幸司君が……死んだ。
それは唐突な出来事だった。
幸司君が王牙君の首を掴んだまま、大きな光に包まれたかと思うと、何かが溶けていくような音が聞こえて……。
光が収まると、そこには姿形が何もかも変わってしまった幸司君と王牙君がいた。
王牙君はかろうじて体は残っていたけど……幸司君は吹き飛ばされた腕だけしか残らなかった……。
私達は何が起こったのか何て、全然分からなかったけど、その時、一つだけの分かったの……。
幸司君は死んだんだって、私達を王牙君から守って…。
もう、幸司君が笑ってくれることはない。
もう、幸司君は私達とお話ししたり、一緒に遊んだりする事も出来ない………。
それだけ分かると、なのはの世界が、急にモノクロの世界へと変わりました。
ただ、幸司君が一人いなくなっちゃうだけで、なのはの世界には色が無くなっちゃったの………。
その後は何も分からないまま、幸司君のお葬式、遺品の整理など、沢山の事が行われました。
…そういえば、幸司君の部屋を整理しているときに警察の人達が来て、私達に色んなことを聞いてきました。
何でも、どうしてあんな風な死に方をしたのか?とか、何があったの?とか………。
そんなのは、なのはに聞かれても分からない。
…でも、一つだけ分かっている事は、幸司君は王牙君と一緒に死んじゃったって事だけ……。
色の失せた世界のまま、私達の日常は戻ってきました。いつものように学校に行くためのバスに乗り、いつものように後ろの席に座りました。
そこにはアリサちゃんとすずかちゃんがいます。
でも、一番真ん中の席は空いたまま。
いつも幸司君が座っていた席は、誰も座っていないのです。
「おはよう……アリサちゃん、すずかちゃん」
なのははできる限りの笑顔を浮かべて、アリサちゃんとすずかちゃんに朝の挨拶をしました。
すると、アリサちゃんもすずかちゃんも、泣きながらなのはに抱きついてきて、震えた声で「無理して笑わなくていい」と言われました。
そんなに酷い顔をしているのだろうか?
なのはは気になって、バスの窓ガラスに映る、自分の顔を見てみました……。
そこに映った顔は、確かに酷いものでした。
ちゃんと笑えたと思っていたのに、唇は引きつっていて、眉間にはシワがよっています。
目からは涙が流れ、また、笑おうとすると、ポタポタと涙が落ちていきます。
どうやらなのはは、幸司君がいないと、笑うことすらままならないようです。
でもそれは、アリサちゃんもすずかちゃんも同じ事…
……だって、なのは達は幸司君が好きだから……。
無愛想だけど優しくて、なのは達が困っているときは、面倒くさそうにしながらも真剣に話しを聞いてくれる。
なのはがアリサちゃんやすずかちゃんと些細な事で喧嘩したときは、無理矢理にでも仲直りさせてました。
怪我をして痛かった時は、おんぶして家まで運んでくれた。なのはが寂しくて泣いていた時はいつも一緒にいてくれた。国語が分からないって泣きついた時、わかるまで一緒に勉強してくれた………。
そんな、優しくて、カッコ良くて、時にはカッコ悪い幸司君の事が大好きだから……今、こんなにも苦しいのです
「……幸司君……あいたいよぉ……」
ふと、なのはの口からそんな言葉が零れます。
それを引きがねに、とめどなく流れてくる感情…。
何で死んじゃったの?何でいなくなるの?何で会いに来てくれないの?何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何でなんでなんでなんでナンデナンデナンデ……………?
こんなに幸司君の事を思っても、幸司君は会いに来てくれない………。
会えないなんて事はわかってる……。だってなのは達の目の前で死んじゃったんだから……。
それでも、幸司君はもしかしたら、どこかで生きてるんじゃないか?と思わずにはいられないの…。
だって、そう思わないと、なのはの心は完全に壊れてしまいそうだから……。
学校の授業の最中も、なのははずっと幸司君のことを考えていて、全然集中できません……。
すずかちゃんもアリサちゃんも、なんだかぼーっとしている………。
いつもならここで、居眠りしていたり、足をぶらぶらさせている幸司君が注意されて、問題を当てられて、何でもないように解くころなのだが、やっぱり幸司君の席を見ても、誰もいない……。
周りのクラスメイトの子も、先生も、なんだか物足りないような顔をしている……。
やっぱり、それだけ幸司君が目立ってたって事なんだろうなぁー………
幸司君がいない寂しさを紛らわそうと、色んな事を試しました。
幸司君の座ってた席に座ってみたり、幸司君の席で寝てみたり、いつも一緒にお弁当食べていた屋上に行ってみたり…………。
でも、そんな事しても寂しさは紛れる所か、楽しかった記憶が蘇り、余計に悲しくなりました。
アリサちゃん達も、なのはと同じ事をしていたみたいです
学校が終わって、家に帰りました。
なのはは自分の部屋にランドセルを放ると、すぐに家を飛び出して、幸司君の家に向かいます。
鍵は幸いにも、開いていたので中にお邪魔する事にします
「幸司君ー!遊びに来たよー!!」
こうやって叫べば、いつもなら
「ちょ!?なにいきなり入ってきてんの!? 俺、遊ぶ約束なんかしてないぞ!?ていうかどうやって入ってきたの!?」
って幸司君がきて、なのはが鍵あいてたよって言うと
「あぁ……鍵閉め忘れるとか…何やってんの俺…」
って幸司君は呆れたように額をおさえますが、なのはを追い出すことはなく、そのままリビングに連れて行って一緒にゲームをしてくれます。
でも、やっぱり幸司君の声は聞こえてこず、バタバタと慌てて走ってくるような音も聞こえません
なのははそのまま、いつもゲームをしていたリビングまで歩いていきます。
リビングに近づくと、ゲームの音が聞こえてきます。
なのはは、驚いてリビングに走って飛び込みます。
「あれ……?なのはじゃない……なのはも……ゲームする?」
「なのはちゃんも……来たんだ……一緒にゲームしよ?」
「……アリサちゃん……すずかちゃん……?」
リビングにいたのは、幸司君じゃなく、アリサちゃんとすずかちゃんでした。
なのはは何でゲームなんかしてるの?と聞くと、何でも幸司君のゲームのスコアを抜かせば、負けず嫌いな幸司君がゲームしに戻ってくるだろう、との事です。
当然、そんな事しても幸司君がゲームしにくる訳がない。
それでも、なのは達はもしかしたら……と思いゲームを始めました。
皆で交代でコントローラーを回し、幸司君のスコアをどんどん抜かしていきます。
でも、思ったより時間がかかり、幸司君のスコアを4つ程抜かした頃には、いつの間にか6時を過ぎてしまいました。
なのは達は一度そこで帰り、また明日ここで集合する事にしました。
それから、毎日学校から帰ると、直ぐになのは達は幸司君の家に行き、休みの日はずっと幸司君の家でゲームをしていました。
そして、そんな時間が次々と過ぎ、ちょうど三週間たった時、ようやく、幸司君のスコアをすべて抜かす事ができました………。
でも、思った通り、やっぱり幸司君は出てきません
「あはは……やっぱり……出てこないわよね…そりゃ………」
「そう……だね……」
「にゃはは……疲れたの……」
なのは達はゲームをし終わると、疲れきってそのままリビングの床に寝そべり、ゆっくり目を閉じて行きます……。
流石になのは達も眠くなり……そのまま睡魔に身を任せます……
『まったく、お前ら人の家で好き勝手ゲームやりやがって……あーあー……スコア全部ぬかされちまったなー……ていうか、そんな所で寝ると、風邪引くぞ?』
すると、なのは達に、こんな声が聞こえてきました。
聞き間違える筈もない、大好きな幸司君の声が
「「「幸司(君)!?」」」
なのは達は飛び起き、幸司君を探そうと、周りを見渡します。
でも、幸司君は見つからず、声だけが新しく聞こえてきます
『まぁ……残念ながら俺は死んじまった訳だ。それは仕方ないって事で割り切ってくれ、俺だって死にたくは無かったが……でも、お前たちを助けられただけよしとするか』
「いいわけないじゃない!!」
「そうだよ!!幸司君が死んでいいわけない!!」
「ほんとだよ!!そんな事言うなら帰ってきてよぉ!!」
幸司君のそんな言葉に、アリサちゃんとすずかちゃんは強くそう反論します。
なのはも幸司君に大きな声で怒鳴ります。
すると、幸司君は申しわけなさそうに頭をかきながら姿を現し、話しを続けます
『なのは……死んじまったら人は帰ってこれないんだ………だから皆、親しい人が死んじゃうと悲しいんだ』
「そんなの……わかってる……!わかってるけど………それでも!!」
そんな事、幸司君にいわれなくてもわかってる…。
帰ってこれないってわかってるからこそ、こんなに悲しいんだ
『ごめん、皆……もう話せる時間はあんまり無いんだ……だから、俺の最後の言葉……聞いてくれるか……?これだけは……伝えておきたいんだ』
「なによ……伝えたい事って……早くいいなさいよ」
大きく目を腫らしたアリサちゃんが、幸司君を睨みつけ、ぶっきらぼうにそういいます
『……お前ら……大好きだったよ……ありがとな』
「「「っ!!」」」
幸司君はそれだけいうと、ゆっくり消えていき、最後は笑顔のままいなくなりました。
その場には、なのはとすずかちゃんとアリサちゃんだけが、残されました……。
なんだか視界が滲んで見えにくいの……
「ううっ……私も大好きだったわよ!このバカァァァァ!!!」
アリサちゃんはその場に膝をつき、大声を上げて泣き出します。アリサちゃんは体の水分が無くなっちゃうんじゃ、ないかと思うほどの涙を流します
「いいたい事だけ……いって……逃げるなんて……幸司君……ずるいよ………!!」
すずかちゃんは、歯を食いしばって声をおさえて、ポロポロと沢山の涙を零します。
アリサちゃんと同様に体の水分が無くなっちゃうんじゃ、ないかと思うほどに
「幸司…君……!何で!?何でなの!!?」
なのはも限界でした。自分の目が見えなくなるほど、沢山の涙を流します。
幸司君の家には数十分もの間、なのは達の泣き声が響きわたりました
しばらく泣き続け、大分なのはの心は落ち着きました……でも……それでも……
……やっぱり世界はモノクロのままなのです
IFストーリー Fin