太刀川side
訓練室を出て廊下を歩いていると、向こう側から迅が歩いてくるのが見えた。
俺は挨拶より先に凛との訓練について話す。
「つーかあいつのこと知ってたんだな。」
「まぁね。お姫さまだっこで運ばれてれば目立つでしょ。」
あのときは急いでいたし仕方ない...ということにしよう。
「技術も動きもなってねぇが、筋はいい。」
「それ、凛ちゃんに言ってあげた?」
そう迅が返してきたが、答えを口にするのは少しはばかられた。
理由は…わからねぇ。
我ながら自分らしくないとは思う。
「ふーん...じゃ、おれもう帰るから。」
迅の言葉を聞いて少し経ってから重大な問題を思い出す。
「凛の帰る場所!昨日は医務室だったからすっかり忘れてた!」
いくら元の家とはいえ、 瓦礫で埋もれた場所ですと答えさせるわけにはいかない。
俺にしては素早く思考を回し、帰ろうとする迅を引きずって手早くワケを話す。
忍田さんに連絡をして、 ボーダー内の寮の一室を借りることに成功。
凛をそこへ案内したのちに別れることにした。 凛はまだ話したそうではあったが、
迅が休んだほうがいいと言っていたので、仕方ない。いろいろあって疲れているだろう。
「今日はすごく楽しかった!
村上くん、太刀川先輩、えっと...迅先輩もありがとう!」
「おれ何もしてないけどね。」「ああ、おつかれ。」「……ああ」
パタンと音を立て、扉が閉められる。
「太刀川さーん、飯いかない?」
「あぁいいぜ。村上、お前も来いよ」
「ありがとうございます。」
俺たちは来た道を引き返して食堂へと足を進める。
ふとその時、どこかからノイズのような音がした。
『先輩、後で私の部屋に来て』
異音がしてすぐに誰かの声が脳に響いた。
「ん?何だ?」
反射的に当たりを見渡すが、声の主の姿は見当たらない。
「どうしたんですか。太刀川さん。」
何も無いところで立ち止まった俺が気になったのか、村上が声をかけてくる。
「いや、なんでもねぇよ。」
了解、内部通信ごしに呟いた俺の答えは届いただろうか。
しっかしなぁ…太刀川「先輩」かぁ...
「手が止まっているぞ太刀川。目の前の課題に集中しろ。」
「わかってるって風間さん。考えてるんだから邪魔しないでよ。」
今は風間さんにせっつかれて高校の宿題を進めている真っ最中。
なぜ俺がこんなことになったのか、俺が聞きたいくらいだが…
迅たちと食堂で腹ごしらえを済ませたあと、
ソロランク戦ロビーに出向いたところで風間さんに遭遇。
忍田さんから命令を受けたとかで連行されてこうなったんだっけ。
学校では1月というのは受験シーズンらしく、
クラスメイトもすごい必死に勉強していた。
でも俺はボーダー推薦での大学進学が決まっているのに、
なぜ勉強ををやらなければならないのかはよくわからなかった。
「お前…大学でその調子だと留年するぞ」
授業をさぼりまくるつもりはない。さぼりはするかもしれないけどな!
「まっさか〜、最低限はやるから大丈夫だって。」
風間さんは渋い表情をしながら、俺の答案に目を通す。
「履修登録を筆頭に、大学では様々な手続きを自分で行わなければならない。
取り返しのつかないミスがあったとしても、それはお前の責任だ。
誰かに泣きついたところで結果は覆らないことを覚えておけ。」
「やるべきことはわかってるからさ、ちょっとは信用してくれてもいいんだぜ?」
ふーっと長いため息をついてから風間さんは顔を上げた。
「それは...ソロランク戦の事か?」
「それもそうだけど…今は別のことかな〜」
「そうだな。今お前がやるべきことは…」
ガシッと肩を掴まれる。
「この宿題だ」
目の前が突然真っ暗になった気がした。