鴉天狗達と撮った写真   作:ニア2124

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どうもニアです。

最近忙しくなるかもなんで一日一話投稿が難しくなるかもしれませんがご了承下さい。
二日に一回は頑張って投稿したいと思います。

それでは今回も!!


午後五時 夕暮れと暇つぶし

街全体が茜色に染まっていく。その光景は美しく、どこか儚かった。

 

 太陽が沈みゆく中隣の少女は呑気にもカラーチョコがトッピングされたダブルアイスクリームを舌で味わっている。

 以前の白と黒色の服装ではなくデパートの洋服店で買った花柄のワンピースに薄い青色のデニムジャケットを羽織った格好で。アイスクリームが垂れて洋服を汚さないか、それだけが気がかりで仕方がない。

 

 夕暮れは以前まで嫌いだった。今日は何をしたかな、と思い出に耽るも出てくるのは”無”の一文字のみ。なにも達成していない一日を、自堕落に過ごした一日を思い出してしまうから。

 

 だけど今は違う、隣に座っている人外の彼女が笑っている。それが無性に堪らなく嬉しくなってしまう。

 何故だろうか、考えても考えてもわからない。だけど今はそれでいい気がする、隣で笑ってくれる彼女がいて。そしてどんどんと西に沈んでいく太陽。今はそれだけでいい気がするんだ。

 

 

「どうしたんです真さん? 遠い目なんかしちゃって」

「いや……………太陽が沈んじゃうなぁって」

「当たり前じゃないですか」

 

 喋りながらもアイスを味わう事をやめない彼女、どうやらこの世界のアイスクリームはお気に召した様だ。

 ベンチに肩を並べて夕日を拝む俺と文、場所はデパート近くのアイス屋さん前と言ったロマンチックでも何でもない場所。冷たく、少し寒い風が俺の体を凍えさせようと努力していた。

 

 吹かれる度に身を震わせ短めの黒髪が靡く。普段愛用しているゼブラカラーの、収容者の様なパーカーでは風を受け止める事なんて出来なくて、ただ身を震わせながら早く彼女がアイスを完食する事を願うばかりだった。

 

 何故彼女はこんな寒風に吹かれていると言うのに平気な顔をしてアイスを舐めているのだろうか、それどころか風にセミロングの黒髪を靡かせてもいない。”まるで彼女の周りだけ風が寄り付かない”様な。

 訝しげな目で彼女を見る俺に気付いたのかジト目で彼女が口を開く。

 

 

「なにをジロジロ見てるんですか?」

 

 相も変わらず一向に靡かない黒髪、はぐらかす意味もないだろうし疑問に思った事をそのまま言ってみる。

 

 

「いや、なんで文はこんな寒風の中アイスを食べている上そんな薄着なのに寒くないのか、って不思議に思って」

「ああ、そのことですか」

 

 アイスを味わいながら納得した表情を浮かべると俺に左腕を突き出し手の平と俺を合わし始める。

 赤色の目が俺を見据えなんとも言えない感覚になる中突然に風が止んだ。風の音も、俺を凍えさせようと努力していた冷風も。まるで俺の前を風から阻む大きな壁が出来上がった様な。

 

 

「風を操ったんですよ」

 

 驚いた表情を浮かべる俺を尻目にコーンをリスの様にサクサクと齧りながら口を開く。

 

 

「風を操った?」

「はい、私の能力は風を操る程度の能力って名前なので、まぁほとんど自己申告みたいなもんですがね」

 

 風、か…………ていうことは昨日テレビを切ったのは”かまいたち”のおかげなのかな? 

 

 彼女の言った能力に然程驚いた様子も無しに彼女から目線を夕暮れへと戻すと先程と変わらず辺りを茜色に染めていた。

 体を少しだらけさせると目の前を中学生辺りの背丈をした子供らがアイスクリーム店へと入っていった。表情は笑顔に染まりきり、きっとポケットに入っている小銭を店員に渡すのだろう。

 

 数分後にはアイスを片手に下らないことを話しながら帰路へと付く。そんな在り来たりな事を考えるのが俺は好きだった。

 ”どうでもいい事”に想像を膨らませて、その”どうでもいい事”の予想が当たると少し嬉しくなってしまう、そんなちっぽけな人間なんだ。

 

 案の定と言った所か、ストロベリーアイスとチョコレートアイスを手に持ち笑顔で二人は別れていった。予想が当たった事に小さく拳をグッと握る。

 

 隣を見てみるとコーンを食べ終えた彼女が見える。きっと立ち上がり「では帰りましょうか、真さん」なんて言いながら女物の洋服が入った紙袋と今晩の夜飯になるであろう食材に写真雑誌が入ったレジ袋を俺に無理矢理持たせるんだろう。

 少しすると彼女は口を開かず立ちながら俺の目の前に立ってこう言った。

 

 

「今日はとても楽しかったですよ真さん、私が幻想郷に戻れるまで明日も楽しいことしましょうね」

 

 にっこり、と夕日に照らされた彼女が笑う。茜色に染められた街と夕日をバックに映し出される彼女は何よりも美しく思えた。

 予想が外れた、そんな物はどうでもいい。秋頃には似合わないワンピースを着た目の前の彼女から目を離せなくなる。他全ての景色がボヤける様に、目の前が”彼女で埋め尽くされた”そんな気がした。

 

 我に返り顔を急いで彼女から逸らす。目線は彼女から斜め横のアイスクリーム店へと変わりぶっきらぼうに俺は答えた。

 

 

「……………また金が消えるのは勘弁願いたいんだけどね」

 

 俺の前に立つ彼女はどんな顔をしているんだろうか、きっと相変わらずと言ったところか笑顔を浮かべていると思う。

 証拠に前からケラケラと、風鈴の鈴の様な透き通った笑い声が聞こえてくる。ベンチの下に置いてある、洋服が入った紙袋へと彼女は手を伸ばすと力強く掴んだ。

 

 

 「では、帰りましょうか。真さんはご飯の袋持ってください」

 

 言われた通りに腰を浮かしながらレジ袋を手に持つと彼女は少し微笑んだ。

 ああ…………予想の全てが外れてしまった。だけどーーーーーーー嬉しいものだな、意外にも。

 

 彼女の後を追うようにして俺は足を進めた。

 

 

 

 

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 一階では文が今日の晩御飯を作っているのだろう。そこは全く問題ない、それよりも問題なのはこの暇な時間を如何にどうして過ごすかだった。

 どうやら彼女は調理に結構な時間をかけるらしく帰ってきてからすぐにキッチンへと行ってしまった。彼女がいたら向こうの世界の話とか色々聞けるのにな……………。

 

 白いシーツのベットに寝転がりながら携帯を弄ってみる。自分は携帯のアプリなどにあまり興味がなく、ホーム画面には綺麗な緑色の山が映った壁紙と元から携帯に入れてあった電話やメールのみ。

 かと言ってメールで時間を潰す友人なんてものもいなくて…………はぁ。どうしようか。

 

 携帯を弄りながら時間を潰してみるが数分後に携帯をベットの端に放り投げた。小さくバウンドすると役目を終えた様に画面にはなにも映さない。

 現時刻五時三十四分也。四分しか経っていないのか。

 

 次にチャレンジすべく今度は勉強机の上にあるノートパソコンの電源をつけると同時に出てくるロックパスワード。ロックパスワードを慣れた手つきで解除し華やかな起動音が聞こえてくる。

 

 さぁ、どうする。株投資でもしてみようか、いや今の時間はあまり調子が良くない。ではどうする? 

 目に映ったのはインターネットブラウザ、少しの時間でも暇を潰せればそれでいいと思いダブルクリック。検索欄には「鴉天狗」と入力しエンターキー。

 

 出てきたのは鴉天狗に対するウィキペディア、何か有力な情報を探してみるもわかったことは鴉天狗についての参考文献に烏天狗が祀られている神社があるらしいとの事。

 黒い色をしたワークチェアに背中をかけ期待していたものが出てこなかった事に溜息が一つ零れる。彼女と会ってから何回溜息を零した事だろうか、少なくとも以前よりは増した気がする。

 

 ホイールを上に回しカーソルを検索欄に合わしクリック、次に入力した言葉は”異世界について”だった。

 何故自分はこんな事を調べているのだろうか、彼女の為かもしれない。いや、ただ自然と無意識に入力していただけだ、そうに違いない。

 

 だが出てくるのはオカルト版や「異世界に行ってきたんだが………」などと在り来りな題名をした物ばかり。”幻想郷”なんて言葉は一つも見えなかった。

 試しに幻想郷について調べてみるも出てきたのは旅館や喫茶店、幻想郷なんて異世界は見当たらない。

 

 調べるも期待していた検索結果は出てこない、もう諦めようかと思った矢先に”それ”は現れた。

 

 「幻想郷」で調べてみた11ページ目、ポツンと下の方には”幻想郷”とだけ書かれたサイトが見つかる。

 何故こんな後ろのページにあるのだろうか。疑問に思うもその事については後回しだ、恐る恐ると言った感じにマウスのカーソルはそのサイトにゆっくりと近づいていく。

 ワークチェアに倒していた体を起こし「クリックしたら何が起こるのだろう」と俺は固唾を呑む。少なくとも何かが変わってしまう、そんな気がしてならない。

 

 ”見てみたい”、と囁く俺と”見てはならない”と囁く俺がいる、理性が「見ろ」と囁くが本能が「見るな」と囁く。

 頭がこんがらがる中、カーソルはゆっくりとそのサイトに近づき無意識に人差し指が力を強める。このままだと左クリックが押されてしまう。

 

 ダメだ、ダメだと脳にアラームを鳴りつける本能を無視して俺はそのサイトをクリックするーーーーーーーーーーーが。

 

 

「真さん!! 御飯ですよ!!」

 

 どこか険しい表情を浮かべる彼女がノックもせずに思いっきり強くドアを開く、それはもう本棚に飾ってある漫画が倒れるぐらいに強く。

 突然の乱入者にマウスを下に落としてしまう。

 

 

「な、なんだよ文!! ノックぐらいしろよ!!」

 

 少し声の震えた俺が彼女に弱々しく怒鳴りつけると「すみません」と笑いながら返した。

 

 

「と~に~か~く、御飯冷めちゃうんで早く食べちゃってください!!」

「わ、わかったから引っ張るなよ!!」

 

 半ば無理矢理連れてかれる様にして文に引っ張られる。

 まぁいいか、あのサイトは後で調べればいいし。今は一階から漂う美味しそうな匂いをした晩御飯を味わうことにするかな……………。

 

 この時俺は三つの事に気づかなかった。

 一つ、文が小さく不愉快そうに舌鼓を打った事。二つ、そのサイトは俺が部屋に戻る頃には消えていた事。そして三つ、外には何匹もの鴉が鳴いていた事。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ーーーーーーーーーーーおまけ、デパートでの小さな出来事。

 

 

 様々な電化製品が並んでいる中、射命丸文は輝いた赤い瞳で一眼レフカメラを眺めていた。そしてその隣には気怠そうな目をして天田真が彼女を見ている。

 ずっしりと重そうな形をした黒光りするカメラ。それを彼女は触っては戻しあらゆる方向に眺めている、その異常な行動に真は疎か道行く通行人にも変な目で見られていた。

 異常な光景に店員は声を掛けようか掛けまいか悩む輩さえ出てくる。

 

 チラリと期待に満ちた目線を真に送る、一度では飽き足らず二度三度とやめる事を知らない。

 価格には大きく「大安売り!!」と書かれているにも関わらず十八万円と財布にかなり厳しい値段。実際はこれほどの高機能で十八万は安いのだろう、普通ならば二十万と降らない代物だった。

 

 何度も期待した眼差しを真に送る彼女、果てには「これいいと思いませんか真さん?」とカメラに向き合いながら尻目に真を見据える。

 そんな彼女にうんざりしたのか一度溜息を吐いた後彼は重たい口調で言った。

 

 

「…………買わないからな、それ」

 

 ピタリと彼女のカメラを持つ手が止まる、彼女の動きに連動して花柄のワンピースやセミロングの髪までもが止まり、まるで彼女だけの時が止まったのかと錯覚する程の硬直ぶりを見せてくれる。

 なにもかもに絶望した表情を浮かべ手を震わせながら彼女までも重い口調で口を開いた。

 

 

「……………本当にですか」

 

 自分の愛娘と最愛の夫を失ったらこんな顔が出来るのか、ハリウッドの俳優顔負けの表情を浮かべる彼女をばっさりと切り捨てる様に強く、ハッキリと彼は答えた。

 

 

「本当だ」

 

 たった三文字、三文字の言葉だが彼女を絶望の底に落とすには充分過ぎる様で、証拠に彼女はカメラを両手に持ったままがくりと膝を冷たいタイルに落とす。

 文は彼を見上げる様に、真は彼女を見下す様な形が出来上がる中、文は震えた口調で、信じられないと言った口調で返した。

 

 

「嘘…………ですよね?」

 

 赤い瞳には透明の涙が溜まりきり、今にもこぼれ落ちそうだ。そんな文を見下す形で無慈悲にも彼はゆったりと口を開く。

 

 「本当だーーーーー」と。

 文の瞳から涙がこぼれ落ちる、静かに涙を流しながら「嘘ですよ……嘘と言ってください」と手に持つカメラを眺め、黒い一眼レフカメラには彼女から流れ出る水滴が幾つか付着する。

 

 にも関わらず真は無表情の顔持ちで無言を貫き通す。修羅場の様な光景に店員や通行人が少しずつ好奇心と言った所か、少量の野次馬が出来上がった。

 子連れからサラリーマンの様な黒スーツを身に包む男性まで年齢層は幅広く。野次馬に気付いていないのかその中心に居る二人の間に静寂が訪れる。

 

 少しの静寂、野次馬達も何が起きるのかわからないと言った表情で二人を固唾を呑みながら見守っているとーーーーーーー文が一眼レフカメラを大きく振り上げた。

 その文の行動に周りが”ザワッ”と喧しくなりはじめる。口を両手で押さえる子持ちの女性に子供の目を片手に「見ちゃダメ!!」と塞ぐ女性まで。

 

 一気に周りが喧騒に鳴り響く中……………真は落ち着いていた。

 

 

「買ってくれなきゃこの場でカメラを地面に叩きつけます!!」

 

 鳴り響く大きな叫び声にも似た声にどんどん野次馬が集まっていく。

 肩で息をしながら何十万といったカメラを人質に取った文、形勢は彼女に傾いていると誰もが思う中真は静かに一冊の雑誌を彼女に手渡した。

 

 涙を拭い雑誌を手に取る文、カメラを冷たいタイルの床に優しく置くと中身をペラリと一枚捲る。

 目次には綺麗に撮られた秋冬夏春の景色が見られる。秋には紅葉に染まる木々が何本も、冬には雪の積もった山が青空の下綺麗に写っている、夏には大きな果てしない海が、春にはピンク色に染まった桜が写っていた。

 

 その綺麗な光景に目を奪われてしまう文、一ページ目、二ページ目、三ページ目と読み進める手は止まる事を知らない。

 そんな文をどこか悲しい表情で見下ろしながら彼はずっと閉ざしていた口をポツリと開く。

 

 

「文、その写真、綺麗か?」

 

 彼の言葉に我に返る彼女、雑誌から一旦目を外し真を見上げ答えた。

 

 

「…………綺麗ですけど」

 

 「そうか」と嬉しそうに口元をにやけさせる彼はすぐにキリッとした表情に変わり諭す口調で。

 

 

「だけどそれは皆…………カメラが笑っているんだ」

 

 文の傍に寄り三十二ページ目を捲るとそこにはーーーーーー一つの一眼レフを被写体にした写真が写っていた。

 石の上に乗ったただのカメラ、バックには緑色に染まる草原が撮されている”それ”を見て彼女は信じられないと言わんばかりの表情を浮かべる。

 

 

「お前も長い間写真機と過ごしているんだろう? それならお前もわかる筈だ、その床に置かれた一眼レフは笑ってはいないって事が」

 

 彼女はゆっくりと冷たいタイルの上に置かれたカメラへと目線を移す。先程とは変わらない一眼レフカメラ、だけどそれはどこか悲しげな表情を浮かべている気がする。

 黒く、重たいカメラをしっかりと大事そうに手に掴むと彼女はカメラに小さく呟いた。「ごめんなさい」と。

 

 元の場所にカメラを戻すと真は雑誌を手に掴み「これだけは買ってやる」とレジに向かう。最早レジ店員までもがレジを放棄し野次馬と化していたが急いでレジ元に駆け寄り感動した顔持ちで彼の到着を待っている。

 

 野次馬…………いや、観客が一人拍手する。それに釣られどんどん大きくなっていく拍手喝采に彼こと天田 真十八歳は強く思った。

 

 ………………もうこのデパートは使えない、と

 

 

 

 

 




何故だろうか。

何故おまけに三千文字近く使ったのだろうか。
そしておまけに感動した自分が居る。
少しおかしくなってるかも私………。
最近疲れたからな(ボソ

それでは次回まで!!ドゥワッチ

(もしかしたらバイトの時間22時まで入るかもなんで投稿難しくなるかもです涙)

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