趣味はパティシエの両親に感化されお菓子作り、
特技といえば 、弾幕を避けるゲームがうまいくらいしかない。
それも友達がクリアできなかったステージを手伝えるレベル。
勉強を嫌悪しきっている訳では無いが、学校の授業ほど退屈なものはないだろう。
窓の向こうに広がっている空や木々を眺めて
心の洗濯をしているうちに6時間目の授業が終わった。
そうして今はお隣に家がある高3の太刀川先輩と下校中。
彼とは幼馴染であり、よく遊んでいたこともあって
以前はお互いを名前で呼び合う仲だったけれど、
中学生になってから恥ずかしくなって今は苗字呼びにしている。
今日も先輩と雑談しながら家に帰るはずだった。それが日常。
勉強の合間にお菓子の仕込みを手伝ったり、
友達と通話をしながらオンラインゲームをしたり……
そんな日々がいきなり終わるだなんて、私には想像もできなかった。
授業や本で知った「戦争」のような出来事。
夏の終わり、ひぐらしとカラスの合唱をかき消して唸ったサイレン。
それはあまりに唐突に、一瞬で、私の全てを奪ってしまった。
サイレンが夕暮れ時の空に鳴り響く。
『か、怪物が街を破壊しています!絶...に近づか……ように…ズドドドド...ピィィ』
明らかに異常な放送が聞こえ不安が募る。
突然のことに立ち竦んでいた私を太刀川先輩は引っ張ってくれた。
「何が起きているのかわかんねぇけど…ひとまず学校に戻るぞ」
差し出された手を掴み、私はその手を頼りにきた道を戻る。
しかし、突然アスファルトに影が落ちるのを見て足が止まった。
「あれが...怪物?!」
道を塞ぐ大きな機械のような物が目の前に現れ、恐怖で足がすくむ。
怪物はビームを発射しながら移動を始め、
辺りの家々がどんどん破壊されていく。
気前の良い駄菓子屋も、猫を飼っていたお姉さんのお家も、
あるはずの物はもはや原型を留めておらず、あるのは瓦礫だけになった。
建物が、人の未来が破壊され、辺りはすごくうるさいはずなのに、
私には何も聞こえなかった。自分の心音が身体中を揺らし、
まともに物事を考えられなかった。
私は叫びたい気持ちを必死に抑えて、自分の家に向かい始めた。
それは先輩が引っ張ってくれたのとは逆の方向。
もう何が起こっているのかわからなかった。
ただ家族が心配だと脳が警鐘を鳴らし続け、
家に帰りたいというその一心で走り出した。
「おい!」 太刀川先輩の制止する声も耳に入らず、
私は泣きながら走った。 煤けてしまったケーキ屋の看板をみつけ、
やっとの思いでお母さんを見つけたが、
その身体は涙でにじんだ視界でもわかるくらいボロボロに傷ついており、
苦しそうな表情を浮かべながら土煙と瓦礫に身をうずめながら眠っていた。
エプロンをつけているのを見るに、 きっと私のおやつを作っていてくれたのだろう。
顔色は絶望的に悪く、たぶんもう…
最悪の可能性が脳をよぎったその瞬間、
先輩が私に追いつき、 すぐにちょうど先輩くらいもある大きな瓦礫を取り除き始めた。
しかしどんなに力を込めてもそれが持ち上がることはなく、
逆にバランスが崩れて事態が悪化してしまった。
私もありったけの力を出すが、砂塵が巻き起こっただけ。
私の考えている以上に現実は非常だった。
気持ちの強さは関係ない…必死にやっても変わらないことだってある。
焦ってぐちゃぐちゃな気持ちの中で、どこか冷静な私がいた。
漫画で見るような最後の言葉なんて残すこともなく、
目の前にいたお母さんは瓦礫に完全に埋まってしまった。
お母さんの笑った顔と私の名前を呼ぶ声が頭を埋めつくす。
家族がいなくなる...この状況でそれを受け入れられるわけもなく、
全身から力が抜けてまた私は動けなくなってしまった。
「しっかりしろ!俺たちまで死んじまうぞ!」
先輩の大声が私を現実に引き戻す。
逃げなきゃと頭では思っていても 足はすくみ、立つことさえ出来なかった。
先輩は私に声をかけながら肩を揺さぶって必死に鼓舞してくれていると言うのに。
動かなきゃ。逃げなきゃ。
彼に顔を向けた直後、視界の端で怪物がビームを放っているのを捉える。
それは私たちのすぐ横を通り抜け、さっきまで私がいた場所をさらに抉った。
「やめてよ!そこっそこにはっ」
確かそこには、お母さんが埋まっていたはずだ。
心の中で精一杯のごめんなさいを言って、
震える足を強引に動かして、私たちは逃げた。
あちこちから人の叫び声が聞こえ、建物が破壊され尽くしてから気づく、
太刀川先輩の家族はどうなったのだろう、私を優先して助け、
私の家族を救おうとし、避難所まで私を連れてきてくれた。 じゃあ先輩は?
そこから先は考えられなかった。思考が渦を巻き、
ぐちゃぐちゃになった私の背中を、先輩は何も言わずにさする。
その優しさを向けられる度に、どんどん自己嫌悪が加速していった。
自分の馬鹿さ加減には本当に腹が立つ。
しかし悲しみの濁流はいとも簡単に感情を押し流して行った。
今日何度目になるだろう。 赤子のように泣きじゃくり、体を震わせたのは。
涙が枯れ果てた頃に聞こえた、ネイバーという存在、
それと自分自身を、 私は憎み、忌み嫌うようになった。
pixivで好評だったのでこちらにも掲載しました。
コピペするだけでは味気ないので細部を変更しています。
当時の私がウキウキで進めたという思い出があるので変更していません。
第1次大規模侵攻から原作本編の間は4年間と言われていますが都合で2年になりました。
よければ感想、評価等いただけると嬉しいです。