指摘ありがとうございます。
ついでなんですが、なんかダンツフレームがストーカーっぽく読めてしまいますが、トレーナー側からの根回しとそのお礼です。
有名ウマ娘ばかりを見ていると、つい誰もがそうであるかのように勘違いしがちだが、実際にはメイクデビューを勝てるウマ娘よりも、勝てないウマ娘の方が多い。
かなりの数のウマ娘が、一度も勝利を経験できないままトレセン学園を去っていくのだ。
地方のトレセンに移籍してローカルシリーズで走り続ける子もいれば、転科してレースを走るウマ娘を支える道を選ぶ子もいる。
中央トレセン学園に入学できる時点で、その世代の『上澄み』と言っても過言ではないのだが、その中でもスポットライトを浴びて輝けるのは、ほんの一握りに過ぎない。
元となった競馬の世界でも、競走馬が一勝できる確率、いわゆる『勝ち上がり率』は3割程度だったはずだ。
数字としては知っていたが、ウマ娘という、ほぼヒトと変わらず意思疎通ができる相手のこととなると、その数字が途端に厳しいものに感じられるから不思議だ。
原作よりだいぶウマ娘に優しいこの世界であっても、ちょっと目を背けたくなるような現実は、確かに存在する。
もっとも、学歴としての中央トレセン学園卒は、ウマ娘社会では超エリートコースであり、前世の競走馬たちの境遇とは比べ物にならないほど恵まれているのは確かだが。
トレーナー室が並ぶ棟から少し離れた場所にあるトレーニングコース。
ここは、そういった『選ばれなかった』ウマ娘たちが集う場所の一つだ。
最初の選抜レースから数週間が経ち、夏の足音が近づいてくる頃。
このコースでは、チームも含め担当トレーナーがついていないウマ娘たちが、教官の監督のもとで汗を流している。
そう聞くと、雰囲気も重くなりがちかと思いきや、意外にもピリピリした空気はない。
ウマ娘という種族の特性なのか、走ること自体がストレス解消になっているようで、むしろ、きゃいきゃいと楽しげな声が飛び交っている。
まあ、その光景に百合百合しい華やかな空気と感じてしまうのは、この世界広しといえど、私くらいのものだろうが。
そして同時に、ここは新人トレーナーにとっての修業の場でもある。
前世には『相馬眼』なる言葉があったが、そういった眼力を養うには、やはり様々なウマ娘を見て経験を積むしかない。
これは学園側も推奨していることだ。
少数の教官で多数のウマ娘を指導するには、どうしても目が行き届かない部分が出てしまう。そこを新人トレーナーの手も借りてカバーするという側面もあるのだ。
それに、トレーナーに見られているという状況は、やはりウマ娘たちのモチベーション向上にも繋がるらしい。
教官に一言挨拶をしてから、コースをゆっくりと見て回る。
悪い癖がつかないよう、必要最低限のアドバイスも送る。
やはり、スカウトされて正式にチームに所属している子たちと比べると、走り方などに未熟な点が見受けられるが、それはつまり、教えがいがあるということでもある。
「実ちゃーん!今から走るからちょっと見ててー!」
「おー、わかったわかった。すぐ行くから待ってろ!あと、できればトレーナーと呼べ、トレーナーと!」
年齢が近いせいか、若干、いや、かなり?舐められている気がしないでもない。
まあ、親しみを込めてくれているのだと、前向きに捉えることにしよう。
走り終え、膝に手をつき肩で息をするウマ娘たち。その中で、一人だけ涼しい顔で佇んでいるウマ娘を見つけた。
セミロングの葦毛に、青いストライプのメンコ。
『ふつ~のゆるっとウマ娘』こと、ヒシミラクルである。
史実の彼女も、二桁の敗を喫する寸前まで苦戦していた時期がある。
ここにいても、確かにおかしくはない。
じっと見つめていると、ヒシミラクルもこちらに気づいた。
そして、きょろきょろと自分の後ろに誰かいないか確認する。
…反応がベタすぎる。
わたわたしているので、試しに手を振ってみる。
やはり、まず後ろを確認するヒシミラクル。
誰もいないのを確認してこちらを見て、再度後ろを確認し、またこちらを見る。
一体、何回繰り返す気だろうか。
この子は、なんというか、あまり欲のない、珍しいタイプのウマ娘だった記憶がある。
有名どころのウマ娘たちは、メタ的な視点で言えば物語の都合上、何らかの葛藤や逆境を抱えていることが多いが、それでも皆、トゥインクルシリーズで走りたいという強い意志は持っている。
だが、この子からはそれがあまり感じられないのだ。
自分に自信がないのとも少し違う。
まるで、中央トレセン学園に入学した時点で目標を達成してしまったかのような…例えるなら、大学入試で燃え尽きて、入学後に目的を見失ってしまうようなタイプに見える。
というか、学園への願書も親が出したと聞くし…。
スカウトに応じたのも、とことんおだてられ、乗せられた末に、ようやく…といった感じだったはずだ。
嘘みたいだろう。でもこの子は、史実ではGⅠを3つも勝っている。
しかもそのうち2つは、格式高い旧八大競走。
残り1つもグランプリだ。
菊花賞、天皇賞・春、宝塚記念。
なかなかにカワイクない勝ち鞍である。
「はい、お疲れさま。苦しくても、息が整うまではゆっくり歩き続けよう。ドリンクも一気に飲まないようにね」
そう声をかけながら、走り終えたウマ娘たちにドリンクを配り、俯いた顔を上げさせる。
「ヒシミラクルさんは…まだ余裕そうだね」
「えっ、そ、そんなことないですよ…? まあ、長くのんびり走るのは得意ですけど~。レースだとさっぱり勝てないんですけどね~」
スカウトされたウマ娘であっても、デビュー前のこの時期に行われる模擬レースは、長くてもマイルまでだ。
長距離を得意とする彼女には、短すぎるのだろう。
本格的にエンジンがかかる前に、ゴール板が来てしまう。
「…誰かから、スカウトの話とかはされていないの?」
「そんな! あるわけないじゃないですか~。だってわたし、模擬レースで掲示板にすら載ったことないんですよぉ? …よくよく考えたら、なんでわたし、ここにいるんでしょうねぇ?」
私が彼女のことをこれだけ知っているのは、前世の知識があるからだ。
普通に今の走りだけを見れば、レースの流れに乗れず、決め手となる脚も使えないウマ娘、としか評価されないだろう。
誰か、他のトレーナーに推薦してみるか?
いや、今の彼女には明確なアピールポイントがない。
無理に紹介しても、押し付ける形になってしまい、かえって良くないだろう。
この世界が、史実の競馬世界とは違うことは、この十数年で十分に理解している。
例えば、競走馬なら予後不良と診断されるような故障でも、ウマ娘の場合はレースへの復帰が不可能になる『競争能力喪失』程度で済むことが多い。
その点では、概ね良い変化だと思っている。
ただ同時に、史実ではあれほどの活躍をした彼女が、この世界ではトゥインクルシリーズに挑むことすらせずに終わってしまう…そんな未来もあり得るのだ。
それは、ちょっともったいなくないか?
…よし、決めた。
ちょっとスカウトしてみよう。
幸い、最初の選抜レースでのスカウト合戦からは既に漏れている。
他のトレーナーとの競合に気を使う必要もないし、もし彼女が断ったとしても、私が一度スカウトしたという事実が、今後の彼女への注目度を少しは上げるかもしれない。
そこで彼女の才能を見出すトレーナーが現れてくれれば、それはそれで良い結果だ。
「ヒシミラクルさんは、目標にしているレースとかはないの?」
「レース、ですかぁ…。うーん、函館記念とか見に行きたいですね~。温泉にゆっくり浸かって~、朝市でおいしいものいっぱい食べて~」
違う、そうじゃない。
完全に、自分が走るという可能性を除外していらっしゃる。
「トレーナーさん権限で、観戦旅行とかって何とかなったりしません~?レースを見るのも勉強になると思うんですよぉ~」
「はは…そこは、自分の力で頑張って行ってもらうしかないんじゃないかな…」
「スカウトも来ないウマ娘にそれを言うのはひどくないですか~。トレーナーさんがいないと、そもそもレースには出られないんですよ、知ってます~?あーあ、残念だなー、わたしにもトレーナーさんがいればなー、頑張っちゃうのになあー」
ほう…頑張っちゃうのか、そうか…。
「キミは、本気で頑張れば、きっとすごいウマ娘になれるだけの器を持っていると思うよ」
「えっ、いやいやいやいや。ちょっとした冗談ですって…!そんな器があったら、ここにいないと思いますけど…。あの、じりじり寄ってくるの、ちょっと怖いんですけどぉ…」
一歩後ろに下がろうとするヒシミラクルの手を取る。
「ヒシミラクル、ぜひキミをスカウトしたい」
「ちょっ、近い近い近い!ウマ娘なら他にもいっぱいいるじゃないですか~!わたしなんかでいいなら、他の子だっていいじゃないですか~!」
両手で彼女の手をしっかりと握り、ぐっと引き寄せようとする…が、全く動かない。
逆に、ウマ娘の力でこちらが引き寄せられそうになる。
「ヒシミラクルでいいんじゃない! ヒシミラクルがいいんだ!」
「だまされません、だまされませんよぉ!きっと、どこかからドッキリの看板を持った子が現れるんでしょう!?男の人っていつもそうですね…!ウマ娘のことなんだと思ってるんですか!?」
ちょっと待て、何かトラウマになるような経験でもあったのだろうか。
ヒシミラクルは必死に周りを見渡すが、当然、そんな子などいるはずもない。
周りのウマ娘たちは、むしろキラキラした目でこの状況を見守っているぞ。
「やめてー!やめてくださいー!わたしはふつ~に!平穏に!学園生活を送りたいだけなんです~!わ、わかりました、わかりましたから!いったん保留で!いったん保留でお願いします~!」
言うが早いか、ヒシミラクルは脱兎のごとく逃げ出した。
なかなか良い出足を持っているじゃないか。
332:名無しのウマ娘 ID:Diwh31Fbh
【動画.mp4】
333:名無しのウマ娘 ID:0MJaq7jwv
大胆なスカウトはトレーナーの特権
334:名無しのウマ娘 ID:MejiroMcQ
葦毛…おかしいですわね、私スカウトされた記憶がございませんわ
335:名無しのウマ娘 ID:Gold/Ship
>>334
アタシもねーぞ
336:名無しのウマ娘 ID:TamamoCrs
>>334
ウチもや
337:名無しのウマ娘 ID:0u0p6hiGN
ていうかマジで誰?
338:名無しのウマ娘 ID:4qeyc9yea
ヒシアマ姉さんの知り合い?
339:名無しのウマ娘 ID:KBpGdyeLw
これもうプロポーズだろ
340:名無しのウマ娘 ID:F4fZXz5bv
トレーナーは言葉選びが迂闊な人たち多いから…
341:名無しのウマ娘 ID:W2YQe/X74
リメンバー沖野T
リメンバー南坂T
342:名無しのウマ娘 ID:0QsZGxity
>>341
うっきうきしてトレーナー室行ったらサブトレ(奥さん)がお出迎えとか美人局でしょ
343:名無しのウマ娘 ID:QouGvTf/9
>>342
あれはクッソ笑った
344:名無しのウマ娘 ID:Fst+7U8s9
>>342
芝3000m
345:名無しのウマ娘 ID:8I21uems3
女性トレーナーでもキュン♥とくるのにこれは…
346:名無しのウマ娘 ID:KW2vMohVB
名前が入っちゃってるのが残念
347:名無しのウマ娘 ID:ERMAjuMEp
【音声.mp3】
348:名無しのウマ娘 ID:HGbdBBW4A
『キミでいいんじゃない!キミがいいんだ!』
349:名無しのウマ娘 ID:UFGmHek4x
>>347
仕事はえーよ
でもGJ!
350:名無しのウマ娘 ID:q/qKReMN+
そんなこと言われたら、もうびしょびしょですわ
351:名無しのウマ娘 ID:U2CVUklHV
ぴょい待ったなし!
352:名無しのウマ娘 ID:ZGzC/0kix
夜更かし確定(虹色)
353:名無しのウマ娘 ID:kD2tvlJxS
てか今スカウトされるってことは、まだ担当トレーナーついてない子ってことでしょ?
どういう基準?
354:名無しのウマ娘 ID:o/YZNsQ9u
うーん、わからん
桐生院トレーナーのはじめて(のスカウト)はヒシミラクル。
あんなに沢山のウマ娘がいる中で行われた熱烈なスカウト劇。
その噂は、ビッグレッドもびっくりのスピードで、あっという間に学園中に広まった。
「ミラ子先輩!どこもかしこもすごい噂になってるよ!」
「うう~、ダンツちゃん…。どうしてこんなことに~」
噂の爆心地であるヒシミラクルは、自室のベッドの上で布団を頭からすっぽりかぶり、完全防御体制をとっていた。
「でもすごいよミラ子先輩!わたしもあんなに情熱的なスカウト受けてみたい!」
「…そうだ! ダンツちゃん、代わりにスカウトされない~?」
「それはスカウトしてくれたトレーナーに失礼すぎるでしょ」
「うう~でもでも、なんでわたしなのかな~。自分で言うのもなんだけどぉ、他の子よりいいとこなんてないでしょ~」
ダンツフレームが食堂から持ってきてくれた夕食を、お行儀悪く布団にくるまったまま、もそもそと口に運ぶヒシミラクル。
「それはトレーナーに聞くしかないと思うけど。でもさ、桐生院トレーナーって小さいころからいろんなウマ娘を見てきてるはずじゃない?そんな中でミラ子先輩を選んだんだよ?きっとミラ子先輩には自分も気が付いていないすごいところがあるんだよ!」
「そうかな…」
「だってトレーナーの担当になりたい子っていっぱいいるし、トレーナーからすると選び放題だったわけでしょ?きっと重賞だって夢じゃないと思う!」
「そうかな…そうかも…」
「勝負服だって着れちゃうかもしれないよ?そうなったらもう一生自慢できちゃうよね」
「確かに…」
「GⅠウマ娘になっちゃったりしたら、もう一生安泰だよ!」
「毎日が日曜日…」
いやそこまでは言ってない。
バサッ!と布団を跳ねのけ、ヒシミラクルが勢いよく立ち上がる。
「わかったよダンツちゃん!わたし、ちょ~っとだけ頑張ってみる!」
「それでこそミラ子先輩!早速トレーナーさんに返事しに行こっ!」
「…いや、今日はもう遅いし、明日でいいんじゃないかなーって」
「大丈夫!まだ起きてるって。直接行くのが気が進まないならLANEで返事しよ?今繋いであげるから。…はい!」
「ダンツちゃん!?なんでトレーナーさんの連絡先知ってるの!?わわわっ!?」
後日、コンビ結成記念でミラ子と実はちょっといいホテルのスイーツバイキングに出かけたのだが、その道中で偶然ダンツフレームと出くわし、三人でテーブルを囲むことになったそうな。
偶然だぞ。