君のトラウマ旋空弧月   作:ミルクネコ

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第25話

「甘い」  ザクッ

 

「フェイントだ」  スパッ

 

「どこを斬っている」  スカッ

 

……「リザルト更新51ー10」

 

「今日はもう終わりだ。来い、食事にするぞ」

颯爽と仮想空間を出ていく風間さん。

 

「だ…大丈夫?風間さん厳しいけど…和泉さんどんどん強くなってるから!」

 

「そうですよ和泉先輩、大丈夫ですって!」

 

「めっちゃ負けてたし、風間さん暇そうだったよ」

 

歌川くんと三上…ちゃん(後輩らしい)が励ましてくれるのとは対照的に、

菊地原君は言葉のスコーピオンを突き刺してきた。

 

「あ、ありがと…」

トリオン体なのになんだか疲れてしまって、

あんまりお礼も言えないまま食堂へ向かう。

 

「和泉、お前は何を食べるんだ?」

カツカレーの食券を持ちながら、風間さんはそう尋ねてきた。

 

「うーん、この豚汁うどんにします」

返事をしながら、財布の中から500円玉を取り出す。非常に安価でうれしい。

「わかった」

 

手が爆速で動き、電子音が遅れて聞こえた。

500円玉を投入しようとしたころには、風間さんの手にはいつのまにか食券が2枚。

「もう1杯食べたいのなら、自分で払え」

500円玉を握ったまましばし硬直したが、ありがたく奢ってもらうことになった。

 

私には給料以外にも小遣い稼ぎ(お菓子作り)がある、

そう説明してもまったく動じず「カレーが冷める」と返されてしまった。

 

「それで太刀川とはどうなんだ、同居を始めたと聞いたが」

 

ほんとになんでも知ってるなぁ。うどんをフーフーしてからそれに答える。

「外食して買い物して…そのくらいですよ」

 

「ほう、いろいろ大変だろうがあいつを頼む。」

 

今のところそこまで大変には感じないが…昔より全然マシだと思う。

「というか、いくら幼馴染とはいえ、なんで同居生活を…」

 

途中まで行ったところで、私は口を閉じた。

風間さんがナプキンを持ってこちらに手を伸ばしたからである。

 

突拍子もない行動に思わず体が硬直して動かない。

口端に乾いた紙が触れ、小さく動かされる。

 

「とれた」

ネギの切れ端がくっついたナプキンを見せられるがうまく状況が飲み込めない。

ツルツルのうどんも、しばらく喉を通らなかった。

 

「あ…ありがとうございます?」

やっと言葉を出せたと思ったら、語尾が少し上がってしまう。

 

要するにめちゃくちゃ混乱しているのである。

しばらくお互い無言で食事を進めていたが、

先に食べ終わった風間さんが立ち上がった。

 

「すまない、この後会議があるんだ」

 

鋭い目の中に申し訳なさを滲ませながらそう言われて我に帰る。

「いろいろありがとうございました!

ご飯も頂いちゃって…会議頑張ってくださいね!」

 

言葉を選んでいる余裕はなかったが、言いたいことは言えた気がする。

ニコリと笑って、風間さんは去っていった。本当に、どこまでもかっこいい人だ。

 

うどんをお腹に収めて、個人戦ロビーへ向かう。

対戦用のタブレットをいじっていると、不意に声をかけられた。

 

「和泉さん、久しぶり」

その声の主は…

「村上君!久しぶりだね、そちらの方は…?」

 

村上君の後ろには、帽子をかぶったイケメンが立っていた。

 

「荒船隊隊長、荒船哲次。スナイパーだ。」

 

「太刀川隊アタッカー、和泉凛です。よろしくおねがいします」

会釈されたので会釈を返す。村上君によると、どうやら共に18歳みたい。

 

しばらく話した後、荒船君は個人戦を申し込んで来た。

断る理由なんてない。もちろん快諾したのだが、私はある違和感を感じた。

 

「荒船君ってスナイパーって言ってたような…」

 

「俺は元アタッカーなんだ、んじゃ、さっそく戦ろう。」

 

早くも戦闘狂の片鱗が見えた気がした。ブースに入った途端に戦闘が始まる。

荒船君は孤月を八双に構えていた。

 

全方位に対応できるものの、孤月のない半身…左側が手薄になる構えだ。

私はバックステップで距離を取り、ハンドガンを数発撃つ。

 

頭と左足に向かってアステロイドが飛んだが、身体を右に捻って回避された。

しかしそれでは体勢が悪い。

 

回避する直前にスタートを切り、さっきと打って変わって距離を潰す。

孤月の間合いに入った途端に袈裟が落ちてきたが、

 

サイドステップで躱してカウンター。振り下ろされた刃は荒船君の左腕を切断した。

直後に返礼の横薙ぎが走り、追撃をしようとした私は後退を余儀なくされる。

 

「なかなかやるじゃねぇか」

そう言いながら荒船君は空中に跳び、孤月を振るう。なぜそこで⋯

 

「ヤバい!」

「旋空孤月!」

 

金色の斬撃が眼前に迫る。咄嗟に前転したが、右脚の膝まで持っていかれた。

「トリオン漏出過多、戦闘不能」

 

そうしてすぐに2戦目が始まるが、私は少し焦っていた。

たぶん…いや確実に弱点を見抜かれてしまった。ずばりトリオンの少なさである。

 

1発でも斬撃が直撃するだけで致命になりうるレベルで決定的な弱点だ。

「来ないなら、こっちから行くぜ!」

 

爆発的な踏み込みと共に凶刃が私を襲う。

まっすぐの太刀筋を外すのは簡単だが、

絶妙な間合いをキープされてこちらの攻撃が届かない。

 

スコーピオンを伸ばすことができれば良いのだが、

相手は孤月。故に斬り合いではいかんせん不利だ。

上に跳んで躱すがそのスキを見逃すほど甘い相手ではない。

 

見事な切り替えで、すぐに旋空の構えに入っていた。

私はすかさず空中でハンドガンを両手持ちで撃つ。

 

後退しても前進しても1発は当たる弾道を前に、荒船君はシールドを展開した。

動きが止まったその一瞬、極限まで集中してスコーピオンを投げる。

 

速度重視で六角手裏剣のように変形させての投擲。

それは弧月によってはじかれてしまう。

 

しかしその直後、一瞬にも満たない時間で勝敗は決する。

私はポイントシューティング…速度最重要視射撃で引き金を引いた。

 

スコーピオンでは遠すぎる、ハンドガンでは近すぎる、

そんな間合いなら狙いなんてないようなものだ。

放たれた[[rb:弾丸 > アステロイド]]は荒船君の心臓を射抜き、

2戦目の白星は私が奪い取った。

 

「「引き分けかぁ…」」

 

結果的に5-5で引き分けとなり、ポイントの移動は行われなかった。

どんどんクールな荒船君が猛獣のような猛々しさをむき出しにしてきて、

私もなんとなくそれにつられてテンションが爆上がりしてしまった。

 

さんざん他人のことを戦闘狂だとかバトルジャンキーとか言っておいて、

いざ自分がそうなったらどうすればいいのだろう。

 

「荒船強いじゃん。アタッカー極めればいいのに」

 

「バーカ。俺は[[rb:完璧万能手 > パーフェクトオールラウンダー]]量産計画を進めてんだ。

レイジさんがゴロゴロ生まれる日も近いうちに来る!」

 

すんごい壮大な計画だが、レイジさんがいっぱいいるのはなんかシュールだ。

 

「和泉、今度玉狛とランク戦すんだけどさ、絶対見ろよ!」

 

「うん!応援してるから頑張ってね!」

 

…私って玉狛に一応所属してるよね

まぁ…どっちも頑張ってほしいしどっちも応援すればいいだろう。

 

「ごめん。私この後用事があるからさ、帰るね!」

「おう!また戦ろーぜ!」

 

「おつかれ和泉さん」

家に着いたら少し休んで…約束の買い物に行く準備をしなきゃ。

 

(友達って…荒船や村上君たちのことなんだろうな…)

久しぶりの充足感を味わいながら、私は帰路についた。

 

調理器具を買い、慣れない新居での生活は始動する。

個人戦、B級ランク戦の観戦、人との対話を経て、

徐々に凛は、日常に喜びを見出してきていた

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