デュエル・マスターズOverRevolution(オーバーレボリューション) 作:シグレサメ
番外編:夕哉と御白の秋葉原探索録
7月の中旬ごろ、東京の秋葉原まで黒井夕哉は電車に乗ってやってきていた。神谷祈雨とヒーリス絡みの時間も一段落し、クリーチャー世界でやることもないと言うなんとも言えない期間の間、夕哉は御白に初めて1人でプライベートに呼ばれた。
「もうすぐ夏休みとはいえこの暑さはイヤになりますね…とっとと室内入っちゃいましょう!」
「うん、そう思うし俺も一刻も早くそうしたいから歩きながら話すんだけど…」
「はい?」
「今日、何しに来たの?」
「…あ!言ってませんでした!《まんまるロボタ》を探しに行くんですよ!」
「まんまるロボタ?」
「はい、1マナの光分明のメカのカードなのですが、ドランさんのデッキと合わせると1マナでメクレイドの条件として使えたりと便利なんですよ!」
最近色々ありすぎたが、普段通りの御白に夕哉は安心する。
「あとさ、じいや大丈夫なの?」
「『黒井様と出かけるなら安心です』って言ってました」
信頼しているように見せて、逆にそれが圧力になる。じいやは夕哉の性格をバイトの度に観察し、牽制の方法も熟知していた。
夕哉達は秋葉原のカードショップへと足を運ぶ。冷房の効いた店内の開放感に、2人は思わず手を広げ、身体全体で冷気を受ける。
「でもわざわざこんな所まで来なくても…」
「こんな所まで来なくちゃ行けないんですよ、まんまるロボタは凄く昔のカードで、近くのカードショップじゃ置いていませんし、通販でも取り扱いがないレベルなんです!」
「それは…凄いね…」
「ですから1人で探すのは流石に苦しいので誰かを道連れに、いや、手伝っていただこうと思ったんです!」
「…今道連れって言わなかった?」
「言ってません!…ごめんなさい、言いました!」
ストレージの前に着いた2人は1枚ずつカードを見ていく。
「まんまるロボタって1マナのメカで、名前通り丸いんだね?」
「はい、正確な種族はグレートメカオーなんですけど、あと本当に古いカードなので貴重なんですよ」
「了解、じゃあお互い頑張ろう!」
2人は無言でストレージを1枚ずつ見ていく。夕哉が1枚見る間に御白は3枚ほど見ていたが、やはり2人でやる方が効率が良い。
「あ、《極閃呪文「バリスパーク」》!ストレージでお目にかかれるなんて、ラッキーです!」
正確に言うと、御白は目移りした状態でこのペースでカードを見ていた。
そして30分後。
「まんまるロボタ…まんまるロボタ…見つけた!」
「本当ですか!?」
御白が夕哉の近くに寄り、顔を近づける。夕哉は急に近づかれ少しだけ驚くが、彼の我欲の抑え込み方は異常なので特に何も起きなかった。
「これで目標達成だね!」
「はい、あと3枚です!」
「3、まい?」
「そりゃあデッキに入れるんですから4枚必要に決まってるじゃないですか!」
夕哉と御白の体力勝負が始まった瞬間であった。ちなみにデュエマ関連で御白がバテることは殆どない。趣味は人を強くする。
「よーし、次のお店行きましょう!」
「うん…次のお店!?」
「はい、ラジオ会館内のカードショップです!」
行ったら見たりしたことのある方には不要な説明だろうが、ラジオ会館は秋葉原駅の西側にある10階建ての建物であり、カードショップ以外にもフィギュアなどのオタクが欲しいグッズが大量に集まる、秋葉原にくるオタクの聖地といってもいい場所になっている。
「人多くない…?」
「少ない方ですよ?」
「そっかぁ、御白が言うんなら、そうなんだろうなぁ」
館内にはエレベーター2基とエスカレーター1台、目立たないところに非常階段という上にそれぞれお目当てのところに人が留まるので大変混み合う。夕哉達はなんとか、なんとかお目当ての場所に辿り着いた。
「御白、入る前に水分補給しよう」
「はい、確かにお店でやらない方いいですね」
「水筒のデザイン可愛いやつなんだね」
御白の水筒は水色の下地に何匹かのネコがプリントされており、夕哉には御白の欲しがるようなデザインに見えない。
「あー…お兄ちゃんのものなんです。お兄ちゃんから誕生日に貰って。好きなデザインってわけじゃないんですけど、お兄ちゃんが折角買ってくれたものなので」
「大事にしてるんだ」
「はい!光屋家の家訓にも、『モノを大事にしない者には富は回ってこない』とありますからね!」
(思ったよりしっかりしてるんだな…御白の家…)
お互いにストレージを見て、1枚ずつまんまるロボタを探していく。人が多いところであり、夕哉と御白の集中力から人が少し集まっていた。
「なぁそこのおふたり…何探してるんだい?」
「あ、ごめんなさい邪魔になってましたか!?」
「いやそういうわけじゃないんだけど、まさかお店のやつ全部見るつもりだったのかなって…」
「はい、あと3枚まんまるロボタ見つけなきゃいけないので」
「あ、ありましたよ夕哉くん!!」
「本当!?良かった…あと半分だよ!」
「まんまる…ロボタ…?まぁ、頑張って…」
夕哉はここ最近のヒーリス探しでかなり集中力が身についていた、それの影響か残りの2枚は割と簡単に見つかり、2人は駅に戻ってきていた。
「まさか最後2枚固まって見つかるなんてね」
「ですね、あるあるとはいえ、まさかあんな昔のカードで起きるとは…」
御白のお腹から小さく音が鳴る。
「流石にお腹減りましたね…どうしましょう」
「一旦休憩して、どっか休める場所探そうか」
「あ、夕哉くんのバイト代関係なくいけそうな場所…!」
「気にしなくていいよ、公輝さんの方のバイトもあるから夕花のぶん差し引いてもだいぶ懐には余裕あるし」
「そうなんですね!ちょっと冷たいものでも食べに行きましょう!」
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2人で秋葉原駅の西側近くの蕎麦屋へとやってくる。
「いらっしゃいませ」
「2名でお願いします」
2人は店の奥まった方に案内され席に腰をかけ、それぞれ注文する。夕哉は一番安いもりそばを、御白は天ぷらつきのそばを頼む。それでも高校生のお財布には中々大きなダメージを与えるものだが。
「ようやく座れた…ちょっと疲れた…」
「付き合わせてごめんなさい、でもやっぱりロボタのカードが欲しかったんです」
「…やっぱり、あの時のこと?」
「そうです、夕哉くんや緑くんが神谷さん達と戦ってくれたからあれで済んだんだと思うので、少しでも私にできることを…と思って。結局夕哉くんを呼んじゃいましたけど」
「でも、抱え込まないって言ったのは御白じゃん、あれ結構嬉しかったんだ」
「…そうなんですか?」
「うん、自分の中の取れないものがスッキリしたような、そんな感じ。改めて、ありがとう」
「はい!どういたしまして!」
お互いの料理が届き、食べ始める。
「美味しそうです…!あ、天ぷら1つ夕哉くんにあげます」
「え、でもそれ御白が頼んだんじゃ」
「夕哉くんそう言いながら一番安いの頼んでたので、普段のほんのお返しです」
「…そっか、ありがとう」
(前の、初めて会った時くらいの夕哉くんなら3回は断ってましたからね…)
お互いに食べながら、会話が進み、夕哉が切り出す。
「そういえばさ、夕花のこともヒーリスの効能を研究し終わったら終わりなのかなって思ったんだ」
「はい?」
「あのゴルフ行った時、飛水に「別の趣味があった方がいい」みたいなこと言われてさ、確かに夕花が家に帰ってきたらその時俺はどうしようって思ったんだ」
「デュエマ、辞めちゃうんですか…!?」
御白は雷に打たれたような顔をして、絶望していた。
「違う!違うよ!デュエマは大好きだし、御白達とも友達でいたいよ。でも、全部終わったあと、俺はどうすれば良いのかなって」
「あ!?そうなんですね…うーん…お料理とかですかね?夕哉くんご飯作るの上手じゃないですか」
「料理…めっちゃ得意ってわけじゃないし、作りすぎたら大変だし…」
「行きます!食べに行きます!」
「あと趣味ってよりは…やらなきゃいけないこと…義務感…みたいな…うんちょっと厳しいかも」
「うーん…そうですかぁ」
「あとは夕花のために覚えたマジックとか、絵とか、あとそういう昔遊びとか…」
「コマとか回せるんです?」
「できるよ、台のフチに乗せてそのまま回転させたりとか」
「前から思ってましたけど夕哉くんそっちの方向性のスペック高いですよね」
「だからこそ思いつかないのかも…」
御白は腕を組んで考え込む。
「うーん…なんか趣味って考えて出すものじゃない気がしてきました」
「え?そうなの?」
「個人的には自分がのびのびやれて苦がないものだと思ってるので、それと出会うまでゆっくり待っていてもいいかもしれません」
「確かに、御白と会わなかったらデュエマもやってなかったからね、思ったより気づかないところにあるのかも」
「はい!「色々試してみる!」が一番良いかもしれませんね!折角ですし、午後は色々なところを回ってみませんか!?」
「そうだね、行ってみよう!」
秋葉原駅東側の広告などがたくさん置かれたフォトスポットがある。
「あ!このゲーム好きなんですよね!」
「御白デュエマ以外にもやってるゲームあるの?」
「そういうわけじゃないんですけど、絵が好きだなぁとかはあるので」
「じゃあ写真撮っとこうか」
「そうですね、あ!でも夕哉くんも一緒ですよ!すいません!写真を撮ってもらいたいんですけど!」
光屋御白はとても優しく、打算なしで付き合ってくれる人間であると、夕哉は今までの記憶で知っている。それでも自分を簡単に混ぜてくれることに、妹を置いてそんなに幸せで良いのかとすら感じるのだった。
「「はい、チーズ!」」
「お二人とも綺麗に写ってますよ、どうぞ」
「「ありがとうございます!」」
「やりました夕哉くん!次はあの家電量販店に行きましょう!目標を達成しましたし、今日は遊びますよ!」
「うん、わかった!」
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2人は家電量販店やカフェなどで夕方まで過ごして、帰路の電車へと着いたのだった。
((席一つしか空いてない…))
「御白、座っていいよ」
「いえいえ、私疲れてないですし!夕哉くんこそ座ってください!」
「いやいや俺も疲れてないし!」
こんな風に話しているうちに、隣の30代くらいの女性が席を立ち、笑顔で夕哉達の方を向いた。
「え、あ…ありがとうございます」
「私も、ありがとうございます」
「ううん、私もこんな時期があったなぁって思って。カップルで遊びに行ってたの?」
「「カップル!!?」」
2人は一気に頬が赤くなる。
「いや!そういうのじゃ、ないです、うん、多分…」
「はい!カップルとか、そんな畏れ多いものじゃないですよ!」
女性は笑って返す。
「まぁ、カップルでも友達でも、お互い大事にしてあげてね。そういう人は人生では簡単に手に入らないものよ」
女性は上機嫌そうに別の車両へと歩いて行った。残された2人は気まずそうに座っていたが、夕哉が言葉を始める。
「友達…だよね、多分」
「はい!私もそう思います!友達最高です!」
「だよね、そうだよね!」
(俺と御白は家庭教師と生徒だし、御白はやっぱり家柄とか色々あるし、変なことになって折角できた友達を失うのは怖いな…)
(夕哉くんに私なんかじゃ釣り合いませんよ!お兄ちゃんやじいやに何を言われるかわかりませんし、今の楽しい関係が壊れるんじゃないか、なんて…)
しばらくの沈黙ののち、今度は御白から話し始める。
「今日はすごく楽しかったです。普段は家庭教師と生徒だったり、一緒のことをやる仲間だったりで、なんだかんだ一緒に遊んだりすることは珍しかったので」
「俺も。皆と一緒にいるのも楽しいけど、なんか今日は落ち着けた。まだ遊んでたいなって思った」
「そうですか…!あの、またどこか行きませんか?」
「うん、お互い都合いい日見つけてまた行こう」
2人は夕焼け差し込む電車で並んで座り、一緒に反対の車窓をそれぞれ眺めている。
家庭教師と生徒であり、一緒にクリーチャーと戦う仲間であり、お互い初めてできた同年代の友達。あくまで自分たちはこうであるのだと、少なくとも今はこの心地よい空気感の中にいたいと、2人は思ったのだった。