最近は6000文字を維持出来る様になりました。
それでは今回も!!
暗闇は嫌いだ、何も見えないから。
掛け布団を頭までかけている俺。隣の部屋からわしがれた声色をした二人程の老人が話し合っていた。
この部屋と隣の部屋を阻める薄い壁の向こうからは容易に自分の親族の声が聞こえてくる、布団を頭まで被っても防ぎきれない話し声。
「ねぇ真ちゃん、あの子の事どうするの?」
六十代前半といった所か、萎びた声色の女性が声をあげる。その言葉にもうひとりの老けた声色の男が「そんな物はどうでもいい」と少し声を荒らげた。
「そんな事よりあの親子二人がかけた保険金、あれを手に入れられればあんな子供路上にでも放り出しておけ」
「ちょっと、それは流石に酷いんじゃない?」
「ふん、保険金を盗ろうなんて提案したのはお前だろうがこのアバズレが」
激しくなっていく怒鳴り声。布団を被っても、耳を強く塞いでも薄い壁の向こう側から聞こえてくる怒号。
人が怖い、人の心が怖い。身を震わせながら過ごす夜、誰か俺を救ってくれ。誰でもいい、誰でもいいんだ………………………。
「は~~い起きてください!! 寝すぎは体に毒ですよ!!」
部屋中に鳴り響くフライパンとお玉を殴りつける様な高音。その不快感を煽らせる高音に耐え兼ねなくなり布団を蹴飛ばす勢いで俺は体を跳ね起こした。
いきなり鳴り響く不快音と共に部屋の丸型蛍光灯が眩しい光を放つ、眩しすぎる光に顔をすぐに逸らしゆっくりと時間をかけ慣れさせてゆく。ボヤける視界に段々と周りが色づき始めてきた。
ドアの前には片手に少し焦げ付いた鉄フライパン、片手に先が丸っこいお玉を持った彼女がいたーーーーーーやっぱり昨日の出来事は夢でも何でもない、現実だったのか。
昨日と同じ服装をした変わらない彼女を見て落胆する俺に「ご飯が出来ましたから早く一階に降りてください」と元気良く言った彼女はさっさと部屋から出ていった。
ご飯…………? 作ってくれたのか、それはありがたい。やっぱりそこまで悪い奴でもーーーーいや、気を抜いたら終わりだ、何だって相手は鴉天狗なんだから。
一階のリビングではきっと鼻歌を歌いながら皿を並べている彼女がいるんだろうなぁ………なんてポジティブな事を考えながらギシギシと音を立てる階段から降りる。
「あ、やっと来ましたね。ちょっと待ってください、今ご飯をよそっているんで」
扉を開けリビングに着くなり彼女が発した第一声。まるで夫妻の様な関係だな、だのと一瞬でも考えてしまった五秒前の俺を殴り倒したい。
気を取り直す様にして目線をミニテーブルの方へと向けるとそこには色とりどりの美味しそうなおかずが並んであった。
皮の付いた柔らかそうな鮭やわかめの入った味噌汁。そして小皿に盛り付けられた漬物に納豆のパックが置いてあるのを見て思わず感嘆深い溜息を漏らしてしまった。
「どうです? 美味しそうでしょう。幻想郷とは大分違う物も多かったんでそこは少し手間取りましたがね」
そんな俺を一目見るなり得意げな表情を浮かべながら大きめの茶碗にたっぷり入ったふっくら温かそうなご飯を両手に持つ彼女がやってくる。
「これ全部君が?」
「私以外に誰がいるんですか」
「よいしょ」とかけ声を掛けながらカーペットの上に座る彼女、それに釣られ俺も彼女の反対側に座り込むと先程とはまた違う視点だからなのか机の上に置かれている料理が更に魅力的に感じられた。
白色のご飯や味噌汁から上がる白色の湯気が出来立てだよ、と優しく語りかけてくれる。やはりもう一度見て思うが健康的なおかずが多い。
「それじゃあ、頂きます」
「はいどーぞ、召し上がれ」
手を合わせ箸を親指と人差し指の間に挟むポーズを取る。一番最初に箸が向ったのは薄赤色をした鮭だった。
身を綺麗にほぐし箸に一掴みして口の中に放り込む。
…………………うまい。
一番最初に思い浮かんだ感想はこれだった、いやこれ以外に思いつく感想が無かった。ちょうどいい焼き加減なのか噛む度にパリッと口の中に広がる少し甘い風味。
塩を適量かけてあるのか舌に鮭の身を転がすとジュワリと溶ける様な感覚。気付けば一掴みの後二掴み、どんどん箸が進んでいく。そして鮭と一緒にふっくらと炊き上がったご飯を放り込む。
ハムスターの様に頬一杯にご飯を詰め込んだ俺を見るなり彼女が「なんですかそれ」とクスクスと笑ってくれる。最近となっては感じた事の無い雰囲気に少し戸惑ってしまうがご飯が美味しいので良しとしよう。
「どうです? 美味しいですか?」
漬物に箸を伸ばしたら唐突に笑いながら彼女が聞いてきた、頬杖を立てながらその手で箸を持ち俺を眺める様な感じに。
「はい…………凄く美味しいですよ」
「えへへ~ありがとうございます」
素直な意見を捻じ曲げる必要も無いので思ったままの事を言うと嬉しそうに顔をにやけさせる彼女。やっぱり褒められる、というのは人妖平等嬉しい事らしい。
美味しいご飯の事もあってか昨日の出来事など忘れ二人で笑い合いながらおかずを摘む、昨日の夜とは大違いと言った感じに。鮭の身が半分胃の中に入り込んだ辺りに彼女が話題を振ってくる。
「そういえば自己紹介とかしてませんでしたね。私は
空中に漢字を書きながら説明してみせる。射命丸 文か………現代人にはいなさそうな名前だなやっぱり………。
文の真似をする様に俺も空中に漢字を書く仕草をしてみせる。
「僕の名前は
「変な名前ですね~」
「ありがとうございます~」
少しカチンと来たが怒っても仕方がない。額に青色の血管を浮かべながら少し引きつった笑いを見せるとケラケラと文がからかう様にして笑ってくる、平常心を保たなければ。
落ち着く為に冷えた水が汲まれたコップを一気飲みしてみせる、キーンと来る頭痛に頭を押さえているとまたも笑う彼女を見て笑顔が絶えない人だなぁ、とつくづく思った。
だけどその笑みが異常に心地よくて何故か安心感を覚える、心が落ち着く様な感じだ……………だけど彼女の笑顔を見るとーーーーーー。
「真さん? 大丈夫ですか?」
どんな顔をしていたのかわからないが心配そうに顔を覗かせる彼女、そんな彼女の顔を見ると心が痛む。君がしていい表情はそんなのじゃないんだ、理由はわからないが焦りを覚えた俺は自然と早口で答えてしまう。
「大丈夫ですよ、少し考え事をしていただけです」
そう言うと「ならいいんですが」と言った後笑顔に戻る彼女を見てどこかホッとする。何故だろうか、彼女と会ってからというものまだ一日も経っていないが調子を狂わされる、考えても出てこない疑問に諦めがつき話題を彼女へと振る。
「そういえば服昨日と一緒なんですね」
相手の箸を進める手が唐突に止まる。どうしたのか不思議そうに眺めると少しして俺は察した、いくらなんでもデリカシーが無さ過ぎると。口から出た言葉を戻したいが既に出てしまった言葉はもう元には戻らない、相手の心を抉ってしまったのだ。
顔は少し俯かせてあって表情が見れない、どうしようか考えるも打開案は見つからず相手は相変わらず顔を俯かせたまま。少しすると「バン!!」と箸を強く机に叩き顔を勢いよく上げる彼女。
「ええそうですよ!! 汚い女ですみませんね!!」
家中に鳴り響く様な怒号に思わず耳を塞いでしまう、よく見ると赤い目には透明の涙が溜まっていた。
「そうよねこんなのだから長い間生きても彼氏の一つも手に入れられないのよね!! わかってるわよそんなのもう子供じゃないんだから!! 女子力の低い女で申し訳ございませんでしたぁ!!!」
敬語も消え机に突っ伏しながらぐちぐちと愚痴を零し始めた彼女、しまったトラウマを起こしてしまったのか? 彼女を宥めるべく「そんなことないですよ」や「充分可愛いですよ」と褒めるも泣き声を上げる彼女。このままだと俺が彼女の泣き声でノイローゼになってしまう。
どうする、どうすると考えていると机に突っ伏す彼女から手紙が渡される、手帖から破ったのか内容はこうだ。
「新しい服を買ってくれたら泣き止む」と。
可愛らしい文字で書かれてあったそれを見て少しゲンナリとした、しょうがないと言った感じに渡された
「新しい服を買ってあげますから泣き止んでください、お願いします」
するとピタリと止む泣き声、なんと単純なものか。
だが一向に顔を上げない、訝しげに思うと二枚目のカンペが渡される。内容は可愛らしい文字で「アイスもお願いします」と。
まるでバックを欲しがり男に縋る女だな。「いい加減にしてください」と頭をポンと強めに叩くとまたも鳴り響く”鳴き声”に自棄糞になりながら口を開く。
「ああもうアイスも買ってあげますから!! ですから泣き止んでくださいお願いします!!」
頼む様に両手を合わせながら言うと輝いた目をした彼女が顔を上げていた。
「絶対ですからね!! 約束しましたから!!」
涙も嘘だったのか目を赤くするどころか涙の跡すら付いていない泣き真似っぷりに感動すら覚えた。溜息を一つ吐きながら水を一口飲みコップを机に置くと彼女が「あ、それと」と付け加える様にして口を開く。
なんだよもうこれ以上はーーーーー。いきなり目の前を通る強い風、まるで”昨日”俺が体験した時の様に強い風。風が吹いた右の方を向くと彼女が恐ろしい笑みを浮かべしゃがんでいた…………。
「次、あんなこと言ったら首を貰いますから」
彼女の七つ道具、葉団扇を俺へと向けながら微笑む彼女を見て再び恐怖を覚えたーーーーーー。
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多くの人が行き通う大きめの交差点、その人々の様子を彼女はじっくりと興味深そうに見ていた。やはり十月の下旬だからなのか明るくもなんでも無い曇った空から吹かれる風に身を震わせる人々。この中で薄着なのは恐らく隣で写真機を手に持つ彼女ぐらいだろう。
赤で皆一斉に止まり青になると共に一斉に交差点を渡り出す人々。今の時刻は朝の八時程、学校や仕事に間に合う為に人混みを縫うようにして走るサラリーマンや学生がチラホラと見えるそんな中、俺と彼女は信号が青になっても交差点をスタート出来ずにいた。
「おい、次で絶対に決めるぞ」
「わ、わかってますよ!! 急かさないでください!!」
もう四回程青になってもスタートダッシュをしない彼女を見て深い溜息が零れる。何故こいつが青になっても進まないのか、それは多過ぎる人の数を見て怯えきっているからである。鳩天狗ともあろう方が。
彼女曰く「こんなに人が通るなんて思いませんよ!! 絶対これ人混みに押されて倒された挙句踏み潰されてしまいます!!」との事。そんなに日本人は心の無い人間ではありません。
車道用信号が黄色へと変わり彼女の表情が険しくなる、そして赤へと変わると目付きを鋭くさせてくる。何故交差点を渡るだけでこんな事に付き合わなくちゃいけないんだ………と心の中で愚痴を零すと歩行者信号が青へと変わった。
もうこれで最後だ、これで彼女が渡れなかったら帰ってやる。案の定一向に進まない文、冷や汗が流れ出ている様な気がした。
足を上げてもすぐに臆したのか地面へと戻す。青信号が点滅し始める、やっぱりダメか……………。と思った矢先険しい顔をした彼女が消えていた。
気付くと共に強く吹く風、その風に他の歩行者がよろめく。急いで視点を向こう側に戻すと”やってやったぜ”と言わんばかりの表情を浮かべピースサインをしている彼女がいたーーーーー。
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「は~なんだか物凄く疲れました」
「もう疲れてどうするんだよ」
五階建ての大きなデパートの中に入ると緊張が解けたのか、ぎぐしゃぐしていた体を滑らかに動かし始める。まだ帰りがあるって言うのにどうするんだ?
「それにしてもやっぱり口調、そっちの方が似合っていますよ」
「ん? ああ、俺もやっぱりこっちの方がやりやすいわ」
敬語からタメ口へと変えた俺をニコリと笑いながら指摘する。外を出る前に彼女が突然「タメ口でオッケーですよ?」と言ったのには少し驚いた…………。
デパートに入ってから輝いた目線を其処ら中に向ける彼女を引きずる様にして三階にある洋服店へと向かう。
エスカレーターに乗るや否や、はしゃぐように写真機を取り出しシャッターを切ろうとする彼女を必死に止めながら何とか洋服店へと付く。何故エスカレーターに乗るだけでこんなにも疲れなければいけないのか理不尽に思う。
俺の隣を歩きながらクンクンと自分の服を嗅いでいる彼女を不思議に思い口を開く。
「どしたの?」
「いや…………その臭わないかな………なんて」
食事の時にした俺の発言を気にしているのか萎れた声色で問いかけてくる。やっぱり彼女にその顔は似合わないと心の底から大量の言葉が湧いてくる。だから俺は安心させるすべくこう言った。
「気にするな、いい匂いだから」
「………………もしかして真さん汗フェチとかですか?」
俺が彼女を安心させるべく言ったとしてもこの結果に心に深い穴が開く、来世はイケメンに生まれ変わりますようお願いします神様。だが精神ダメージを受けた俺から顔を逸らしながら口を開く文。
「まぁ…………安心しました、ありがとうございます」
突然の感謝の言葉に少し照れくさくなり「どういたしまして」とぶっきらぼうに答えてしまった、今の彼女の顔を見てみたいが顔を逸らされているせいで表情が見れない。そんな気恥ずかしい雰囲気をぶち壊すべく彼女が声を上げる。
「あ!! 真さんこれとかいいと思いません!?」
文が指を差した方向を向くとそこには、白い肌をしたマネキンが着ている花柄のワンピースにデニムジャケットを上に羽織った冬には絶対に着ないであろう物だった。
「流石にこの時期にあれは寒いと思うんだけど?」
「嫌ですあれ買うんです!!」
駄々を捏ねる子供の様に引かない彼女を見て諦めが付き、マネキンの近くにまで寄ると更に彼女は興奮した様に目を輝かせる。
「こんな衣装幻想郷になんてないですから一旦着てみたいんですよね~」
「別にいいけど流石にこれじゃあ寒いんじゃ………」
「じゃあ他の洋服も買っちゃいましょう!!」
「え…………」
彼女から告げられる唐突過ぎる死刑宣告、そんな彼女を止めようとするが既に手に持った葉団扇のせいで容易に声をかけられない。「すいませーん」と定員を呼びかける彼女を俺はハシビロコウの様に大人しく見ていた。
「ほら真さん試着するんで似合うかどうか見てくださいよ!!」
「ああ………わかった」
手を引っ張られ一体どれくらいの金が文の為に消し飛ぶんだろうか、と考えながら手を引っ張られていく。だけどそれがーーーーーーーどこか心地よく、悲しかった。
文の汗のついた洋服をゲフンゲフン。
なんでもないです。
この小説は一人称が基本になるかもしれません。
三人称も書きますが。
そして最近視力が落ちてきた気がします、やっぱ活字は暗闇の中で見る物じゃありませんね。
それでは次回まで!!
(主人公の名前を一分でかんがえゲフンゲフン)