太刀川side
海岸で聞いた懺悔ではなく、前を向いて生きるために口に出した謝罪。
凛のケツイに満ちた話を聞き終えた後、
お疲れ様の意を込めて、俺はこいつの背中をさすっている。
そうしているうちに携帯が机を揺らし、俺は城戸さんからの呼び出しを受けて、
2人で会議室へむかうことにした。 あんな話の後だ。俺は何を言うわけでもなく、
ただ凛のことを考えていた。ボーダーに入ってくれたのは嬉しかった。
しかしさっきの話、正直言って聞きたくないことだらけだった。
凛は自分のことばかり否定し、俺のことは一切責めなかった。
自分のことを完全に忘れて他者のことばかり気にかけるくせに、
俺が半年もの間、必死に探し回ったことも知らないで、
自分だけが悪だと決めつけてしまう。
どんな罵声も真正面から受け止める覚悟でいたというのに、
凛から溢れ出る健気さにグッとくると同時に、俺自身が情けなくなってくる。
もっと自分を大切にしてほしい。 というかしろ。
そんなことを考えながらしばらく歩くと会議室についた。
顔には出ていないはずだが、俺は若干緊張していた。
扉の前で立ち止まった俺は振り返ると、
自分を鼓舞する意味合いも込めて気丈にふるまう。
「そんな緊張すんなよ。サクッと終わらせてメシでも食おう。」と言うと、
「先輩…」不安そうに俺を見つめてから、凛は確かにうなずいた。
まっすぐ俺を見るセルリアンブルーの瞳から、ケツイが伝わってくる。
それに背中を押されるように、俺はドアを開けた。
上層部と迅、風間さんといういつものメンツではあったが、 違和感が1つ。
忍田さんまでトリオン体となっていたのだ。鍛錬で見慣れた姿ではあるものの、
凛の一挙手一投足に警戒しているさまは、威圧感に満ちていた。
城戸さんが全体を見回した後、すぐに会議が始まった。
「和泉。君のサイドエフェクトは非常に強力なことはモニター越しに確認した。
私たちボーダーとしては、ぜひ君とともに戦いたい。ただ1つ、懸念点がある。
過去にA.Tフィールドについて研究していた施設が 被験者によって
制圧されたという事件ががあったのだが…」
そこまで言って城戸さんは凛を凝視する。
「そのような事態が起こらないと断言できるか?」
「あなたから見て右にいるその男、迅悠一は、 未来視が行えるのです。
結果をきいてみるとしましょう。それではっきりするでしょう。」
根付さんが間を開けずにそういった。
どうやら、凛にしゃべらせる気はないらしかった。
それを受けた迅が一歩前に出て、報告を始める。
「まず、どこかの時点で和泉さんの力は暴走する。 タイミングはわからないけど、
少なくとも城戸さんが言った事件みたいに、犠牲者はでなさそうですね」
それを聞いた俺はほっと胸をなでおろす。
もしも命にかかわる事態になるなんて未来なら、
凛の身に何が起こるかわかったもんじゃない。
その事件では職員が全員死亡、研究所は砂塵と化したそうだ。
ちなみに研究データは外部のPCに保存されていたらしく、無事だったらしい。
ひとまず、様子見ということになり、俺たちは会議室を出た。
すぐ後ろについてきた迅に視線を向けると、
「大丈夫、対ネイバーで特記戦力になれると思うし、どうにかなるよ。」
と先読みして言った。なら大丈夫だろう。
安堵したところで、前から風間さんがやってきた。
「太刀川、ちょうどよかった。ソロランク戦でもやらないか?」
風間さんからの誘いなんて珍しすぎる。い
つもの俺なら 2つ返事未満で快諾していただろう。戦いたい衝動に駆られながら、
俺はそれを断った。病気なのかとかなり心配されたので、
慌てて紹介したい奴がいると話す。風間さんは凛を2度見してから自己紹介をする。
「初めまして。俺は風間蒼也。
入隊早々こんな奴に絡まれて大変だったろう。これからよろしく頼む。」
確かに上層部に呼び出しをくらうのは大変だと言える。
そう考えた俺がうなずくと、なぜか風間さんはため息をついた。
とりあえず今いる隊員だけでも顔合わせをしておく方が良いだろう。
そう言って風間さんは食堂へ向かう。いまはちょうどお昼時であった。
「さき行ってていいよ。ちょっと話があるんだ」
迅がそう言ったので俺は素直に風間さんの後を追う。
たいして時間差はなかったはずだが、俺が到着したのを見た連中が近づいてきた。
どうやら俺がランク先輩を拒否したことに驚いたらしい。食事をしている最中、
風間さんを筆頭に普段からズケズケ言ってくる加古や当真、
本気で心配してくる鋼や堤。もはやしつこいまであった。 この時点でめんどくさいのに、
察しているのかいないのか、二宮に至っては無言でガン見してくる始末だ。
俺が何したって言うんだよ。
うどんの力を借りて適当に誤魔化している俺に、
助け舟が現れた。いつのまにか凛との話は終わったらしく、
迅とその後ろから顔を出す凛の姿が見えたのだ。助かったと安堵したのも束の間、
いつもより数段高い、加古の声がした。
「あら、女の子じゃない。私は加古望あなたは?」 さすが、判断がはやい。
迅が何か言う前に加古が声をかけていた。 突然のことに驚いているのか、
凛は助け舟を求めるようにキョロキョロと周りを見る。
悪いな。その船はもう俺のもんだ。
加古の質問攻め、 困ってる凛を見て笑う当真、両方を落ち着かせようとするも、
気になるのかやはりチラチラ凛の顔を見る鋼。騒ぎを聞きつけてやってきた生駒…
どんどん収拾がつかなくなってきた。
さすがに助けるかと腰を浮かせた直後、
「きゅぅぅぅ」というなんとも可愛らしいお腹の音が鳴った。
決して大きくないはずのその音は、さっきまでの喧騒を一瞬でしずめてしまった。
その隙に俺は凛の分のメシを買いに席を立つ。席に戻って食い終わるまで、
凛はガン見され続けていた。そうしてひと段落ついたところで、
迅が自己紹介を促し、ようやく自己紹介がはじまった。
「あ、えっと、和泉 凛、16さいです。趣味はお菓子作りで、 最近は作れてないけど、
昔から色んなの作ってました…えっと…」 緊張が全面に表れているのが気になってしまい、
「こいつの両親パティシエだったんだ。シフォンケーキとか結構うまいぞ。」 と、
思わず口を出す。俺はすごい軽い気持ちで、ただ補足をしようと呟いただけだった。
それを聞き逃さなかった一同に電流走る。 最初に口を開いたのは加古だった。
「ちょっと?!なんでアンタが凛ちゃんのこと知ってるワケ?!」
「実は…太刀川先輩とは幼馴染なんです。家も隣だったので…」
上目遣いでそう答える凛によってまたこいつらは騒ぎ始める。
風間さんが不安そうに、「太刀川、お前まさか…」 と口元に手を当ててつぶやく、
何を言うのかわからないが、とりあえず否定しておいた。
生駒に続く野次馬としてやってきた諏訪さんはさっきからニヤニヤ笑っており、
そんなのおかまいなしに加古が凛に声をか。
「凛ちゃん!私が男どもから守ってあげるからね!」
「あ、ありがとうございます。えっと、加古先輩?」
先輩と呼ばれてよほど嬉しかったのか、あいつは握手した手をブンブン振って、
それはそれはすごい笑顔を浮かべていた。
そろそろいくぞ。」こいつのトリガー構成を決める用事があるので、
かなり強引に連中と別れる。加古と鋼がついてきたが、まあいて困るわけでもない。
訓練室へと俺たちは歩き始めた。
ポジションは決まってるの?サイドエフェクトに合わせたやつにしたくて…
ああやって何の気なしに話しかけられる奴らが、
俺には少しうらやましく思えた。