鴉天狗達と撮った写真   作:ニア2124

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なんとか投稿出来た……。

今回は少しだけ書き方を変えてみました、見づらかったら言ってください><


午後二時 小波の音に大きな怒声

 

俺と彼女の二人しかいない寂しげな砂浜。

 

 案の定と言ったところか、やはりこんな寒い季節に海なんて行く奴は釣り目的の人ぐらいしかいないだろう。更に今は平日の真昼間、ということも合わさってか本当に誰もいなかった。

 

 この現状に少し寂しさを覚えるが彼女が居るだけまだマシだ、その彼女も俺の隣に青色のスニーカーを脱いで海へ突撃した訳だが。広々とした砂浜には足を抱えながら座る、俗に言う体育座りをしている俺と靴ひもの解けた何の柄もない水色一色のスニーカーだけが残された。やることも無い、海をただ寂しく眺めているだけの俺。

 

 さざ波の音を聞きながら足を崩しあぐらに変えてみる。だが現状は何も変わらず、相も変わらず俺一人。両手を後ろの地面に付けそれを支えに目を閉じながらどうやって時間を潰そうかを考える。

 

 彼女の様に底の浅い場所で靴と靴下を脱ぎ太もも辺りまで海に浸かりながらキャッキャと楽しそうに遊ぶのもいいのかもしれない、だが俺はもう十八歳。それはもう立派な大人だ。そんな立派な大人が子供みたいに、数人連れて海に出掛けた女子高生みたいにそんな事が出来る筈もなく即却下。

 

 第二に出てきた案、砂浜で砂のお城を作ろうかという案も出てくるが手を汚したくはないし却下。

 

 次々と出てくる案を却下し続ける中心の奥底で”自分は酷くマイナス思考だな”という気持ちが湧いてくる。しょうがないだろうに、このネガティブ思考は後天的でもなく無理矢理植え込まれた物でもない、天性的なものなのだから治す手立てが無い、というか治そうとも思わない。

 

 そして最終的にたどり着いたのはこの広い水色の海と白い雲を眺めながら物事に耽る事。如何にも暗い性格の奴がやりそうな事だな、と自虐的な笑みが思わず零れてしまう。

 

 広い海を眺めると大量の水と戯れる彼女が自然と視野に入ってしまう、短い丈の太ももを露出させたホットパンツを着る彼女が。何秒かその姿に見惚れてしまう、ダメだ、これじゃあただの変態だ。すぐに彼女から視野を外し海の向こうを眺めるが気付けば目線は彼女を捉えていた。

 

 捉えては外し、捉えては外すの繰り返し。彼女とあの場所で水を掛け合いながら遊ぶ事はどれほど魅力的な事か、だがそれは俺のプライドが許さない。「そんな安いプライドなんて捨ててしまえ」ともうひとりの自分が囁いてくるも理性で無理矢理押さえつけ無視する。だけども飽きることなく彼女を視点に入れてしまう自分の愚かしさに耐えかね、一つ深い溜息を吐いてから肩掛けバックを枕代わりにしてその場に寝転がる。

 

 視点は彼女から白い雲が幾つか浮かぶ青空へと変わった。

 

 寝転がると同時に聞こえる砂を踏んだ乾いた音。そして小さな波が寄せては他の波を連れ返し、一定のリズムを保った心を安らげる音。それらを聞き流す事なく一つ一つ大事に耳の中へ留めながら空を眺める。服越しに感じる熱い砂の温度に段々と体を適させながら少しだけ欝になる。

 

 空は広いなぁ、とか戦争はどうして起こるんだろうなぁ、とかどうしようもないこと、どうでもいいことに考えを巡らせ頭の中で議論してみる。当然こんな俺に、理系よりも文系派な俺に到底完璧な答えなんて出てくる筈もなくわからない問題に頭を悩ませるのみ。だけどそれが妙に心地良くてにやけた笑みが零れる。この世には俺のわからない問題が数多く存在していて、尚且つ何十年も考えたってわからない出来事がある。

 

 それが俺にとっては物凄く面白くて、楽しくて堪らない。だから俺はオカルト関係が大好きなんだ、人外から幽霊に異世界という存在まで、それらを考えるだけで胸が熱くなるって言うのに俺はその”それら”を今現在に体験しているときた。よくよく考えると今、俺は物凄い奴に関わりを持っているんだなと(つくづく)と感じてしまう。

 

 大の字になった体その身で風を一心に受ける、彼女の能力による風ではなく空から吹いてくる風に。

 

 首だけを上げ彼女を見ると先程と変わってしゃがみながら海水を両手一杯に掬ってはそれを浴びるように飲む彼女が見られる。やはり人外でも海水を美味しく飲む事は出来ないらしく塩っぽすぎるのか喉を抑えながら苦しそうにむせる彼女。その行動に思わず小さく声を上げ笑ってしまう。自分特有のクツクツと嫌らしそうに笑う笑い声。彼女はそれに気づいていないのか、それとも気にかける必要も無いのかもう一度懲りずに海水を掬ってみせる。

 

 そこで俺は枕代わりのカバンにへと頭を下ろしもう一度気づかれない様に笑う。彼女と会ってからというもの色々と変わった気がしてならない、例えば俺の溜息が増えたり俺の笑みが増えたり。殆どの事が俺に関してのことだ、本当彼女と居ると調子を狂わされる上に全く飽きない。それだからなのか、気づけば彼女へと目線を追っているのは。

 

 先程だって俺は彼女ではなく海に視線を動かした筈だ、だというのに視点は彼女を捉えた。無意識に彼女を追っている。不可解な出来事が好きな俺だがこれに関してはどうも好きになれない、好奇心は全く誘われず、微妙なむずかゆさだけが残ってしまう。

 

 悩ましい溜息を一度吐き空を眺める。先程と違ったソフトクリームの様な形をした雲、その雲に腕を上に突き上げ掴む様にしてみせるが距離は遠すぎて掴む事は疎か触れる事さえ出来ない。今の俺と彼女の心の距離感はこれ程までに遠いものなのか、もしかしたら彼女は俺を単なる金づるとでしか見ていないのかもしれない。そう考えると心の奥底が酷く震える。

 

 何故だろうか、彼女が俺へと向けている気持ちどころか俺は俺が彼女へと向けている気持ちすらわからない。ある時はうざったく思い、だけど彼女が姿を消したら俺の心は氷みたいに冷たくなる、体全体の血の気が引き震える。他人に向ける感情でも友人に向ける感情でも悪友に向ける感情にも当てはまらない。なんなのだろうかこれは?

 

 

 だけど俺はこの感情を昔誰かに向けていた気がする、それがわかれば苦労はしないのだが。

 

 誰だった、よく考えろ、これで全てがわかるんだ。だけども考える度にその”人物”は深い記憶という名の濃霧の奥底へと逃げ込んでしまう、まるで俺に知られたくないような。追いかけても追いかけても逃げ続け、終わりの見えない追いかけっこ。考えろ、考えろ、簡単に捕まえられるなんて鼻から思っていない。必死に考えるんだ。

 

 あと一歩、手を伸ばせば届く距離に見えたのは黒髪の。

 

 

「なにしてるんですか真さん?」

 

 空をバックに俺を上から覗き込む彼女の顔が見える。訝しげな、どこか心配そうな表情の彼女が。突然の乱入者に呆気に取られてしまうこと僅か五秒、だがその五秒は追いかけっこの逃走者に大きなチャンスになった様で目的の人物は奥底へと逃げ隠れてしまった。呆気に取られる時間五秒間、相手を逃してしまった後悔の時間十秒間で計十五秒間押し黙る俺と俺を上から見下す彼女。もう目の前の彼女に怒りをぶつける余裕もなくなり俺は悩ましい深く長い溜息を吐いてから彼女の問いをただ平淡に返した。

 

 

「別に、追いかけっこしてただけ」

 

 

 

     ✿     ☂     ♠     ♥

 

 

 服の裏側に付いた砂粒を俺と彼女の二人がかりで叩き落としながら俺は内心「結局汚れたな」なんてどうでもいいことを考えていた。その後はただ無心に叩くだけ、ふと後ろを振り返ると面倒臭そうな表情を浮かべた彼女が俺の服を優しくひと叩きする。ただ服を叩いている、それだけなのに一つ大きく鼓動が高まる。面倒臭い、そしてわからない。

 

 せめてさっきの人を思い出せれば何かが変わったのかもしれないのに、だが最早後悔先に立たず、いや後の祭りか? まぁどっちでもいいしどっちも違くてもいい。今は付いた砂を叩くのが仕事だ、それ以前もこれからもどうでもいい。

 

 後ろで砂粒を叩く彼女が最後に一回強めに背中を叩くと「よし」とやりきった様な短い言葉を口にする。

 

 

「大体は落とせたんで後は我慢してください、それよりもお腹減ったんで御飯にしましょう!!」

 

 両方の手の平を強く叩き小気味良い音を発しながらニコリと笑う彼女に釣られ無意識なのか俺の頬までもが弛んでしまう。これだ、彼女の笑顔が好きなんだ俺は。心までも溶かしてくれる暖かい笑み、だがそれを彼女に察せられてはいけない。何故かわからないけどそんな気がしてならなくなるんだ。

 

 弛む頬を必死に押さえつけながらいつも面倒くさそうな表情を浮かべ彼女の言葉に”しょうがない”と言った感じに許可する俺。本当は内心嬉しいのかもしれない、彼女が俺を頼ってくれるのだから。だから俺はこの彼女の提案に気怠そうな感じにしてこう言うんだ。

 

 

「わかったよ、レジャーシート出すからそこどけ」

 

 枕がわりにしていた肩掛けカバンを広いながらそう言うと彼女は物腰の良い笑みを浮かべながら軍人の敬礼の様に肘を曲げ、手のひらを左下方に向けて人差し指を頭の前部にあてながら「了解!!」と元気一杯に言ってみせる。またも無意識に笑みを一瞬作ってしまうが平常心を装いカバンの中から赤と水色の縞々模様で作られたレジャーシートをその場に敷く。

 

 風の速さで彼女がレジャーシートの真ん中を陣取ると口元を手の平で抑えながら今度はいやらしそうに笑う、「早いもの勝ちですよ」なんて言いながら。彼女のお陰で笑みにも様々な種類があることを学んだよ。楽しく笑う時は頬を弛ませながら、嫌らしそうに笑う時は口元を歪ませながら、冷たく笑う時は目元だけ笑っていない事とか様々。

 

 彼女と出会うまであまり人と触れ合った事が無いせいもあるが、それでも彼女と一緒に居ると色々な表情を見られる事が強くわかった。少なくとも人間の俺よりは表情のバリエーションに富んでる、人外に負けて悔しい気もするが。

 

 しょうがなく彼女の隣に、とは言っても彼女が陣取りすぎて左足が砂浜に出てしまうがそこに座ると今度は勝ち誇った笑みを浮かべて俺を嘲笑う。内心嬉しくもカチンと頭にきたせいか手でもう少し詰める様にシッシと会話するがそんな俺から目を逸らす彼女を見て諦め深い溜息を零す。

 

 大の字に寝転がったら余裕で体がはみ出る小さなレジャーシート、それなのにその殆どを取った彼女に向ける感情は今やうざったさ半分、嬉しさ半分と言ったなんとも言えない複雑な感情。そんな中空き腹を抱える彼女の前にバックから出したのは水玉模様の風呂敷に包まれた二段弁当。それを一目見た彼女は待っていた物が来た様な輝いた表情を浮かべハイエナの如く素早い手つきで解く。

 

 それほどまでに腹が減っていたのか、そもそも天狗でも腹が減るのかと脳に一つの疑問が浮かぶが彼女と初めて出会ってした会話を思い出して小さな笑いと共に玉砕される。一つの疑問符が玉砕されると同時に動きが固まった文。どうしたのだろうと思い訝しげな表情を浮かべながら彼女の手元にある弁当を見ると共に俺の動きまでもが一瞬だけ止まる。

 

 

 砂浜には小波を聞きながら動きを止めた俺達二人と青色のスニーカーの横に並んだ赤色のスニーカー、そしてレジャーシートの上に置かれた二段弁当の中身は俺が海に向かう道中全速力で走ったせいなのか何が何のおかずだったのか判別不可能になるまでにミックスされた昼食があった。

 

 

 

     ☂     ♥     ▼     ▲

 

 

 弁当についての口論を少しした後しょうがないと言った感じに何とか原型の留めているウィンナーやオニギリを彼女は虚しく頬張った。あれ程にまで混ざったにも関わらず美味しさを失わない彼女の料理の腕には素直に感心するが見た目が酷かった、ほぼ俺のせいなのだがマカロニサラダの混じった伊達巻玉子なんてもう………。

 

 そして今こうして弁当をレジャーシートの隅っこに寄せた後夕日の昇る海空を眺めている、勿論弁当の中身は全部俺が責任持って食べました。

 

 彼女の心中には一体今何が渦巻いているのだろうか、俺に対する憎悪なのかそれとも殺意なのか。少なくともいいものでは無いのは確かだった、その証拠に彼女だけ夕日を眺めず体育座りで俺の事を負の篭った目線で睨んでいる。謝れよと言わんばかりの表情で。

 

 確かに悪いとは思っている、十中八九誰もが見ても悪いのは俺なのだから。だけども何度謝っても許してくれない彼女も彼女だと思うんだ、何度謝罪しても返ってくる言葉は「嫌です」だとか「絶対許しません」だとか。それなのにこんな表情を浮かべてくる彼女に流石に嫌気が差してきた。

 

 

 そんな重たい雰囲気の中彼女が長い沈黙を破る。

 

 

「真さんは私の作った手料理をぐちゃぐちゃにしても平気な顔をする嫌な人だったんですね~」

 

 如何にも嫌味を言ってるんだよ、という口調で。女は感情論で話す奴と理論的に話す奴が居るなんて事を聞いたがこいつは絶対に感情論で話すタイプだ、俺が強く宣言する。

 

 別に平気な顔をしている訳ではない、一応はこれでも罪悪感を感じているのだが彼女にとって俺は今平気な顔をしているらしい。ここで彼女の言葉を聞き流すのは楽だろう、だけど無視を決め込むでもしたら更に機嫌が悪くなるのは目に見えている。だから俺はしょうがなくと言った感じに自然と声のトーンが低くなった声色で返した。

 

 

「別に平気な顔はしていないよ、一応罪悪感は感じているし………さっきまで謝ってたじゃん」

「どうでしょうかね~私にはそうは見えませんが」

 

 相も変わらずツンの態度を見せる彼女、それを尻目に見て深い溜息が零れる。それが彼女には気に食わなかったらしく俺の真似事の様に彼女までもが強く、深く長い溜息を吐いた。

 

 またも訪れる静寂、波の音だけが聞こえて、昼と同じく人っ子一人来ない寂しい砂浜。夕日だけが俺達を無視し、眺めながら西へと沈んでいく太陽。どうやら彼女は沈黙と言った気まずい雰囲気は好まないらしくまたも険悪な雰囲気を曝け出す中、口を開く。

 

 

「あっそーですか、黙りですか。自分の都合が悪くなった時だけ黙るんですね~はぁ………」

 

 目くじらを立てた目付きで俺を強気に睨む彼女がまた溜息を零す。今にも堪忍袋の尾が切れそうだ、強く握りすぎて青白く変色した拳に歯軋りを小さくしてみせるが彼女は気付いた素振りも無しに減らず口を叩き続ける。

 

 最早無視を決め込み続ける俺だったが限界の一歩手前にまで訪れていく。そんな俺を追い込み続ける彼女、歯軋りが強くなっていく中少し強めの口調で彼女が言った。

 

 

「こんなのだったら他の家に取り憑いた方がマシかもしれませんね」

 

 我慢の限界と言わんばかりに俺の体は無意識に大きく舌打ちをした後立ち上がりながら座っている彼女の胸ぐらを掴んだ。砂浜の砂がレジャーシート越しに潰され、肺に大きく息を吸い込み波の音なんかに負けない程の大きな声で怒鳴り上げる。

 

 

「だったら他の家に出て行け!!!」

 

 胸ぐらを掴み小柄な彼女の体が少し宙に浮く、顔の距離は息が当たりそうな程の近さ。怒りに歪みきった俺の顔を彼女だけが呆然と。

 

 

 嬉しそうに口元を少しだけ伸ばしていた。

 

 

 

 

 

 

 




会話の少なさが異常ですねこれ。

殆ど主人公視点で見づらいかも………。
申し訳ありません><
それでは………

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