時刻は午後9時、遠征部隊と三輪隊の合同チームは
玉狛支部から約200メートル離れた襲撃予定地点に向かっていた。
「距離、およそ500」
まあまあ走ったところで、不意に太刀川先輩が何かに気づく。
「止まれ!」
進路をふさいだのは1人の男、迅さんがそこにはいた。
先輩と会話しているうちに、
嵐山隊が到着し、どうやら戦わないといけないみたいだ。
「忍田本部長の命により、玉狛支部に加勢する!」
「嵐山たちがいれば、はっきり言ってこちらが勝つよ。
俺だって本部とケンカしたいわけじゃない。退いてくれるとうれしいんだけど」
嵐山さんが宣言し、迅さんが提案する。
「おもしろい、お前の予知を覆したくなった」
やっぱり太刀川先輩はやるきだ。そしてそれも見えていたのだろう。
迅さんがニヤリと笑う。
合図もなしに、戦闘が始まる。
出水くんと三輪隊は嵐山さんの相手、
私と先輩と風間隊は迅さんの相手をすることになった。
「風間さん、やっぱりこの人無視して玉狛に直行しましょうよ」
菊地原くんがそう言う。風間さんが同意した次の瞬間、
斬撃が菊地原くんの首を薙ぐ。
「出たな『風刃』」先輩がつぶやく。
そこから先は一方的だった。風刃が先輩と風間さんを切り裂き、
2人はベイルアウト寸前まで追い込まれた。
いくらトリオン体でも、手足が切断された光景はグロい。
「先輩!風間さん!」
援護する隙も無く、あの2人が負けてしまった。
「風刃と俺のサイドエフェクトは相性が良すぎるんだ。悪いな」
迅さんが勝ち誇った笑顔で告げる。
「凛!玉狛へ行け!」先輩が指示を飛ばす。
「うーん、それはだめかな」駆け出す私を迅さんは追いかける。
そこに太刀川先輩が割り込み、決死の足止めをしてくれた。
しばらく走っていると、白髪の
「太刀川隊 和泉、
目の前にいるのは標的の人型ネイバーと、
なんか黒い…ドローン?みたいなやつだった。
敵意は…なさそうだが油断はできない。とりあえず声をかけてみることにした。
どうやってなにを話せばいいのかさっぱりわからない。
黙っているのもあれなので、とりあえず職質みたいにやってみる。
「こんばんは、私の名前は和泉凛。
城戸最高司令官の命令で、あなたを捕まえないといけないの。だから…」
「お前、つまんないウソつくね」
私の言葉を遮ってネイバーはそう言った。
たしかに出された命令は、
『捕まえろ』というより、『殺せ』に限りなく近いものではあったが。
まあいいや、相手がネイバーなら、ためらうことなどない。
私はスコーピオンを構えて相手をぼんやりと見る。
予備動作から攻撃を予測し、回避してカウンター。私の基本戦術だ。
「レプリカ」
「心得た」
ドローンから黒いものが出て、ネイバーの体を包む。
どうやら、トリオン体に換装したみたい。
「弾(バウンド)ダブル」
突然ネイバーの足元に魔法陣のようなものが出現し、
それに触れた瞬間敵は加速。こちらに突っ込んできた。
サイドステップでそれを躱し、スコーピオンを刺す。
しかしさきほどとは違う魔法陣で防がれ、反射で後ろに下がる。
「錨(アンカー)+射(ボルト)クアドラ」
黒い弾が勢い良く飛んでくる。これは躱せない。
私は正面に手のひらを向けた。「ATフィールド、展開」
相手がネイバー、私の嫌いな奴なら、フィールドの強度は増す。
さすがに遠征の時みたいなヤバイ状態ではないが、それでも充分だ。
すべて防ぎ切った私に、敵さんはいぶかしげな視線を向ける。
そしてかがんで石を数個拾い、バラバラに投げてきた。
(何の意味もない、稚拙な攻撃だ)
そう思った次の瞬間、石に魔法陣がついているのに気づき、
慌ててフィールドを全面展開する。
すんでのところですべて防いだが、すでに敵は攻撃態勢に入っていた。
「射(ボルト)クインティ+強(ブースト)」
今までで一番強い弾。それが5発。
考える間なんてない。ほとんど反射で、残りのフィールドすべて使って防御に回す。
それは8枚まで突き破り、私は息をのむ。
弾が着弾して数秒の間に敵は距離を詰め、
「弾(バウンド)」
飛び上がって、そのまま飛び蹴りをしてきた。
(これ以上フィールドを失うわけにはいかない)
私は横っ飛びでどうにか回避した。
そのまま流れるように弾が飛ぶ。
「射(ボルト)クアドラ+錨(アンカー)」
それによって私のフィールドは全壊し、がっくりと膝をつく。
ゆっくりと近づくネイバー。勝ちを確信しているのだろう。
まだ練習不足で付け焼刃だが、うまくすればいけるかもしれない。
私はスコーピオンを首を狙って伸ばす。それをたやすくよけるネイバー。
「ここ!」
ハンドガンを取り出して撃つ。
しかし、トリオン供給器官を狙ったアステロイドに敵が超反応。
それは敵の右胸を打ち抜くに終わり、トリオンが尽きた私は、
強制的にベイルアウトによって本部に戻された。
全力の不意打ちでも倒せない相手。
素直に尊敬できればいいのだが、どうしてもネイバーだから、と私怨が入る。
狙ったわけではないが、迅さんの予知通りにはなったのかな。
戦闘で気を張っていたからだろう、ベイルアウトしてベッドに倒れこんだ瞬間、
脱力感とけだるさが私を襲った。でも、気絶とかよりよっぽどいい。
私が倒れたら、またみんなを心配させてしまうから。
そのとき、先輩が部屋に入ってきた。というかここ、太刀川隊の作戦室じゃん。
「ごめんね先輩、せっかく行かしてもらったのに…」
「いや、大丈夫だ。それよりもお前が無事でよかった。」
「あのネイバー…すごく強かった。攻撃が連鎖してるみたいだった」
「俺なら勝てそうか?」
「勝つんでしょ、どんなときでも」
そう返すと先輩は私の頭を撫でる。
「データは大体取れたから充分だよ~お疲れ凛ちゃん!」
柚宇ちゃんが笑ってそう言う。
不意に作戦室のドアからノックが聞こえ、先輩がためらいなく明ける。
そこにいたのは風間さんだった。
「迅が会議室に入った。見間違いでなければ、『風刃』を持っていた。」
私たちは会議室へ向かった。
3人でドアに紙コップを当て、中の会話を聞く。
「うちの…後輩…代わりに…風…を出す」
「なんだって?!」
太刀川先輩が扉を開けようとしたが、柚宇ちゃん、風間さん、私が全力で止める。
それでも落ち着かなかったので、ベンチに座らせる。
しばらくして、迅さんが会議室から出てきた。
なんて声を掛けたらいいかわからない。そんな沈黙を彼はたやすく破る。
「盛大なお迎えだね。4人とも、ぼんち揚げ食う?」
「…まったくお前は意味不明だな、なにあっさり『風刃』渡してんだよ」
「『風刃』を手放すなら最初からそうすればよかっただろう」
ぼりぼりとぼんち揚げを食べる音が廊下に響く。
5人で一斉に食べると案外うるさく、
さらに、それに会話が混ざるともっとうるさく感じられた。
「昨日の段階じゃ、『風刃』に箔が足りなかったと思うよ。
「A級上位の俺たちを派手に蹴散らすことで、価値を引き上げたのか」
風間さんが渋い顔でそう言った。
「あの、じゃあ私がネイバーと戦う必要はなかったんじゃ…」
正直『風刃』さえあればよかった気がする。
「組織に入れるんだったら、詳細不明のブラックトリガー、
のままじゃいけないでしょ。ある程度の性能を把握したかったんだ。
上層部に万が一の場合でも倒すことができる、って思ってもらいたかったからね。」
迅さんは笑ってそう言う。結局、私も計画に加担させられてたんだ。
やっぱりすさまじい策略家だ。
「ネイバーをボーダーに入れる目的はなんだ。何を企んでいる」
「楽しい時間を作ってやりたいんだ」
そう言ってはにかんで笑う迅さん。
どうやらあのネイバーに戦闘狂の素質を見出したらしい。
「あ、そうそう。俺ブラックトリガーじゃなくなったから、ランク戦復帰するよ
とりあえずアタッカー1位目指すからよろしく」
それを聞いた太刀川先輩は目を輝かせ、迅さんの肩をたたく。
風間さんは顔をしかめたが、目が笑っていたような気がする。
「凛ちゃんとも戦いたいな、挑戦まってるよ!」
しばらく話をした後、私と迅さんは玉狛支部へ帰ることになった。
遊馬に一撃でも入れられるわけないんだよなぁ