デュエル・マスターズOverRevolution(オーバーレボリューション) 作:シグレサメ
ジャシンの晩餐会(デュエマOver総集編)
ここはクリーチャー界。人間とは別の世界、別の生物、クリーチャーが住んでいる不思議な世界。そんな中の深淵(アビス)。黒い絵の具で出鱈目に塗りつぶしたようなこの空間。ここには《アビスロイヤル》という種族のクリーチャーがおり、そこの主、《アビスベル=ジャシン帝》がこの空間を支配していた。
「余は!とても!不機嫌だ!」
ジャシンの大きな声が轟き、過ごしていたアビスロイヤル達はその怒号に飛び起きる。
タコさんウィンナーが足りなかったのか、それとも唐揚げか。どっちだっていい。ジャシン様の機嫌を収めなければと、フォークを依代にしたジャシンの眷属、《フォーク=フォック》と手紙やペンを依代にしたジャシンの眷属、《レター=ジェンゲガー》がジャシンの前に向き直る。
「どうしましたジャシン様!何にお怒りなのですか!?」
フォックがそれを聞いた途端に彼の体が大きく吹き飛び、無骨な黒い壁に突き刺さる。
「見てわからぬか…?余が何に怒っているのか!」
「どうしましたジャシン様!?まずは一度落ち着いて…」
「落ち着いていられるか!!」
突き刺さったフォックをジャシンは壁から引き抜き、今度は床にめり込ませた。彼の怒りは生半可なものでは治らないらしい。
「その…ジャシン様…少しずつ話しましょう。我ら不出来な眷属ではジャシン様の崇高な意図を読み取るのは…」
ジェンゲガーが尊い犠牲を背に、ごまをする形でジャシンの様子を伺う。顔面蒼白のジェンゲガーを見て気持ちが少し落ち着いたのか、ジャシンは自身の玉座にどっかりと座り、少しずつ語り出した。
「余はあのことがなければ、今は完全復活できていただろうに…まず気に食わないのは夕哉、黒井夕哉(くろいゆうや)だ」
『黒井夕哉。高校1年生、15歳。ジャシン様が現世に復活する為に選んだ依代であり、形式上はジャシン様の相棒となっている。彼は基本的に誰とも打ち解けるタイプの好青年だが、妹、夕花(ゆうか)の交通事故、原因不明の下半身不随によって、バイトで入院費の足しを作る生活に明け暮れていた。そこで我らアビスが入ったデッキケースを拾い、デュエル・マスターズの世界へと足を踏み入れる。』
レターは自身の残した記録帳をめくりながら、ジャシンに起きたことを振り返る。アビスからは色々なものが見えており、様々なデータをまとめる役割は彼に任されている。
「確かに、もう少しで彼を元に完全復活できたというのに…」
「ジャブラッドの手懐ける方法しか、余の得がなかった」
黒井夕哉は《邪龍 ジャブラッド》を自身の思い出の味、唐揚げによって手懐けることに成功し、ジャシンは戦略を増やした。更に妹の事故の原因、真沢(まざわ)の人体実験によって作り上げられたデュエリスト、虹村(にじむら)とのデュエル中に怒りに飲まれ、あわやジャシンが完全に復活しそうになった土壇場で彼は意識を取り戻してしまい、彼の完全復活は未遂に終わってしまったのだ。
「あの時…もう少しで余は…世界を手に入れられたというのに…!」
「でもそうなったらタコさんウィンナーもう食べられないんじゃないですか?」
口を挟んだ蝋燭のアビスロイヤル、《悪灯 トーチ=トートロット》が飛んできたジャシンの剣を避けられず串刺しにされる。アビスロイヤル達は死ぬことも怪我することもないが、痛いものは痛い。
『黒井夕哉は普段は気のいい少年で、乗っ取り騒動の後もジャシン様の好物であるタコさんウィンナーをたまにカードを通して届けている。しかしただ優しいというわけではなく、妹や仲間が巻き込まれると人が変わったように激昂する。それは妹が病院に行った日のトラウマ由来のものであるらしく、それ自体は今でも変わらない。しかし彼が我を失う怒りでジャシン様に乗っ取られる危険性を理解した以上、二度目は簡単ではないだろう。』
ジェンゲガーは夕哉についてのまとめをスラスラと書き連ねる。彼が一度ここ、深淵に来た時に彼にかなり良くしてもらったこともあって、本人としては悪い感情は抱いていない。そういうアビスロイヤルも深淵には少なくないが、ジャシンのこの様子を見て表立って口に出せるものもまた存在しないのだ。
「クソ、あの小娘さえ来なければ…今度やる時はあの小娘がいない所で…」
「そう簡単にいきますかね、あの人黒井様のことにはがむしゃらですよ?」
口を挟んだハンマーのアビスロイヤル、《ハンマ=ダンマ》がどこからともなく降ってきた錘(おもり)に潰される。アビスロイヤルは割と気のいいやつが多い。それに夕哉のことを憎く思わないアビスロイヤルも多いため、こんな感じで失言→制裁のループコンボが多発する。
「黙れ!あの小娘が…光屋御白(ひかるやみしろ)がいなければぁ!」
『光屋御白。高校1年生。15歳。普通の女子高校生であったが、クリーチャー、《ドラン・ゴルギーニ》と出会ったことで真のデュエリストとして戦う資格を得るに至る。重度のデュエル・マスターズオタクであり、黒井夕哉をデュエマの世界に引き込んだ張本人。彼女は光屋コーポレーションという大企業の令嬢であるため、家庭教師という半ば無理矢理な方法で夕哉を友人として引き込む。しかし黒井夕哉は普通に勉強ができた上に、先述した金銭の問題もあったので、家庭教師と生徒の関係として今も成立しているらしい。』
「どこから間違えた…小娘に初めて会った時か…?」
『光屋御白と黒井夕哉は初めて会った時から親友として仲良くしており、お互いにデュエマ友達として大切にしているように見える。それぞれドランとジャシン様に取り込まれそうになった時に己の危険を顧みず飛び出し、助けに行ったことから、それは間違いないだろう。因みに人間の雄と雌はよく恋愛関係になると前に読んだ本に書いてあったが、今のところそのような様子を全く感じない。』
最後の一文は余計かと、それを修正しようとするジェンゲガーの前に、突如として骨でできたドラゴンが現れる。夕哉から大量にもらった唐揚げをご満悦で頬張っているジャブラッドだ。
「ジャブラッド…余を煽っているのか…!?クソ、ドラゴン…赤坂火奈(あかさかひな)か…やつがいなければもっと…?」
ジャシンの思考は完全にドツボにハマっている。普段はこんな主人ではないのにと、ジェンゲガーは呆れざるを得なかった。
『赤坂火奈。15歳、高校1年生。デュエル・マスターズのデュの字も知らない彼女であったが、ボルシャック・カイザーというクリーチャーと契約してデュエマの世界に飛び込む。陸上部に入っている快活な少女で、損得勘定無しで前述した真沢の事件にも首を突っ込むなど、考えなしなところが長所とも短所とも取れる。そのおかげでボルシャックカイザーと契約したあたり今は長所として書くが。』
『彼女はとにかく人を引っ張る力があり、夕哉、御白を始めとして様々な人間を取りまとめる才能があるように見える。しかし夕哉と1週間ほど前にやったデュエマを見る限りかなり直感で動くタイプであるためデュエマの腕では夕哉や御白には勝てないと見られる。』
「ボルシャック・カイザーめ、あんな子供に力を渡しおって…それがなければあの時戦力が足らず小娘が来なかったかもしれないというのに…」
風が吹けば桶屋が儲かる的に荒唐無稽なことを喋り出す自分の主人にジェンゲガーはゆっくりとお茶とウィンナーを差し出す。主人の中では大したことがないかもしれないが、残った2人のことも記録に残しておこう、ジェンゲガーは自室に帰って行った。
『青海飛水。音楽とデュエマが好きな少し言葉の強い少年だったが自分の叔父である真沢の暴走を知り単身向かうなどかなり向こう見ずな性格が目立つ。クリーチャーがいなければ真のデュエルでは話にならないということを知らなかったのもあるが…真沢を倒したのが彼であるあたり、クリーチャーを抜きにすれば示した中で一番デュエマが上手いと言えるだろう。』
ジャシンはウィンナーを食べながら紅茶を啜る。ジャシンは夕哉が深淵に来て以来この食べ合わせをえらく気に入っており、彼の心を落ち着けるルーティンになっている。乗っ取ろうとした相手からメンタルケアの術を貰ってどうするんだとは誰も言えない。
『音楽の腕も良く、黒井夕哉達が行っていたカラオケの音が一番聴いていて気持ちが良かったので個人的には彼に何も起こらないで欲しいものだが、慕っていた叔父が強く絡んでいた以上、クリーチャーの事件にはこれからも顔を出すだろう。せめて彼の無事を祈るとしよう。』
ジェンゲガーはページを変えて次の人物を書き出す。
『守木緑(もりき みどり)。生まれてすぐ親に捨てられ迷い込んだクリーチャー界で過ごす。こちらでの実時間14年をクリーチャー契約無しで過ごしたため人間世界7年分が経過しており、1年前に真沢に騙され人間界に戻る。育てたクリーチャーのことについては分からないことが多いが、世界の時間の流れの違いにより年齢と精神のバグが発生しそうな彼が天真爛漫な性格で普通に過ごせているあたり、そのクリーチャーによる人格形成と、真沢による人間界の教育は上質なものであったらしい。』
気分を持て余したジャシンは錯乱して暴犬の眷属、《深淵の三咆哮 バウワウジャ》と力比べを始めていた。本当に何をしているんだ自分の主人はとジェンゲガーは呆れ返るしかなかった。
『彼は当初真沢による教育を施され半ば洗脳状態だったが青海飛水との接触によって自分の行動を見つめ直す。クリーチャーの教育は相当上等なものだったと言える。真沢達との決戦以来は飛水の恩などからこちらについており、今は黒井夕哉の協力者の警察、正路公輝(しょうじこうき)のもとで養子として過ごしている。』
ジェンゲガーは記録帳を閉じて、ジャシンの部屋に向き直る、流石に収集をつけないといけないと、自分の犠牲覚悟で行くしかない。最悪ジャブラッドに救出してもらおう。
「ジェンゲガーよ、余には…何が起きている…?」
「どうしましたジャシン様!?」
「怒りをさらに露わにしたらこのような塊が生まれおって…!」
その時ジャシンの目の前は闇の塊ができており、ジャシンが必死で勝手に放出されるエネルギーを抑えている。何事かとジェンゲガーや生き残りのアビスのジャブラッド、本の眷属《ブック=ラギルップ》、暖炉の眷属《深淵の怪炉 マーダン=ロウ》、ベルの眷属《ベル=ゲルエール》が5人がかりで止めにかかる。
夕哉と契約した2体目のクリーチャー、ジャブラッドが残っている今しかないと、闇の塊に取りついたまでは良いものの、溢れる闇の力に吹っ飛ばされてしまう。
「とにかくジャシン様からの闇の放出を止めろ!エネルギー切れが起きるぞ!」
冷静に、かつ端的に状況を纏めるマーダン=ロウにまだ動けるもの達が声を張り上げる。ジャブラッドが体当たりをし、マーダンが炎で燃やし、ラギルップ、ゲルエール、ジェンゲガーが必死で近くにあるものを投げつける。そこら辺に死屍累々となっているアビス達も、残った力で止めるための手立てを送った。そうしてついに闇の放出が止まり、中から何かが現れた。
「ギャァ!ギャァ!」
「なんですか、これは…?」
「ジャブラァ?」
首を傾げるアビス達の元に、調子を取り戻したジャシンが現れる。
「どうやらこれは、余と同じ闇をもつもののようだな…」
「ジャシン様と同じ闇ですか!?」
マーダンは驚きを隠せない。
「あぁ、どうやら余がカードを通して見たものと余の感情、さらに余の闇が混ざり、新たな存在が生まれたようだな」
「ジャブラッド達、お主らのおかげで闇の塊ではなく、クリーチャーとなった、こやつらは今から《ノワールアビス》!余の新たな眷属となる!」
アビス中が歓声に包まれる。新たな眷属、仲間の誕生はクリーチャー世界においても、はたまた闇の世界においても嬉しいものなのだ。
「さて、余は機嫌がいいぞ!長年のつっかえがとれたようだ!」
「良かったです、人間でいうしゃっくりが止まったようなものですね!」
最後の最後にレター=ジェンゲガーが特大の失言をこぼす。この後しゃっくりのようなものとひとまとまりにされて怒ったジャシンが暴れ回ったのは言うまでもない。ちなみにこれは新しい仲間のはずのノワールアビスであり、後に《ド:ノラテップ》と名付けられるクリーチャーも巻き込まれる騒ぎとなった。
「なんか今日のジャシンのカードうるさいな…」
黒井夕哉はそれについて少しうるさいけどいつも通りだなと思うのだった。『クリーチャー界や真のデュエル中などの特殊な場合を除いて』、クリーチャーが人間の強さを上回ることはない。
この後の夕哉のことを動かすこの出来事は、こんな風に彼からするとちょっとした騒ぎで収まるのだった。