その日、オラリオは最も長い夜を迎えた。
破壊と慟哭。
恐怖と絶望。
街は燃え、血は流れ、数々の星が散った。
後に『死の七日間』と呼ばれる、オラリオ最大の悪夢
都市に深過ぎる傷を与えた『絶対悪』──エレボス達は、笑みを残し、去っていった。
立ち尽くす子供達と神々に背を向け、
その日、オラリオは最も長い夜を迎え──そして、オラリオは昏い朝を迎えた。
「急げ!まだ生存者がいる!!」
今も、火が残る都市の中で、冒険者の声が響く。
「魔道士の派遣を……!誰かっ、誰かいないのですか!」
「手伝って!まだ瓦礫の下に人がいる!!」
「馬鹿野郎!さっさと
「ディアンケトでもミアハでもいい!誰でもいい、どこでもいい!!早く、連れてこぉぉい!!」
【
「負傷者はここへ!手当します!」
「医療物資はこちらに!」
「うぅっ……ぁぁぁぁ……」
「しっかりしろ!しっかりしてくれ!」
止血を行う
「頼むからもうっ……死なないでくれ!」
そんな願いは、届きはしない。
「ぅ、ぁ─────……………………」
「嗚呼……ああぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」
ネーゼは泣き崩れてしまう。
「………………」
「……何人死んだ?」
右を見ても、左を見ても、背後に振り向いても喪われた命、残されてしまった人々は見えてしまう。
「……何人殺された!?」
その、惨劇はリューの心を抉る。
「リュー……」
「アストレア様……」
そんなリューに歩み寄るのはアストレアだ。目の前に現れた敬愛する女神、リューは口を噤んだ。
「…………アルフィアが……死にました。」
「ええ……聞いたわ。」
「ベルが…………消えてしまいました。」
「ええ、それも聞いた。」
リューは、震える声で、アストレアにそう言う。
「……正義とは…………なんなんですか?」
かを帯びる瞳で、震える声で、正義の女神へ問う。
「我々が追い求めていた秩序は……こんなにも簡単に、悪に屈してしまうのですか…………!」
「………………」
アストレアは、リューの問いに何も返せなかった。
「善人である、ベルが傷ついて、ベルを愛して慈母であった優しいアルフィアが死んで……」
昨日の惨劇を忘れはしないだろう。
「……何が、正義なのですか……?」
■■■■■■■■■
悲しみの連鎖、悲痛の叫び。
とうの昔に喉は枯れ、涙も枯れ。少年には何が残ったのだろう。
「……ぁ……。」
正義を知らずとも、少年は動く。
「うぅ……」
痛みに悶える冒険者。少年は、ベルには回復魔法はもちあわせない。けれど、手当ができないわけではない。簡単な応急処置ぐらいなら、アルフィアに習った。
「……ぅ……ありがとうな……坊主……」
それでも、回復魔法みたいに即効性はないし、治る訳でもない。応急処置はあくまで軽い調整。
「あ……ち。……あ……れあ……ふぁみりあ……いる。」
枯れた声で精一杯、絞り出すベル。
「おお……坊主は大丈夫……か?」
「?」
「目だよ、目。」
そう、ベルは今片目が見えない。
「だいじょぶ……。」
そして、その冒険者が動けると判断できたから、ベルはフラフラと奥に消えていく。
「……どこ……いる。」
「エレボス!!」
声を絞り出し、怒号にも近い声で、邪神の名を呼ぶ。
復讐を誓う。なぜなら、義母を愚弄したように、語ったあいつの演説は胸糞悪かったから。
「……くそ……」
どうして、自分が生き残ったのだろう。どうして、どうしてなんて、考えても無駄なことを考えてるのだろう。
つくづく嫌になる。
そんなことを考え、歩いていると。一つの教会が目に入る。真っ白で、でも崩れそうで、扉だって、外壁だって。
「…………。」
でも、入ることにした。それが、ベルにとって、大好きな場所だったから。義母であるアルフィアに連れられてよく来ていた場所だったから。
「……きれい……」
ステンドガラスは綺麗な発色をしていて、定期的に誰かが来て手入れしていたんだろうなあとおもう。見た目の割に、埃が少なく、綺麗。
「……お義母さん……正義って……なに?」
そんなことを呟いた。弱音だった。
でも、疲れた。だから、寝ることにした。椅子にもたれかかり、ぼくはねむりについた。
いつからだろう。
お義母さんと過したのは、叔父さんがよく遊んでくれたのは。おじいちゃんが、よく吹っ飛ばされていた。
綺麗な黄昏色の空、黄金のように輝く麦畑。
そこに佇むのは、大好きな最愛の
そして、それに近づく、僕にそっくりのまだ六歳のベル
『……ねぇおばさん』
そういうと灰色の髪の女性は……
『ドゴッッっっ!?』
ゲンコツを落とした。
瞬きの間とかそんな次元じゃない神速の拳は『殴られた』という結果だけを残す。
防御も回避も知覚も不可能!!
それほど女とベル(幼児)の生命としての格は隔絶している!
頭頂部を貫通して全身に轟き渡る衝撃!
いたみ! 苦しみ!これぞ福音拳骨!
信じられるか?超短文詠唱より速いんだぜ
『殴るぞ?』
『もう なぐって います!!』
理不尽極まれり、切にそう思う。
『私を呼ぶ時はなんと言え教えた?ん?』
『……アルフィアお義母さん。』
『よろしい。』
傲岸不遜なこの女はアルフィア!
この少年のおば──ゴフッ義理のお母さんだ!アルフィアは少年のお母さんのお姉さんに当たる!
『それで?何を言いかけていた?』
『……殴らない?』
『話を聞く前から分かるものか。だが不快だったら殴る。』
『こわい!』
『ならば叩く。』
『それもきっといたい!』
『あまり騒ぐな。またデコピンをするぞ』
『ひぃっ』
それを言われ怖くなり1歩後ろに後退する
『私は雑音が嫌いだ。必要な事だけ粛々と報告しろ。』
これは怒っていると考えた少年は、祖父に教えて貰ったことを使う。
『イエス・マム!サーセンッシタァ!!』
『……何だ、それは?誰から教わった?』
あれれ?おかしいぞ〜?明らかにさっきまでより眉を顰めて怒っている。何故
『お、おじいちゃんがこう言えって……』
『あの糞爺め。ベルの教育に悪影響しか及ぼさない癌、やはり魔法で三つ山の向こうまで吹き飛ばすか。』
『やめて!おじいちゃんが死んじゃうからヤメテ!!』
そういうとアルフィアは表情を柔らかくして怯えているベルに告げる。
『……手は出さないから、話してみろ。』
『……ぼくの、ほんとうのお母さんって、どんな人だったの?』
『……優しいやつだった。』
その突然の質問にアルフィアは間を開けて言った。本当の母を淡々とでも暖かいような声色で、自然と笑みがこぼれそうなほど
『やさしい?』
『ああ、いつも笑みを浮かべ、ただいるだけで他者の心を解きほぐした。』
アルフィアは語る、ベルの親今となってはいなくなってしまった人。
『病弱で、しかし儚さを感じさせず、普通の事を言っているのに、あぁそうかと間違えを気付かせてくれる。不思議と誰からも愛される白い女だった。』
『しろい……』
『だが食べ物の恨みだけは凄まじかった』
『えっ。』
いきなりそんなことを言うアルフィアにベル大困惑、真面目な顔で言うせいなのだ。
『あいつが楽しみにしていた甘味を、私がこっそり食べてしまったことがあってな。あの時のあいつは竜の息吹を吐きかねん程だった。私は初めて死を覚悟したよ。』
『えっ。』
『同じ理由でヘラ……とある女神も石の床に直接正座させられてな。本当に見物だった。あの傲岸不遜な女が、屈辱で身を震わせながら涙を貯めていたのだから。』
それをきいてぼくはお母さん何やってるの!?と思ってしまった。
『……誰かの手を借りなければ生きられなかったからこそ、お前の母親は『生きる』事の尊さを忘れなかった。』
優しい笑みで暖かい、高潔な花がやっと人に咲いた姿を見せた時のように。
『己を卑下せず、感謝を忘れず、地獄のような苦痛にも屈せず……笑みを浮かべながら、今を生きることを誰よりも噛み締めていた。』
『……』
『お前が病を知らず、健やかでいられるのは……他でもないお前の母親のおかげだ。』
『お母さんが……?』
『あぁ……少なくとも、私はそう確信しているよ。……本当はな、お前に会うつもりなんて更々無かったんだよ。』
『──えっ?』
『お前の前に姿を現すことだけはすまいとそう思っていたんだ。』
『……じゃあ、どうして……?』
僕は恐れながら聞いた。怖かった理由を聞くのがとても恐ろしかった。
『魔が差してしまった。』
それは僕にとって予想外の返答だった。
『妹が残した子が気になって、ザルドと一緒にこんな山奥まで来てしまった。』
眉をまた顰め後悔してるかのように言う
『遠くから、本当に一目見て、去るつもりだったんだ。だが、お前のその『白い髪』を見た時、もうダメだった。』
白い髪……?
『私は込み上げてくるものが抑えきれず、気づけばお前の前に立っていた。』
そうか───この髪は……お母さんの…
『そして、お前を抱きしめていた──』
思い出される、初めてあった日
目の前にいた女性が僕にいきなり抱きついてきて困惑をした。
『お前はメーテリアによく似ているよ。お前のその白い髪も、顔も、笑みも、全部母親譲りだ。』
『お母さんの……』
やっぱりと思ってしまった。
『ただ一つ、瞳だけは父親のものだ。
……その赤い目を見る度に私は無性にくり抜きたくなる。』
『ひぇっ。』
この母は何を言っているのだろう……あながち嘘にも聞こえなくて困惑してる。
『……僕は、アルフィアお義母さんとも、ザルドおじさんとも、離れたくないよ。』
『お前が永遠を願っても、神ならざる我々では叶えられない。私たちは不変では無いからだ。ずっと一緒にいることは、出来ない。お前が望まずとも、別れは必ず訪れるそれを忘れるな。』
『アルフィアお義母さん……』
そんなことわかってる。僕だって体が限界立っていることすらも奇跡に近い、なのにこんな僕が永遠なんて望めるわけが無い。
『今日明日の話ではない。そんな顔をするな。』
なら、『その時』は近い───
だって、アルフィアの咳は増えていた。誰もいない場所で彼女がよく咳き込んでいる事は、知っている。
『ゴホッゴホッ』
その中に赤い血が混ざっていることも、知っている。同じ病だってことも知っているだって僕の咳に似てたから、
『(お別れ、したくない……何か話してないとどこか行ってしまいそうで、怖い)』
『もしかしたら、世界は私が、いや私達がお前を選んだせいで滅んでしまうかもしれない。』
『僕……のせい?』
『違う、ただ私がお前に、会いに来なければよかったんだ。竜の谷で門番として一生を費やしとけばよかったんだ。』
『でも!それって……』
『ああ、いつか終わりを迎えた時それは解き放たれるな。』
『だったら──!』
『でもな、それで私はよかったと思っていたんだよ。お前に会うまでは、』
『なんで───そんなに『悲しい顔』するの?なんで!』
『……済まない。喋りすぎてしまった。』
『……』
『ベル、私が『悪』になってしまったらお前はどうする?』
『……アク?』
『そうだ、ありとあらゆるものを壊し、秩序を混沌に塗り替え『正義』を問う存在。そして多くのものを殺す。』
『ころす……?』
『ああ、『次世代の英雄』のために踏み台となる。多くのものから大切なものを奪い恨まれ、憎しみを買い、そして超克へと駆り立て未来を託す。──世界を救う為に』
『それは、とても恐ろしい事だ。
それは、とても悲しいことだ。
そして、とてもつらいことだ。』
母はいった。
『どんな理由があろうとも、奪われた人たちは、その『罪人達』を決して許さない』
これはもしもだ、だが想像ができてしまった。お義母さんは優しい、そしてとても強い、単純な強さじゃなくて『意思』の強さ
『もし、そんな『罪人達』が現れなければ世界は滅ぶかもしれない。』
僕は母を見た。その横顔は葛藤それだけだった。いつもの優しい笑顔も感情で塗りつぶしているかのように見えなかった。
『【最後の英雄】は生まれないかもしれない。』
彼女が何故苦しんでいるのか、悲しんでいるのか、僕には分からなかった。
けれど彼女に悲しんで欲しくないのは確かだった。
だから。だから───
『僕』はそれを口にしてた。
『それなら───僕が【英雄】になる!』
『─────────!』
『僕が!【最後の英雄】になる!──だからお義母さん!……一緒にいよ?』
『ベル・クラネル』はいつかこの選択を呪うかもしれない。
背負ったものの大きさにきづいて、けれどもう引けない場所にいて、絶望する未来が来るかもしれない。
それでも今は、そうなったとしても──
そんな『葛藤』の中お義母さんは閉じていた瞳を開けた。綺麗な双眼で僕を見つめた
『……生意気な子供め、』
───彼女の顔に宿った。微笑みを、目に焼き付け、誇ろう。
【英雄】のように大切な人に笑顔をもたらしたかった。『希望』を目指し、『未来』を示したこと。
『理想』を目指して歩むと決めた日、
憧憬も経ず、願望も抱かず、ただ誓いを胸に。少年はたった今から【英雄】となった
『私の前で【英雄】などとほざいたからには覚悟しておけ。今更撤回など許されん』
『うんっ!』
『では、今夜からザルドと一緒にとことん鍛えてやる。』
『こんや!?』
『まずはモンスターの巣に放り込んで凌辱させるか、それとも川底の岩に体を括り付けて死の感覚を教え込むのが先か……』
え、この人怖いこと言ってるんですけど
『私はこれといった修行をしたことがないから勝手がわからんな…』
『それは しゅぎょう ではないと おいます!!』
『馬鹿め。生と死の境界を見極めなくては限界など知れんだろ。お前が【英雄】なんてものになるためには限界をあと三百は超えなければならん』
『げんかい のいみ とは!?』
そういうとお義母さんは微笑んで言った。
『だから、もう少しだけ一緒にいよう。』
『うんっ!』
僕は、分かってしまった。これは、あの日の記憶。
あの日の誓い。違えてしまった。約束。
修行も、お義母さんの状態が悪化した時からやらなくなった。お義母さんの記憶が、繋がりが、薄く感じる
【
まだ、幸せが崩れない時のアルフィアとの思い出。
そして、それと同時に思い出してしまった。
僕の不治の病を。
英雄はいない。
だから英雄になりたい。そう願ったはずなのに。
どうして?どうして?
「あの子がずるい。」
そう思ってしまった。自分なはずなのに、あの頃の自分が、とてつもなく許せない。ずるい。
「僕は、僕が許せない。」
これが、僕の宿命だったら、いや、この世界がifであったなら、どれだけ良かっただろう。
その心は、とうに、コワレテイタ。
「ゆ……め……?」
違う、分かってる。あれは、あの日の記憶。
遙か遠くの大地あの村に置いてきた静穏の夢。僕の願い
「……僕は……。」
「お目覚めかな?少年。」
その瞬間、自分の槍を目の前の男に向けていた。
「!!エレボス!!!!」
「おお、怖い怖い。そんなに睨まないでくれよ。少年」
「何が……何が怖いだ。何が神エレンだ。全て偽りで、騙すための
そうすると、不気味に笑う。
「
つり上がった唇は、三日月を作っていた。
「……っ……」
「君が、ベル・クラネルだろう?アルフィアが残した
「……お義母さんとでも話した?」
「ああ、決戦前夜にな。」
バチバチと、緊張が空間に漂う。
「……お前もわかっているんだろう?何故、アルフィアが
「………確証は無い。記憶もない。ただ、節が一つ。」
そう、おかしい、
「「
それが、1つ目の差異。
「……やっぱり……」
「知っていたのか。」
「知らないはずないよ。なんで、覚えてなかったんだろう。どうして……最も早く気づいて入れば……。」
そんな後悔。
「少年、正義とはなんだ?」
「ぁ………………分からない。でも、1つ言うなら……」
空間が歪むように頭が痛い。血を流しすぎた。
「─────英雄譚」
「なに?……どういうことだ?」
「英雄譚を読んだりお話を聞いたりすると、僕は笑顔になれる。みんなも安心出来る。だから、正義かなって」
ベルの間違い。問いの答えを間違え、エレボスに新たな答えを提示した。けれど、それは
「クックック、そうか……そうらしい、ザルド」
絶望をしる。キッカケ。
「────は?」
ベルは知らなかった。あの夜、演説を聞いていたベルはちょうど見えなかった。自分のよく知る、破邪を。
「……ベル」
静穏の後に訪れた、離別のきっかけを。
ベルは知らなかった。エレボスと既に1度、出会っていることを、悪夢の正体を。
というわけで、ベルの心情と静穏の夢。
ですね!私にしては早い投稿だと思います!
そして、ベルはアルフィアに依存しているような状態です!