「やっとついた…!」
『お疲れ様です、先生!』
ゲヘナ学園。自由と混沌を校風とし、各地区での事件が年間100件を下回れば少ないほうだと揶揄される程の治安の悪さをもつと言われている。それは決して誇張表現なんかじゃなくて、先生もこの風紀委員会の建物まで来るのに予想外の爆発や抗争を避けて進んだ結果、予想していた時間の約2倍近くかかっていた。お陰様で今の時刻はお昼時である。風紀委員会の建物の中を歩きつつ、風紀委員会に来る要因になった事を思い出す。それは先程シャーレを出る時、アロナを起こして説明した時のことだった。
「ヒナから連絡?」
『はい。どうやら今回の依頼について直接話したいそうで、そこで詳しく説明したいとのことでした』
「わかった。それじゃあゲヘナを経由していこうか」
『了解しました!』
というわけで来たのだが、いつも通りかわからないが執務室から多くの生徒の話し声が聞こえる。心無しかここに来るまでにすれ違った子たちもどこかピリピリしている風だった。(何かあったのかな…あ、もしかして自治区侵入の件かな?)なんて思いつつ、応接室のドアをノックして声を掛けると「どうぞ。」と返事が帰ってきたので中に入るとヒナは机の上に置いた指で、かすかに机をトントンと叩いていた。その動きにはどこか苛立ちと焦りが滲んでいる。顔を上げた彼女は、
目の下に薄く影を落としていたが、いつもの冷静さを崩さずに「こんにちは、先生。」と迎えた。
「こんにちは、ヒナ。」
「こんにちは、先生。依頼の件についてよね?」
「うん。かなり大変みたいだから、急いだ方がいいと思ってね。」
「……助かるわ。早速だけど、説明させてもらうわね。」
ヒナは少し疲れた様子で手元の資料に視線を落としながら、淡々と話し始めた。
「イシノ学園……ゲヘナとトリニティの自治区に接する区域を管理しているわ。でも、一番特殊なのは、キヴォトスで唯一の男子校だってこと。……だからこそ、今回の事件も単純に侵入の罰を与えるだけでは済まなくなったの。」
「問題って?」
「……本人が容疑を否認していて、話し合いが進まないの。さらに学園側はその生徒の功績が目覚ましい為に、決定的な証拠がない限り協力しないと来ているの。それに今ゲヘナはできるだけ政治的な問題を起こしたくないのよ。」
「なるほど。それで私が呼ばれたんだね?」
「えぇ。先生には申し訳ないのだけど、仲介役をお願いしたくて。」
なるほど。イシノ学園は事件への協力は行わずにいるからこその仲介で、政治的な問題を起こしたくないからこその中立なシャーレに解決を依頼したんだ。なら、とりあえずイシノ学園に向かってみないと。
「わかったよ。とりあえずイシノ学園に向かって交渉してみる。」
「ありがとう、先生。気を付けて」
そう言うと、先生は椅子から立ち上がり終始申し訳無さそうにしていたヒナに向かって「あんまり思い詰め無いようにね」と言って軽く頭を撫でられると、ヒナは一瞬だけ肩を強張らせた。目を見開いたまま固まったが、次の瞬間、慌てて咳払いをして顔を背ける。
「……っ、そういうの、やめてって言ってるでしょ。」
小さく呟いたものの、声に棘はない。むしろ戸惑いが混じったような声音だった。
先生が背を向けた瞬間、ヒナはそっと額に手を当てる。そして、軽くため息をついた。
(……本当に、この人は)
そんな言葉が口をつきそうになったが、代わりにもう一度小さく咳払いをして、表情を引き締めた。
そして先生は去り際に「頑張ってね」と言い放って応接室を後にした。
───────
「ふぁ〜……」
大きなあくびをひとつ。のんびりと学園へ向かって歩く。
朝の住宅街には柔らかな陽光が差し込み、家々の間をすり抜けていく。道を行き交う人々と軽く挨拶を交わしながら進むが、時計を見るとすでにお昼過ぎ。間違いなく遅刻の時間。それでも焦る様子はまったくない。
──というのも、別に寝坊したわけじゃないのだ。
俺の名前は 砂山サイト。イシノ学園の生徒だ。そして今、遅刻してでものんびり歩いている理由は、俺が所属……いや、強制加入させられた 「夜行部」 のせいである。
イシノ学園にいる限り、夜行部の仕事をこなさなければならない。仕事内容はというと「朝6時から夜10時まで自治区を巡回し、不審者を捕らえて学園の地下牢にぶち込む」というもの。
……めんどくせぇ。
おまけに、この部活を辞めようとしたら生徒会長から物理的な威圧を受けた。無理やり抜けようとすれば痛い目を見る。……勘弁してくれ(泣)
とはいえ今日は週に一度だけある半日で交代する日なのだ。なので午前に入っていた先輩と変わって仕事中というわけだ。
まぁ、一応給料が出るのでやってはいるが…正直割に合わないと思う。
──そんな仕事中に、なぜ俺が今、学園に戻っているのか?
その理由は、目の前を歩く人物にある。
「案内、ありがとうね。助かるよ」
俺と並んで歩くのは、キヴォトスでも噂の シャーレの先生 だった。
「いやいや、あのシャーレの先生がわざわざ出向くような問題を起こしてしまう学園で、すみませんね」
「これくらいどうってことないよ。……まぁ、あんまり起きることじゃないけどね」
そう言って、先生は微笑む。
実は、さっきパトロールしていたら、見かけない人物が学園に向かっているのを発見した。話を聞いてみると、まさかのシャーレの先生だったのだ。
──というか、思い返せばこの人、 やっぱり…ブラックマーケットで見た顔 じゃないか?
「あの、先生。失礼なのは承知で聞くんですけど、銀行強盗とかしたことあります?」
「いきなりだね!?」
「いや、この前ある護衛依頼の途中に見かけた気がするんですが…」
「……いやぁ、ごめんね。代わりにイシノ学園についていろいろ聞いてもいいかな?」
はぐらかし方が適当すぎるが……まぁいいか。代わりに、学園のことを色々と説明する。
雑談をしながら歩く中で、ふと立ち止まり、先生の方向へ振り返る。
「そういえば、先生。一つ頼みたいことがあるんだけど、いいっすか?」
「私にできる範囲なら大丈夫だよ」
「……おお、何も聞いてないのに了承するとは。さっすが噂の先生ですね」
先生の決断の速さに感心しつつ、俺は本題を切り出す。
「頼みたいことっていうのはですね。 生徒会長を説得してほしいんですよ」
「さっき話してた、ナヅキ会長って人?」
「はい」
俺は深く頷く。
「実は、俺が仕事中に学園に戻れるのは、不良生徒を牢にぶち込む時だけなんです。……でも今回は、先生の案内のために仕方なく戻ってきたってことにしてほしくて…というか昨日徹夜でゲームしたからちょっとサボりたいんで、おねしゃす!」
「う、うーん……サボるのはあまり良くないけど、根を詰めすぎるのもダメだからね。……わかった、協力するよ」
先生は少し悩んだ様子だったが、最終的には頷いてくれた。
これでなんとかなる……といいんだけどなぁ。
──そうこうしているうちに、ちょうど校舎が見えてきた。その瞬間、
轟音が響き渡り、グラウンドの方から黒煙が立ち上る。
「……またか」
俺は遠い目をして呟いた。
「えぇ!? 何事!?」
先生が驚いたように叫ぶ。
いや、何事も何も。あいつ、またやらかしたのか……。
イシノ学園自治区の雰囲気としてはアビドスが一番似ているかもしれません。とはいえ、原作で出てくるアビドスの町並み(分校の方)に住民を足した感じですね。あ、別に砂漠地帯とかはありません。
地理的(位置的)には少々複雑です。
自治区の範囲として住宅街ももちろん入る訳ですが、その住宅街、ビル郡及び廃墟等がゲヘナとトリニティに隣接しています。
なんか大きくね?って思ったんですけど、ゲヘナをドイツとして、トリニティをイギリスとして考えてみたらその周りにあるのってフランスとかなんですよね。
なのでイメージとしてはフランスを横長くしてイギリスとドイツにくっつけたみたいな形だと考えていただけると幸いです。
因みに全く関係ありませんがエデン条約編でトリニティ、ゲヘナ間に橋(道路?)があったかと思うのですが、あれって私から見るとイギリスからオランダまでにユーロトンネルではなく無理やり橋を架けた物だと思ってたりします。
それもこれも公式のちゃんとした地図が無いので妄想になりますが、私のイメージだとこんな感じです…というふわっとしたガバガバ設定でございますが、何卒読んでいただけると幸いです。