貞操観念逆転世界の転生トレーナー   作:潮見犬太郎

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秘密のデジちゃんねる

日曜日の夕方。

 

トレセン学園のトレーニングコースが一番静かになる時間である。

 

その週で一番大きなレースは基本的に日曜日なので、レース場に足を運んだり、中継をチェックしたりでトレーニングを早めに切り上げるウマ娘が多いのだ。

 

もちろん休養日にして、お出かけしている子も多い。

 

日本各地からのレースの中継も終わり、日が沈むころ、週に一度のお楽しみの時間である。

 

お茶請けを用意して、お茶の用意もしておく。

 

コンコンコンコン

 

トレーナー室の扉からノックの音、連続四回。

 

到着の合図である。

 

「…ウマ娘ちゃんは」

 

「超サイコー」

 

合言葉を確認して扉を開けると、隙間からするっと小柄なウマ娘が滑り込んでくる。

 

「時間通りにデジたん到着!です。今週もお仕事お疲れさまでした」

 

「デジたんも一週間お疲れ様。今お茶を淹れてくるからちょっと待っててね」

 

紆余曲折あって、デジたんとのウマ娘トークは週に一回、日曜日の夕方から、私のトレーナー室でということになった。

 

私も仕事はおろそかにできないし、デジたんのトレーニングの足を引っ張るのはトレーナー失格だろう。

 

それに加えて他のウマ娘にもあまり聞かせたくもないので、私のトレーナー室に落ち着いた形だ。

 

合言葉はただのノリです。

 

前回妙に話が盛り上がって決めたけど、次もやるかは未定。

 

「今日のお茶請けは人参チップスですかぁ。デジたんもウマ娘ちゃんの端くれ、この手のものにはうるさいですよ。学園で手に入るものは一通り食べましたからねっ。どこのものかパッとあてて差し上げましょう!」

 

細い指で一枚の人参チップスをつまみ、じっくりと見つめ、小さな鼻をひくつかせた後口に含む。

 

「ん~。んん?これどこで買ってきたんですかぁ?少なくとも学園の購買で売っているものではないですよねぇ?」

 

ウマ娘ってすごい。

 

「正解。本当にわかるんだ。それ私が作ったものなんだよね」

 

「ひょぇっ!?て、手作りですとぉ!?男の人の手作り…ひょわっ…あ、あの…いくらお支払いすればよろしいでしょうか!?なにとぞ、なにとぞデジたん一人だけでご勘弁を…!家族は、家族だけはなにとぞ…っ!」

 

「ノンフライなのでカロリーもあまり気にしなくて大丈夫。たくさん作ったからおかわりもあるし、持ち帰りもあるぞ」

 

小分けにしてキッチンペーパーでくるんだ人参チップスを入れたタッパーウェアをいくつか机に乗せる。

 

「あ、ありがたや~!それはそれとして、今日はデジたんもちょっとしたものを持ってきたんですっ。今組み立てますからちょっと待っててくださいね~」

 

大げさに頭を下げた格好から、ぴょいっと体を起こし、後ろを向いて、何やらごそごそやり始めた。

 

「じゃーん!これまでみたいに思いつくまま気の向くまま、ウマ娘ちゃんについて語り合うというのも楽しいんですけどねぇ。ちょっと趣向を変えてみるのも一興かなーって。というわけで、この中に色々とお題を入れましたっ!この中から一枚ずつ引いて、それをテーマにお話しするのはどうかなーって!」

 

箱の上面には手が入る穴が開いていて、発走ゲートのイラストが描いてある。

 

なかなか芸が細かいな。

 

「ちなみにどんなお題が入ってるの?」

 

「それは引いてみてのお楽しみということで!」

 

箱に手を突っ込んでみると結構な量の紙が入っているのがわかる。

 

これ全部デジたんが考えたのすごいな。

 

さて、何が出るかな~。

 

 

同時刻、栗東寮・美穂寮の娯楽室。

 

ウマ娘たちが一つのテーブルを囲んで身を乗り出している。

 

『秘密のデジちゃんねる』の開始待ちだ。

 

いや、開始当初はごく少数の名家ウマ娘だけで独占されていた秘密だった。

 

しかし、一部のウマ娘が毎週決まった時間に姿を消し、みなその時間が近づくにつれ、明らかにそわそわしているのだ。

 

誰もが思った。

 

『なにかあるな、コレ』

 

その結果、多数のウマ娘たちによる大捜査網が敷かれ、事態は明るみとなった。

 

多数のウマ娘たちによる一触即発の事態である。

 

大規模な衝突が起こるかと思われた!

 

そこで事態を聞きつけた両寮長が介入。

 

いくつかのルールを設けたうえで広くウマ娘たちに共有される運びとなったのだ。

 

もちろん寮長も、問題が起こらないように毎回監督することになった。

 

寮長による仲裁が終わったタイミングで実のもとから戻ってきたアグネスデジタルは、集まっていたウマ娘たちの視線を一身に受けて白目をむいた。

 

ちなみに、マヤノトップガンは誰よりも早く『わかっちゃった』して放送2回目から早々に参加していたりする。

 

 

自分がおバカな話をしている裏でこんなことになっていることを、実はもちろん知らない。

 

でも実は同志デジたんとちょっとおバカなウマ娘トークができて幸せ、ウマ娘ちゃんたちは素に近い実の情報を知れて幸せ。

 

デジたんは他のウマ娘公認で男性トレーナーと一対一でウマ娘ちゃんトークができる、その話を聞いたウマ娘ちゃんの様子も知れる。

 

これぞ三方良し、誰も不幸にならない優しい世界である。

 

デジたんの取り分大きくねぇか…?

 

 

テーブルの上のタブレットに手を掛けつつ、メジロマックイーンが周りをぐるっと見渡す。

 

「それではいつものルール確認ですわ。ひとつ、録音などの記録は一切禁止」

 

「「「記録、一切禁止!」」」

 

「ふたつ、聞いたことは、ここ以外ではしゃべらない」

 

「「「ここ以外ではしゃべらない!」」」

 

「みっつ、この放送はウマ娘だけの秘密」

 

「「「ウマ娘だけの秘密!」」」

 

「最後に、アグネスデジタルさんへの無茶振り禁止」

 

「「「デジたんに無茶振りしない!」」」

 

「それでは繋ぎますわ」

 

 

「なにがでるかな、なにがでるかな、ちゃららちゃんちゃん、ちゃらららん」

 

ごそごそと中に入っている紙の中から一枚を選び出し、デジたんに渡す。

 

「えーっと、テーマは容姿で選ぶ推しウマ娘ですっ!ウマ娘ちゃんは甲乙つけがたく、みな素晴らしいですが、人によって推しが変わるのも事実ですからねぇ」

 

なんていうか前世の修学旅行を思い出すノリですな。

 

「じゃあとりあえず3人ぐらい上げることにしよう」

 

 

ゲートが開く前のように、空気が張り詰める。

 

次に聞こえてくるであろう一言にみなが耳をそばだてている。

 

『じゃあ一人目!タイキシャトル!』

 

「ワォ、ワタシですか?ワタシもトレーナーさんのことダイスキデース!イエース!ア~イム、ウィナー!」

 

片腕を突き上げながら大きな体を跳ねさせる。

 

「ちょっとタイキ、寄りかかってこないでよ、重い」

 

悲喜こもごも、でもまだ一人目。

 

「まだ二人残ってるし」

 

『なるほど~。デジたんはタイキさんのポニーテールが好きですねぇ。一つ一つの動きが大きいのでポンポンはねて、つい目で追っちゃいます!』

 

『次、二人目!スーパークリーク!』

 

「まぁ…どうしましょう。うふふ」

 

「クリーク、あかん、なんか漏れ出しとるで。それ、外で出したらあかんやつやんか!ウチを抱くな!アタマ撫でんなや!」

 

結構な数のウマ娘が胸に手を添えて考え込んでますね。

 

『…デジたん三人目わかっちゃった気がします。ちょっとメモに書いて伏せておくので後で答え合わせしましょう』

 

ウマ娘たちの目がタブレットに集まる。

 

最後の三人目、大丈夫、まだ希望はある…あるはずだ。

 

『三人目!メイショウドトウ!』

 

みんなが思った『救いはないのですか〜?』。

 

「わ、私ですかぁ~!?」

 

周囲のウマ娘から集まる『やっぱり』といった視線。

 

「はーっはっはっはっは!それでこそボクのライバルだ!」

 

「…あ、ありがとうございますっ。これからはできるだけ胸を張って生きていきますぅぅ〜!」

 

「は?…胸を…張って…?…これ以上に?」

 

思わず素になるテイエムオペラオー。

 

『…そこのメモ、めくってください。…いやその、なぜわかったみたいな顔されても…もしかして、デジたん煽られてます?』

 

『同志に嘘はつかないって決めてるから…』

 

『…ぐ、あぁ~!!!露骨すぎて怒ろうにも、そのセリフを喜んでるあたしがいる!!』

 

『まあ、落ち着けデジたん。たしかに私は容姿という面ではいろいろと大きい子が好きだ。ただ、それがすなわち小さい子が嫌いということにはならないから』

 

『とりあえず最後まで聞きましょう』

 

『レースを想像してくれ。ゴール前、もつれるようになだれ込んで長い写真判定。そこまで差がないなら二人とも勝ちウマ娘でいんじゃないかと思っても、ごくごくわずかな差でも、あれば着順が決められるだろう?』

 

『なるほどぉ。大きさではごくごくわずかな差しかついていないと。そういうことですかな?』

 

『その通り!具体的には数センチぐらい?ハナ差?』

 

ウマ娘たちの目に光が戻る…ちょろいぞ、それでいいのか!?

 

「…はーっはっはっは!その程度の差、ボクにとってはちょうどいいハンディキャップさ!」

 

復活したオペラオーがドヤ顔で胸を張る。

 

ドトウもドヤ顔で胸を張る。

 

「ハナ差圧勝ですぅ~!…お、オペラオーさん、つねらないでください、いひゃい、いひゃいですぅぅ~!」

 

ドトウに襲い掛かるオペラオー。

 

「このっ…ケツみてぇな口しやがって…」

 

オペラオーを中心としたウマ娘にいろんなところをもみくちゃにされるメイショウドトウ。

 

『本当にちょっとの差だよ!走っているウマ娘も差し切ったと勘違いして、ガッツポーズからのウィニングランしちゃうぐらいの差だよ!』

 

「ぐふっ…!」

 

別世界の魂の痛みに、膝から崩れ落ちるスペシャルウィーク。

 

「す、スぺちゃん?大丈夫?」

 

『いやそれに、胸だけで決めているわけじゃないからね』

 

『お尻もおっきい方が好きなんです?』

 

『…』

 

『いや黙らないでくださいよぉ!』

 

「グラスよかっ…グエッ!」

 

「…エル?」

 

こっちは…まあいつものことかもしれない。

 

『じゃあ…いろいろと小さいデジたんはどうなんです?』

 

『ん~デジたんはデジたんだからなぁ。唯一無二すぎて同じ物差しに乗せられないかも』

 

『…デジたんは寛大ですからねぇ。新しいお茶を淹れてくれたら許してあげましょう!』

 

ウマ娘ちゃんたちのハイライトが消える…ッ。

 

あーもうめちゃくちゃだよ。

 

 

『お茶ありがとうございます。ちょっと冷静になりました』

 

デジたん復活!復活!

 

ウマ娘ちゃんたちもだいぶ復活したぞ。

 

ドトウはぶにぶにされた鼻を押さえてちょっと涙目だ。

 

『じゃあ次のお題いこうか。なにがでるかな、なにがでるかな~』

 

『えーっと、なになに?一緒にご飯を食べに行きたいウマ娘ちゃん?』

 

『たくさん食べる子を眺めてるのも楽しいし、食の細い子に食べさせたいって言うのもあるなぁ』

 

『確かにぃ。幅広いシチュがありますねぇ。じゃあとりあえずウマ娘ちゃんの名前と理由をセットでいきましょうか!』

 

『パッと思いついたのはタマモクロスさんかな』

 

「はぇ?ウチか?」

 

『粉もんをわいわいなんやかんや言いながら、一緒に作って一緒に食べる。そういうのいいよね』

 

『タマモさんはなんだかんだ言いながら、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるタイプだとデジたんにらんでますっ。なんていうかおかん気質?』

 

『自分で食べるのを後回しにして、みんなの分を焼き続けてそう』

 

「まぁ、粉もんの腕ならだれにも負ける気せえへんしな。せっかくやし、うまいもん食うてほしいねん。そう考えるん、当たり前ちゃうか?」

 

「タマちゃん…」

 

前のお題から継続して、膝の上でタマモクロスを抱え続けているスーパークリーク。

 

クリークの母性の暴走を一身に引き受けるタマモクロスの明日はどっちだ。

 

「クリーク!ええ加減撫でるのやめぇや、圧が強いねん!ハゲてまうわ!」

 

『あとは誰かな。ヒシアケボノさんと一緒にお鍋をつつくのも惹かれるなぁ。たくさん食べる子だと…ライスシャワーさんとか?あのちっちゃい体に収まっちゃうのはウマ娘の神秘だよね』

 

「みんなで食べるお鍋はとってもボーノだよ!誘ってくれたら本気出しちゃう!ライスちゃんも一緒に食べようね」

 

「ライス本気で食べちゃっても大丈夫かな?いっぱいいっぱい食べちゃうよ?」

 

『ほっぺた膨らませてもぐもぐしているライスさん…はっ!?想像してちょっと意識飛んでましたっ。そういうイベントがあればぜひ教えてください、草葉の陰から見守りますんで!』

 

『そこは一緒に食べようよ、デジたん…』

 

『そんな…っ、デジたん昇天しちゃいますぞぉ!』

 

『草葉の陰とか言ってる時点で、すでに昇天してるんだよなあ…』

 

 

楽しい時間は過ぎるのも早い。

 

「残念ですけど、今日はこの辺でおしまいですねぇ。お題箱は置いてっていいですかな?中身のお題だけ持って帰りますっ」

 

「いいよ~場所は余っているからね。というかそんなことしなくても中は見ないって」

 

「次にはもっと面白いお題を練ってきますから、楽しみにしておいてくださいねぇ!」

 

ウマ娘ちゃんトークのためには努力を惜しまないその姿勢、私も見習わねば。

 

実が知る所ではないが、実際のところお題を考えているのはデジたん5割、他のウマ娘ちゃん5割。

 

お題に採用してもらうためのおねだり合戦で、デジたんの脳内フォルダはものすごい勢いで潤っていっているぞ。

 

なお、そのたびに意識を飛ばしているので、脳内フォルダは誰も取り出せないブラックボックス化している模様。

 

 

「タキオンさん、今戻りました~」

 

「やあやあデジタルくん、今日もお疲れ様。ちょうど紅茶を入れたところだったんだ。デジタルくんにも用意しよう」

 

「タキオンさんが手ずから淹れてくれるんですか!?ありがたや~」

 

部屋に紅茶の香りが漂う。

 

「どうだい?私の腕も捨てたもんじゃないだろう?…ああ、でもちょうどお茶請けを切らしているんだ。デジタルくんの方で何かあったりしないかな?」

 

鞄を体の後ろに隠し、スッ…と目をそらすアグネスデジタル。

 

その視線の先に回り込むアグネスタキオン。

 

「何かあったりしないかな?」

 

沈黙が部屋を包み込む。

 

「だめですよう…っ!これはデジたんがもらったものですっ。たとえタキオンさんといえども…っ!」

 

「えーっ!?そんなこといわないでくれよう、頼むよデジタルくぅん!」

 

「ひゃっ、タキオンさん顔が近い!アッアッアッ…!」

 

今日もトレセン学園は平和である。

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