願いの物語シリーズ【古宮ひかり】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
あれから。何故か私は逮捕されることも無いまま、変わらない日常を送っていた。
でも、そのまま終わりになんてする事は出来ず、私は罪を償う為に病院へと向かった。
そして私は、辿り着いた病室で美月ちゃんに見つめられたままベッドの横に置いてある椅子に座り、冷や汗を流していた。
美月ちゃんの刺すような視線はとても息苦しくて、私は心臓がキュッと締め付けられてしまう。
「あの、ごめんなさい」
「そんな話聞いて無いわよ。ひかり」
「……っ」
美月ちゃんは大きなため息を吐いて、私をジッと睨みつける。
その視線は酷く怖いけれど、逃げ出すことなんて出来る訳がない。私は罪を償わないといけないのだから。
「もう一度言うわね? ひかり。何で私を突き落としたの?」
「そ、それは……その」
私はあの時頭に浮かんだ光景を思い出し、言えないと口を塞いでしまう。
だって、あの時に美月ちゃんたちを刺そうとしていた子達はみんな美月ちゃん達と仲が良いって言われてた子ばっかりだった。
それを知ってしまえば、きっとショックを受ける。
だから、私だけが悪い人になってれば、美月ちゃんのショックも少ないだろうと思う。
でも、美月ちゃんはそんな私を見て、また溜息を吐くのだった。
「理由を言えないって。それで納得できると思う?」
「お、思わない」
「なら、どうするの。アンタ」
「美月ちゃんが、望む事、何でもする、よ」
「……なんでも、ねぇ」
美月ちゃんの目がスッと鋭く細められた。
そして冷たい言葉を私に投げかける。
「なら、メイド服着て、一生私に奉仕しなさい」
「うん。分かった」
「……やっぱ変えるわ。水着。水着でやりなさい」
「分かった」
「……裸。いやそれはマズいわ。チッ。ムカつくわね」
美月ちゃんは酷く苛立っている様だった。
やっぱり私が理由を言わないのが腹立たしいのだろう。
でも、私にはどうする事も出来ないし。こういう時はお金を払えば良いのだろうか。
「えっと、あの。美月ちゃん」
「なに?」
「あのね。お金、払うよ? その、私貯金はいっぱいあるか「チッ!!」っ」
美月ちゃんは酷く顔を歪めて舌打ちをした。
「ねぇ。ひかり。入院してからさ。アンタが来る前にさ。何人かのアイドルが私の所に来たのね」
「……」
「それで言ってたのよ。ひかりが、私と陽菜を守ろうとしてるってね。なんでそう思ったのか。ソイツらは言わなかったけど、そっちは何となく分かるわ。でも、分からないのはアンタよ。ひかり」
「っ!」
「アンタ何を隠してるのよ。言わないと、酷い目に遭わせるわよ」
「ぅ、ゃ」
「嫌なら、分かるでしょ? 言いなさいよ。何で! 私を! 落としたの!? 私が嫌いだから!?」
私は美月ちゃんに迫られて、思わず首を振ってしまう。
「じゃあ何!? 怪我させたかったの!?」
また首を振る。
このやり取りは既に二回目だ。
でも一回目と同じ様に私は何と答えたら良いか分からずただ首を振るばかりであった。
そんな私に美月ちゃんは前と同じように溜息を吐くのだ。
「はぁ。もう良いわ。分かった。とりあえずひかり。アンタの連絡先教えなさい」
「あ、あの。前に教えた奴と、同じ」
「そう。じゃあその内また連絡するから。教えられる様になったら言いなさい」
「え、えっと。その、償いは」
「年末に実家で大掃除するから来なさい。私もまだ本調子じゃ無いから。こき使うわ」
「うん。分かった。えっと、メイド服か水着を買っていけば良いかな」
「普段着で来なさい。お父さんが驚いて腰抜かしちゃうから」
「良いの?」
「いいの!!」
「分かった」
私は美月ちゃんの呆れた様な声に、安心したように笑った。
何だか昔に戻ったみたいな気持ちになったからだ。
美月ちゃんがこうしてここにいて、話が出来る事がただ嬉しい。
「私はそれでいいけど。陽菜の所にも顔出しておきなさいよ。まぁ、あっちには謝らなくても良いけど」
「そういう訳にもいかないよ。悪い事をしたならちゃんと償わないと」
「……今から行くの?」
「うん。面会の許可は貰わないといけないけど」
「分かった。じゃあちょっと待ってて。今電話するわ」
そう言うと、美月ちゃんは携帯電話を取り出して陽菜ちゃんに電話する。
美月ちゃんの言葉はトゲトゲしてるけど、陽菜ちゃんを気遣った優しい物だった。
そんな美月ちゃんに私は思わずニコニコしてしまう。
でもそんな私に美月ちゃんはチラッと視線を向けると、私の額にデコピンをした。
「ぁぅっ」
「何ニヤニヤしてんのよ。ムカつくわね。ホラ、連絡したからさっさとロビーに行きなさい」
「わ、分かった」
私は椅子から立ち上がって、病室の扉の方へ向かった。
扉に手を掛けながら、アッと思い出して振り向き、笑う。
「じゃあ、またね。美月ちゃん」
「……」
何故か私の方を見ていた美月ちゃんは呆然としていて、私は何か失敗したのかと思ったけれど、すぐに出て行きなさいと言われ、私は渋々病室から出て行くことにした。
そして、病院のロビーへ向かうと、そこに一人の人が立っているのが見えた。
その人は私を見つけると、手を振りながら私の所へ向かってきた。
眼鏡を掛けているけれど、多分陽菜ちゃんのお兄さんだろう……って、よく見ると、どこかで見たことがある様な?
いや、この光は!
「古宮さん。ですよね?」
「……もしかして、光佑さん?」
「えっと、何処かで会った事ありましたっけ」
「えと。十年くらい前に、スターレインのライブに一緒に行ったんですけど、光佑さんと綾ちゃんと、光佑さんのお母さんと」
「……まさか、ひかりちゃん!? 本当に!?」
「は、はい。ひかりです。あの、お久しぶりです」
「いや。まさか本当にひかりちゃんだなんて。驚いたな」
「本当ですね」
なんて笑いながら言うが、ここで光佑さんが陽菜ちゃんのお兄ちゃんだという事を思い出した。
笑っている場合じゃない。
綾ちゃん以外にも妹さんが居たのも驚きだが、その大事な妹さんを傷つけてしまったのだ。
「あ、あの! 今回は!!」
「ひかりちゃん。ここだと人の目があるから、話なら陽菜の病室でしようか」
「あ……ご、ごめんなさい」
「いや、大丈夫だよ。じゃあ行こうか」
そう言って光佑さんは私の手を取って歩き始めた。
逃げられない様にという事だろう。
これは大分怒っているのではないだろうか。
そして、光佑さんに手を引かれて私は陽菜ちゃんの病室まで足を運んだ。
「入るよ。陽菜」
「し、失礼します」
恐る恐る病室に入ると、ベッドの上で腕を組んで目を閉じている陽菜ちゃんが居た。
そして、私は陽菜ちゃんのすぐ横に置いてある椅子に座った。
「待っていたよ。ひかりちゃん」
「は、はい」
「ふふふ。大分時間が掛かったけど、ようやく邪魔者無しで話が出来るね」
「……」
陽菜ちゃんは目を開き、不敵に笑いながら、私を見た。
「さて、ひかりちゃんには何をして貰おうかな。何を話して貰おうかな。何せ、ひかりちゃんが起こした事件で、私の足は殆ど動かなくなっちゃったしな」
「……え?」
「驚いちゃった? まだ発表してないもんね。でも、本当だよ。未来のトップアイドルの足を駄目にしたんだから、ひかりちゃんは私に逆らっちゃ駄目だよ。罪は償わないとね」
「う、うん。罪は償うよ。でも、足は動くよね?」
「は?」
「あっ、いやっ、その! 陽菜ちゃんは気づいてないかもしれないけど、でも、輝きは消えて無いから、その、大丈夫だと思うの。リハビリとかも必要ないくらい?」
「ひかりちゃんってお医者さんなの?」
「そうじゃないけど、前に足が動けない人と話した事があってね。その時は足が光ってなくて、他の人も同じだったから……」
「光、ねぇ。確か前も言ってたね。あの時は何言ってるんだろうと思ったけど、おねーちゃんの事も気づいてるみたいだし。これは結構厄介かな。いや、使えるか」
ブツブツと口元に手を当てながら考え事をしている陽菜ちゃんに私は両手を足の上に置いてジッと待っていた。
しかし、そんな意識の全てを陽菜ちゃんに向けていた私は後ろから光佑さんに声を掛けられて、思わず飛び上がってしまった。
「ひかりちゃん」
「ぴっ!?」
「あぁ、ごめんごめん。一つ確認をさせて貰いたい事があるんだ」
「か、確認ですか?」
私は椅子から立ち上がり、後ろを振り返りながら光佑さんを見る。
光佑さんは真剣な眼差しで私を貫く。
「天野という男に会った事はあるかい?」
「あまの……ですか。あまの。あまの」
自分の記憶を掘り起こしてゆくと、あのホテルでの出来事を思い出した。
何だか怖い人。
「あ、会った事、あります。怖い人」
「本当に!?」
私は後ろから手を引っ張られて、ベッドの上に倒れてしまった。
無理に体を捻ったせいか、少し痛い。
「もしかして、その光を見る事が出来るのも、天野に会ってから?」
「い、いえ。それは昔からで……」
「天野に会って、何か特別な物を貰ったんじゃないのか?」
私を引っ張った陽菜ちゃんと、ベッドに迫ってくる光佑さんの両方に問い詰められる。
追い詰められるまま、私は何とか言葉を紡ぐ。
「と、とくべつな、もの……あ、あの、未来が見える様に、なった……ことですかね」
「未来が見える。か」
「それで? どんな未来を視たの?」
「いや、それは」
「言えないってのは無し。私は死ぬかもしれなかったんだよ? 痛かったなぁ。辛かったなぁ。こんなに酷い目に遭ったのにダンマリなんて、私傷ついちゃうなぁ」
「……あ、あの」
私は、本当に辛そうな顔をする陽菜ちゃんに胸が苦しくなり、目をキュッと瞑って言葉を絞り出した。
「これは、ですね。私の勝手に見ただけ、というか。その私が未来だって思い込んでいるだけなので、本当にそうなるかは分からないんですけど、その、陽菜ちゃんや美月ちゃんが、その……アイドルさんに刺されるという様な、その幻覚を見まして、いや! これは違うと思うんです。私の勘違いだと思うんですけど、妄想かもしれません! でも、そんな未来が、視えて……」
「ハァ!! 最悪!! キレそう!!」
「ひ、ひぇ、ごめんなさい」
「別にひかりちゃんには怒ってないよ。ようやく色々な点が繋がったってだけ!! キレそう!!! アイツら、結局そういう事かい!! クソ!」
「ぇぅ、あ、あの」
「大丈夫だよ。ひかりちゃん。陽菜はひかりちゃんに怒ってる訳じゃ無いから」
「そ、そうですか」
「でも、ここまで聞いた話を考えると、ひかりちゃんをそのまま返す訳にはいかなくなったよ。ごめんね?」
「ぇ」
「そうだね。丁度いいから、このまま引き込んじゃおうか。私もアイドル引退して、別の場所で活動しようと考えたからさ。ひかりちゃんには、敵と味方を見極める仕事をして貰おうかな」
「ぁ、ぇ」
「断らないよね? 私にあんな事したのに。あぁー痛い。痛いなぁ。足、痛いなぁ」
「ぅ、うぅ、でも、そのスターレインが」
「スターレインねぇ。ひかりちゃんが単独で活動するなら良いけど、スターレインは駄目。加藤沙也加が居るし」
「え」
「という訳だから、このまま連れて行くね。事務所とかにはこっちから話しておくから」
「え、え、あの」
「携帯出して」
「いや、あの」
「早く。悪い事をしたら? どうするの?」
「ぁ、あの、はい……」
「よろしい。これはこっちで預かるから。とりあえず佳織ちゃんに連絡して、耕作さんの方から手を回して貰おうか。どっちにしてもこのまま放置って訳にはいかないしね。お兄ちゃん。そのまま連れてって」
「あぁ。とりあえず、家に連れて行こうか。母さんに連絡頼めるかな」
「うん。やっとく。じゃあひかりちゃん。また会おうね。逃げちゃ駄目だよ」
私は流されるままに光佑さんに抱き上げられて、そのまま車に連れて行かれた。
そして、流されるままに私は、陽菜ちゃんが始める配信活動の手伝いをするのだった。
何とか両親や妹には説明できたけど、あまり家には帰れていない。
でも、新しい日々に私は満足していた。
アイドルとして活動する事は出来ていないけど、別にアイドルになりたかった訳でもない。
私でも、何か出来る事が欲しかっただけだ。
だから、これはこれで良かったのだと思う。
スターレインのみんなも変わらずテレビで楽しそうに出演している。
こうして思えば、全て良い感じに終わったのだろう。
なんて、考えながら私は年末に美月ちゃんの家に来ていた。
「美月ちゃん。これはどうすれば良い?」
「段ボール」
「あ。懐かしいねぇ。CDいっぱい出てきた」
「段ボール」
「えー。しまっちゃうのー?」
「出しとくと邪魔なのよ。当然でしょ。曲聞くだけならデータで良いしね」
「ぶー。ほら! これ見て。美月ちゃん可愛いよ」
「はいはい。戯言は良いからさっさと手を動かす」
「はぁーい」
私は美月ちゃんに怒られながら作業を進めてゆく。
そしてその過程で気になる物を見つけ、美月ちゃんを呼んだ。
「ねぇねぇ。美月ちゃん。これはどうする?」
「それは……まぁ、そうね。テーブルの上にでも置いておいて」
「ふふ。分かったよ」
「……何、笑ってんのよ」
「んーん。何でもないよっ」
私はその写真を綺麗に拭いて、写真立てに入れる。
そして、テーブルの上に綺麗に飾った。
スターレインのみんなが笑っている写真を。