C級からB級に昇級するには、
同じC級の隊員との勝負に勝って4000ポイントを得なければならない。
「要するに勝ちまくればいいのよ!」
小南先輩の言う通りである。これに関しては全面的に正しい。
玉狛支部から本部に行く間はランニングを兼ねて走ることにした。
あっというまにランク戦ロビーに着いたはいいものの、
想像より人が多く若干しり込みしてしまう。
どの人と勝負しようか迷っているうちに、後ろから声をかけられた。
「ねえ、俺らとランク戦しようぜぇ」若干ヤンキーっぽい男子3人組がそこにはおり、
断る理由もなかったので受けることにした。
最初はロン毛の人。
「アステロイド!」
戦闘開始とともに景気良く弾を飛ばしてきたが...私が避けないとでも思っているのだろうか。
分割する意味が一切ないくらい弾が密集しており、すごく躱しやすい。
おまけに謎にジャンプして隙を晒してくれたおかげでスコーピオンでトリオン供給器官を一刺し。あっというまに勝利できた。
次はアサルトライフルを持ったメガネ。
しっかり狙いすましながら私の動きを追って撃ってきてはいるものの、
体勢を低くして突っ込んだり、サッカーのようなフェイントをしたりしていたらスッキリ勝てた。
最後はリーダーっぽい体育会系の男。
孤月片手に突撃してきたが、遅い。
横に回って腕ごと串刺しにして勝利。今までで一番かもしれないと思うほど楽な戦闘だった。
10×3戦闘が終わったので、1度ブースから出て彼ら会いに行く。
「対戦ありがとうございました」そう言うと彼らは一目散にどこかへいってしまった。
そうしてさっきの戦闘で少し自信のついた私は、
暇そうな人を誘っては勝利を重ね、順調にポイントを集め続ける。
(缶ジュースでも飲んで休もう)
ざっと30戦ほどこなした後、ちょうどよいベンチを見つけゆっくりしていると、
さっきのとはまた違う毛色の3人組が現れた。
ポイントは私より多い3000後半台。
勝手に聞かされた話を聞く限り、この3人はC級で1番の実力者らしく、
新規の隊員の力試しを担当しているのだとか。
(3人のうち誰が1番の実力者なんだろ...)
人がなんか飲んでるときに話しかけないでほしいとは思ったが、
自分より少し強いぐらいの人と戦うのは自身の成長にも繋がりそうだ。
「では「受けてやりゃあいいだろ」
突然、後ろから耳をくすぐるような声がした。
びっくりして振り返ると、ここ1週間会ってなかった太刀川先輩の姿が目に入る。
「先輩?!どうしてここに…」
「ランク戦しに来ただけだが、面白い勝負が見れそうだったんでな」
そう言った先輩は目を細めてニッコリと笑う。
先輩の言葉に、3人組は太刀川さんに期待されてる⁈とか騒いでた。
…なんだろう。なんか地味にイライラする。
別にこいつらの勘違いも仕方ない、そう捉えることもできなくはないと思う。
ほんの少〜しだけ悶々としたが、すぐに切り替えて早速ブースに入って準備をする。
ほどなくしてブザーが鳴り、試合が始まった。
「
ギィンと鋭い音と共に、トリオンキューブが形成される。
扱いが難しいものの、使い手次第では回避困難の魔弾になる代物だ。
私は急いで距離をとる。
「
次の瞬間、分割されたキューブが光り輝き、さっきまで私がいた位置へ弾道が伸びて行った。
そして斜めにガクッと折れ曲がって直進。その弾に追従する形で時間差攻撃が行われ、
4回ほど曲がった結果、見事な五芒星を描いて消えていった。
(さっき突っ込んでたら死んでいたけれど...)
私はあえて少しゆっくり走って距離を詰める。
「遅い!
「よっと。」
放たれたのは縦に並んだ4列の弾。
ちょうどそのタイミングでサイドステップで回避をして、今度は全速力で相手へ向かう。
「わっ!くるなっ!」
再びキューブが生成されたがもう遅い。
スコーピオンの間合いの一歩手前で刃を伸ばし、生身の心臓にあたる場所に突き刺した。
2人目はハウンドを何の工夫もなく撃ってくるだけだったので難なく首チョンパ。
3人目は私と同じスコーピオンを手から生やし、
攻防の両方をこなせる未知の武器に意表を突かれたけれど、
小南先輩とは比較にならないほど遅いだけでなく、
肩の動きに完全に連動していたためむしろ避けやすかった。
「くそっ!何で当たらねえ!」
焦りで隙が生じたところをスコーピオンでなぎ払って試合終了。
私はいつのまにか4000ポイントを超え、B級への昇格条件を満たしていた。
ブースを出ると、太刀川先輩がうれしそうな表情を浮かべているのが目に入る。
「ずいぶん強くなったじゃんか」
椅子から立ち上がって、笑いかけてくる先輩。
「ありがと。玉狛でいっぱい修業したから...」久しぶりなのもあって、なんだかうまく話せない。
頭に先輩の手が乗せられようとした瞬間、私は咄嗟に半歩後ろに下がってしまった。
「「……」」
(あ...謝った方がいいよね...でもごめんなさいって言ったら誤解されそうだし...)
「お前、開発室の場所わかるか?」
「え?わ、わかんないけど...」
「B級になったらな、トリガー構成を8枠まで決めて、エンジニアに伝える必要がある!
決めるのは後でもいいが、提出する書類を取りに行かなきゃなんねぇんだ。(忍田さん情報)」
「んじゃお言葉に甘えて、道案内お願いしま〜す。」
連れられて歩いたのは何の変哲もないただの廊下。
さっきまでいたランク戦ロビーとは比べ物にならないほど人通りがない。
先輩は周りをキョロキョロ見回した後、私に顔を近づけて囁いてきた。
「いろいろごめんな…その…玉狛で騒いじまったりとか」
「いいよそんなこと、勝手にいなくなって心配かけたの私だし。」
そうはいっても…とぶつくさ呟く先輩を軽くスルーする。
「それよりも、ほんとにアポなしでいいの?」
「病院の見舞いじゃないんだからいらないだろ。果物なんて。」
自動ドアが開いたと同時に不安になってきたが、もうここまで来て引き返すことなんてできない。おずおずと私は中に入って口を開く。
「失礼します、本日B級に昇級しました和泉凛です。
トリガー構成の報告を行うために書類をいただきたいのですが…」
いつもより若干声を高く、よく通るように私は挨拶をする。
すると作業をしていた男の人が、顔を上げて手招きをしてきた。
「構成はもう決まってる?」
私が首を縦に振ったのを確認して、その人は8つの枠が印刷された紙とペンをくれる。
「終わりました。」
たったの20秒で書き上げた書類を差し出すと、彼は私の顔をまじまじと見てきた。
「シールド1枚も入れないの?!」
それはレイジさんにも言われたのだが…
私のトリガー構成はメインにスコーピオン、サブにハンドガンとバッグワーム。これだけである。
シールドはATフィールドがあるから必要なし、
トリオン量も四捨五入してようやく2なのでこうなった。
別に変更できなくなるわけじゃないのなら、初めはこれくらいで良いだろう。
「…なるほどね」説明をしてからは早かった。
エンジニアさんはすさまじい手際の良さでトリガーを組み立て、渡してくれた。
「ありがとうございます!」「ほーい」気の抜けた返事を聞いてラボを出る。
そういえば太刀川先輩は終始無言だった気がする。どうしたのだろうと顔を向けてみると、
非常に面白い顔をしていた。悪口でも、変顔とかそういうのじゃあない。
一見するといつも通りのニヤケ顔だが、うれしさや興奮がにじみ出ている。
先輩が戦闘狂であることはこの前の訓練で嫌と言うほど思い知った。
これでようやく戦えると、期待に胸を膨らませているのだろう。
「さっそく試したいんだけど…相手してくれる?」わざとらしくはあったが私は先輩にきく。
すると子供のように目を輝かせ、思いっきりニヤけると、「ああ!」とはっきり頷いた。