私は毎日ランニングをはじめとした基礎体力訓練に取り組みつつ、
仮想トリオン兵を相手に全力で刃を振り続けた。
ある程度訓練用NPCを倒せるようになった段階で、
私は小南先輩に弟子入りさせてもらうことにした。
さすがに専用トリガー、『双月』を使用されてはとてもかなわないので、弧月にしてもらったが。
「おねがいします!」
「手加減なしで行くわよ!」
言い終わると同時に、ものすごい速さで距離をつぶされる。
(避けるとか...無理!)
サイドステップでなんとか避けようとしたものの、あっけなく右腕を持っていかれてしまった。
それと同時にスコーピオンをカウンターで突き出すが、流れるように身をひねって躱される。
伸びきった私の腕めがけて弧月が落ちるが、
A.Tフィールドをピンポイントに展開してはじく。その勢いまで利用して、
先輩は私の背後に立つ。とっさにフィールドを展開したが、
一突きで破られてしまった。一切減速せず突っ込む先輩への対処が遅れ、
私は今日の初ピチュをかました。
(わかっていたけど、強すぎる…)
攻撃すべてが正確に繰り出され、すさまじい機動力でカウンターでさえ外される。
先輩の動きを読めたとしても対処ができない。
そもそも追うことすらできていないのだから、読む段階に私はいないのだろう。
何回負けたかわからないけど、気が付いたらかなりの時間がたっていて、
今日はおしまいということになった。
「そこそこ動きよくなってるし、
3000ポイントぐらいの
と、あくびをしながら言われた。これは素直に喜んでいいやつなのだろうか。
昨日よりかは確実に成長している、勝利こそできていないが、確かな実感を胸に私は目を閉じた。
朝から晩までたくさんトレーニングできるのは、学校に行ってない唯一の恩恵なのかもしれない。
朝7時からランニング、柔軟ストレッチ。訓練用NPCを使った戦闘訓練、
A.Tフィールドを早く、より正確に出して、消す。
1週間ほど続けていると、目に見える変化が表れ始めた。
戦闘をしているとき、私は相手の全身を視界に入れるようになったのだ。
言葉にしてみると何ら大したことでないきがしてしまう。
しかしこの視点は私の戦闘能力を飛躍的に上昇させたのだ。
当たり前のことではあるが、武器を使うときには体を動かす必要がある。
どうしても刃に目が行きがちだが、一点だけを見るのではなく、
ぼんやりと全身を見ていれば、攻撃の「起こり」が見えてくるようになった。
相対しているNPCごと、壁と一緒に風景のようにとらえるイメージだ。
そうすれば、どこに攻撃してくるかがなんとなくわかって、
それだけ反応を早くすることができる。
回避と受け太刀、隙を見つけての攻撃、私がするのはそれだけでいい。
硬度重視のちっこいA.Tフィールドも併用して、NPCはもはや敵ではなくなった。
「小南先輩、10本勝負、お願いします!」
「1週間ぶりかしら。…いいわ、相手してあげる!」
先輩は弧月2刀流、私はいつものスコーピオン。
開始のブザーが鳴り、戦闘態勢に入る。
流れをつかまれたら勝ち筋はない。まずは距離をつぶす。
弧月はスコーピオンより間合いが広い。超接近戦のほうがまだ私に分がある。
先輩は半歩下がって同時に刃を横に一閃。
私の突撃のタイミングと完全に合った動きだ。でもそれは空を切る。
1歩分だけ遅れて、私が懐に入る。直後に下からの強烈な跳ね上げ。
大丈夫、ぎりぎりだけど見える。ただ、反撃のチャンスが一向に来ない。
単純に考えて2刀流の方が手数が多い。横っ飛びで躱したり、
スコーピオンで受け止めたりして粘りはしたが、体勢が崩れたとこを突かれて負けてしまった。
「A.Tフィールドを展開する暇が全くない…」
「あんなの作られたら面倒だし、手数で押しつぶしただけよ。」
「…2戦目お願いします!」
開始直後にフィールドを前面に展開、見に纏って突撃するも、
まるですり抜けるかのように躱されてしまう。
その後強引に踏み込んでどうにか先輩の腕にかすり傷をつけたが、
大きなカウンターが直撃してそのまま私の敗北。
その後もおよそ致命傷とはなりえない攻撃なら当たったのだが、
勝ち星は1つもなかった。
瞬く間に10戦が終わり、悔しさをこらえながら私は先輩にお礼を言った。
「ねえ、凛ちゃん。」
訓練室から出ていこうとしたその時、小南先輩声をかけられる。
「なんですか?」
「明日から、C級ランク戦行ってみれば?
スコーピオン1本じゃ私に勝つことなんて不可能なんだし、
とっととB級に上がっていろいろ持てるようになりなさい。」
断る理由はない、だが果たしてそう上手くいくのだろうか。
こうして私は不安を抱えながらも人生初ランク戦に向かうことにしたのだった。