「ゲート発生!20…30…さらに増えていきます!」
「トリオン反応多数!市街地に進行中です」
「関係各所へ通達を開始。警戒レベルを4に引き上げます」
「任務中の部隊はオペレーターの指示に従って展開。
トリオン兵を撃滅、一匹たりとも警戒区域から出すな!
非番の正隊員に緊急招集をかけろ!」
「トリオン兵はいくつかの集団に分かれて進行中。
本部基地から見て、西・北西・東・南・南西の5方向です!」
太刀川隊のみんなで昼食をとっていたおひるどき。
やわらかな日差しは暗雲に隠され、小鳥のさえずりは喧騒にかき消された。
「先輩…これやばいんじゃ…」
「んー?まあなんとかなるだろ」
「心配すんなって。からあげ冷めちゃうぞ?」
「焦ってもいいことないよ~リラックスリラックス」
みんなは慣れているからか、余裕そうである。
それとは対照的に私はドキドキ緊張してからあげがのどに詰まってしまった。
「ほれ、水」
柚宇ちゃんが差し出してくれた水を一気飲みする。
気づけばみんな食事を終えていて、すでに席を立っていた。
私が一番急いでおきながら一番最後だったようだ。
作戦室についたころ、指令室から通信が入る。
「爆撃用トリオン兵、イルガー出現につき、
太刀川隊は本部基地屋上に向かってください!」
「太刀川了解」
すぐにトリオン体に換装して廊下を駆ける。
屋上についたとたん、巨大なイルガーが目前に迫る。
もはや考えている時間などない。私はATフィールドを展開して受け止める。
「対空迎撃システム、稼働率47%!撃墜可能圏内です!」
「撃ちまくれ!」
オペレーターと鬼怒田さんの声が轟く。
私がフィールドを解除した瞬間にイルガーは撃墜された。
直後に2体目が接近したが、「旋空弧月」先輩が刃を振って撃破。
その後の3体が来たがなんとか対空迎撃システムにより撃墜。
結果的に本部基地の装甲板が多少融解しただけで済んだ。
ほっとしたのも束の間、
「北の方角より、高エネルギー反応!」
いつになく緊迫した柚宇ちゃんの声が耳に入る。
警戒を…北を向く前に、極太の光線が基地に直撃した。
「ズシャァァァァァァァ!ドゴォォォォン!」
「トリオン供給回路断線!壁の修復困難です!」
「特殊装甲全壊、回路修復作業に入ります。」
私はすさまじい爆風で軽く吹き飛ばされてしまった。
「和泉!つかまれ!」
出水君が手を伸ばしてくれ、なんとか落下せずに済んだ。
着弾地点をのぞくと、すさまじい光景が広がっているのが見える。
基地の壁が円形にくりぬかれたように消失し、いくつかの部屋が全壊している。
「ヒト型ネイバー補足、さっきのはきっとあいつです!」
「臨時装甲板展開、壁の修復急げ!いや…総員退避!」
2発目はそれを待たずして着弾し、基地をえぐる。
壁は完全に破壊され、外からもう丸見えだった。
「ええい!壁にトリオンをつぎ込んだというのに!」
鬼怒田さんの雄叫びがむなしく響く。
そのとき、忍田本部長から指令が下った。
「太刀川隊に命ずる、ヒト型ネイバーを殲滅しろ!」
「和泉了解」
「太刀川了解」
「出水了解」
私たちは屋上から飛び下りて、砂塵と化した戦場を駆けた。
あれほどの攻撃を放つネイバー…一体どんな奴なのだろう。
目標地点は警戒区域外と、かなり遠い。
「国近、さっきの攻撃…あれ何だ」
「トリオンをそのまま放つ単純な攻撃みたい。1発1発が即死級だね。
でも、トリオンの消費がでかすぎるから、
粘ってれば勝てると思うよ。…凛ちゃん!」
柚宇ちゃんが声を荒げた瞬間、私は反射でATフィールドを前に展開する。
コンマ数秒遅れて紫の光線が直撃し、ヒビが入っていく。さきほどのとは違い、
着弾面は小さいが、威力が高い。フィールドが破壊される直前、
出水君と先輩がフルガードをしてくれてどうにかしのぎ切れた。
顔を上げると、民家の屋根の上にたたずむネイバーを発見した。
「そこなら間合いだ…『旋空弧月』」
2つの斬撃が飛ぶ。それは奴の胸を切り裂く前に『何か』に相殺され消えてしまう。
「トリオン同士でかきけした⁈なんつー荒業」
出水君は驚きながらもメテオラを放った。しかしやはり攻撃が通らない。
いったいどうすれば…考えている時間などほとんどない。
速度の代わりに量がすさまじい弾幕がくりだされる。
スコーピオンで叩き切った瞬間、ブレードが消えてしまった。
1発1発の威力が段違いに高すぎるのだ。
私は1枚ずつ先輩と出水君にフィールドを展開した。おそらく私じゃ奴は倒せない。
絶望的なほどのトリオン量の差があるし、フィールドだって無限じゃない。
ならば私は援護に徹するべきだ。
「アステロイド+アステロイド…
出水君の攻撃は奴のトリオンを大きく削る。防御が一瞬薄くなるが、
数秒もしないうちに元通りになってしまった。反撃だとでも言うように、
奴から全方位にトリオンが放たれる。奴のいるところを中心に巨大な爆発が起こり、
全員のフィールドが破壊される。再度展開するが、もう余力がない。
まだまだ奴のトリオン量は尽きないようで、私のハンドガンも無効化された。
使うならここだろう。まだ試作段階だが、私には隠し玉が1つある。
この相手には特攻だろう。うまく作用すればいいけど…
悩んでいる暇なんかない。ATフィールドがなくなれば、その時点でゲームオーバーだ。
ハンドガンの弾をアステロイドから切り替える。
「先輩、出水君!
「「了解」」
先輩があえて高く飛んで斬撃を放ち、
その正反対から出水君のバイパーが軌道を描く。
前後と上下、意識は当然分断される。さらに私は最も警戒されていない対象。
この状況なら決まるはずだ。私はためらいなく引き金を引く。
放たれた弾丸は寸分たりとも狂わずに奴の胸にめりこみ、汚い悲鳴が上がる。
「なずぇだ!このわだじがっっ!ドリオンがっっ!」
この弾丸は、遠征で会敵したブラックトリガーを組み込んだ特殊なものだ。
使用された者のトリオンを吸収して、その後爆発する。
吸収したトリオン量によって威力は変わるが…
「ジジッ…ズドォォォォォォォン!!」
「あぎゃあああああああああああああ!」
すさまじい爆発が起こる。奴の規格外なトリオンでは
イルガーなんて比じゃないぐらいの威力が出たようだ。
私は限界ギリギリまで先輩と出水君にフィールドを展開した。
2人のフルガードが壊れる音がしたが、どうやら無事みたい。
私は建物の陰に身を潜めていたのも幸いし、なんとか耐えきった。
たしかこの家の表札には忍田とか書いてあった気がするが、気のせいだろう。
破壊規模は非常に広域で、何なら隕石が落ちたような穴ができている。
土煙が晴れた。
「うそ…なんで…」
まだ生きている。しかもトリオン体のままだ。
「アステロイド!」
「旋空弧月」
2人の攻撃は奴のトリオンに相殺される。
トリオンをかなり吸収され、さらにあの爆発を防ぐにはとんでもないトリオン量が必要なはず。
それを可能にするほどのトリオンがあるというの…?
計測範囲を大きく超えている。もはやバケモノと言ったほうがいいのかもしれない。
唯一の有効打である特殊弾はもうない。量産できるほど研究は進んでいないのだ。
どうしたら…どうしたら奴を倒せる?本部基地からの一斉砲撃?遠すぎて届かない。
全スナイパーによる1点狙撃?人員を集め、
配置を完了するまでに多くの犠牲者が出るだろう。
わからない、わからない。ひざを折り、頭を抱えた。
「おい」
何か手は…何か手は…
「凛!聞こえるか!」
また…いっぱい人が死んで…家が壊れて…心が乱れる。
バチッ!頬を叩かれ、あたりを見渡す。
「ようやく気付いたか。お前、悩んでもいいが周りは見とけ」
砂ぼこりが舞う戦場。大穴の近くにあった家々はチリと化し、
ビルは枠組み以外消し飛んでいる。出水君が敵に攻撃を加え続けているが、
ダメージが通っている様子は全くない。
「奴を倒す策を思いついた。凛、お前の力を借りたい」
「…はい!先輩!」
作戦はすごく単純かつ斬新だった。
「出水が注意引いてる間に俺の弧月に限界までトリオンを注いで、
さらにお前のATフィールドを最大までかぶせて最速の居合で斬る。」
問題は、どうやって近づくか。攪乱するには、ハンドガンでやるしかない。
出水君とも情報を共有し、私たちは準備に入る。
先輩はありったけのトリオンを弧月に注ぐ。金色のブレードは今にも崩壊しそうだ。
そして私はATフィールドを1枚にまとめてかぶせる。ただでさえ威力が高いのに、
これで最高に限りなく近い得物になったはずだ。
「それじゃあみんな…作戦開始!」柚宇ちゃんが号令をする。
「バイパー+メテオラ…
出水君の合成弾が視覚、聴覚を乱し、注意をそらす。
弾はあえて当たらない軌道になっている。あたりは爆炎で覆われた。
「視覚支援!」
柚宇ちゃんにより、視界が一気に晴れたように見える。
「アステロイド!」出水君が再び弾を放つのには少し時間がいる。
奴の注意をそらすものがない空白の時間、私はハンドガンを連射した。
「アステロイド+アステロイド…
弾幕が奴のガードを若干削る。少しでもいい、私も追撃を行った。
先輩は奴の背後に立ち、構える。一振りに全集中力を使ってるせいか、
敵以外視界に入っていないようだ。奴が先輩に気づいて、慌てて振り返る。
その刹那、神速で弧月が振られる。
「キャイィィィィン!!」
先輩の剣技と奴のトリオン、ぶつかりあって甲高い音が鳴る。
ATフィールドがどんどん壊れていくが、それと同時に奴のトリオンも削れていく。
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
奴が全身にまとわせたトリオンを腹に集中させ、先輩が若干押され始めている。
「フルアタックでいくぜ!アステロイド!」
出水君が背後から攻撃。それは防御の薄くなった奴にとって
有効打となり、意識がそれる。傷からのトリオン漏出、度重なる弾幕攻撃。
少しずつ積み重ねた努力の結晶。私たちのすべて。
それが今、解き放たれた。
遂に先輩が奴をとらえ、音を置き去りにして凶刃が駆ける。
それはあれだけ多くの攻撃を通さなかったガードを穿ち、胴体ごと両断した。
奴の上半身がドシャリと崩れ落ちる。
(すごい…始まりも終わりも全く見えなかった…)
終わりは唐突に訪れ、ずいぶん久しぶりの静寂が私たちを包んだ。
「やったか…」
「出水君、それフラグだよ」
「俺が斬ったんだ。生きてる奴なんかいねぇよ」
私たちはしばらく勝利の余韻に浸っていた。
「おつかれ~すっっごい爆発だったね~」
「柚宇ちゃん…ほんとにつかれた…」
「うんうんよくがんばったよ~」
「こちら太刀川隊。目標を殲滅。指示をお願いします。」
しばらくして先輩が連絡を入れる。
「ご苦労。慶は新型トリオン兵の掃討、他2名はC級隊員の援護に向かってくれ」
「「「了解」」」
先輩が弧月を握るが、刃は出なかった。私もスコーピオンのブレードが出ない。
((トリオン切れだ))
「あ~こちら太刀川。トリオン切れなので新型倒せません」
なんて情けない報告だろう。自分が言えることではないのだが。
「…慶は本部基地へ帰還。他2名は先ほどの指示通りに。
和泉はトリオン切れだとしても参戦するように。迅からの指示だ」
少し気疲れを感じていた私に、先輩が声をかける。
「おつかれ、帰ったらごほうびやるよ」
それは何、ときく直前に爆発が起こった。
「だいぶやばそうだから、とっとといこーぜ」
出水君と私は本部基地からそこそこ離れた地点へ…
運命を決める残りの戦いに身を投じた。
激戦区となった市街地での戦いを終え、修たちを救うために駆け出す私たち。
強力無比なブラックトリガー使い2人が戦場を支配する!
果たして、無事に修たちを逃がすことができるのか⁈
次回、大規模侵攻編~喧騒の果てに~
さぁ~て、この次も、執筆 執筆ぅ!
おまけ
「こちら太刀川、本部基地へ帰還、昼食をとる」
「…そのような連絡は不要だ!慶、今忙しいんだ!」
「大盛りの力うどんを食べます。ちなみに2回目です。」
「また炭水化物だけじゃないか!肉を食え!」
「本部長、こちらの業務に集中してください」
「沢村くん…すまない…」
昼食(2回目)が終了するまで、およそ540秒…