「んじゃあ、始めるね〜」
柚宇ちゃんはそう言いながら再生ボタンを押す。
ROUND2の荒船隊vs玉狛第2vs諏訪隊のランク戦ログを
東さんが解説してるならみんなで観ようと言うことになり、
作戦室のモニターに写して観戦しているところだ。
「市街地C…スナイパー有利の地形じゃんか」
玉狛第2のマップ選択に驚いて出水君から声が上がる。
道路を間にはさんで階段上の宅地が斜面に沿って続く地形…
上をスナイパーに取られると一方的に狙撃される大変ピーキーだと解説が入り、
しばらくしてから各隊員の転送が始まった。
荒船隊が上を取り、玉狛に集中砲火を浴びせる。
その隙に諏訪隊が接近して攻めにいくが、半崎隊員による狙撃が諏訪隊長を…
と思ったらピンポイントで防ぎ、建物を盾に距離を詰めにかかる。
位置がバレた半崎隊員を遊真くんと堤隊員が強襲し、遊真くんがその場を制す。
そのまま荒船君を仕留めにかかったが、荒船君はそう簡単には落とされない。
「あれ?和泉は荒船さんのこと知ってんの?」
「個人戦で何度かやり合ったから顔馴染みになったんだ。」
穂刈隊員の援護もあって戦況は荒船隊有利に働いている。
しかし、笹森隊員が穂刈隊員を追いかける。
「完全にマークされてる、こりゃ厳しいな」
太刀川先輩が顎に手を当ててそう言った次の瞬間、
穂刈隊員が逃走をやめて遊真くんの左肩を撃ち抜いた。
すぐに笹森隊員が追いついて孤月を一閃。その間に…
「荒船君!」
思わず半分くらい叫んでしまった。トリオン体ではあるものの、
知人が怪我をするのを見るのは気分のいいものではない。
情報量が多すぎてあたまがこんがらがってきた。
助けを求めるように先輩の方に顔を向けると、
渋い顔をしながらも素早く察したのか話し始めた。
「玉狛のチビがグラスホッパーで上に跳ぶと思わせて
注意を削いだ瞬間に速攻した…こんな感じだろ」
それに後追いするように解説が語り、先輩の説明と内容はドンピシャだった。
「お〜大当たりだね〜」
「だろ?」
試合は玉狛第2の圧勝で終わり、総評も全て聞き終え、固まっていた身体を伸ばす。
「ところで凛、荒船とはどういう仲なんだ…?」
ソファに腰を下ろしたまま、硬い顔をしている先輩に訊かれる。
一昨日からとは言えメッセージのやり取りもしているし、
廊下ですれ違えば軽く雑談を楽しむ…そうして少し考えてから返事をする。
「友達かな、風間さんの修行あるからそろそろ行くね」
「「いってら〜」」柚宇ちゃんと出水君に送り出され、私は作戦室を出た。
先輩の顔が怖かったのは何故だろう、
風間さんと戦り合っているうちにその疑問は頭から追い出されていった。
凛が作戦室から出ていった瞬間、俺はがっくりと肩を落とす。
頭の中ではさっきから「荒船君!」という悲痛そうな叫びがこだましていた。
「太刀川さ〜ん、どうするの〜?」
「このままじゃぁ、和泉と荒船は…」
ニヤニヤ笑ってこっちを見る2人が嫌でも視界に入る。
「あぁぁ!お前らうるせぇ!」
図星かな、と茶化す声が聞こえたがもう無視することにした…けど…
自分の中から不安が溢れ出してきた。幼馴染で、任務とはいえ同居もして、
お菓子作って電話して…言葉にしがたい漠然としたこの気持ち。
荒船が悪いとは思わないし、もちろん凛も悪くない。
(くそ、俺はどうしたら)
気分転換…いや、やつあたりに近いものなのかもしれない。
いつものように個人戦をしていたが、
思考がごちゃついてるせいかいつもより強引に攻めてしまう。
勝ち越してはいたが、そのせいで斬られる回数は多かった。
しばらく戦ってひと段落してベンチに座っていると不意に声をかけられる。
「あら、そんなに怖い顔してどうしたの?太刀川くん」
「加古…」
俺はいつのまにか凛と荒船のこと、そして俺のモヤモヤのことを話していた。
自分でもなぜ話そうと思ったかわからない。
このことをウワサとして広められるかもしれないとは不思議と思わなかった。
あらかた話し終えた頃には、また思いがぶり返してきて自然と下を向いてしまう。
照明を反射しているだけの白いタイルですら、俺には眩しく見えた。
「太刀川くん、荒船くんのこと、想像してみて」
「想像…?」
「ええ、彼の印象とかを思い浮かべてみるのよ」
勝気で戦闘狂。でも周りを気遣えるやさしさも備えている好青年。
嫌いだとは微塵も思わないし、戦って楽しいと思える相手だ。
しばらく間を開けてから、加古が続きを話し始める。
「じゃあ、凛ちゃんと一緒にいる荒船くんは?」
…なんだこれ。いらだちのような焦燥感が胸に広がるのを感じる。
それは一度感じた途端、
紙にたらされた絵の具のようにじんわりとじんわりと俺を染めていった。
「いい気持ちはしないでしょう?」
俺がこくりとただうなずくのを見て、加古は満足そうに微笑んでから口を開く。
「それが『嫉妬』よ。」
嫉妬って…「教えられるのはここまで、応援してるわね♡」
俺が問いかけようとした瞬間、ねこだましを食らったように勇み足を止められる。
加古が去ってからしばらくしたが、俺はその場から動けなかった。
ふと彼女が座っていた方をなんとなく見ると、個人戦ロビーのモニターが目に入る。
出水と二宮の放つ弾幕が画面を満たし、本人たちはほとんど見えなくなっていた。
結果は5-4で出水の勝利に終わり、モニターが切り替わる。
尿意を感じてトイレに行って用を足していると、スマホから着信音が発せられた。
手を洗ってからしかたなく電話を受ける。根付さんの声が聞こえ、
要件をきくとめずらしく申し訳なさそうに返答された。
「太刀川隊に、あるB級隊員を入れてほしいのですが…」
へ?どゆこと?理解が追い付かない俺にイラついたのだろう。
「とにかく広報部に来なさい!」
そう言われるだけ言われて切られてしまった。
俺でもわかるくらい焦りが見え見えで、何を言っているのかよくわからない。
とりあえず言われた通りに広報部業務室に向かうことにした。
個人戦ロビーからは若干遠く時間がかかったがようやく着いて扉を開ける。
「遅いっすよ太刀川さん」
すでに出水、凛、国近がそこにおり、向かいには根付さんと知らない男がいた。
俺たちがそろったのを確認して、根付さんが話始める。
「え~太刀川隊に折り入ってお願いがあります。
こちらの唯我尊くんを仲間として迎え入れてほしいのですよ。
これは上層部のよる決議を経て確定した事項ですのでね…では、自己紹介を」
するとそいつは前に一歩踏み出し、胸を張ってしゃべり始めた。
「はじめまして、僕の名前は唯我尊。
((((なんだコイツ))))
そんな状況をいち早く脱した俺はこいつに提案をすることにした。
「おいお前、俺と戦え。」
なんとなく一歩前へ出てからのこの一言。
その場にいた全員の視線が向けられるのを感じる。
実際には10秒にも満たない、長い長い沈黙が部屋を満たす。
「じゃあ根付さん、ほかに用事はないですか〜?」
「えぇ。ありがとうございました」
国近の援護により窮地を脱し、個人戦ロビーにみんなで移動することになった。
移動中ずっとこいつは自慢話を絶えず続け、ブースに入る直前に軽く煽ってきやがった。
それに腹を立てるほど俺は子供じゃないが、全力でボコボコにしてやろうと決意を固める。
とりあえず5戦やることになり、しばらくして仮想空間へ転送される。
俺の視線の先いるこいつは銃もかまえず両手を広げてしゃべり始めた。
「さぁ、どこからでも…」
『旋空孤月』いくらなんでも隙だらけすぎたので、
俺は神速で弧月を振るって胴を飛ばした。
しゃべっていても警戒MAXの奴だって大勢いるが、少なくともコイツは強くなさそうだ。
両断されたトリオン体が再構築され2戦目が始まる。
「このボクが話している途中ーっ!」
うるさい口は開きっぱ、奴の正中線を切り裂こうと旋空を飛ばす。
なんとか反応したみたいだが左胸に深刻なダメージを負っており、
しばらくしないうちにトリオン漏出過多により戦闘不能となる。
3戦目にしてようやくやる気になったのか銃を使い始めた。
ハンドガンを使っているにしてはアサルトライフル並みに距離をとっての射撃。
離れていてわかりやすい軌道のお陰で躱せてはいるが、
さっきのように旋空の構えに入る暇を探すには一苦労しそうだ。
ただ…だんだんとタイミングが一定になってきた、
これなら真正面から行っても難なく突破できそうだぜ。
放たれた弾丸を孤月ではじいて、それを合図に俺は駆け出した。
2丁の
「距離詰め放題じゃん」
減速せずに急接近、コイツを射程圏内に収めた瞬間に首を掻っ切った。
それがよほど応えたのか降参を申し出るのを無視して4、5戦ともに勝利。
「降参しますって言っだのに〜!」
「太刀川さんに勝とうなんて100年早いな」
「お、お疲れ…」気のせいか?凛が若干引いてるように見えるのは。
試合を終えてから自己紹介をし合い、
しばらく雑談をしていると加古と風間さんが話しかけてきた。
軽い挨拶をそれぞれし合ってから俺たちに向き直って口を開く。
「太刀川隊に新しいメンバーを入れたって聞いたけれど…」
「はい!唯我尊と申します。
あなたは加古隊隊長加古望さんでよろしいですか?」
胸に手を当ててうやうやしく答える唯我に軽く返事をしてから、加古は俺たちに向き合った。
「提案なのだけれど…明日あなたたち太刀川隊と私の加古隊、
そして風間隊のみんなで非公式戦をやらないかしら。なんちゃってランク戦みたいな感じでどう?
B級ランク戦を見ていたら自分たちもやりたくなっちゃったって風間さんが」
「和泉と唯我のチーム戦経験の不足を懸念したまでだ。
それに全正隊員で最年少の加古隊
予想だにしない提案が飛び出てきたが…俺の一存で決めるべきじゃないだろう。
「お前らはどう思う?」
「賛成で~す」
「賛成だよ~」
「確かにやったことないし…賛成!」
「当然、ボクに任せたまえ」
みんな口々に返事を返す。全員肯定だとわかった途端俺もやる気がわいてきた。
「じゃあ明日の11時からね。それじゃ私申請してくるわ!」
意気揚々と加古は駆け出していき、俺たちは戦略を練るために作戦室へ移動する。
風間さんの言う通り、凛と唯我は隊での戦闘経験が少ない。
凛はまだ防衛任務や大規模侵攻で連携をとる機会があったが、唯我は0だ。
「それじゃ、相手の情報をみんなで共有しておこうね~」
今回は国近にミーティングを進行してもらうことにした。
「まずは加古隊からかな」
大体の奴らは知っていたが、新入りの黒江のことはあまり知らなかった。
俺が個人戦に誘ってもなぜか相手をしてくれないのだ。
緑川としているのはよく見るのに…
一通り隊員の紹介を終え、話題はどう動くかなどの作戦決めに移っていった。
「相手は間違いなく和泉と唯我を狙うでしょ。
特に
「ひどいです出水先輩!カメレオンで隠れていれば倒されません!」
出水の言うことは正しい。俺の凛は力をどんどんつけてはいるものの、
いかんせん経験不足であることは否めない。
ランク戦と同じルールな以上、弱い奴から落としていったほうがかなり楽だ。
「なら合流を急いだほうがいいな。凛、なんか案あるか?」
少し考え込む動作をした後、凛は俺たちの方に向き直りこう言った。
「マップも配置もランダムなら、いくつか合流パターンを作るべきだと思う。
2部隊に分けたり、私だけ単独行動して後で合流とか…」
「おっいいじゃないか。さっすが凛ちゃん」
よしよしと凛の頭をなでる国近。俺もなでてぇ。
「とにかく多対一を作らせないようにしねぇと…太刀川さんは何かあるんすか?」
「こいつを適当に走らせておとりにするのはどうだ?」
カメレオン持ってるし、そう付け加えた俺に唯我は猛反発する。
「断ッじて断る!さすがに3対1の構図になったりすればボクでも落ちてしまう!」
逆に2対1までならなんとかなると思ってんのか。
「まぁとりあえず、
基本にして王道の提案を遵守することにしよう。
風間隊と加古隊のログを見ておさらいし、時間が時間なので解散することになった。
凛と一緒の帰り道、突然ぶるっと震えたのを見て自然と笑みがこぼれる。
そうさせたのは冬の寒さかはたまた緊張か…こういうときの冬は嫌いだ。
なんとなく国近がやっていたように凛の頭をなでると、頬を赤く染めて手をつかまれる。
つかまれたまましばらく空中に浮かべられ、そして離される。
名残惜しさゆえに俺は軽く目を細めるが、凛はそれにはやはり気づかない。
ミーティングが終わってからぐらいだろうか、
こいつがなんとなく焦っているような感じがするのは。
最初は緊張とか、新メンバー加入に気疲れしたのかと思って
励ましたり茶化したりしてみたのだが、どうも違うらしい。
俺の言葉に返されたものはいつもよりずっとつれない言葉だった。
それが何か聞こうと思いつきはしたものの、試す気には不思議となれなかった。
触れてはいけない気がするとかいう俺のカンを信じるのはなんとなく癪だったが、
後からいくらでも聞けばいい、そうすればきっと答えてくれると自分をなだめることにした。
そうこうしているうちに少しずつ慣れ始めた“我が家”につく。
料理を分担して作り、風呂に入り…大体決まっている流れを終え、
寝るにはいささか早い時間をつぶすためにリビングでテレビを見ることにした。
しばらくみているうちに凛も隣に来て一緒にみていたが特に話はせず画面に目を向ける。
番組が終わって次のに切り替わったが…あんまりおもしろくない。
なんとなく左肩に重みを感じて横を向くと、俺の肩に頭を預けている凛がいた。
ほぼ反射でテレビを黙らせ、その後どうしたものかと頭を悩ませる。
起こすか運ぶか何もしないか、最後のは即座に斬り落とし、2択で俺は迷っていた。
加古に相談…俺が動けばこいつは支えを失ってぶっ倒れちまう。
いくらソファーとはいえ、まくらほどやわらかくはないのだから少し危険だ。
運んでいる途中で起きてしまったらなんとなく気まずいし。
だからといって起こすのも良心が痛む。一番楽ではあるんだよなぁ。
あれこれ考えた末、寝室に運ぶことにした。もし風邪ひいちゃったら大変だ。
下心が完全にないといえばうそになるが、さすがに心配の圧勝に決まっている。
サイドエフェクトのこともあるし、休憩はちゃんと取ってほしいと思う。
両足を肩幅に開いて下半身に意識を向け、慎っっっっ重に体を抱き上げる。
常日頃から鍛えているおかげで階段を上るときもわりかしスムーズにできた。
部屋の前まで来れて安堵したのも束の間、新たな問題が俺を阻む。
(これ…どうやってドア開けんだ…?)
凛を抱えながらだと絶妙に手が届かないドアノブ。
こんなのにムカつくなんて思ってもみなかった。なるべく音は立てたくなかったが、
俺は足を上げてかかと落としの要領でドアを開ける。
ガチャ、というわりかし大きな音が鳴るけど…よかった、どうやら起こさなかったみたいだ。
ベッドまでカニさん歩きで到着し、できるかぎりそっと寝かせる。
その上からお布団を優しくかけて、俺はいそいそと自分の部屋へ退散していった。
ある種のミッションを終えて緊張感が抜けたのか、
待ちくたびれた睡魔が俺をベッドに引き寄せる。
安堵感と達成感に浸りながら、俺は目を閉じた。