君のトラウマ旋空弧月   作:ミルクネコ

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自暴自棄、似て非なるもの

太刀川side

凛と一緒に寝たその日、

偶然だろうが、俺が見た夢はとても夢とは思えないほど鮮明に記憶に残っていた。

暗闇の中で座り込む2人の子供のような白と黄色の影、

そいつらの上から現れるピンク色の無数の手。

それらは黄色の影を撫で、白には何もしなかった。

手の中で1つ、赤い手が白い影に触れる。

その瞬間、片腕がなくなった感覚がした。

痛みはなく、不思議と注意を向ける気にもなれない。

赤い手がもう1本伸びる。

そして白い影にそれが触れた瞬間、まただ。ついに両腕が無くなった。

俺の頭を撫でようとしているのか、赤が視界を埋め尽くす。

不思議と恐怖は感じず、それどころか穏やかな気持ちでいたのだが...

『バダン!』という轟音が俺の目を覚まさせた。

薄く目を開けると、怒った顔の忍田さんが映り、俺は反射的に布団に身を隠した。

直後それはひっぺがされ、怒号によって静寂は破られた。

「もう12時だぞ!学校はどうした!あと、昨日の女の子についてだが…」

矢継ぎ早にまくし立てていた忍田さんの血相が変わるのをリアルタイムで眺める。

「慶!!お前いったい何をした?!」

超弩級の大声とともに眼前に出されたのは1枚のメモ用紙。

差し出されるままに目をこすりながら読む。

そこには、なぜか凛のサイドエフェクトによって俺が悪い影響を受けてしまうらしく、

それまで私は誰かの体を触るのは控えるようにする、と書いてあった。

何がどうなっているかはわからないが、とりあえず探さねばと思ったものの、

ここはボーダー本部の寮の一室。学校も遅刻、忍田さんに担がれて、

制服に着替えてから学校に行くことになってしまった。解せぬ。最近覚えた言葉だ。

授業中、凛が残したメモを広げる。

動揺のあまり思わず握ってしまったため、ぐしゃぐしゃになっていた。

それを見たって何か変わるわけじゃないのに、俺は長いこと目が離せなかった。

7限の授業が終わり、ボーダー本部へとダッシュで向かう。

すぐさまトリオン体になって走り回っていると、

曲がり角で落ち着いた筋肉ことレイジさんにぶつかった。

結構な勢いでぶつかってしまったが、体幹が寸分たりともぶれないあたり、さすがである。

「臨時入隊した和泉 凛ってやつがいるんですけど、今朝からいなくて…」

口にするだけでどんどん焦りが膨れ上がっていく。

ため息をつきながら、レイジさんが答える。

「落ち着け、その子なら玉狛であずかっている。ちょうど今朝からだな」

さっきまでの焦りは、疑念と心配に進化した。

凛は、ボーダーに入ったが、所属は定まっていなかった。

それにしても、ネイバーをひどく恨んでいるあいつが玉狛に行くとは信じられなかった。

ぐるぐる考えている俺は、肩に感じた重さによって我に帰る。

「今から行くか?」走っていくつもりだったが、車の方が数倍速い。

ありがたく乗っからせてもらった。お礼を告げながらも、俺は凛のことばかり考えていた。

俺が何かしてしまったのだろうか。

ようやく会えたと思ったのに、あいつはまたすぐにいなくなる。

レイジさんがいくつか話を振ってくれたが、かなり適当に返してしまった。

やがてエンジンが止まり、レイジさんとともに車から出た。

すぐに駆け出そうとしたが、首根っこを軽く掴まれてしまう。

普段なら絶対こんなことはしない。なんだろう、抑えが効かなくなる感じがしたのだ。

そんな言い訳は口に出す前に溶けていってしまった。

扉を開けて中に入ると、迅と小南、そして宇佐美がいた。

「珍しいね、太刀川さんが来るなんて」

「わかってたでしょ。迅さんの予知通りだね。久しぶりでーす」

迅と宇佐美の言葉を突き破って、小南がわめく。

「あんた、凛ちゃんに何したの?!」忍田さんにも同じようなことを言われた気がする。

挨拶を返した後で、俺は質問をぶつける。

「それで、凛はどこにいるんだ?」えっ、何で名前呼びなの!小南の声はシャットアウトして、

一番知ってそうな迅に視線を向ける。

「今は訓練中だけど……今は合わせられないかな」迅の言葉に歯を食いしばる。

ふざけるなよ、朝起きたら凛がいなくなって、知らないうちに玉狛に移動して、

会うこともできない?「っオイ」俺はレイジさんの声を振り切り、訓練室へ突撃する。

ドアが開かない。叩いたり、声を荒げてみても、

扉の向こうには何も伝わっていないみたいだ。中を見ると、

凛が訓練用NPCと戦っているのが見えた。設定レベルはわからないが、

あきらかに格上の攻撃を、皮一枚で外している。

ただ、防戦一方という感じで攻撃を加えられずにいた。

一向に終わる気配が見えない戦いだったが、凛が相手のスキをついて

剣劇を叩き込んで勝利した。一息ついてから、扉に近づいてくる。

扉がスライドして、俺たちを隔てるものがなくなった。

「どうしていなくなった」そういって1歩近づこうとしたら、

後ろからレイジさんに羽交い絞めにされた。

「大丈夫です。レイジさん。自分で話せますから」

首を絞める力が緩まる。落ちるかと思った。

「あのね太刀川先輩…」そう言って今朝起きたことが語られる。

耳に指がめりこんだとか相手を侵食?だとかかなり物騒なこと言ってるが、

要するに触れるとやばいらしい。

ただ、いろいろ試してみても発生条件はわからず、

心が絡んでいるということしかわからなかったようだ。

だから、しばらく原因がわかるまで自分の能力と向き合い、

ついでに強くなっちゃおう。そう考えて玉狛支部への移籍を決めたらしい。

「一応わかった。」

「ごめんね…本部にいけないわけじゃないから、ときどき顔出すよ。」

凛が目を伏せて謝る。いまだ!

俺は神速でこいつの手をつかむ。…しかし何も起こらなかった。

その場にいた俺以外が全員固まっているうちに、つかんだ手を自分のもとに引き寄せる。

…やっぱり何も起きない。

「警戒しすぎ、触ってもなんともねーじゃんか」

凛のこわばった顔が安堵によって溶かされていく。

信じられないことが起こった。俺の手から蒸気が上がり始めたのだ。

凛はとっさに手を引き抜いて、「ごめんなさい!」ともはや叫んでいる。

なんとなくわかったような、わからないような。

「ひとつ聞いていいか?」

「いいけど...サイドエフェクトのことだったらまだわかんないからね。」

「玉狛に移ったのって…お前の意思か?」

意識せずとも語気が強くなる。

「えっ...そうだよ。この辺は昔よく来てたから、敷居が低そうだなって思って。」

「でもいくらサイドエフェクトがあったって、

わざわざ本部を離れる必要はなかっただろ。なあ迅?」

「心機一転!って感じで時期的にはちょうどいいと思うけどな〜」

なるほど、だいたい読めた。

考え込んでいた俺は、レイジさんに抱え上げられ、

さよならを言う前に車に入れられてしまった。

本部まで送ってくれるあたり、彼の優しさが垣間見える。

これからはちょくちょく玉狛にも顔出すとするか。

「というわけで、連絡先交換しましょう」

「送り迎えするのは、オレの都合が合ったときだけだから、あまり期待はしてくれるな。」

あんまかかわったことなかったが、この人見かけによらず優しいな。

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