鴉天狗達と撮った写真   作:ニア2124

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長い間投稿出来ず、申し訳ありません。
二ヶ月程の期間が空いてしまった次第で……弁明のしようも無い次第です。

これからは、出来るだけ早くに次話投稿をしようと思います。期間を開けてしまったことを、ここにお詫び申し上げます。


天狗の本心

 

 俺の瞳に捉えられたのは、黒同士の影が美しく舞う姿だけだった。

 

 文が葉団扇を構えたと思ったら、身を維持出来ない程の強い風が吹かれ。月夜の淡い光に照らされ、空を舞う彼女は一つの絵にも成りえそうだ。

 恐るべき移動速度を持って、黒の残像だけを残しヒトカゲを蹴散らしてゆく文。圧倒的な強者を前に、黒のヒトカゲは蹂躙され、為すすべもなくその身を散らしてゆく。

 

 最早畏怖や恐怖までもを俺に覚えさせ、無意識に身体が震える。俺の(かたわ)らに佇む刹那でさえ、息を呑む雰囲気が見られた。

 これは妖怪同士の戦い。人間がしゃしゃり出た所で、瞬間も持たず肉塊になっているだろう。思わず自虐にも似た苦笑を浮かべ、俺と刹那は唯唯、暗闇の公園を二人で静かに佇んでいた――。

 

 

  ♥

 

 

 最後の最後にヒトカゲは、身を儚く発光させたかと思うと、夜の闇と同化し消え去っていた。

 公園の惨状は凄まじいものだった。幾つかの地面は抉りに抉れ、木々の多くは伐倒され粉状になり、木屑として風に攫われ闇の彼方へと飛んでいった。

 

 やり過ぎじゃないかと胸の中で小さく思うも、仕方ないと一言で無理矢理自身を納得させる。文は葉団扇を一の字に振ったかと思うと身を翻させ、俺に可憐な笑顔を向けた。

 とてもじゃないが、先程まで圧倒的力を持って刹那に憑いていた烏天狗を退治させた者とは思えない。もう一度、小さく口元に苦笑を貼りつけながら、俺は文に大きく手を振った。

 

「お疲れ様」

「退治料一千万となります」

 

 俺の傍らまで近づいた文に声を掛けるなり、彼女は嫌らしそうに手をすりすりと擦りながら、突然に退治料を請求してきた。

 多少の脱力を覚えながらも、何時も通りの彼女だと安心している俺が居る。癖になりかけている溜息を小さく吐きながら、文の言葉を一蹴する。

 

「居候の分際で何を言うか。帰りにコンビニのアイスクリームくらいは奢ってやるから、それで我慢しろ」

「本当ですか!? チョコソフトクリームを希望します!!」

「チョコソフトクリーム……有ったかなコンビニに。まぁ無かったら他の選びなさい。今日だけ特別、どんなに高くても一個だけなら許してやる」

 

 そう言うと、文はまるで俺のことを信者がイエス・キリストを見つめるように潤んだ、そして信愛なる瞳を向けてきた。たかがアイスクリーム如きでオーバな、と思うも口には出さず胸の中だけに押し留める。

 すると、俺と文のやり取りを眺めていた刹那が一歩足を踏み出すと、黒い髪を美しく舞わせながら、文に頭を下げた。

 

「有難うございます。本当に、この礼は何時か精神的に必ず」

 

 どこか慣れない感じに礼を口にする刹那。それでも、文は礼を言われるのが満更でも無いのか、文字通り天狗になりながら胸を張っている。偉そうにしているが為か、多少カチンと来るのは仕方が無い事だとは思う。

 

「それにしても、何が同族は殺さないだよ。あっさりする程気楽に手に掛けてんじゃん」

「しょうがないですよ、真さんが危なかったんですから。それにしても、何で私が付いて来ているのに気付いたんですか?」

「なんかお前の気配を感じ取ったから」

 

 そう返すと、文は意外そうに目を丸くさせた。

 詳しく言うと、俺が刹那を探し回っている所で文の気配を感じ取れたのだ。鴉の羽が大きく羽ばたく羽音。それを聴くなり、即座に文が付いて来ている事を理解出来た。

 

「そうですか……。う~ん、長い間(天狗)と一緒に居ますからね、もしかしたら怪異等の存在を敏感に捉えられるようになったのでしょうか。刹那さんに憑いていた者の存在も捉えられていたようですし」

「え、何それ凄く迷惑。それに、長い間って言ってもまだ一ヶ月ちょっとだろ。お前ら怪異ってそんな短い時間を長い時間って捉えているのか」

 

 文は俺の言葉に対して焦るような素振りを少し見せると、咳払いを小さくして見せとにかく、と話題を逸らした。

 

「怪異の殆どは人と馴れ合わない、又は人を食料としか見ない連中ばかりですから、極力関わらないようにして下さいね。見えても、決して好奇心で話しかけたりしないように」

「分かってるよ。好奇心猫をも殺す、って言うしな」

 

 俺の言葉に、文は満足げに頷く。そんな折、一際強く吹いた風に俺は身を震わせた。

 辺りを覆う闇は一層濃くなり、人の気配すらも感じられない静かな街。昼間の人通りとは似ても似つかない、まるで深海の奥底にでも眠っているかのような街の静けさを少し不気味に思う。そんな俺の思いを知ってか知らずか、小さく息を吐くと文は言った。

 

「それじゃあ、そろそろ帰りますか。人の身であるお二人にとっては、この冷たい風は毒ですから」

 

 風邪でもひいたら、大変です。そう言葉を付け加え、文は笑った。

 彼女の言葉に、特に文句は無く頷こうとした瞬間――意外にも、刹那が待ったを掛ける。

 

 一体、なんだろうと疑問に満ちた俺と、文の眼差しが刹那を捉えた。当の本人は、闇夜に負けない程に赤くなった頬を押さえつけながら、意気込むように深呼吸を三回程繰り返す。

 刹那の謎の行動に、俺は兎も角文は何かを理解したのか――苦笑を口元に貼り付かせ、俺の腕をハシっと掴んだ。

 

「さ、さぁ帰りましょう!! 刹那さんはお一人でも大丈夫ですよね、こんな寒い季節に変質者が出るわけも無いですし――あ、出てくれても私的には構わないんですがねッッ!!」

 

 何をそんなに焦っているのか、妙に早口になった口調で、俺の腕を引っ張りながら公園の外へと出ようとしている。戸惑いと怪訝が混ざった声色で、俺は文に状況を教えてくれ、と問うが見事に無視され、華奢なその腕には似合わない強烈な腕力を持って、俺の身体を引きずり続ける。

 刹那の姿が小さくなっていくのを感じながら――途端に、()()の動きが止まった。

 

「少し待ってくれないかしら、天狗さん。夜はまだまだ長いのよ?」

「嫌です。こんな薄ら寒い星空の下、何時間何分も待てる程、私の気は長くありませんから」

 

 気付けば赤い瞳を浮かべ、俺のもう片方の腕を掴んだ刹那が、文に挑発的な笑みを浮かべながら言った。それに対し反対側の、俺の腕を掴み取った文が僅かにその身に力を滲ませ――きっぱりと、断る。

 ――一難去ってまた一難。ギスギスとした空気の中、最早戸惑いよりも呆れが浮かんだ胸中には、そんな諺が人知れず浮かんだ。尚も笑顔だが――俺の心の臓をも鷲掴むような、圧力を感じさせる笑みを貼り付ける二人組が和解する時は――永遠に訪れないのかもしれない。

 

「先程に『お礼は精神的に』と貴方申しましたよね? 今貴方が取っている行動と言動が一致しないのは、気のせいでしょうか」

「私は『少し待て』と言っているだけよ。何処ぞの天狗さんはこれくらいのお願いも聞き入れてくれないの? 長寿の割にはケチなのね」

 

 ギリギリと、俺の両腕からは気のせいか骨の軋む音が聞こえてくる。文句の一つや二つ、この場でこの二人に言ってやりたいが――俺の本能が囁いている。『この状況に口出ししたら死ぬぞ』――と。

 死に比べたら、両腕の骨の破損など安いものか。腕からやって来る鈍痛に顔を顰めながらも、俺はたった一つの生を失わない為に、そっと口を閉ざした。

 

 

 ☼

 

 空は暗く、うっすらと見える雲達は何処へでも行くのか、それともそうしなければいけない役目でもあるのか、空中を浮かび続ける。

 街の喧騒は鳴りを潜め、昼間は人通りの激しいマーケットの目の前にある交差点にすら、人の姿は俺達ぐらいしか無かった。昼間には見られない風景をぼんやりと眺めながら、家路へと足を進める。

 

 時折吹く冷ややかな風に身を震わせながらも、俺は懸命に、無心に家路に帰る。吐く度に昇る白い吐息は、虚空にと現れては消え、現れては消えるを繰り返す。静寂に満ち溢れた街は、自分の出した靴音すらも、空間を伝って街中に響き渡っている気がした。

 そんな静かすぎる静寂に我慢ならず――俺は声を文と()()に掛けてやる。

 

「なぁ、何時までもお互いに、そんなツンケンなさらず少しは仲良くしたらどうだ?」

 

 俺の良心的な言葉に、まるで壁でお互いの心を阻め合うように――俺の両隣を歩く女性二人は、即答した。

 

「無理ですね」

「無理ね」

 

 お互い息を合わせ、たった短い一言――だが、その一言が、お互いの心の近寄りは有り得ない事を、証明している。大きな大きな溜息を吐き出し、俺は嗜めるような口調でお互いを諭す。

 

「人と人は同種族なんだから、何時かは分かり合える筈だ。今すぐにとは言わないが、仲良くしてくれ」

「私、人じゃありませんし」

 

 文の放った言葉に、堪忍袋の尾が切れる。生意気を言われた事に対して、ではなく俺の理論を完全論破されたが故に。

 

「そうか、なら約束のアイスクリームの件は無しだな」

「ちょっと真さん!? 約束が違いますよ!!」

 

 まるでこの世の終わりだと言わんばかりに、情けない顔で抗議してくる文。何が彼女をそうさせるのか、アイスクリームは天狗を堕落させる魅力でもあるのか、と本気で疑いたくなる。

 家と家に挟まれた路地道は、防犯灯が点々と青白い光を灯していた。その悲しげな、寂しげな防犯灯の光に文が照らされ、悲劇のヒロインも真っ青の悲痛さが、犇々(ひしひし)と俺に伝わってくる。そんな彼女から目を背き、心を鬼にして俺は言葉を紡いだ。

 

「仲直りしないと、今日どころか今後一切にアイスクリームを食す機会はなくなるな。それでも良いなら、刹那と何時までもツンケンしてるといいや」

「刹那さん、先程は申し訳ありませんでした。これからは良き友好関係を保っていきましょう」

 

 態度を百八十度変え、文は刹那の一歩前に出る。人当たりの良い笑みを浮かべているが、その笑みはどこか引きつっていた。

 対する刹那は、多少間を開け溜息を吐くと、俺を一瞥した。仕方無いと言った感じに、刹那も可憐な笑みを浮かべる。刹那の笑顔はあまり見たことが無いからか、その笑みが本物か偽物か、判断の仕様が無かった。

 

「ええ、此方こそ宜しく、天狗さん」

 

 刹那の差し出した右手を、文は快く握り返す。思いなしか、彼女達の互の握手はぎりぎりと何かが軋む音がしている。

 止めていた足を再び再開して、そういえば、と文は不思議そうに口を開いた。

 

「そういえば刹那さん。先程私と真さんの動きを止めた時、瞳が紅くなってましたけど、あれって何ですか?」

「天狗さんには言ってなかったわね。一日に二度も言うのは少し恥ずかしいのだけれど、私の瞳は視界に入れた物を一定時間、止める事が出来るの。」

 

 文の言葉を返す刹那の言葉は、気楽そのものだった。その事を少しだけ嬉しく思い、密かに頬を緩ませる。だが、文は未だ納得出来ていないのか、疑問そうに首を傾げていた。やがて、疑問をブツブツと言葉に表し始める。

 

「可笑しいですね……ただの人間が、そんな力を扱えるなんて。その能力、先天性だったりします?」

「いいえ、多分後天性よ。生まれつきそんな面倒な能力持ってたら、嫌でも力の有無が分かるわよ」

「そうですか……初めて能力を使ったのって、いつです?」

 

 その小さな疑問を解消しなければ、文は気が済まないのか刹那を質問攻めにする。声は真剣そのもので、俺は黙って二人のやり取りを見やる事にした。刹那も、文の表情を見るなり、更に更にと出てくる質問を嫌な顔一つせずに、回答していった。

 

「そうね……確か十二歳の頃よ。うろ覚えだけど、私と目の合った同級生の子が不思議そうな顔して固まってたもの」

「その十二の頃、何か可笑しな出来事とかありませんでしたか?」

 

 文の言葉に、刹那は薄く顔を顰める。大丈夫だろうか、と心配に思い顔を覗き込むが、刹那は小さく息を吐き出すとぎゅっと目を瞑り、大きく頷いて見せた。多少声は震えているが、それでも健気にポツリポツリと言葉を紡ぐ。

 

「十二の頃の、可笑しな出来事と言えば――友人と弟が天狗に連れ去られて、私だけ助かった事ぐらいかしらね」

「それです」

 

 疑問が解消したのか、文はスッキリした笑みで短く言った。俺と刹那はそんな彼女を疑問に思い、頭の中がハテナで埋め尽くされる。この世界がもしゲームの世界だったりしたら、今頃本当に二人の頭上には、クエスチョンマークのロゴが浮かんでいるだろう。

 

「恐らくに、友人と弟を連れ去った、って言う天狗が原因ですね。刹那さんだけ助かったって事は、天狗が気まぐれで貴方を見逃したか――天狗が貴方を()()で無事に帰してやりたいと思ったから、ですかね」

 

 それにしても――と文は言葉を紡ぎ、饒舌に言ってみせる。

 

「天狗が人の子を連れ去るなんて、余程の事をしなければしませんよ。私達天狗はこれでも、守り神なんですから。ただ、少しイタズラ好きってのは認めますが、連れ去る程天狗が怒り狂うなんて――どうせ、刹那さん達禁足地とかに踏み入れたんでしょう? そりゃあ生きて帰れませんよ」

 

 流石同じ種族――鴉天狗だが――なだけあって、的を得ている。俺と刹那は、彼女の鋭さに感服してか、互いに顔を見合わせる。気付けば足は止まっており、普段なら二十分程で到着する家路が、酷く長く感じられた。

 多少の間を作り、刹那が文の言葉を返す。その声には震えは混じっておらず、ただ純粋たる疑問を言葉に表しているかのように思えた。

 

「当たってるけど……さっき言った『私を本気で、無事に返してやりたいと思ったから』って、どういう事よ」

「そのまんまの意味ですよ。もし、前者ではなく後者が答えだった場合――私としても、目覚めが悪い気がしますね」

 

 僅かな憔悴を、整ったその顔に刻み、苦々しく文は言ってみせる。その際に――彼女の言っている事を理解して、俺の鼓動は早まった。

 

 もし、刹那の友人や弟を奪った天狗が、刹那に取り憑いた――刹那を助けた天狗と()()だった場合。

 憶測に過ぎないが、友人達を奪った天狗は、刹那に取り憑いた天狗と全く別の者だったとする。その別の天狗は、刹那を同情心か、何かしらの情念によって彼女を助けた。その天狗は刹那の安否を思い、夢の中で姿を現した。それか――

 

 刹那の身に、何かしらの危険が迫っている事に気付き、姿を現した。後者の場合だと、彼女の周りにカラスが寄り集まっていた事も説明つくかもしれない。安否を気遣っての――カラス達を使った監視。

 もし、夕方に起こったカラス達の攻撃が、()()俺だけに向けられていたものだとしたら。空家での出来事は、全て俺だけに向けられていたものだとしたら――。

 

 冷や汗が一つ垂れる。刹那と俺は、被害妄想が過ぎたんだ。いや、ただ単に、俺がプラス思考に捉えすぎているせいかもしれない。だが、俺の仮説が正解だとしたら、俺はこの手で、刹那の命の恩人を殺した事になる。

 そもそも、彼女が動きを止められる力を受け貰った年月は、先程の刹那の話が寸分狂わず正しかった場合――十二の頃。友人を連れ去られ、天狗に助けられた出来事の後辺り、と考えるのが妥当だろう。

 

 突飛しすぎな憶測に過ぎないが、刹那の能力が、もし天狗に授けられた物だとしたら――?

 天狗は刹那を助け、尚且つ彼女が安全に過ごせる為に、一定時間動きを止められる能力を授けた。だが、そんなちっぽけな能力だけでは、刹那の完璧な安全は取れないと踏んだ。だから、次に自分が彼女を守れる為に姿を現した。

 

 俺の憶測は穴だらけだ。自分で何を言っているかすら、完璧に捉えられていない。だが、文の何ともやり切れないような表情が、俺を堪らなく不安にさせる。

 もし、俺の考えた最悪な仮説が――真実だとしたら、俺は刹那にどう弁明すれば良い。彼女の恩人を悪人扱いして、挙句の果てには文を使って殺させた。そんな最悪の結果がもし真実だとすれば、俺はどうすれば――

 

「ちょっと真、聞いてるの?」

 

 その言葉に我に返ると、目の前には寂れたアパートが建っていた。怪訝そうに俺を見やる刹那を一瞥して、平常心を保つように息を大きく吐いて見せる。

 

「ああ、すまん聞いてなかった」

「やっぱり。上の空みたいな顔して……まぁいいわ。ここが私の家だから――ここでお別れね」

「へ? 意外に俺の自宅から近いじゃん」

 

 いつの間に移動していたのか、辺りを見回しながら言う。恐らくこの場所から俺の自宅までは、数十分も掛からないだろう。

 俺の言った言葉のどこに、満足点があったのかわからないが、刹那は満足げに頷いて見せると、腕を組みながら頬を人差し指で掻いた。すると気恥ずかしそうに、ぎこちない口調で流し目に言葉を紡ぐ。

 

「まぁ、それはそうと……。単刀直入に言うわ、貴方のメールアドレス寄越しなさい」

「はあ? どうしてまた急に」

 

 突然の展開について行けず、俺はただ疑問そうに言ってみせる。文は”メールアドレス”と言う単語が分からないのか、怪訝そうな表情を浮かべていた。幻想郷とやらの、異国出身が故に知らないのは仕方が無いと思う。

 そんな俺と文に対して、刹那は右腕を伸ばし携帯のメールアドレスを催促してくる。一応自分のメアドぐらいは暗記していたが、生憎携帯が今、手持ちには無い。

 

「俺いま、携帯持ってないぞ」

「ならメールアドレスだけでも寄越しなさい。早く」

「嫌に高圧的ですね」

 

 俺の言葉を無視して、刹那は自分のニットワンピースのポケットから薄型の携帯を取り出した。俺と同じ機種の携帯を、少なからず嬉しく思い、ホームボタンを押すと――

 華やかで、可愛らしいホーム画像がバックの、ホーム画面が現れる。

 

「な、何だこのホーム画像」

 

 抑えきれない笑い声を含みながら、言ってみせる。刹那のホーム画像は白のウサギが、華やかな向日葵に囲まれた何とも可愛らしい――だが、刹那には合わない――画像だった。

 俺の隣から覗き込んだ文が、刹那の設定したホーム画像を見やり、吹き出す。腹を抱えながら、似合わないだの可愛いですねだのと、笑い声混じりに言ってみせる。

 

「いや……俺としても、予想外だな。てっきり刹那のホーム画像は頭蓋骨の目の辺りから、毒々しいムカデが這い出ている画像だと思ったんだが。まぁ、これはこれであ――」

 

 有りだな、と言おうとした俺の言葉を、刹那は最後まで待ってくれなかった。彼女は俺の顳かみを小さな手のひらで鷲掴むと、何処からそんな力が溢れ出るのかと疑問に思うほどの腕力で、俺の頭を潰す勢いに――強く握る。

 

「そうね。グロ画像も私、嫌いじゃないわよ。貴方に二つの選択肢を、一つだけ選ばせる権利をあげる」

「……その選択肢とは」

「私にこのまま頭を握りつぶされるのと、一旦貴方を殺害して土に埋葬して――風化した貴方の頭蓋骨を使って、貴方の言葉を実現させるの」

「デットorデットじゃん。三つ目の選択肢は無いのか?」

 

 俺のこめかみを鷲掴みながら、刹那はただ短く。無いとだけ応えた。彼女の表情は明るい笑顔そのもので、苦悩など無いものに見える――まるで、俺のことを殺すことに対して、一切の恐怖や苦悩が無いように。

 それはそれで困ると。文に助けを求めるも、俺の命を救える筈の、唯一無二のヒーローは未だ、腹を抱え笑い転げていた。

 

「それで、どっちがいいかしら?」

 

 刹那の威圧的な言動に、明るいその笑顔に対して――俺は、デジャブを感じながらまたも、口を閉ざし彼女から目を背けた。

 

 

 




実際久々で……話の構成を忘れてたり(小声)
挙句の果てには登場キャラの名前も(ボソリ)

これからは出来る限り早く――と言っても、一週間に一話か二話程を目指そうと思います。
本当に投稿が遅れて、申し訳ありません。

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