クァラントトーリ   作:ぬらりやん

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第1章
1話


 

「やまー、神隠しってホントにあると思うか?」

 

 休み時間、教科書を整理していた俺に、友人の永瀬奔がそう尋ねてきた。

 行儀悪く席に座り、頭をのけ反らせ、こちらを向いている。

 

「布教なら人が多いところがいいぞ。ほれ、名浦のとこ行って来いよ」

「宗教勧誘じゃねーよ。ほら、例の連続失踪事件だよ、全国で起きてる」

 

 ハッシが身体を向き直し、スマホを差し出した。

 校内で使用厳禁な携帯をよくもまあ堂々と。

 内心呆れながら、画面をのぞき込むとそこにはデカデカとした文字でこうあった。

 

『消える高校生 連続失踪事件』

 

 最近、世間をにぎわしている有名な事件だ。

 

「オレは神隠しに一票なんだけど、宇宙人説も捨てがたくてさぁ。日本政府が仕組んだ改造人間計画てのも面白くてなぁ」

 

 どうやら見ていたのは真っ当な新聞などではなく、陰謀論濃いめ固め、胡散臭さマシマシのネット記事のようだ。

 熱心に話し込んでいるハッシを無視して、画面をスクロールした。

 

『今年に入って十六件目、姿を消す者は増えるばかり。

 警察は全国に捜索範囲を広げ、手を尽くしているが、手がかりのテの字も見えない。

 地域、性別、どれも規則性がなく、謎は深まるばかり。

 だが、一つ共通点を挙げるとするなら、失踪者全員が高校生という点だ。

 不可解極まりない本件だが、著者が集めた証拠の断片をつなげることで一つの思惑へとたどり着く。

 それは二十世紀初頭、日本を裏で操る闇の組織、ディープステートのある計画があっ』

 

 そこで俺は教科書の整理を再開した。

 くだらない。その一言に尽きる。

 神だの仏だのディープスロートだの正気とは思えない。これなら宗教勧誘のほうがまだ興味が湧いたかもしれない。

 

「おーい、無視すんなー」

「大方、どっかの犯罪グループの誘拐とかでしょ。それに犯人がいるとも限らないし。高校生側で計画された集団家出っていう可能性もあるでしょ」

「いや、だとしてもどうやって、なんで、こんなことすんだよ」

 

 そこで初めて言葉に詰まった。

 先ほどのネット記事はすべてを騙っていたわけではない。最初の数文に限れば、この常軌を逸した事件を端的に表したと言えるだろう。

 日常を送っていたはずの高校生が、ある日忽然と姿を消す。それも前触れもなく。抵抗した形跡も、何もない。

 ただそこになかったかのように消えてしまう。

 常識では説明がつかないこの事件は、確かにオカルトと結びついてもおかしくないのかもしれない。

 いやいやいや、ないから。神とかいないから。

 これではしょうもない記事と同じではないか。

 このままでは言い負けてしまうと、何とか反論をひねり出そうとしたその時だった。

 

「おーい、やま、ながせ、全校集会遅れるぞー?」

 

 

***

 

 

「このような状況を踏まえ、本校は特別警戒態勢を敷くこととなりました。生徒の皆さんにはご迷惑をおかけするかと思いますが、これ以上犠牲者を増やさないためのご協力をお願いします」

 

 数学だったはずの六限目は、急遽全校集会へ変更となっていた。

 急遽、とはいっても変更は事前に通達されていた。

 それを俺たちはド忘れし、教室でギャーギャー夢中になって話し込んでいたわけだ。体育館へ移動していたクラスメイトから見ればさぞ滑稽な光景だっただろう。

 あのバカと同レベルだったという事実がとんでもなく恥ずかしい。向こう数日間はいじり倒されるだろう。

 さて、肝心の全校集会だが、羞恥心を吹き飛ばすような内容だった。

 放課後の居残り禁止、部活時間の短縮、遠くから学校に通う生徒に限り、学校手配の車で送迎など。

 学校は失踪事件を相当重く受け止めているらしい。

 事件の波が間近に迫ってきているのを感じる。

 

「えーでは次に、久留間カナ生徒会長より生徒の皆さんへ特別態勢中の注意事項をお知らせいただきます」

 

 進行の一言で体育館内の空気が変わった、気がする。

 ほらその証拠に、目に見えて壇上へ顔を向ける生徒が増えた。主に野郎だが。

 黒い長髪をなびかせ登壇したのは、一人の美少女だった。

 彼女は絵に描いた、というよりマンガやアニメで描かれるような完璧さを持っていた。

 品行方正、成績優秀、眉目秀麗。

 本校が誇る完全無欠の生徒会長。それが彼女というわけだ。

 彼女という存在は、人間のいいところをビュッフェ形式で欲張ってすべて皿によそった、そう表現できる。

 

「みなさんお集まりいただきありがとうございます。先ほど教頭先生のお言葉にもありましたが、改めてご説明させていただきます」

「相変わらず久留間はカワイイよなー」

 

 お前さっきまで眠りこけてただろ。

 どうやら彼女の声は栄養ドリンクと同等の効果があるらしい。

 

「会長を見る目がキモいぞ」

「やまだって見惚れてんじゃん」

「壇上しか見るとこないだろ」

「そんなこと言ってー、ほんとは気があるくせにー。ほらほら久留間ちゃんの好きなところ言ってみなー? お母さんしゃべったりしないから」

 

 うざっ。

 だが、そうだな、強いて挙げるとするなら。

 

「胸、かな」

 

 これは少し前の話になるのだが、情けないながら俺は一度彼女の前で転んだことがある。偶然近くにいた彼女は俺を支えてくれた。

 鼓膜を震わせる心配を含む凛とした声、握った手のしっとりとした肌触り、目いっぱいに飛び込んでくる整った容姿、そして気恥ずかしさに、視線が逃げた先にあったのがそれだった。

 まあ、彼女はそんなこと覚えてないだろうが。柄にもないことを考えてしまった。記憶の海で揺蕩う思考を現実に引き戻す。

 ハッシはこちらをじっと見つめていた。

 

「なに見てんだ気持ち悪い」

「お前のことだから、女は内面云々のつまらない話になるとばかり」

 

 次はうんうんと納得している。

 お前の顔は七変化か何か?

 

「そうか、胸か! 確かにカラダもヤバいからなうちの会長は。よし、やまは胸を俺はそれ以外を分け合う! 以上の内容で不可侵条約を結ぼうではないか!」

「ボリシェヴィキの手握ったほうがマシだな」

「それでは全校集会を終了いたします。生徒のみなさんは終礼後速やかに下校するように。それでは一同、起立!」

 

 こうして気づかぬ間に全校集会は終わった。

 

 

***

 

 

「はぁー」

 

 家に戻った俺は、まっすぐ自室のベッドに向かい身を投げた。

 ことは想像以上に大きくなっている。

 このままいけば、臨時休校になる可能性もある。

 そのことをハッシに話したら、あと二、三人は消えていいとサムズアップしながら言っていた。その時はさすがに蹴りを入れたが。

 今のうちにビデオ会議のアプリを入れておいたほうがいいかもしれない。そう考え、携帯を起動した。

 

「あれ? こんなアプリいれたっけ」

 

 見慣れた画面の端に、見慣れない真っ白なアイコンがある。

 バグだろうか、そのアプリだけ名称が表示されていない。

 とりあえずタップ。

 

「うっわ、なんだこれ?」

 

 画面いっぱいに奇天烈な文字が表示された。

 怖くなってすぐに謎のアプリを終了する。適当に操作してみるが、特に異常はないようだ。

 やはりバグか。もしくは本体が結構古い年式のため、遂に天寿を全うしようとしているのか。

 念のためサポートセンターに報告だけしておくか。

 

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