「ギィィン!」スコーピオンと孤月、互いの刃がぶつかり合う。
通常ならこの時点でスコーピオンが欠けてしまうだろう。
しかし私は、ATフィールドを刀身に沿って展開することで強度を高め、
弧月との斬り合いにも対応出来るまで性能を上げている。
とは言っても、太刀川先輩と私では経験の差が尋常じゃないぐらいにあった。
どうにかバックステップで距離をとり、ハンドガンで心臓を狙い撃ったのだが、
先輩は軽々と避け、2発目を撃つ前にふところに飛び込まれ、負けてしまった。
(さすがに練習してないと当たんないな…)
複雑に動く孤月2本を避けきるのはかなり厳しい。
まるで2人を同時に相手しているみたいだ。
左右の腕を完全にバラバラに動かす異常なほどの手数の多さ、瞬発力に判断力。
鬼神のごとき強さに恐怖したのか...私はほんの一瞬動きを止めてしまった。
「もーらい!」
私の腕が空を飛び、敗北の2文字を描きながら落ちていく。
低トリオンの私にとってそれは致命傷をはるかに超えた損傷だった。
あっという間にトリオン体が再生し、戦闘開始のブザーが鳴る。
3戦目、1本は避けて、2本目は受けるという方法で凌いではいたものの、さすがに忙しすぎた。
さっきハンドガンを撃てたのが奇跡と言えるくらい、攻撃する暇が見当たらない。
少しでも気を抜くと押し切られてしまうだろう。
とっくにATフィールドは破られており、再展開することもできない。
たぶん展開した瞬間斬られてしまうだろう。さっきと考えていることが一緒...
その時、先輩が突然後ろに下がる。
おそらく、私の銃撃を避けながら距離を詰めて...何でそんなことを?
疑問を抱きながらも、私はここぞとばかりにハンドガンを乱射した。
しかし、その弾丸が先輩を捉えるより先に、
「旋空孤月」
金色の斬撃が私の体を両断した。勝負が終わる。
(漫画とかで見る飛ぶ斬撃!?やっぱすごいなあ。先輩)
結局私は1勝もできずにストレート負け。
そう簡単に勝てる相手ではないとますます実感した。
ブースを出ると、すでに先輩はいちごみるく両手に待ってくれていた。
「あそこで飲もうぜ」若干のデジャヴを感じながら一緒に飲む。
ちなみにあの斬撃はブレードを瞬間的に伸ばす技らしい。オプションがどうとか。
先輩と1週間の修行のことだったり、
ほかの先輩方の面白い話を聞いて笑い合ったりしていたら、ふいに誰かが声をかけてきた。
「太刀川さ~ん、例の女の子の件どうなりました?」
金髪で、先輩と同じ服を着た人が前から歩いてくる。
知り合いかな、と思って横を見ると、
さっきの笑顔から一転して真顔になっている先輩がいた。
「あ、はじめまして~シューターの出水公平です。
ひょっとして、まだなんも話されてないかんじ?」
いったい何のことだろう。出水くん(1歳下らしい)が先輩に代わって話始める。
1人隊員が抜けたから、代わりを探しているということ。
候補はいるのだが、さっきまでC級で実力がわからないこと。
「んで、さっき太刀川さんと戦ってなんとなくOKだなってなった」
それって…「もしかしなくても私?」ニカっと笑う出水くん。
ならなぜ先輩は縮こまっているのだろう。
「断られたらどうしようかと思って…」珍しく弱気だ。
「んで、どうすんの~?」
せっかく誘ってもらったのもあるし、実力を評価されたのなら
足を引っ張るかもとかいう不安は切り捨てるべきだろう。
私より強い人が認めたのなら、少なくともまちがってはいないはず。
「入隊したいです。お願いします!」
それからはすごく忙しかった。
作戦室に案内され、自己紹介を済ませた後、
トリオン体を太刀川隊の隊服ヴァージョンに変更し、
作戦室のあまりの汚さに耐えかねて掃除を決行した。
そうこうするうちに気づけば夜8時になっており、
迎えに来てくれたレイジさんに連れられて帰ることにした。
「太刀川隊に入るのか」
「そうですね、いろいろ思うところはあるのですが、頑張ろうと思います」
正直すごく不安だ。A級1位の恥になりそうで。
サイドエフェクトだってまだ未知の性質を隠し持っている。
玉狛支部に来たのだって太刀川先輩から離れるためだったのに、
結局あんまり変わってない気がする。もはやどうでもいい気はするのだが。
「うまくいきそうか?」
「…たぶん?」
「…それでいい、希望的観測は人間にとって必需品だ」
控えめに言ってかっこいい。さっすが玉狛のアニキだぜ。
B級に上がったことを小南先輩に報告すると、
「さっすがあたしの弟子ね!」とすごくうれしそうにはしゃいでいた。
あ。太刀川隊に入ったこと言い忘れちゃった。
寝る直前に思い出したが、眠気には抗えなかった。