私と出水君は、急いで修くんやC級のもとへ移動する。
(私のATフィールド…もつといいんだけど…)さっきの戦いでだいぶ消耗してしまったのだ。
これでは自分の身を守るのがせいぜいだろう。
「お、弾バカじゃーん」
知らない人たちが出てきた。カチューシャで無理やりオールバックにした人と、
遊真くんに負けた…緑川だっけ。
声をかけてる暇なんてない。新型トリオン兵が攻撃を仕掛けてくる。
槍使いと緑川くんが連撃を仕掛けるが、致命には至らない。
「和泉さん!」
「烏丸くん?!修くんに千佳ちゃん!」
みんなと合流したところで、状況を確認する。
聞いたところによると、ここから本部基地まで修くんと千佳ちゃんを護衛すればいいらしい。
敵は新型7体。だったのだが…新たにゲートが開き、ヒト型ネイバーが出現した。
奴は手のひらから大量の鳥を飛ばしてくる。
各々回避をしていたが、C級隊員が被弾してしまい、キューブになってしまった。
(触れたらヤバい…)必然と思うことはこれである。
修くんたちを連れて逃げようとしたが、新型が道をふさぐ。
膠着状態になっているうちに緑川くんがベイルアウトし、
戦況はさらに悪くなってしまった。千佳ちゃんのトリオンを修くんと共有して
なんとか2体倒せたが、ヒト型ネイバーは依然健在だ。
「ハウンド!」出水君が圧倒的な弾数で、敵の鳥を相殺していく。
しかし鳥の数はそれ以上のものだった。際限なくあふれ続け、
私のATフィールドも破られて、千佳ちゃんがキューブにされてしまった。
どうすれば…
「和泉さん、ここは俺が何とかする。修を連れて先に行ってくれ。ガイスト、起動!」
烏丸君がそう言って、戦闘態勢に入る。
あっという間に新型が撃破され、道が、希望が見えた。
フィールドで鳥を防ぎながら進む。何だか多くなった気がしたのは勘違いではなかった。
「出水君!」足止めをしてくれていたのを無駄になんてできない。
すぐに烏丸君がヒト型ネイバーを抑えにかかる。
基地まで残り約120メートル。さっきのヒト型ネイバーが待ち構えていた。
ついさっき合流したレプリカが子機を基地まで先行させ、入り口の解析を始めてもらう。
「敵のトリガーは、トリオンに対してのみ効果を発揮する。住宅を通って進むとよいだろう」
回り道にはなるが、仕方がない。会敵するよりかははるかにましだ。
建物のを突っ切って移動している途中、窓ガラスが割れる音が聞こえた。
(まさか…ばれた?!)
正面から鳥使い、後ろから黒い角を生やした女ネイバーが現れる。
どこからともなく小さなゲートが出現し、そこからクラゲが現れて修くんの足を削る。
ATフィールドでひざ上まではいくつか防げたが、予備動作が全くないので対処が難しい。
強引に家をでると、三輪先輩がいた。
「み…三輪先輩!千佳を…こいつを頼みます!キューブにされたうちの隊のC級です!
ぼくはここでネイバーを食い止めます!千佳を…千佳を助けてやってください!」
修くんの訴えに、三輪君は腹蹴りを返す。
「知るか。他人にすがるな」
修くんは、自己犠牲に躊躇がなさすぎる…覚悟が決まりすぎていて、
こっちが不安になるほどだ。半ば呆れた表情のネイバーに、
三輪君は憎悪剥きだしで宣言する。
「どちらにしろ、おまえは俺が殺す」
「…修くん!今のうちに!」
私たちは駆け出した。ついに本部基地の裏口が見えたその時、
突如ゲート使いが姿を現す。
「あきらめなさい、悪あがきは好きじゃないの。」
これ以上の増援は期待できない。トリオン切れではあるけれど、
少し時間を稼ぐだけならできる!
「ATフィールド展開!」
フィールドを小さく多く展開し、ネイバーめがけて散弾銃のように飛ばす。
あたってもダメージはないが、まだそれはばれていないはず。
予想通り上に跳んで回避される。それでいい。時間が稼げれば…
「ザクッ」後ろから音が鳴る。すごく嫌な予感がしたが、振り向かずにはいられない。
私の目は、両断され落下するレプリカをとらえた。
「レ…」修君が絶望感に満ちた顔でつぶやく。
それは声になっていないが、私には悲痛な叫びのように聞こえた。
「言ったはずよ?悪あがきは好きじゃないの」
冷酷な目が、私たちを見やる。
未来の分岐点まで、あと94秒
「修くん!」
止める間もなく半分になってしまったレプリカを抱えて走り出してしまった。
「あなたも…邪魔をするなら消してあげる」
小さいゲートから、トゲが飛び出す。
目に見えるものはすべて外した。しかし、死角からの攻撃は対応できない。
ただでさえトリオン切れだというのに、
このままでは数秒もたたずにベイルアウトしてしまうだろう。
私のATフィールドも、これ以上使えば命に関わる。それなら…
「ピィニィィォォォン!」
「これは…?和泉先輩の⁈」
その直後、ベイルアウトが発動し、基地へ強制送還される。
そしてすぐに修くんに連絡を入れた。
「ごめんね、あなたの心の壁を無理やり具現化させたの。
自分が防ぎたいと思った攻撃なら大体防げるから、どうにか頑張って!」
「ありがとうございます!最高のおきみやげです!」
ここから先は、僕だけでどうにかしなければ…
「オサム…」
「レプリカ…!生きてたのか!」
「私の大半の機能は失われたが、かろうじて裏口の解析ならできる。
しかし、約20秒間、扉の前で粘る必要があるのだ。」
20秒…今のこの絶望的な状況では、とてつもなく長い時間のように聞こえた。
「オサム、1つ提案があるのだが。
私をアフトクラトルの遠征艇に投げ込んでくれ。どうにかできるかもしれない。
それと、無茶を言うようだが心を乱すな。ATフィールド…その壁の耐久力が落ちる。」
「レプリカは…レプリカはどうするんだ!投げ込んで回収すればいいか?」
「私のことは心配するな。妨害工作を完了次第、すぐに戻る。」
僕はそれを聞いて安心する。胸にとっかかりを感じたが、緊張によるものだろう。
未来の分岐点まで、およそ30秒
僕は意を決して物陰から飛び出す。
直後、ワープ女がトリオン体をめった刺しにする。
そのそばには、魚使いも控えていた。このままでは僕だけベイルアウト、
つまり、千佳が置き去りになってしまう。それを避け、レプリカを遠征艇へと
運ぶ最善の一手。
「トリガーオフ!!」
刺さっていたトゲが抜け、僕は一直線に走る。
大量の魚が僕めがけて来るが、トリオン体ではないので、効果はない。
「このガキ…」
ワープ女が正中線を中心にまた小さなゲートを開く。
前方からの攻撃は和泉先輩の壁のおかげですべて防げたが、
背後からのいくつかのトゲが生身をえぐる。
痛かったし、うずくまりそうになった。それでも、決して足は止めない。
「お前の敵は俺だ!」
三輪先輩がネイバーたちに向かって怒鳴る。
魚使いは煩わしさを顔に浮かべて、
ワープゲートを利用した初見殺しの攻撃を繰り出した。
「バカが!その攻撃はもう知ってんだよ!」
先輩はゲートに向けてハンドガンを乱射。それは奴らの体をえぐった。
三輪先輩がゲートで飛ばされてしまう。その光景を横目に見ながら
レプリカを遠征艇へ投げ入れた。
「ハイレイン様、プログラムが書き換えられ、強制帰還モードに移行されました!」
奴らが気を取られた一瞬、ヒスイ色の斬撃が空を走り、ネイバーの体を削った。
それと同時に、衝撃波のような…空閑のトリガーが追撃をする。
もはやどちらのネイバーかもわからない。倒れこんだ僕の手から千佳が奪い取られた。
「…これは!ダミー?!」
そう、奴らに直前までばれないようになるべく視界に入れさせずに持っていたのだ。
僕の最後の時間稼ぎがなんとか成功して、ネイバーたちは去っていった。
ゲートが閉じると同人委、僕の意識は深い深い闇に沈んでいった。
「よぉ、おつかれ」
ベイルアウトしたままベッドに寝転んだままの私に、声が降ってきた。
先輩だ、ATフィールドを使いまくった影響で疲労がやばい。
「先輩…」結果、弱弱しい声しかでなかった。
それが聞こえているのかさだかでないまま、先輩はそばにある椅子にどっかりと座る。
そして唐突に、衝撃的な言葉が紡ぎだされた。
「実は…俺たち、警戒区域外のアパートで暮すことになったんだ。」
自分でもはっきりわかる。顔が固まっていると。
「ありのままさっき決まったことを話すぜ。何を言っているのかわからねぇと思うが、
俺もなんでこんなことになったかわからん。そこで紙にメモしてきた。」
ガサガサと音を立てながら、紙を広げられる。
それは要約すると、こんな感じだった。
まず、アフトクラトルの捕虜を玉狛にて預かるため、私の部屋が使用される。
【悲報】私、住居がなくなる。
大規模侵攻により、忍田さんの家が全壊、先輩の住居が消し飛んだ。
本来なら寮に住むことになるのだが、それも崩壊。
同じ隊かつ幼馴染の私たちならまとめてもいいや、という判断らしい。
あとは、迅さんの予知だそうだ。何気にこれが一番でかいのでは?
「…というわけだ!」
ボーダーになってから、引っ越しの頻度が
めちゃくちゃ高い気がするのは気のせいだろうか。
先輩はよくわからない顔をしている。
困惑と緊張と…安堵がまじった顔だ。あとなんかうれしそう。
修くんのお見舞いに行きたかったが、まだ面会謝絶みたい。
私がもっと強ければ…もう少しだけでもサポートできていれば…
少なくとも重傷から遠ざけるぐらいはできたはずだ。
あ。
ぐるぐる考えて、自分が思考の沼に入ったことに気づけなかった。
突然自分が何かに飲まれるような感覚が私を襲う。
濁流のように激情が頭を流れ、視界はどんどんかすんでいった。
意識が途切れる凛を見ながら考える。
俺はちゃんと笑えていただろうか。
“いつも”でいられただろうか。漠然とした不安ばかり頭に浮かぶ。
迅や忍田さんに言われたことは、凛との同居のことだけではない。
そう遠くないうちにやってくる未来のことも伝えられた。
同居の理由も後付けのもので、その未来のためのフセキらしい。
それはあまりには残酷で…非常なものだった。俺には到底受け入れられない。
このまま何もしなければ…『凛ちゃんは死ぬ』だなんて。
俺には信じられなかった。
120分間にも及ぶ大規模侵攻を終え、一息ついたボーダー達。
太刀川は、どうにかして最悪の未来を捻じ曲げようと奔走する。
そんな中、同居生活が幕を開ける!
次回、『今だけは逃げず、君を見つめて」。