しばらくスローペースとなる見込みですが、着実に進めていこうと考えています。
前回遂にヴィクトリア・フォン・ノイエブランデンブルクが即位しました。そして動員令が発令されて戦時体制への移行が開始、帝国側には叛乱勢力は腐った納屋のように一蹴りで瓦解するだろうという言説が広まっています。
そんな中でもマリア女選帝侯は必死の説得を続けています。
そして遂に戦闘状態に突入します。
ディヴィヌス暦1861年3月、シュピールカルテン公領スード・カロリーナ*1のコロンビアは重苦しい空気に包まれていた。街の中心にそびえるシュピールカルテン公フォントルロイの居館は、まるで嵐の前触れを予感させるかのように静寂に支配されていた。石造りの高い塀と空堀に囲まれたこの豪邸は奴隷叛乱に備えた要塞の趣を備え、3,000名が籠城可能な堅牢さを誇っていた。居館の最上階の広大な広間の中心にある重厚なオーク製テーブルの前の玉座に、フォントルロイ・フォン・シュピールカルテン公爵が座している。75歳の老貴族は、白髪交じりの顎鬚を撫でながら、届いたばかりの電報を睨みつけている。
「マリア女選帝侯め、所詮は北部の操り人形よ!」
シュピールカルテン公フォントルロイの声は、広間の石壁に反響し、まるで雷鳴のように響いた。電報は新皇帝ヴィクトリアからの使者、マリア女選帝侯による説得の言葉を伝えるものだった。即位したばかりのヴィクトリアは南部諸侯の離脱を食い止めるべく、帝国の団結を訴えていた。だが、シュピールカルテン公フォントルロイの心は微塵も動かない。彼の信念は岩のように固い――「ワシら南部こそが帝国そのもの。北部なぞ、所詮は小娘の寄せ集めだ!」
彼の視線は、広間の壁に掛けられた古びた肖像画に向けられる。そこには、かつてのシュピールカルテン公フォントルロイ自身が描かれていた。若く、勇猛果敢な将軍として帝国中に名を轟かせた頃の姿だ。戦列歩兵を率い、整然と並んだ兵士たちが一斉射撃で敵を圧倒し、密集隊形で突撃して白兵戦で決着をつける――その戦術は彼の名を不動のものとした。今もその血は冷めておらず、彼は帝国の中心は自分だと信じて疑わなかった。
スード・カロリーナとゲオルギア*2を領有するフォントルロイは、帝国屈指の大貴族だった。アトランタ、サバンナ、チャールストンといった帝国の要衝を握り、広大な農園と歴史ある港町を有する彼の経済力は絶大だった。だが、老境に差し掛かり、その野心は周囲から「老害」と囁かれるようになっていた。それでも、彼の信念は揺るがなかった。「自分が帝国を支えている。帝国とは自分自身だ!」
「ハインリヒ・フォン・シュヴァルツェンベルクこそが帝国の未来だ。ヴィクトリアごとき小娘に、ワシを従わせるなど百年早い!」
シュピールカルテン公フォントルロイは電報を握り潰し、側近に命じた。「帝国の施設を接収せよ。サバンナもチャールストンも、すべて我が手に!」
この決断は、帝国南部に波紋を広げた。シュピールカルテン公フォントルロイの行動は、他の南部諸侯に火をつけた。特に、フロリダのジャクソンビルに居を構えるツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯の耳にも、すぐさま届いた。
フロリダのジャクソンビル、陽光が降り注ぐ海辺の街。ツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯の邸宅は、海軍基地にほど近い丘の上に建っていた。灰褐色の長い髪をなびかせ、濃い群青色の瞳で遠くの水平線を見つめるツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯は、37歳の若さで帝国海軍の海尉艦長を務める才女だった。彼女の邸宅は簡素ながらも優雅で、窓からはジャクソンビル海軍基地の艦船が見えた。彼女は毎朝、歩いて基地に通勤するのを習慣としていた。
この日、ツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯は書斎でフォントルロイからの書状を読んでいた。書状には、帝国施設の接収を決断したシュピールカルテン公フォントルロイの意図と、南部諸侯への協力を求める言葉が綴られていた。彼女の手は一瞬震えたが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「シュピールカルテン公…あなたは本気なのですね。」
ツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯の声は小さく、しかし芯があった。彼女は引っ込み思案で、普段はおっとりとした物腰だが、状況を瞬時に把握する能力と、他人に頼られることで発揮されるカリスマ性は、帝国海軍でも一目置かれていた。彼女の信念は「南部の伝統の守護」。そのために、彼女は海軍に入り、剣術を磨き、艦隊を率いてきた。
彼女の脳裏には、かつての戦いが蘇った。敵艦に衝角で突撃し、甲板で剣を振るった日々。彼女の胸ポケットには、固いチーズの塊が忍ばせてあった――かつて銃弾を止めた、彼女の「幸運のお守り」だ。ツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯は微笑を浮かべ、その感触を確かめた。
「だが、帝国を分裂させてまで…それが本当に南部のためになるのか?」
ツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯は立ち上がり、窓辺に歩み寄った。海軍基地では、艦船が静かに波に揺れている。彼女の領地はフロリダの港町であり、ジャクソンビル海軍基地はその中心だった。彼女の艦隊は、砲戦で敵を遠距離から圧倒し、衝角攻撃や移乗攻撃で接近戦を制する戦術を得意としていた。だが、今、彼女が直面しているのは艦上での戦いではなく、政治的な決断だった。
「高貴な生まれには、それに見合った義務がある…」
実家の教えが、彼女の心に響く。ツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯は剣術指南の時間に、若き海軍士官たちにこう説いたものだった。「戦いは、ただ勝つためではない。守るべきもののためにある。」だが、今、彼女が守るべきものは何か? 南部の伝統か、帝国の未来か?
書斎のドアがノックされ、若い士官が入ってきた。「女選帝侯閣下、シュピールカルテン公からの使者が到着しました。直ちにお会いになりますか?」
ツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯は一瞬目を閉じ、深呼吸した。「通しなさい。」
使者は、シュピールカルテン公フォントルロイの側近である壮年の男だった。彼は丁寧に頭を下げ、書状を手渡した。「公爵閣下は、アドマイヤー女選帝侯の力を必要としています。帝国の施設を接収し、南部の力を結集する時です。」
ツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯は書状を手に取り、黙って内容に目を通した。彼女の群青色の瞳は、まるで海の底のように深く、静かだった。「公爵の決断は理解しました。しかし、私はまだ自分の道を決めかねています。時間をください。」
使者は一瞬不満げな表情を浮かべたが、すぐに頭を下げ、退出した。
コロンビアのシュピールカルテン公フォントルロイの居館では、戦列歩兵の訓練が行われていた。広大な中庭に整然と並んだ兵士たちが、一斉にマスケットを構え、号令一下、轟音とともに射撃する。シュピールカルテン公フォントルロイは櫓の上からその光景を見下ろし、満足げに頷いた。
「これぞ南部の力だ。北部の小娘どもに、ワシらの力を思い知らせてやる!」
彼の戦術は、伝統的な戦列射撃と突撃戦術に依拠していた。整然と並んだ歩兵が敵を圧倒し、密集隊形で突撃して白兵戦で決着をつける。その統率力と勇猛さは、かつてのシュピールカルテン公フォントルロイの名を帝国中に轟かせた。だが、今、彼の野心は帝国そのものを揺さぶっていた。
側近が報告に上がった。「閣下、ツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯がジャクソンビル海軍基地の接収を開始したとの報が入りました。」
シュピールカルテン公フォントルロイの口元に笑みが浮かんだ。「そうか、あの小娘も動いたか。よし、他の諸侯も続くぞ。帝国は我々のものだ!」
ジャクソンビル海軍基地では、ツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯の指揮のもと、海軍兵が帝国施設の接収を進めていた。彼女の艦隊は、砲戦と衝角攻撃を得意とし、敵艦に乗り込んでの白兵戦でも無類の強さを発揮した。だが、今回の戦いは艦上ではなく、陸上での政治的決断だった。
ツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯は基地の司令室に立ち、部下たちに指示を飛ばしていた。彼女の群青色の瞳は、決意に燃えていた。「我々の行動は、南部の伝統を守るためだ。だが、帝国との対立は避けられぬかもしれん。それでも、進むしかない。」
そんな中、シュピールカルテン公領スード・カロリーナの主要港湾であるチャールストン港の畔に建つムールトリー砦にローベルト・アンダーゼン少佐が赴任する。南部寄りと見られたローベルト・アンダーゼン少佐は皇帝ヴィクトリアの命じた武力衝突の回避にもってこいの人物であると見做されていた。そしてローベルト・アンダーゼン少佐は日に日にスード・カロリーナの民兵が増えていくのを目の当たりにする。そしてローベルト・アンダーゼン少佐は偶然の衝突を避けるべく夜陰に紛れ舟でサムター要塞に撤退する。しかしながらシュピールカルテン公フォントルロイはローベルト・アンダーゼン少佐のこの苦渋の撤退を挑発行為としてサムター要塞の無条件引き渡しを要求する。そしてディヴィヌス暦1861年4月10日、連合国工兵准将のグスタフ・トゥータンにサムター要塞の攻略を命じる。
ディヴィヌス暦1861年4月11日、連合国工兵准将のグスタフ・トゥータンはサムター要塞に籠城するローベルト・アンダーゼン少佐に丁寧な降伏勧告を行うが、ローベルト・アンダーゼン少佐はその信念から降伏勧告を拒否する。
そうして翌ディヴィヌス暦1861年4月12日午前4時30分。チャールストン港の闇を切り裂くように、シュピールカルテン公フォントルロイが築いた砲台から最初の砲弾が放たれた。火花とともに要塞の石壁に炸裂し、爆音が夜の静寂を粉砕した。アンダーゼンは要塞の司令塔で部下たちに冷静な指示を飛ばす。「集中砲撃を準備しろ。敵の砲台を叩く。無駄弾は撃つな!」彼の声は、40年の経験に裏打ちされた確信に満ちていた。サムター要塞の守備隊はわずか85名。対するトゥータンのチャールストン防衛軍は、数千の兵と沿岸に配置された砲台を擁していた。数の上では圧倒的劣勢だが、アンダーゼンは要塞の堅牢さと自らの砲兵戦術に賭けていた。
一方、トゥータン率いるチャールストン守備隊はチャールストン港湾に築かれた沿岸砲台に陣取り、拠点包囲戦術を展開している。補給を断ち、敵を孤立させる――彼の工兵としての知識が、冷徹な戦略に結実していた。「サムターを降伏させる。帝国の旗がこの港で翻ることは許さん」と、トゥータンは部下に命じた。彼の戦術は、包囲と繞回運動を組み合わせたものだった。砲台からの猛烈な砲撃で守備隊を揺さぶりつつ、要塞の背後を突く海兵隊を準備していた。
午前7時。陽光がチャールストン港を照らし始め、硝煙が空を覆った。サムター要塞の砲台から、帝国軍の反撃が始まった。アンダーゼンの指揮のもと、守備隊は精密な集中砲撃を展開。叛乱軍の砲台の一つが炎に包まれ、爆発音が港に響き渡った。「続けろ! 奴らの火力を削げ!」アンダーゼンは叫んだが、疲弊した兵士たちの顔には不安が滲む。弾薬は限られ、補給は絶望的だった。海軍の支援がない以上、陸海協同防禦は夢物語に過ぎなかった。
トゥータンは冷静だった。彼の指揮する砲台は要塞を多方面から攻撃し、守備隊の対応を分散させた。繞回運動により叛乱軍の小部隊が舟で湾を渡り、要塞の死角を突こうと試みる。だが、アンダーゼンの鋭い観察力はそれを許さない。「右翼の砲台! 舟で回り込もうとする敵を撃て!」彼の命令で帝国軍の大砲が轟き、舟の周囲で立ち上る水柱に叛乱軍の部隊は慌てて退却する。
しかし、時間は叛乱軍の味方だった。午後に入ると、要塞内の弾薬庫が危機的状況に陥った。トゥータンの砲撃は執拗で、要塞の石壁は徐々に崩れ始めていた。アンダーゼンは唇を噛み、部下に言った。「我々は帝国の名誉を守る。最後まで戦うぞ。」だが、彼の心には、かつての教え子トゥータンへの複雑な思いが去来していた。士官学校での日々、若きトゥータンが戦略論を熱心に学ぶ姿が脳裏をよぎる。「なぜ、グスタフ。なぜ我々と戦うのだ…」
4月13日、戦闘開始から36時間が経過した。サムター要塞は煙と炎に包まれ、守備隊の士気は限界に近づいていた。トゥータンの包囲戦術は完璧だった。補給路を完全に断たれた要塞は、飢えと疲労に苛まれていた。アンダーゼンは最後の決断を下す。「退去は帝国軍人の恥ではない。生きて、戦う日を待つ。」彼は白旗を掲げることを決めた。
トゥータンは、要塞から上がる白旗を見て、静かに頷いた。「これでチャールストンは我々のものだ。」彼の声には勝利の喜びと、かつての師への敬意が混在していた。叛乱軍の兵士たちが歓声を上げる中、トゥータンは一人、港の彼方を見つめた。灰色の制服に身を包んだその姿は、確かにナポレオンのように映った。
その後アンダーゼン少佐と85名の部下はサムター要塞から退去して北部へと帰っていく。
この戦いでは奇跡的に一人の死傷者も出なかった。
だが、これが何十万もの犠牲を齎す大戦争の始まりだとは、誰一人として想像すらしなかったのである。
ディヴィヌス暦1861年4月14日、
皇帝ヴィクトリアはサムター要塞陥落の報を受けると直ちに帝国に対する叛乱の咎でシュピールカルテン公フォントルロイから爵位を没収し、そして
皇帝ヴィクトリアは
皇帝ヴィクトリアに、
1.南部諸侯が西部で公平な分け前を得ること。
2.ありとあらゆる奴隷制反対組織の解体。
3.逃亡奴隷の捕縛を妨害する全ての法令の撤廃。
4.逃亡奴隷の捕縛を妨害する全て組織の解体
5.逃亡奴隷の捕縛を妨害する全て組織の構成員
6.諸侯による干渉を禁じる全国規模の奴隷法制定。
という6箇条の要求が突き付けられた。実はフォントルロイ・シュピールカルテンが保身のために名義を無断借用して送ったことなのだが、その事実を知る筈も無い
皇帝ヴィクトリアはディヴィヌス暦4月15日、マリア女選帝侯に「今まで離脱諸侯に対して説得に当たってくれたことに深く感謝する。しかしながら以下の事情よりもはや離脱諸侯に対しては説得も妥協も不可能であることが判明した。故に帝国より離脱諸侯を討伐する。離脱諸侯は諸侯領内のことは帝国法に違反しない限り諸侯に委ねるという大きな譲歩にもかかわらず、
1.南部諸侯が西部で公平な分け前を得ること。
2.ありとあらゆる奴隷制反対組織の解体。
3.逃亡奴隷の捕縛を妨害する全ての法令の撤廃。
4.逃亡奴隷の捕縛を妨害する全て組織の解体
5.逃亡奴隷の捕縛を妨害する全て組織の構成員
6.諸侯による干渉を禁じる全国規模の奴隷法制定
という6箇条の要求を突き付けて来た。」と電報を送る。
ディヴィヌス暦1861年4月14日、サムター要塞への武力攻撃の報を受けたマリア女選帝侯はもはや説得に手段を選んでいる余裕が無いと判断し、シュヴァルツェンベルク公ハインリヒに
同日夜、シュヴァルツェンベルク公領フィルギニア*5のリッヒモントに建つシュヴァルツフォルトレース。皇帝選挙でヴィクトリア・フォン・ノイエブランデンブルクと帝位を争ったシュヴァルツェンベルク公ハインリヒは、居城シュヴァルツフォルトレースの書斎に座していた。窓から差し込む薄い陽光が、彼の鋭い顔立ちを照らし出す。50歳を過ぎたハインリヒは、黒髪に白髪が混じり、深い灰色の瞳はまるで嵐の海のように揺れ動いていた。書斎の壁には、歴代シュヴァルツェンベルク家の当主の肖像画が並び、その重厚な歴史が彼の肩にのしかかっていた。テーブルの上には、マリア女選帝侯からの電報と、皇帝ヴィクトリアからの
ハインリヒの指が、電報の紙を軽く叩く。「マリア女選帝侯よ、貴女の言葉は誠実だ。だが、事態はもはや説得の域を超えている。」彼の声は低く、しかし力強かった。マリアの電報は、シュピールカルテン公フォントルロイやツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯を説得し、帝国の分裂を防ぐための仲介を懇願するものだった。だが、シュヴァルツェンベルク公ハインリヒの心は別の決断へと傾いていた。
彼は立ち上がり、窓辺に歩み寄る。リッヒモントの街並みが見下ろせる。フィルギニアの中心地であるこの街は帝国南部の要衝であり、シュヴァルツェンベルク家の誇りだった。広大な綿花農園と鉄鉱山、川沿いの工場群は、彼の経済力を支えていた。だが、帝国の中央集権化を進めるヴィクトリアの政策はフィルギニアの自治を脅かしていた。特に奴隷制度を巡る北部との対立は、シュヴァルツェンベルク家の存続そのものに関わる問題と考えられている。傍受したツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯宛の電信から
皇帝ヴィクトリアは奴隷制度の廃止に関して
皇帝ヴィクトリアの理想に燃える眼を実際に見て
皇帝ヴィクトリアが別の方法、例えば奴隷を多く抱える奴隷主に所有する奴隷の人数に応じた“奴隷人頭税”を課したり*6奴隷の相続に関して奴隷相続税を課税したり*7奴隷に対して極めて高額な物品税を課したり*8などによって奴隷制を事実上廃絶することで奴隷制度廃止に持っていくであろうことを予期している。
「ヴィクトリアよ、貴女は若く、理想に燃えている。だが、帝国とは力の均衡だ。南部なくして帝国は成り立たぬ。」シュヴァルツェンベルク公ハインリヒは呟き、拳を握りしめた。彼は皇帝選挙でヴィクトリアに敗れた過去を忘れていなかった。あの時、彼は帝国の伝統と南部の力を守るため、諸侯の支持を集めた。だが、先帝の治世の後期から北部の影響力が強まる中で、南部の諸侯は次第に疎外されていた。シュピールカルテン公フォントルロイのサムター要塞攻撃は、その不満が爆発した結果だった。
シュヴァルツェンベルク公ハインリヒの脳裏にシュピールカルテン公フォントルロイの姿が浮かぶ。老齢ながらも南部魂を鼓舞するその姿はシュヴァルツェンベルク公ハインリヒの心を動かした。だが、同時にツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯の慎重な姿勢も、彼の思考を複雑にしていた。「アドマイヤー選帝侯はまだ迷っている。彼女の海軍力は南部にとって不可欠だ。だが、シュピールカルテン公の暴走を止められなければ我々は滅びる。」
すると書斎のドアがノックされて側近が入ってきた。「閣下、シュピールカルテン公からの使者が到着しております。彼は貴殿に、南部諸侯の連合を正式に結成し、帝国からの離脱を宣言するよう求めています。アドマイヤー女選帝侯も、ジャクソンビル海軍基地の接収を進めており、シュピールカルテン公の動きに同調する可能性が高いと…」
シュヴァルツェンベルク公ハインリヒは目を閉じ、深く息を吐いた。「シュピールカルテン公は我々を道連れにする気だ。だが、彼の言う通り南部が団結しなければ、北部の軍勢に飲み込まれる。」彼は決意を固めた。「諸侯会議を招集せよ。リッヒモントに南部諸侯を集める。そしてフィルギニアの軍を動員せよ。
ヴィクトリアの討伐令は、我々に対する宣戦布告だ。」
側近は一礼し、退出した。シュヴァルツェンベルク公ハインリヒは再び窓辺に戻り、リッヒモントの街を見下ろした。「シュヴァルツェンベルクの名にかけて、南部の自由を守る。ヴィクトリアよ、貴女の帝国はここで終わる。」
ディヴィヌス暦1861年4月17日、シュヴァルツェンベルク公領フィルギニアのリッヒモント、シュヴァルツフォルトレースの大広間に南部諸侯の代表たちが集まった。シュピールカルテン公フォントルロイの代理として派遣されたガリア帝国外人部隊中佐アウグスト・フォン・シュピールカルテン、ツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯、アイアンス・フォン・ローン選帝侯、そして他の南部諸侯の重臣たちが、緊張した空気の中で席に着いていた。シュヴァルツェンベルク公ハインリヒは広間の玉座に座し、静かに一同を見渡した。
「諸君、ヴィクトリアの討伐令は我々に対する挑戦だ。彼女は南部の伝統を踏みにじり、帝国を北部の傀儡に変えようとしている。シュピールカルテン公の行動は性急だったが、彼の信念は我々と共にある。南部は一つとなって立ち上がる時だ。」
ハインリヒの言葉に、広間は一瞬静まり返った。ガリア帝国外人部隊中佐アウグスト・フォン・シュピールカルテンが立ち上がり、声を上げた。「
ツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯は慎重な口調で応じた。「私は、フォントルロイの行動に同調しつつも、帝国との完全な決裂には慎重です。私は南部の伝統を守るため戦う覚悟ですが、奴隷制度を巡る要求が帝国との交渉を不可能にしていると危惧しています。特にフォントルロイが私の名義で送った6箇条の要求は…」
シュヴァルツェンベルク公ハインリヒは手を挙げてツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯を制した。「その要求はフォントルロイの独断だ。アドマイヤー選帝侯の立場は理解する。貴女の海軍力は我々の生命線だ。当然貴女を孤立させるわけにはいかぬ。」彼は地図を広げ、フィルギニア、スード・カロリーナ、フロリダ、テキサスなど南部の要衝を指した。「我々の戦略は単純だ。リッヒモントを政治の中心とし、チャールストンとジャクソンビルを軍事拠点とする。ツフトゥラの艦隊が海を制し、フォントルロイの戦列歩兵が陸を押さえる。そして、我がフィルギニアの鉄と兵力がその中核となる。」
広間にざわめきが広がった。諸侯の代表たちは、ハインリヒの指導力に引き込まれつつあった。
シュヴァルツェンベルク公ハインリヒは立ち上がり、剣を抜いて高く掲げた。「我々浅南部は帝国からの離脱を宣言する! 南部諸侯連合を結成し、新たな国家を築く! シュヴァルツェンベルクの名にかけて、我は諸君を導く!」
広間は歓声に包まれた。ガリア帝国外人部隊中佐アウグスト・フォン・シュピールカルテンが拳を振り上げ、ツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯も静かに頷いた。ディヴィヌス暦1861年4月17日、シュヴァルツェンベルク公ハインリヒの指導のもと、南部諸侯連合が正式に発足した。フィルギニアの離脱は、
ディヴィヌス暦1861年4月20日、アドマイヤー女選帝侯領フロリダのジャクソンビル。ツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯はジャクソンビル海軍基地の司令室で、リッヒモントからの電報を読んでいた。ハインリヒの離脱宣言と南部諸侯連合の結成が伝えられていた。彼女の群青色の瞳は、複雑な感情で揺れていた。「シュヴァルツェンベルク公…あなたも決断したのですね。」
彼女は当初シュピールカルテン公フォントルロイが自分の名義で送った6箇条の要求を知り、激怒していた。「
ツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯は剣を手に取り、窓辺に立った。海軍基地の艦船が、朝陽に照らされて輝いている。「南部の伝統を守るため、私は戦う。だが、この戦争が何を齎すのか…」彼女は胸ポケットのチーズの塊を握りしめ、決意を新たにした。「艦隊を準備せよ。ジャクソンビルを死守し、大西洋航路を確保する!綿花をブリタニアやガリアに輸出してブリタニアやガリアから優れた兵器を輸入する。」
ディヴィヌス暦1861年4月25日、コロンビア
シュピールカルテン公フォントルロイは、居館の広間でシュヴァルツェンベルク公ハインリヒの離脱宣言の報を受け、満足げに笑った。「シュヴァルツェンベルク公め、ようやく腹を括ったか! これで南部は一つだ!」彼は側近に命じた。「戦列歩兵を増強せよ。チャールストンを要塞化し、北部の侵攻に備える!」
だが、シュピールカルテン公フォントルロイの心中には不安もあった。ツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯の不信感は、南部連合の結束を脅かす兆候だった。「シュヴァルツェンベルク公よ、貴様がしっかりと諸侯をまとめねば、この老骨が貴様を叩き潰すぞ…」
ディヴィヌス暦1861年5月1日、帝国首都ノイエラントシュタット。
皇帝ヴィクトリアは、マリア女選帝侯と共に、帝国軍の追加動員を命じた。サムター要塞の陥落と南部諸侯連合の結成は、帝国の存亡を賭けた戦争の始まりだった。「マリア、我々は南部を討伐する。だが、奴隷制度を巡る対立がこの戦争の根源だ。帝国の未来のため、我々は正義を貫く。」
マリア女選帝侯は静かに頷いたが、彼女の心は重かった。「シュヴァルツェンベルク公、アドマイヤー女選帝侯…彼らもまた、守るべきものを信じている。
ヴィクトリア陛下、この戦争は帝国を一つにするのか、それとも…」
皇帝ヴィクトリアは一つの指令を発する。「帝国海軍は南部海上封鎖のため全力を挙げよ。叛徒共から戦費と軍需物資の調達ルートを奪うのだ!」
帝国と南部連合の対立は、ディヴィヌス暦1861年を境に、血と炎の大戦争へと突き進んでいく。誰もが予想できなかったその規模と犠牲は、歴史の
皇帝ヴィクトリアが奴隷制を嫌っていることを知るツフトゥラ・フォン・アドマイヤー女選帝侯がなんとか奴隷制度維持を認めさせようと考えた婉曲表現である。
皇帝ヴィクトリアも地下鉄道という奴隷逃亡幇助組織の一員だったことがある
遂に戦争が始まりました。しかしこの状況でも双方共にまだ状況を楽観視しています。つまり帝国側は"大軍を集めたのだから叛乱勢力は腐った納屋のようにただの一蹴りで崩れ去るか、大軍に恐れをなして降参するだろう"と考えていて、叛乱勢力側は叛乱勢力側で強い意志を見せれば帝国側は"侵略"を諦めるだろうと考えています。
皇帝ヴィクトリアは離脱諸侯に対して「対話による解決」を提示しましたが、離脱諸侯は無視して実力による武力行使に乗り出しました。そして離脱諸侯が実力行使に出た以上、もはや対話による解決は不可能でしょう。
登場人物紹介
名前:ローベルト・アンダーゼン
地位: 帝国軍少佐
年齢: 56
所属: 帝国
信念:奴隷制度の撤廃には思うところがない訳では無いが、帝国軍人は帝国軍人としての忠誠と義務を果たすべき。
兵科:砲兵
使用戦術:
集中砲撃: 大砲を集中配置し、強力な火力で敵を壊滅。精密さと計画性が求められる。
支援砲撃: 歩兵や騎兵の進軍を援護し、敵の防御を崩す。連携とタイミングが重要。
陸海協同防禦: 沿岸や河川で陸軍と海軍が協力し、敵の攻勢を受け止める。陸軍の防御線を海軍の火力で支援。
背景:
ケンタッキーのルイビルの職業軍人の家に産まれる。士官学校を卒業して砲兵将校として国軍の砲兵部隊でキャリアを積む。新大陸中央共和国との戦争を始め国軍砲兵隊が出動した様々な戦争に従軍経験があり、士官学校の教官も勤めた事もあるので、貴族平民各派閥関係なく交友関係がある。
急進的な奴隷解放には賛成ではないが、かと言ってそれに反対する為に帝国への叛乱と独立をしようとする南部の連合国には同調は出来ない。
作成:谷津田 殿
名前:グスタフ・トゥータン
地位: 連合国准将/建築技師
年齢: 43
所属: 叛乱勢力(連合国)
信念:故郷ルイジアナと我が家と我が家の奴隷たちを守る為には帝国との対決もやむ無しか
兵科:工兵
使用戦術:
拠点包囲: 敵の拠点を囲み、補給を断って降伏を強いる。戦略的思考と補給能力が求められる。
包囲戦術: 敵軍を多方面から攻撃し、混乱と圧倒を誘う。連携と機動力が鍵。
繞回運動: 敵の側面や背後を大きく迂回して攻撃。機動力と計画性が鍵。
背景:
旧大陸からの移民を先祖に持つルイジアナの大地主の家に生まれる。幼少期から奴隷と共に生きてきたので、少なくとも自分の家の奴隷に対しては身内意識がある。
国軍の士官学校で工兵科に学び、新大陸中央共和国との戦争にも従軍経験がある(砲兵将校としての教育も受けている)。彼の国軍における最終役職は士官学校校長。
出自の影響で南部ではいまいち信用されていないか、論理的戦略眼の持ち主であり「礼儀正しく、厳粛で、時には控えめで厳しく、気に入らない人には時には無愛想だった」。「彼を見た人の多くは、彼がフランス元帥か灰色の制服を着たナポレオンのように見えると思った。彼はそう思わせたかったのだ。」と評される人物
作成:谷津田 殿
名前:アウグスト・フォン・シュピールカルテン
地位: 帝国子爵/仏国外人部隊中佐/連合国軍准将
年齢: 40
所属: 叛乱勢力(連合国)
信念:重要なのは、肌の色ではなく使える人間かどうかだよ。
兵科:歩兵科(標準歩兵)
使用戦術:
戦列射撃: 整然と並んだ歩兵が一斉射撃で敵を圧倒。統率力と火力を重視。
塹壕防御: 防御線を構築し、持久戦で敵を消耗させる。慎重さと耐久力が必要。
突撃戦術: 密集隊形で敵陣に突入し、白兵戦で決着をつける。勇猛さが求められる。
拠点包囲: 敵の拠点を囲み、補給を断って降伏を強いる。戦略的思考と補給能力が求められる。
背景:
フォントルロイ・フォン・シュピールカルテンの末の息子。末の息子であった為に半ば放置気味ではあったが、箔付けの為に子爵位(領地無し)を授与して綿花販売の伝手があった帝政ガリアの士官学校に留学。そのまま卒業し帝政ガリア
外人部隊での勤務が主で、クリミア戦争、第二次イタリア独立戦争に第二外人歩兵聯隊の外人部隊将校として従軍、勇敢な将校として賞されレジオン・ド・ヌール勲章を授与される。
士官学校を卒業した1840年代からパトリス・ド・マクマホンの部下として活躍し、マジェンタ公爵帝政ガリア元帥にマクマホンが叙任されるとその幕僚となる。
ディヴィヌス暦1860年末、南北の対立が激化する頃に父親であるフォントルロイ・フォン・シュピールカルテンから帰国を促され、不承不承帝政ガリア陸軍省に休職願いを提出して帝国に帰国。南部の独立を強硬に主張する父親の説得は早々に諦め(あ、これは反対したら実の息子にも容赦しないやつだ。と察した為)、ならば南部の決定的な敗北を先延ばし北部と妥協ができる程度の勝利を積み重ねる為に軍の整備を請け負う。それに満足した南部指導層から連合軍准将に任じられる。
アルジェリアやクリミア戦争等でアルジェリア・ライフル連隊やズアーヴ連隊などアフリカ現地人で編成された兵士を知っているので「兵士の優秀さと肌の色は全く関係はない」と長い軍歴で確信している。
帝政ガリア軍籍を保有していたことから戦後帝政ガリアへの国外追放となる。ディヴィヌス暦1870年9月1日未明に発生した戦闘において包囲を突破すべく突撃を敢行、内戦の戦訓から隷下のMitrailleuseを前線に突出させての近距離支援射撃を受けながら突撃を行うことで敵砲兵陣地に突入することに成功するものの、最終的に突撃は破砕されて壮絶な戦死を遂げる。
作成:谷津田 殿