デュエル・マスターズOverRevolution(オーバーレボリューション) 作:シグレサメ
まざわさんの所から持ち帰ったものはゴルファンタジスタのカードだけじゃなかった。ゴルファンタジスタの持っていたカメラ。なんとなく見ることができなかったけど、今は、今なら、見れる気がする。
自分の部屋に入り、机の上にカメラを置く。一呼吸置いてから、ボクはカメラのフォルダを開いた。
記録1
そこにはゴルファンタジスタが映っていた。カメラを持っているのは間違いなく、アカネさんだ。
「自撮の超人(セルフィー・ジャイアント)ってやつがこれくれたけどよ、アカネ、これどう使えばいいんだ?」
「動画を撮れば良いんじゃないですか、ほら!自然文明の風景を収めたりとか!」
「…よくわかんねぇなー。俺は自然文明の風景も、そこに住んでいるクリーチャーも、全部頭に入ってる。記録する意味が見当たらねぇ」
「でも、高価なものって言ってましたよ。容量もすごいと聞きますし。勿体無いので私が持っていますね」
「ん、頼んだわ」
記録2
そこには大雨の中、小さな赤ちゃんとゴルファンタジスタが映っていた。親に捨てられて、開いたクリーチャー界の扉から迷い込んだ赤ちゃんは間違いなく…ボクだ。
「カメラ回してます!首領(キャプテン)!」
「おいアカネ!絶対カメラ止めるんじゃねぇぞ!医者に見せる時の容態の確認に大事だからな!待ってろ…絶対死なせねぇ!」
「首領!これ、ニンゲンってやつなんじゃ…クリーチャーよりもとてもひ弱で、繊細な生物だって!分からないことも多すぎますよ!」
「だからなんだってんだ!俺様の自然文明で!俺様の目の前で誰1人死なさねぇ!それが首領の務めだ!」
そのあとゴルファンタジスタはボクを担ぎ出し自然文明を走る。物音からして、自然文明の病院に入ったであろうあたりでその映像は終わった。
記録3
映像にはゴルファンタジスタとアカネさん、そしてボクが映っている。おそらくチアリーダーのアサギさんか、コハクさんがカメラを回していると思う。
「今日は俺様からお前らに大事な発表がある!」
「なんだなんだ!?」
「Par0とかいうめちゃくちゃなコースがようやく改修されるのか!?」
「いやいや、残念ながらそういうのじゃねぇ。俺は、ニンゲンを育てることにした!」
「「「ニンゲン!!?」」」
会場が大きくどよめく。そんな彼らの心配を正面に受けても、ゴルファンタジスタは堂々と言葉を続ける。
「確かにニンゲンはよく分からない生き物だが…自然文明は来るものを拒まん!首領である俺様がそれを証明してやろうじゃないか!」
「だが!俺様は分からんことが多い!ニンゲンの赤子とか何すればいいかさっぱりだ!」
そこにいた住人達も、今のボクもずっこける。そんな感じで育ててくれていたの…?
「だからニンゲンについて少しでも有益な情報を持ってる奴がいたらどんどん来てくれ!俺様が首領だからとかどうでもいい!俺は一介の親代わりなだけだからな!」
会場がどよめく。今度は歓声だ。そうだった、ゴルファンタジスタはいつも、こんな風に皆を、弱みを見せたって引っ張っていくんだ。
記録7
カメラに映ったのは跪くゴルファンタジスタと少しだけ大きくなって手作りのベビーカーに乗せられたボクがいた。
「なぁアカネ…子供の世話ってこんなに大変なんだな…」
「トイレにご飯にお風呂に寝かしつけ、首領は本当に頑張っていると思います」
「アカネ達が手伝ってくれるからこそだ、俺様1人じゃ絶対心折れてたわ…」
「こんなにひ弱で、世話が必要なのかニンゲンって…」
ゴルファンタジスタが優しくボクを抱き抱える。
「お前はどこから来たんだ?本当の親はどこだ?なんて言っても教えてくれるわけねぇな…。何よりその親に今から返せと言われても、俺様は絶対返さねぇし」
「そういえば赤ちゃんとかニンゲンとかばかり言ってますけど名前はどうするんですか?」
「ダァ!ダァ!」
「やっぱり名前欲しいか…!俺ネーミングセンス無いんだよな…」
「でも首領以外にはつけられませんよ」
ゴルファンタジスタはベビーカーにボクを戻し考える。そしてベビーカーのボクと目を合わせてこう言った。
「なぁ、緑(みどり)ってのはどうだ?お前の種族は確かにニンゲンかも知れねえが、俺様の中でお前は立派な自然文明の仲間だ。だから、自然文明の立派な植物達のように、大きくなっていってくれ。そういう名前だ」
「ダァ!ゴル…ファ…!」
「…!今俺様の名前呼ばなかったか!?」
「呼びました!絶対!」
「やったぞ!俺様の名前だ!偉いぞ緑!お前の親代わりとして誇らしい!」
でもその後、マーチング部にミドリっていう子がいるのをど忘れしていて、その子が拗ねちゃったんだっけ。そういうところもゴルファンタジスタっぽいかも。
記録102
ボクは4歳ほどになって、ゴルファンタジスタのカートに乗せてもらいながら自然文明を探検するようになった。そして今日がゴルファンタジスタに初めて連れていってもらったホール。朧気だけど覚えている。ボク、何をしたんだっけ。
「ゴルファンタジスタ様ー!」
「子持ちが板についてきましたね!」
「子供連れてオービーメイカーは無理だろー!」
「余計なこと言わんでいい!よーしお前ら!首領の帰還だ!写真撮るのなら今のうちだぞ!」
ゴルファンタジスタは相変わらず目立つのが上手い。ボクを抱き抱えながら、皆には手を振ってサービスもしている。本当に、皆を見ている首領なんだ。
「行くぞ…」
ボクを下ろして、ゴルファンタジスタがストロークの体制に入る。周りは緊張で静まり返る。間違いなく、ゴルファンタジスタだけの時間だ。
「ファーーーーー!!!」
ゴルファンタジスタが打った球はすごい勢いでまっすぐ飛んでいき、遠く離れたオービーメイカーのカップに入る。カップに入ったか確認班の連絡を待つ前に、当時のボクは遠く離れたカップに走り出していた。
「ちょ、待て!緑!何やってるんだ!」
「ゴルファンタジスタのほーるいんわん、見に行くの!」
「待て待て待て!絶対入ってるから!連絡待て!遠すぎるから!」
「やだ!見に行くの!」
会場が大笑いに包まれる。当時のボク、とんでもないことしてたんだなぁ…。その後ちゃんとホールインワンは取ってたらしくて、ボク達は歓声の中に迎え入れられた。
沢山の写真が撮られていた。ボクはこの居場所を、ずっと忘れたく無い。
記録215
ボクは6歳になって、自分でできることも増えてきた。クラブハウスでアサギ、コハクさんと留守番することが増えてきたのも覚えている。
「ただいま緑。元気に過ごしてたか?」
「うん!お帰り、ゴルファンタジスタ。ツアー、お疲れさま!」
「あぁ、ありがとな。早速話変わってすまねぇんだが…。ツアーの最中に決めてたことなんだが…お前を鍛えようと思うんだ」
「鍛える?」
「確かにお前は自然文明の住人だが、ニンゲンでもある、だから勉強が必要になるんじゃないかと思ってな。長寿で物知りのとこしえの超人(プライマル・ジャイアント)等に教えてもらえるようにお願いをして、承諾が帰ってきたんだ」
「やだよ、ボクゴルファンタジスタと遊びたいのに!ニンゲンなんて関係ないよ!」
「お前はそういうよな…。………。首領からの命令だ、お前はとこしえ達の元で教育を受け、1人前の自然文明の住人になる準備をしてこい!」
「そんな…」
ボクはその日ずっと泣きじゃくったのを今でも覚えている。とこしえさんの言葉の勉強やキャディ・ビートルさんの算数、すごい難しかったけど、今ではボクの大切なものになっている。まざわさんと一緒に過ごして殆ど困らなかったのは、これのお陰だったんだと、今では思う。
写真を見ながらボクは考える。ゴルファンタジスタはボクが勉強している間もボクのことを考えてくれていたんだって。こんなに沢山のゴルフコースを回りながら、ボクのことを見にきてくれてたんだ。ボクはふと写真を見ていく手を止める。
記録582
「あいつの成長、早いな…アシスター・サイネリアくらいの身長だったのが、気づけば俺様くらいの身長に…」
「そこまでにはなってませんよ、首領。でも確かに、私達より成長が早いですよね」
「なぁ、やっぱりさ、俺様達の世界に緑がいるのは厳しいんじゃないか?その為には、ニンゲンの世界に帰さなきゃいけないと思うんだ」
「…はい」
「でも!その前にパーっと祝って、緑が悲しむ暇がないくらい!盛大にやってやろうじゃないか!俺様がスピーチしたら、あいつ泣くぞー!」
「…?おいアサギ!お前何カメラ回してんだ!」
「カメラに慣れすぎて気づかない首領が悪いんですよー!」
「なんだとー!?」
もう、締まらないなぁゴルファンタジスタは。そう思ってカメラを次にスクロールさせると、涙で顔の赤い今のボクが現れる。
そうだ、さっきの映像の日付は。あの火事が起きた日、まざわさんがボクを手に入れにきた、前の日だ。
「ゴルファンタジスタ…ゴルファンタジスタ…!」
ボクは涙でいっぱいになりながら、彼の名前を呼ぶ。
「ボク、いっぱい人間界で友達できたよ…!皆優しいし、ボクの気持ちを大事にしてくれるんだ。でもさ、でもさ…」
「ゴルファンタジスタが、皆がいなかったらボク、寂しいよ…」
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ボクはずっと泣いていた。親に捨てられたあの日も、人間界に戻ってきたあの日も。そして今も。でも、今は少しだけ違う。
公輝さんは多分、今ボクが泣けるように何も言わないでいてくれている。夕哉達に打ち明けて、少し楽になった自分がいる。
「待っててゴルファンタジスタ。立派になれるように、もう少し…」
2日後、神谷祈雨さんとの再度の接触を目指すと公輝さんが言っていた。ボクはその時、前を向いていられるように。