諸君、私は失敗した。   作:メガトンコイン

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先生の経歴不明なので研究者概念足した。後悔はしていない。


序論:キヴォトスとは
プロローグ 報告書01:n回目の失敗


第n回目報告書

 

 日付:時間はすでに意味を成していないため不明。

連邦生徒会連邦捜査部S.C.H.A.L.E顧問 梶村 哲也 先生

梶村 哲也という名前は捨てるように。

 

1 現在の状況について

 

 これを見ているということは、私は問題なくタイムリープに成功したということだろう。そうであれば、多少の安心感すら覚える。だが、万一、これを読んでいるのが私ではなく、生徒の誰かであった場合、まずは悪いことは言わないので今すぐこの報告書を閉じ、発生中の異常事態への対処に集中せよ。この報告書に書かれている内容は、お前たちにとって理解しがたいだけでなく、精神的混乱を引き起こす可能性が極めて高い。もしお前が好奇心に負けて読み進めてしまえば、きっと後悔するだろう。だから改めて警告しておく──これは生徒が読むべきではない。

 

 そもそも私という人間は、何か気になる事象があれば、その事象以外の全てに無頓着になるという悪癖を抱えている。だが、そんな私でも、このレポート束だけは決して手放さない。事実、第76回目の失敗実験で証明されている通り、この報告書の束、ボールペン、そして伊達メガネの三点セットだけは、どんなに激しい時空転移や世界崩壊を経験してもなぜか失われない。まったくもって皮肉な話だが、これらは私にとっての唯一の“救い”であり、同時に呪われた運命の象徴でもある。

 

 繰り返すが、生徒の誰かが偶然これを手に取ってしまったなら、悪いことは言わない、今すぐ手を引け。この報告書は、現実を直視しすぎた愚かな一人の教師が、世界を救おうとして繰り返した無数の悲惨な失敗の記録である。読んだところで希望はない。むしろ、ここに記されている真実は、お前たちが直面している現実よりもはるかに恐ろしいものだろう。

 

 さあ、生徒諸君、忠告を守れ。これ以上読み進めてしまったが最後、お前たちの心に取り返しのつかない傷跡が残ることは間違いないのだから。

 

 注釈[1]:第76回目の失敗実験で判明したように、レポート束、ボールペン、そして伊達メガネは、どんなに惨めな結末を迎えても消失しない。次の私へ報告書を書く際は、必ずこれらを身につけた状態で殉職せよ。

 

2 結果とループ条件

 

 急を要するため、先に結果を示す。今回の私も、あっさりと失敗に終わった。ループの起点は、そちらの私がキヴォトスへ転移してきた直後だ。少なくとも、私が経験しているループ回数は四桁に達しており、例外なくその時点から始まっている。

 

 この間、空は鮮やかな青から突然の真紅へと変化し、影のような異質な存在が生徒たちを容赦なく苦しめ、電子機器は奇妙な挙動を見せ続けている。そちらの私に伝えるなら、現実世界の波動関数のコヒーレンスは既に破壊され、デコヒーレンス状態に陥っている。ロゴスとカオスの関係すらも崩壊し、すべては均一な恐怖に支配されている状況だ。

 

 ここで、皮肉な事実を一つ。第407回目および第999回目の試みのような、単純な停止や現実性の導入策は一切効果がなく、むしろ状況悪化を招いている。これにより、いかに私の挑戦が虚しさを帯びているかが如実に表れている。

 

 さらに、ループの条件についてだが、これは私の殉職または世界の完全崩壊という、避けがたい運命が決定した時点で自動的に発動することが分かっている。理論家として実に皮肉だが、証明できないことは仮説の域を出ない。かつて学会では、私の理論は「形而上学的空想」と一蹴されていたが、そんなクズ研究者が世界の命運を握る立場にあるというのは、何とも皮肉な運命だ。29歳の当時の私には、そんな未来すら想像もつかなかったのだが。

 

3 過去の試みと検証済みの仮説について

 

 私は既に1000回以上―いや、実数として数えることさえ無意味なほど―ループを重ねてきた。繰り返される絶望と失敗の中、精神は限界へと追いやられつつある。しかし、私に残された唯一の希望は、次の私、あるいは未来の私がこの報告書を参照し、新たな一手を編み出してくれることにほかならない。Empirical evidenceが無くても試せ。

 

 タイムリープが始まった初期の頃、私が自らの状況を理解するだけでも膨大な時間を費やした。最初の数十回は、混乱と自己疑念、そして狂気の淵にまで追いやられた。しかし、第49回目のループでようやく自分がタイムリープしているという事実に気づくと、何らかの手がかりを残す方法を必死に模索し始めたのだ。

 

 その結果、運命的とも言える第76回目に、レポート束、ボールペン、そして伊達メガネだけが、時空を超えて必ず伝承されることが判明した。以降、これらの“聖遺物”を手に、私は次の自分への報告書を刻み続けている。

 

 以下に、これまでの主な試行とその結果を列挙する。失敗談の羅列に見えるが、次の私が同じ轍を踏まぬための貴重な記録である。

 

 第143回目報告書

 異質な存在を物理的に破壊しようと試みたが、破壊直後に一時的な消滅は見られるものの、すぐに再生する。つまり、相手は不死身に近い。

 

 第258回目報告書

 生徒たちをキヴォトス外部へ避難させようと試みたが、外部との通信が途絶しており、脱出経路が全く存在しなかった。

 

 第374回目報告書

 生徒の精神に作用する現象を認識の歪みで回避できないか試したが、逆に効果は裏目に出た。理論と現実は、いつも皮肉な結果を伴う。

 

 第407回目報告書

 空間そのものの停止を試みた結果、状況は急速に悪化し、空間崩壊を引き起こして全員が即死。二度とこの策を試すな。

 

 第512回目報告書

 波動関数のコヒーレンスを人工的に再構築し、状況の修復を試みたが、初期の成功は長続きせず、異質な存在が劇的に増殖。修復という概念自体を放棄せよ。

 

 第623回目報告書

「影のような異質な存在」の正体を解析。どうやら、これらは生徒や教師―すなわち私たちの精神や記憶―に寄生し、模倣する性質を持つことが分かった。したがって、過去のループ記録にも常に警戒を払うこと。

 

 第777回目報告書

 時間の流れを逆行させるという大胆な試み。結果、時間ループ周期が変則化し、不規則な時間跳躍が発生。混乱は増す一方で、これも永久に封印すべき策となった。

 

 第845回目報告書

 タイムリープ開始直後に、私自身が即座に自害し、時間ループの破壊を試みた。しかし、ループは頑なに再開位置へ戻されるのみであった。勇気ある行動の皮肉な結末だ。

 

 第999回目報告書

 現実性の概念を強制的に導入し、世界の安定化を試みたが、初めの一瞬だけ状況が安定したかに見えて、直後に爆発的な現実崩壊を引き起こし、全てが終焉を迎えた。以後、この手法は絶対に再試行するな。

 

 さらに、無数のその他の方法も試みたが、どれも失敗に終わった。振り返ってみれば、私の行動そのものが影のような異質な存在の力を強化していた可能性すら否定できない。次の私よ、この事実を心に刻み、物理的干渉よりも生徒たちの精神的安定を最優先に据えよ。

 

 過去の複数回に渡る観測から、生徒たちが希望を失った瞬間、世界の崩壊速度は劇的に加速することが明らかになっている。精神の安定こそが、キヴォトス世界の崩壊を遅延させる最も効果的な要素である。次回以降は、生徒たちが絶望に陥らぬよう、心理的支援を最優先の目標に設定することを強く推奨する。

 

4 精神的干渉の可能性について

 

 これまで試行錯誤の中で、唯一持続的に効果を発揮したのは、生徒たちの精神的安定を促す手法であった。皮肉にも、かつての私が科学的理論に固執し、数式と実験装置にすがっていた頃よりも、むしろ生徒の心を労ることこそが世界崩壊を遅延させる最も実践的な策となったのだ。(かつて「心理学など二流の科学だ」と鼻にかけていた自分が、今ではその真価を認めずにはいられないのは、まさに人生の皮肉といえよう)

 

 第1024回目の報告書では、過度な励ましや虚偽の情報提供によって、生徒たちが現実との乖離を起こし、かえって絶望が深まった例が記録されている。希望というものは、適量であれば救いとなるが、過剰摂取はまさに毒と化す。

 

 注釈[2]:第1101回目の「小さな成功体験」の積み重ねは、当初は見事な成果を上げた。しかし、あまりにも頻繁に繰り返せば、効果が薄れ、むしろ生徒たちに「何かが作為的だ」と疑念を抱かせる。ほどほどが肝要だ。

 

5 影のような異質な存在についての新仮説

 

 ここ数回のループにおいて、私自身の精神状態と連動するかのように、あの不気味な影の存在が着実に勢力を伸ばしていることに気づいた。どうやら、私の絶望と焦燥こそが、あいつらの「エネルギー源」となっているらしい。つまり、私自身が影の饗宴のための絶好の餌食となっていたのだ。

 

 第1200回以降の実験では、私が深い絶望に陥ると、影は明確な姿を帯び、まるで「闇のパレード」を始動させるかのように周囲にその傀儡が蠢いていた。これは、皮肉にも、私の精神が相手にとって“快食”であるという事実を如実に物語っている。

 

 対策として、第1247回目の報告書にて試みた「感情抑制」手法は、一時的に影の接近を緩和する効果を示した。しかし、何十回もこの手法を連続して使用した結果、私自身の人間性は次第に希薄になり、最終的には精神の崩壊を招く結果となった。

 注釈[3]:感情抑制は、いかに有効に見えても、使い過ぎると「情けなさ」の代償を払うことになる。適度な感情のコントロールと、人間らしさの維持とのバランスが、今後の大きな課題である。

 

6 ループ解除の可能性について

 

 ここに、私がこれまでの無数の失敗の中で、唯一僅かな突破口を見出した試みについて記しておく。第1303回目の報告書において、私は普段絶対に手を触れないはずのシャーレ内の置時計の位置を、たった10センチだけ移動させるという、極めて些細かつ馬鹿げた行動を試みたのである。

 

 驚くべきことに、この微細な変化により、影の再来が微小ではあるが遅延された。理論上は、カオス理論に基づく「予測不能な微小変化」が、敵の動きを攪乱する可能性を秘めていると考えられる。

 注釈[4]:この行動を「カオス理論的解決法」と呼ぶこともできるが、真意は「どうしようもなくなったら、とりあえず何か変なことを試せ」という、絶望の中での唯一の希望と言っても過言ではない。見せかけの威厳はさておき、実践あるのみだ。

 

7 私の失敗例から学ぶべきこと

 

 ここに、過去の数々の皮肉な失敗例を列挙し、次の私が同じ轍を踏むことのないよう、または皮肉な笑いを浮かべながらも冷静に対策を講じるための参考資料とする。

 

 第777回目報告書「時間逆行計画」

 時間を逆行させるという、夢物語のような試み。結果、状況は一層混乱し、時間自体が不機嫌を露わにしたかのように跳躍を始めた。時間に人格があるとでも思うなかれ。

 

 第845回目報告書「即座の自害による時間ループ破壊計画」

 勇敢(?)にも自害を試みたが、結果はただループが再開する位置に戻るのみ。勇気はあったが、結果的に自己犠牲は無意味であった。

 

 第999回目報告書「強制的現実性導入」

 現実を無理やり安定化させようとした結果、初動は順調に見えたが、すぐさま爆発的な現実崩壊が発生。現実というものが、意外に脆弱であることを思い知らされた瞬間である。

 注釈[5]:私のこれらの偉大な失敗記録は、後に書籍化され印税で暮らすという夢を抱いてみたいものだが、現実は厳しい。成功への鍵は、失敗を恐れず何度も挑むことにある。

 

8 次の私への最終的提言

 

 次の私よ、そして未来の私よ。ここに刻まれた記録は、私が数え切れないほどの絶望と失敗の中で、唯一希望を求め続けた証である。お前は、私たち全ての集合体であり、過去の私の血と汗、そして痛みが凝縮された存在だ。どうかこの報告書を手に取ったなら、以下の点を決して忘れるな。

 

 生徒の精神状態を最優先せよ。

 科学的な理論に固執するのは誇り高き行為かもしれないが、現実は冷酷だ。生徒たちに「小さな成功体験」を積ませ、自ら希望を見出すよう導くことこそ、唯一の対抗策である。

(かつて「心理学なんて二流の科学」と高笑いしていた自分が、今ではその真実に頭を下げる羽目になっているのは、人生の皮肉としか言いようがない)

 

 影のような異質な存在に決して感情を与えるな。

 お前の絶望、怒り、そして哀れみこそが、あの存在たちの力の源である。冷静さを保ち、感情の波を最小限に抑えることが、彼らの攻勢を和らげる唯一の手段だ。

(注:感情抑制のやりすぎには注意せよ。あまりに冷徹になれば、人間らしさを失い、結果として孤独と狂気に陥る可能性がある)

 

 時には馬鹿げたことを試みよ。

 これまでの全ての論理的試みが失敗したのなら、あえて常識を打ち破る行動に出るべきだ。シャーレの置時計を10センチ動かしたあの瞬間のように、予測不能な微小変化こそが、突破口となり得る。

(カオス理論的解決法とでも呼ぼうか。いや、単に「どうしようもなくなったら、馬鹿なことをしてみろ」という、私の唯一の希望の叫びだ)

 

 私は既に1000回以上―おそらく実数として数えることさえ無意味なほど―ループを重ね、絶望と失敗の渦中に身を投じてきた。精神は限界に近づきつつありながらも、私に残された唯一の希望は、次の私、未来の私がこの記録を頼りに、新たな一手を見出してくれることだ。

 

 どうか次の私へ、また失敗を繰り返すであろう私へ。お前は決して一人ではない。数え切れないほどの「私」たちが、絶望の中でも諦めずに前へ進むために努力を重ね、その記憶は散逸してしまったかもしれないが、記録はここに永遠に刻まれている。お前こそが私たちの集合体であり、私たち全てなのだ。恐怖に囚われた時は、何度でもこの報告書を読み返し、新たな策を練り直せ。必ず道はある。私たちは必ず突破口を見つけ出せるはずだ。

 

 最後に、皮肉を込めて告げよう。私の数え切れない失敗と絶望が、次の私にとって最大の財産となることを願っている。もしかすると、この報告書を書く最後の私となる日が来るかもしれないが、その日までどうか諦めず、前へ進むのだ。

 

第n回目報告書 以上

 

 以上が、これまでの試行と未来への希望、そして皮肉を交えた全記録である。次の私よ、どうかこの言葉を胸に刻み、再び絶望に立ち向かえ。

 

 連邦生徒会連邦捜査部S.C.H.A.L.E顧問

 先生




書いてたら勝手にSCPみたいになってた……
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