凛のサイドエフェクトによって、人型ネイバーはチリすら残さず崩壊した。
トリオンを吸収するというぶっこわれのブラックトリガー。
脅威は去ったが、奴は俺らボーダーに最悪の被害を与えた。
遠征艇を運用するために貯蔵していたトリオンが半分以下に減ってしまったのだ。
帰るためのトリオンを貯めるには、
少なくとも3日は全員分のトリオンを供給する必要がある。
エンジニアはそう言うが、トリオン0の全員戦闘不能状態で過ごすわけにはいかない。
うむむと唸っていると、風間さんが沈黙を破る。
「アタッカー4名、シューター1名、スナイパー1名。2班に分けてトリオン供給、
戦闘を入れ替わりで行うことを提案する」
「それだと…戦闘がなければ5日、毎日戦ってたらざっくり1週間くらい必要ですね」
エンジニアが苦い顔をして言う。再び沈黙が俺たちを包んだ。
「今日のところは、凛ちゃんに感謝だね〜」
少しでもこの地獄の空気をなんとかすべく国近が明るく言った。
「定期報告は私が行います。」そうして真木が立ち上がると、
それに続くように他の面々も料理や休養など、各々のするべきことに取り組み始めた。
「凛…」ベッドに横たわるこいつの顔色は絶望的に悪かった。
青ざめており、呼吸もかなり乱れている。
少しでも落ち着いたら…と思って手を握った。
昔から凛が風邪ひいたときにそうしていたことを思い出す。
俺は滅多に病気にならなかったから、うつることもめったになかった。
看病だってそばにいてやることだって負担と感じたことはない。
それでも、元気になった凛は、ありがとうの後にごめんねを言う。
今回もきっとそうだ。今日中にでも目覚めて、俺の目を見てくれるはずなんだ。
凛の手を握る力が思わず強まる。
そのとき、ガラッと音を立てて扉が開いた。
手はそのまま、顔を音のする方へ向けると、冬島さんがいた。
よっこいしょ、と椅子に腰かける。
「太刀川、ちょっと詰めてくれねえか」そう言って怪しげな注射器を取り出す。
「冬島さん、凛に何を…」俺が言い終わる前に、腕に薬が打ち込まれた。
「ただの鎮静剤だ。動悸がやばかったから、ひとまず落ち着いてもらわねえと」
しばらくして凛の呼吸が安定し始めた。
さっきまで苦しそうだった顔も、若干マシになった気がする。
「サイドエフェクトの反動ですよね、こいつ」
「ああ、明らかに限界超えてたから、
間違いないぜ。心の壁がなくなる1歩手前だ、手ェ握るのもやめとけ。」
「は?なんでだよ」
頭で考えるより速く、ほぼ反射で俺はそう返す。
「死んじまうかもしれないからな」
その言葉に戦慄し、俺は慌てて握っていた手を離す。
「お前にだってATフィールドはあるんだ、和泉のと相殺…打ち消しあっちまうんだ。
んでフィールドがなくなると人の肉体は崩壊する。普通は平気だが、
今のこいつは例外だ。おとなしくしとけ。」
沈黙で相槌をしていると、
再びドアが開き、真木、国近、三上が部屋に入ってきた。
「心中お察ししますが、ここは女子部屋です。用が済んだら出ていってください」
報告を終えたであろう真木の鋭い声。
俺はまだ凛のそばにいたかったが、強制的に追い出されてしまった。
目の前でドアが無常にも閉まる。仕方なく男部屋に戻るが、
誰もいなかった。ベッドに寝ころび、トリオン製の天井を意味もなく見つめる。
俺がもっと強かったら。
しかし、今回の敵はチート級のブラックトリガー持ち。
トリオンを吸収される以上、
通常兵器を思いっきり使うぐらいしか有効打がなさそうだった。
俺がどんなに強くてもトリガーを使う限りかなわない相手。
そうわかってはいるが、それでも思わずにはいられなかった。
「俺が…もっと強かったら…」つぶやきは天井に届く前に霧散した。