性の声が聞こえ、障子が開かれると和服を着た女中がいた。
「奏様、貴方様に会いたいとお客様がいらっしゃいました」
「???、俺に?」
「はい、天童道場から来たとおっしゃっていましたが……」
なんのこっちゃという事で、ゲームを中断し奏と帆夏は玄関に行ってみると、2人の女中と一人の男がいる。男は道場服を着ており、厳格な雰囲気を感じる。
「神楽奏、お前に用があr」
「知合いですか?」
「いや全然、失礼だなこのおっさん、いきなりフルネームで呼ぶなんてな」
「ですね、礼儀というものも知らないんですかね」
「言っておくが全て聞こえているからな、わざと聞こえるように言っているだろ」
如何にも舐め腐った態度をしているクソガキ約2名に対し、こめかみに青筋を立てるが、大人なので落ち着いて話し始める。
「天眼神涼拳門下生の吾妻翔だ、神楽奏、お前には8月9日に道場にきてもらいたい」
「道場、天眼神涼拳の?」
「そうだ、本道場は京都などにある。来てもらう詳細な理由はこの紙にある。読んでくれ」
翔から紙を渡される。見るとざっと色々書いていた。だが天眼なんとか拳を知らない帆夏は奏に問う。
「あの、天眼神涼拳とは何ですか?」
「天眼神涼拳は対穢れの為に武術家天童元信が編み出した護身術だ。ある程度相手のレベルが高くても十分に戦うことが出来るほど優秀なんだ」
「その通り、敵を観て、神の如く涼やかに己を守る術だ。尊敬する師匠がお前に興味を持っている」
「奏君に興味を?」
「詳しくはその紙に書いている、気が乗ったら来て欲しい。そこのお嬢さんも気が向いたらついてきても構わない。では待っているぞ」
そう言うと翔は屋敷を出ると、走りながら去っていった。奏は何となく帆夏を見ると、目がキラキラと輝いていた。
「奏君、いっしょに来てもいいですよね?」
「え?」
♦︎♦︎♢♢♦︎♦︎
「俺は反対だ、帆夏」
帆夏の自宅、珍しく早めに帰ってきた父、上杉大介は、帆夏が京都に行くことを反対していた。
九瀬市市長大介は良くも悪くも普通の市長。特にこれといった特徴はないが、一人娘でもある帆夏を人一倍気にかけていた。実際のところ、大介の心配は間違っていなかった。入学初日で帆夏は穢れに誘拐されてしまった。また怨霊事件から帆夏は神楽家によく居行ってしまっている。そんな帆夏を大介は良く思っていなかった。
「祓除師なんかただのペテン師だ。そんなものより、勉学を励んだ方が良いに決まっているだろう」
「そんな事はないよ……パパ、祓除師の人たちは」
「あのな、逆になんで祓除師なんかに興味がある。最近は危険なことばかりだ。友達になるのは良いが、危険なことには足を突っ込むなと言っているんだ」
「パパ、今回は社会経験だよ。拳法の見学をするだけだから」
「むう…」
帆夏の説得に大介は一応の納得を見せ、京都旅行を許可した。一方の一条家ではこの旅行を知ると、「神楽家は天童道場とつながり、我らを牽制するために京都に赴いたのだ!!!」とジジイどもがピーピー鳴いていた。因みに一条家と天童道場の中は険悪だ。
♦♦♢♢♦♦
「ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ……、ほ、本当にこの上ですか……?」
「…大丈夫か?」
「はっ、はい……」
天童道場は思いっきり山の中&死ぬほど長い階段という雰囲気ばっちりの場所に立っている。奏はともかく体力が年齢相応の帆夏にとっては,この階段を踏破するなんて地獄そのものだ。
「い、いつまで、続くんですヒャア!!」
階段に生えている苔のせいで滑ってしまい倒れそうになるが、奏が帆夏の背中を受け止める。
「大丈夫か?」
「はっ、はい……、ですが足を捻ったみたいで……」
「んじゃ、抱っこしていくよ」
「!?!?じゃ、じゃあ……」
まさかの発言に帆夏は驚いたが、実際歩けないのでそのままお姫様抱っこをして階段を上っていく。帆夏が赤面をしているのが気にはなったが。