トゥインクルシリーズにおいて、ウマ娘は単なるアスリートではなく、アイドルとしての側面も持ち合わせている。
熱いレース展開を求めて会場に足を運ぶファンもいれば、レース後の華やかなステージパフォーマンスを目当てにするファンも少なくない。
推しウマ娘が誰よりも早くゴールラインを駆け抜ける瞬間に熱狂する人もいれば、推しがセンターで歌い踊る姿のために応援で背を押そうとする人もいるのだ。
そして、興奮冷めやらぬ足取りでレース場を後にし、彼女たちの雄姿を肴に酒を酌み交わす――そんな光景も珍しくはない。
しかし、トゥインクルシリーズの関係者、特にトレーナーたちの間では、ウマ娘をアスリートとして捉える傾向が強いのは事実だろう。
さて、私が今、心の底から切実に願っていることはただ一つ。
それは、愛すべきウマ娘ちゃんについて、大いに語りたいということだ。
容姿、性格、ふとした瞬間の仕草、そういった彼女たちの魅力的な側面について、余すところなく語り合いたいのだ。
頭空っぽにしてウマ娘可愛いよねトークをしたいのだ。
もちろん、走りのフォームや、そこから読み取れる長所や短所といった分析も、トレーナーとしては非常に参考になるし、感謝こそすれど不満はない。
違う、そうじゃない。
語りたいのはタイムを出すための美しい走行ラインについてじゃなくて、彼女たち自身の美しいボディラインについてなのだ。
あと、これは私自身にも少し非があったかもしれないと反省しているのだが、他のウマ娘の容姿などについての話題になった時、どうか拗ねないでほしい。
ウマミミを絞ってたら、どんな表情をしていようとも機嫌が悪いことはすぐにわかる。
おそらく本人はさりげないアピールだと思っているのだろうが、『私の方がかわいい』という無言の主張は、あまりにも思春期っぽくて、どうしても生暖かい目で見守ってしまう。
それとなくこちらをチラチラと窺いながら、容姿の好みを探り入れてくるのも、正直なところ困ってしまう。
裏表なしに、あなたがた自身の好みでまとめてもらうのが一番いいと思います。
みんなちがって、みんないい。
前世の感性がまだ色濃く残っているせいか、どんなクソダサ私服でも割と受け入れてしまうぞ、私は。
それに、私が不用意に口にした何かが原因で、翌日、知り合いのウマ娘がみな同じ髪型になってしまう、なんて事態も想像できなくはない。
ポニーテール萌えと言える程度には好きだけど、もしもみんながいきなりポニーテールになったら、それはちょっと…いや、かなり怖い。
まあ、もちろん、そういった話題が全くできないというわけではない…と思う。
できないわけではないが、相手と話題の対象を慎重に選ぶ必要はあるだろう。
ユキノビジンとシチーさについて、それぞれの個性や魅力について語り合うことは、たぶん問題なくできるはずだ。
テイオーとカイチョーについて語ることも、おそらく可能だろう。
しかしその場合は、一方的にルドルフの卓越した点をマシンガンのように畳み掛けられ、私がただただ圧倒される、という結末になりそうな予感がする。
キタサトコンビについても、テイオーのケースと大差ない展開になりそうだ。
そうなると、必然的に行き着くところは一つ、ということになる。
私に割り当てられたトレーナー室。
まだチームはおろか、担当ウマ娘もいないため、一番小さいサイズの部屋ではあるけれど、それでも業務用のデスクと応接セット、奥には仮眠用の簡易ベッドまで備え付けられており、一人で使うには十分すぎる広さだ。
「あの、トレーナーさん! あたし、落とし物を届けに来たんですけど…!」
トレーナー室の扉を、どこか遠慮がちに開けたのは、アグネスの比較的まともな方!アグネスデジタルだ!
いつものように、他の生徒をストー……熱心に観察していたデジタルの近くに、私がそっと手帳を置いておいたのだ。
「わざわざありがとう。アグネスデジタルさんでよかったかな?」
まあ、顔も名前も完璧に把握しているけれど。
「これ、桐生院さんのものですよねぇ…?どうぞ!つ、つかぬ事をお尋ねしますがっ、その手帳に挟まってた写真のウマ娘ちゃんはいったいどなたですかなっ!?いや、あたしの目がおかしくなってなければですね、トレセン学園に通うウマ娘ちゃんにちょー馴染みのあるお方な気がするんですがぁ…!幼いころの写真なようですしぃ、今の姿からは想像もつかないお姿なんですがぁ、その滲み出るオーラというか神威というか…!盗み見たわけじゃないんですよぉ! つい目に入っちゃったというかぁ、誰の落とし物か調べるためには致し方なしというかぁ、いやその、大変貴重なものを見せていただいて…! あ、ありがたや~!!」
フィーッシュ!!
餌はライオン丸時代のルナちゃんとシリウスが取っ組み合いをしている、貴重な瞬間を捉えた写真である。
シンボリ家に遊びに行っていた記憶はあるけど、こんなシーンは記憶にない。
おそらく、世界がひっくり返った際の辻褄合わせとして、新たに生まれたものなのだろう。
「写真については、ここだけの話にしてくれると助かるよ。お礼というわけじゃないけど、よかったらお茶でも飲んでいかない?」
「あ、いえ大したことじゃありませんので。お気遣い…」
…気付いてしまったね。
今日は偶然にも、昔のアルバムの写真を整理していたのだ。
偶然だぞ。
「ちょっと散らかっているけれど、どこでも好きなところに座って。まだ担当もいないから、見られて困るようなものもないし、もし何か興味を引くものがあったら、遠慮なく自由に見ていって構わないよ」
「えっ…は?…ひょえっ…あわ、あわわわわ!!」
デジたん、よだれ、よだれ出てるから。
「こ、こんな貴重なものを目にしちゃっていいんですかぁっ!?これって代々受け継がれてる家宝とかそういうアレでしょう!いや国宝?トレーナーさん、どれほどの徳を積んできたんですかっ!?こんなの、人生一回で積める徳と釣り合いませんぞ!もしやここは天国なんじゃ…?ふひっ」
紅茶を用意してきたけれど、完全に自分の世界に入り込んでいるようだ。
完全にウマ娘キメた目してますわ。
あっ、おちた。
「…はっ!?あたしはいったい何を。とんでもなく幸せな夢を見ていたような…うぇ!?」
鼻血を出して倒れたデジたんを、現在、膝枕で介抱中である。
「ああ、よかった、気が付いた?鼻血を出して気を失っていたから、本当にびっくりしたよ」
「え、あ、は、ご心配おかけ…え、あ」
うーん、髪の毛がサラサラとしていて心地よい。
デジたんは、推し活のために見苦しくならない程度の、容姿への気遣いというイメージだったけれど、こうして間近で見ると、なかなかどうして、美しい。
本当に、神に愛された種族なのだなぁ、ウマ娘は。
「も、もう大丈夫ですんで!これ以上お世話になるといろいろな意味で危険が危ないというかなんというか!」
「そう?でも、鼻血が完全に止まるまでは、ゆっくりしていった方がいいよ。鼻にティッシュを詰めたまま帰らせるのは、さすがに忍びないし」
デジたんの体をゆっくりと起こし、座らせる。
だいぶ落ち着きを取り戻してきたように見える。
「よしっ!デジたん完全復活です!つきましてはアルバムをもう一度見せてもらいたいなぁーなんてっ」
「えぇ…。キミもたいがい懲りないね。でも今日はだめ。また気を失われても困るので」
「えー…しょんなぁ…」
ウマミミと尻尾が、目に見えてしおれていく。
「でも、アグネスデジタルさんが、私のちょっとした相談に乗ってくれるなら、また見せてあげるのも、やぶさかではないよ」
「デジたんになにをさせようとしてるんです?デジたんは極めて普通のウマ娘であって、お金もあんまり持ってないですし…ちんちくりんですし。…言ってて悲しくなってきました」
ええー、自分で言って落ち込むんかい。
「…それは置いといて真面目に何をすればいいんですか?特に交換条件とかなくてもデジたんにできることならお手伝いしますけど。トレーナーさんのお手伝いは、まわりまわってウマ娘ちゃんに行きつきますからね。情けはヒトのためならず。これも一種の推し活です!」
「あー、ウマ娘ちゃんは関係あるようでないかも。トレーナーとして、というよりは、一人のファンとしての視点で、ウマ娘ちゃんの話を一緒にしたいなと思った次第で。そういう話を気兼ねなくできる人って、トレセン学園にはあんまりいないんだ」
「ならば!今この時からあたしたちはウマ娘ちゃんを愛でる同志ですね!気軽にデジたんとお呼びください。でもそれはそれとしてアルバムは見せてください、うひひ」
「じゃあこちらも実でいいよ。トレーナー桐生院実とウマ娘アグネスデジタルじゃなくて、ただの実とデジたんでいこう」
ピシ ガシ グッ グッ
「あ、でも周りに他のウマ娘ちゃんがいないときだけでお願いしますね。ウマ娘ちゃんを推すためのこの命、無駄に散らせるワケにはいかないので」
「アッハイ」
そのあと、しばらくの間、あまり刺激の強すぎないネタを中心に、ウマ娘ちゃんについてじっくりと語り合ったのであった。
「そろそろいい時間だから、ここを閉めて寮に戻ろうか。久々に頭を空っぽにして、楽しい話ができたよ」
「デジたんもいろいろ捗るネタを仕入れられて幸せです。推しへの知見が深まりました!すべてはウマ娘ちゃんのため!」
「じゃあ、トレーナー寮こっちだから」
「次までにいろいろ徳を積んでおきましょう!そろそろ選抜レースも始まりますからね!ネタの供給が尽きない時期ですぞ!」
最後に軽くグータッチをして別れる。
こういう、友達感覚でくだらない話で盛り上がれる相手というのは、本当に貴重な存在だ。
今日は、とても有意義な一日だった。
「う!麗しき姿、それぞれの個性~」
「ま!まっすぐな思い、夢に向かって~」
大変貴重なウマ娘ちゃんの写真を見れてデジたん幸せですっ!
思わずあいうえお作文を作りながらスキップしちゃいます!
「タキオンさーん、ただいまです」
「おやデジタルくん、おかえり。食事は済ませてきたのかい?」
タキオンさんがこの時間部屋にいるの珍しいですねぇ。
二日に一回は消灯時間までに返ってきませんし、残りの日はたいてい研究室に泊まり込んでいるんですが。
「まだですよ。これから食堂に行く予定です。タキオンさんも一緒にどうですか?」
「うーん、まだちょっと手が離せなくてね。よければ帰りに何かとってきてくれると助かるね」
「引き受けました!では行ってきます!」
走らず急いで歩いていきまっしょい!
ピッ
「デジタルくんはいま食堂に向かったよ、これであの研究のために出資してくれるということでよいかい?」
『……』
「それならいいんだ。できればお手柔らかに頼むよ。…それはデジタルくんの態度次第?
「わかった、詳しい話は明日に」
ピッ
「ごめんよ、デジタルくん…権力には、逆らえないんだ…」
ふんふんふーん、今日のご飯は何にしましょうかね~。
特にカロリー制限もしていないですし、ちょっと豪華に行きましょうかね~。
いつも通りの食堂を見渡せる壁際のテーブルを確保!
ウマ娘ちゃんを眺めながらのご飯は格別ですな。
「相席してもいいだろうか?」
おや、珍しいですねぇ。
ウマ娘ちゃんのお願いを断る選択肢なんて、デジたんの辞書にはないですけどね。
「もちろんいいですとも!」
「わたくしたちもよろしいですか?」
「もちろんいいですとも!!」
ふと顔を上げてみると思わず顔をそむけてしまいそうになる輝き!
なんでこんなにたくさんのウマ娘ちゃんがあたしのまわりに!?
どのウマ娘ちゃんもこっち向いてる!?
ひゃあああ~、尊い、死ぬぅ…。
一日の最後になんたる幸運…っ!!
ひょええええ~~~~。
おはようございます!デジたんです!
昨日の夜の記憶があいまいなのですが、思い出せないということはたいして大事なことではなかったのでしょう。
今日もしっかり徳を積んでまいりましょう~!
ウマ娘ちゃんがあたしを待っている!!