その夜、のび太は一人部屋の隅で体育座りをしていた。
「・・・・・・・・・。」
考えていたのは勿論先程のやり取りだ。ワルド子爵、カトレアの元婚約者。魔法衛士隊、グリフォン隊の隊長にして、相当な実力者。彼が本気になれば、自分とは比べようにもない戦闘力を発揮するだろう。
「のび太さん・・・・・。」
顔を上げると、そこにアンリエッタが立っていた。どうやら考え事をしていて、扉のノックに気がつかなかった。
「その・・・・ごめんなさい。」
どうやらのび太が、ワルドに叱られた事を気にして、落ち込んでいるのではないかと心配してくれたらしい。
「別に落ち込んでるわけじゃないよ!」
のび太は力強く答えた。
「ただ、ボクもまだまだだなって思ってただけさ。」
だがそれが彼の強がりだという事は、アンリエッタは理解していた。
「子爵様がいれば、この任務も心配ないね。」
のび太の何気ないその言葉に、アンリエッタはゆっくりと口を開く。
「・・・・・・のび太さん。」
「僕は君が思っている程立派な人間じゃないよ。いつも遅刻するし、勉強や運動はいつもビリ、外を歩けば災難だらけ。」
のび太はその場で深いため息をつく。するとアンリエッタは何かを決心したかのように口を開いた。
「・・・・・のび太さん、私と一緒に逃げませんか?」
「え?」
「どこか遠い場所・・・・・誰もいない場所へ・・・・・・そこで私と一緒に暮らしませんか?」
突然の事にのび太は目を見開く。
「そんな・・・・冗談・・・・」
「冗談なんかじゃありません。」
「それは・・・・できることならそうしたいんだけど・・・・・・・」
「のび太さん、この任務が終わったら結婚しましよう。」
「え・・・・・」
いきなりのプロポーズに、のび太は驚いた。
「で、でも、僕。まだ・・・・・」
「のび太さん・・・・・・。」
アンリエッタは、のび太の顔を覗き込んだ。真剣な瞳で、潤んだ瞳で。彼女とのび太との間が、すすっと狭まる。
「・・・・・・好きです。大好きです。のび太さんにだったら、この国を捨てることだって出来ます。」
恥じらいと、熱を帯びた表情で。
「のび太さんは、わたしのこと、好きですか?」
じっとのび太を見る。少し不安そうな表情。そんな表情をしていても、アンリエッタは輝いていた。トクン、と心臓が跳ねる。
「好き、だと思う。」
こんなにも心臓がドキドキしているんだから。好きって言われて、こんなにも嬉しいんだから。なんせこの国の女王だ。アンリエッタのことが好きだって言う男連中は、それこそ星の数ほどいる。そして、そんなアンリエッタが自分のことを好きだと言ってくれた。だけどーー、もうひとり、大切な人の笑顔が脳裏に浮かんだ。多分、アンリエッタと同じくらいに好きだと思える人。
「・・・・・そっか。」
「え?」
「好きな人が、いるんですね?」
「あ。え、えっと・・・・・」
なんで、わかったんだ?
「顔に書いてありますよ。好きな人がいるって。」
「・・・・・・・・・・・。」
「でも、わたしのことも同じくらい好きって思ってくれてるんでしょ?」
「ど、どうして?」
「それも顔に書いてあります。」
そして、にっこりと笑みを浮かべる。
「わたしが単独一番じゃなくて少し残念ですけど・・・・・・それなら・・・・・・実力行使。」
アンリエッタがぽつりと呟いて。
「・・・・・ちゅ。」
唇が重なった。
「ん、んんんっ。」
アンリエッタの柔らかい唇が、のび太の唇に重なっている。鼻からこぼれる熱い息。とろけそうなくらい、柔らかい感触。あの、アンリエッタと、キスをしている。甘い、アンリエッタの唇。それは一瞬のような、永遠のような。
「んふ、ん、んん。」
甘美な感触を残したまま、
「・・・・・・んふぅ。」
アンリエッターの唇が離れた。顔はすぐ近くにあって、ほんの少し動かせば、もう一度キスの出来る距離。そんな距離で、
「えへへ、キス、してみました。」
少しおどけた様に、アンリエッタが笑った。悔しいけど、その表情に完全にときめいてしまった。可愛いと、抱きしめたいと思った。
「今、のび太さん、わたしのことがもっと好きになったでしょ?」
「うぅ。」
なんかもう、完全にアンリエッタにコントロールされていて、
「それじゃあ、もう一回。もっとのび太がわたしのことを好きになりますように。」
アンリエッタがはにかんだ様に笑みを浮かべて、
「ん、んん。んんっ・・・・ちゅ、んふぅ・・・・・」
さっきよりもちょっとだけ深く、のび太とアンリエッタの唇が合わさった。
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