デュエル・マスターズOverRevolution(オーバーレボリューション) 作:シグレサメ
「なぁ、柚子知らないか!?」
皇龍高校文化祭の後夜祭、それの開幕を教室で待っていた夕哉は、朝陽のその一言で頭を打ったかのような衝撃が走る。取り乱した様子の朝陽に、夕哉は落ち着くように促しながらも、本人も焦りが滲んでいた。
「朝陽、それどういうこと!?小森さんがいないって!」
「俺も分からないんだ、トイレ行って、戻ってきたら教室から柚子がいなくなってて…」
「仕事に行ったとかは…?」
「仕事は全部終わったって言ってたし、昼間一緒にいれなかった分、後夜祭は一緒にいるって約束したんだ!絶対にどこかに…」
「俺も探すよ、朝陽!」
「夕哉…いいのか、お前の後夜祭邪魔することになっちまうぞ」
「そんなの助けない理由にならないよ、助けられるのに助けなかったら後悔するだけだから!」
夕哉と朝陽は学校の様々な場所を走り回り、御白達友人にも声をかけたが、ついに後夜祭が始まってしまう時間となっていた。
「もう後夜祭始まっちまう…」
「諦めないで探そうよ、一緒に後夜祭見るんでしょ!?」
「分かってるけど、先生達もそっちにかかりきりで、殆ど校内に人は残ってない。もしかしたら帰っちまったりしたのかもな、疲れて家で寝てたりとか…」
諦めてそれらしい理由をつけようとする朝陽を、夕哉は睨みつける。朝陽は初めて見るような夕哉の顔に驚き、跳ね上がる。
「嘘でもそんなこと言っちゃダメだよ、絶対に」
「小森さんと話したりしたのは朝陽ほど長くはないけど、あの人が何も言わずにいなくなったりしないのは知ってる。俺は早く見つけて小森さんと朝陽を会わせるし、飛水のライブも観に行くよ」
「夕哉…」
その時ガサゴソと近くの茂みから音が鳴り、夕哉達はそちらを振り向く。殆どの生徒が後夜祭に行き、後夜祭会場の御白や緑が柚子を見ていないというのだから、残されたわずかな音を、2人は聞き逃さなかった。
「柚子!?柚子!!」
「朝陽、嫌な予感がする。俺の後ろについてきて」
夕哉は1階の窓を開けて乗り越え、その後に朝陽が続く。茂みを走り、後夜祭会場の体育館、その裏に着いたところで、その音は止んだ。
「柚子…だよな……?」
今や見慣れた彼女の背中、振り向いた彼女は、虚に操られたような目をしていた。
「ア…ァ…?」
(クリーチャーに操られている!?なんで…!?)
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Side:飛水
体育館の舞台裏は、沢山の人間でごった返していた。漫才の最後の相談をするもの、劇の段取りを確認するもの、セトリを最後まで見ているもの、各々の世界に入る中、俺は1人孤独になっていた。
「誰か呼んでくるべきだったのか…?」
1人で出し物をするのは俺1人だ。ギターの弾き語りということでやっていたし、夕哉、火奈、緑はそれぞれの出し物があったし、光屋はクリーチャー界の探索をずっとやってくれていたしでどうしても誰かに言うことはできなかった。止まらない動悸に、心が押しつぶされそうになる。こんな状態で本番を迎えたら、きっと失敗する。そう思った瞬間に目の前の視界がぼやけて、狭まって…
「飛水!だいじょうぶ!?」
聞き慣れた声が俺の意識を貫いた。
「ひな…?だよな…?」
「うわぁ大分弱ってる…大丈夫?なんか飲み物や飴いる?」
「…のど飴、持ってるか?」
「オッケー、はちみつのやつね」
目の前で鞄を漁る火奈を見て、ようやく疑問が湧いてくる。
「なんでいるんだ?」
「あたしもエキストラで出るんだ、折角だし出ようと思って。飛水、1人で出るの…?あの時ちゃんと確認してなかったけど」
「いや、そのな…!」
「それで1人で無茶して倒れたら本末転倒だよ!」
「分かってる!」
俺はつい、火奈を遠ざけてしまう。多分他に夕哉とかいても、同じことをしてしまっただろう。
「飛水…?」
「1人てやらなきゃ行けないんだ、夕哉や御白に人との付き合い方を考えさせられた。緑がいなかったら真沢に勝てなかった。火奈がいなかったら何度も心が折れてた。だからこそ、1人でいかなきゃいけないんだ」
火奈は、俺の顔を見据えた後、この言葉を続けた。
「飛水、逃げないほうが良いって言ったけど、人は簡単に1人って、なれないものだよ」
「…それでもさ、俺は今1人で行かなきゃ、お前らに絶対追いつけないんだ」
火奈が今度は俺を失望したような顔で見る。
「そっか、勝手にしてよ。友達のことも見れないで、追いつけるなんて思える日はいつなんだろうね!」
そう言った火奈は、そのまま足早にエキストラの方に帰って行ってしまった。
「………」
1人残された俺はなんとなしにDracheのカードを取り出し、それを見る。
(真沢おじさんに任されたことも、結局クリーチャーがいなければできることに限界がある、ガンガン進む皆に、俺だけが追いつけていない)
「俺には、何もないから…」
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Side:夕哉
「柚子!聞こえてるか!柚子!」
「………」
小森さんは完全に意思を失ってる。御白にドランが取り憑いた時の、それも症状が進んだ時のものだ。朝陽がいる以上、ジャシンを出すこともできない。
「朝陽!離れて!早く!」
「できるわけねぇだろ!柚子を連れ帰るんだ!」
「………」
(分かってる、朝陽にとって、小森さんが大事な人なくらい。俺にとっての御白や夕花くらい、譲れない存在だって)
俺は大きく考え込んで…決断する。
「朝陽、これから起きること、秘密にできる?」
「夕哉…?お前何を…?」
「俺の言えないことに関する話だよ。それを秘密にできるなら、小森さんを助けられると思う」
「……当たり前だろ、柚子も夕哉も大事だ、頼む」
「だってさ。ジャシン、お願い」
俺のデッキケースから黒い深淵が広がり出す。しかし小森さんの周りから溶岩が噴き出す陸地がぶつかり、それぞれ半分といったところで止まってしまった。
「夕哉、これがお前の秘密…?」
「…こいつ、手練れが憑いているな。ここからは…デュエマしかないということだ」
「分かった…行くよ、ジャシン!」
「「デュエマ、スタート!」」
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巻き込んだ以上、やるしかない…!
「黒井…これ、何だよ…?」
「…何も言わずに俺の後ろに隠れてて、行くよ、《ブルーム=プルーフ》を召喚!墓地を1枚追加!」
「私のターン、《カンゴク入道》を召喚。ターン終了時、シールドを1枚手札に加える」
柚子 シールド4
「ジャシン、これって…」
「ガ:ナテハと同じスーサイド戦術か、対策は分かっているだろう?」
「うん!スーサイドで得をされる前に差をつける!俺のターン!《邪龍 ジャブラッド》を召喚!」
ジャブラッドが現れ、朝陽が腰を抜かす。
「あれ、夢じゃなかったのか…?柚子のこの状況も…!」
「ジャブラッドの登場時効果で墓地を2枚追加、ブルームでシールドを攻撃する時、さらに2枚追加!シールドブレイク!」
柚子 シールド3
「シールドトリガーなし、そんなものか」
「ゆ、柚子はそんなこと言わない!誰だお前!」
「こんな時に戦わず、後ろで眺めているだけの人間に言う名前はない」
「ぐっ…!」
「そんなの気にしないで、俺がどうにかするから!」
「でも黒井に頼り切るのも…!」
「私のターン、《コッコ・武(アーム)・ルピア》を召喚。登場時、黒井夕哉の墓地5枚を山札に好きな順序で戻し、そのコスト以下のクリーチャー、ブルーム=プルーフを破壊する」
コッコ武ルピアが肩の2丁の銃を放ち、片方が俺の墓地に当たる。俺の墓地は綺麗さっぱりなくなり、もう片方はブルーム=プルーフに着弾する。
「ブルーム!ジャブラッドの耐性を対策されてる…!」
「カンゴク入道でシールドを攻撃」
夕哉 シールド4
「シールドトリガーなし…!」
「ターンエンド、シールドを1枚回収する」
柚子 シールド2
「俺のターン!手札が途切れない…墓地はブルームだけ…!でも!呪文、《邪侵入》!《アビスベル=ジャシン帝》をバトルゾーンに!さらに《ゴブレット=ブレゴ》をアビスラッシュ!小森さんのカードを1枚選んで、それ以外から選んで破壊させる!俺が選ぶのは、カンゴク入道!」
「コッコ・武・ルピアを破壊、2体しかいなければ、確実に破壊できると言うわけか」
「ブレゴでシールドを攻撃!その時ジャブラッド効果で墓地を増加!」
柚子 シールド1
「そうか…シールドトリガー、なしだ」
「ターンエンド、ブレゴを山札の下に!」
「私のターン、ジャシンがいなければ、お前の戦法は瓦解する。知っているぞ?」
「…!ねぇ、どこで俺たちを知ったの?」
「言えるわけがないだろう。お前達を倒せば、『俺』は永遠の自由が手に入る。そのためには奴から得た情報を有効活用せねばな」
「君が取り憑いたクリーチャーだね、絶対に追い出すから!」
「ゆ、柚子から出ていけ!」
朝陽の方を一瞥した後、手札に視線を落とした柚子(に憑いたクリーチャー)は、手札から1枚のカードを引き抜く。
「俺、《「貪(むさぼり)」の鬼 バクロ法師》を召喚!登場時、シールド2枚を手札に加える!」
バクロ法師(柚子) シールド0
「やはり鬼か…こいつは厄介だぞ」
「鬼って…!?」
「デモニオと呼ばれる種族だ、普段は欲望のためだけに動くというなんてことのないものだが…対策をされているとなると話は別だろうな」
「カンゴク入道でシールドを攻撃、その時、俺のシールドが0枚なので呪文、《百鬼の邪王門》を無料で唱える!それも2枚だ!」
禍々しい扉がバクロ法師の後ろから2つ開き、中からクリーチャーが現れる。1体は先ほどのコッコ・武・ルピア、もう1体は…!
「《悪縁 ガクブッチ=リッチーモア》だ!」
「アビスロイヤル!?」
「ほう、回収できていない眷属がこんなところにいたか…」
流石のジャシンも少し動揺しているように見えた。
「邪王門で出したクリーチャーは、バトルさせる効果を持つ、リッチーモアでジャシン帝とバトル!」
「ジャブラッドで墓地を4枚戻して耐えさせる!」
「リッチーモアはスレイヤーでパワー7000!ジャシン帝はバトルで2度敗れ去る!」
「…2回目はジャシン帝の手札を2枚捨てる事で耐えさせる!」
「コッコ・武・ルピアの効果で、墓地を全て無くす」
(だから俺の墓地は最低限の2枚にして…!)
「まぁ、墓地を消すのは俺の方だがな。武ルピアの効果で邪王門2枚以外の墓地のカードを全て無くして、その枚数以下、6枚以下のコストを持つジャシン帝を、破壊する!」
「ジャシン帝は、破壊される…!」
虹村と戦った時以来のジャシン帝の除去、ジャブラッドがいた上でやられるなんて…!
「リッチーモアの効果で墓地から邪王門を2枚回収する!」
夕哉 シールド3
「トリガーなし!」
「バクロ法師でシールドをTブレイク!そのとき、《龍装者 バルチュリス》の登場を宣言!2回目の攻撃、バクロ法師の攻撃終了後、スピードアタッカーのこのクリーチャーはバトルゾーンに出る!」
夕哉 シールド0
「ぐわぁぁああ!」
バクロ法師の強烈な一撃に、シールドを通しても殺しきれない風圧で俺と朝陽は吹っ飛ぶ。
強烈な攻撃、ジャシン帝すら失う戦法、バルチュリスを使ったリーサル打点、勝ち筋が…見えない…!
「良いのか黒井夕哉?お前の大事な友人が…?」
後ろを振り向いた時、朝陽が衝撃に巻き込まれ、倒れているのが目に入る。あの時の、夕花が病院に入った時のトラウマが、俺の頭を駆け巡る。
「朝陽!大丈夫!?朝陽!!」
「……大丈夫だ、夕哉…!」
朝陽は目を開け、こちらを元気づけてくれる。そんな、すごく痛いはずなのになんで…!
「察するに、飛水や光屋たちもこんな感じなんだろ?なら、俺もこんなところで、彼女の前で倒れるわけにはいかないだろうよ…!」
「朝陽…!」
「俺はデュエマのこと知らんし分からん。でも黒井がこれを全力でやってること、俺のために戦ってくれてることはわかる。…頼む夕哉、勝って、柚子と後夜祭見に行かせてくれ!」
「…うん、任せて!シールドトリガー!《シラズ死鬼の封》!ド:ノラテップ、ブルーム=プルーフを効果で蘇生!ジャブラッドをクリーチャーに!」
「バルチュリスはバトルゾーンに!」
「ブルーム=プルーフの効果で破壊!そして、ブルームの効果で墓地を1枚増やす!」
寸前まで飛んできたバルチュリス達の拳を、ブルームが箒で起こした風で間一髪防ぐ。額に流れる汗が、俺に今が危険であること、今のままで勝てないことを嫌というほど教えていた。でも。
でも、俺のことを勇気づけるのは。いつだって皆の背中を押す言葉だから。いつだって皆の、受け入れてくれる言葉だから。それに応えるために、俺は止まっちゃいられない。
「何…!?ノワールアビスが勝手に集まった。何をする気だ?」
「行くよ!俺のターン!」
ブルーム=プルーフの肥やした1枚は、黒く染まったカード。
「ジャシン、このカードは?」
「…知らん、勝手にノワールアビス共がやったことだ」
「ノワールアビスはジャシンの分身、少しは認めてくれたってこと?」
「…どうだろうな、ガ:ナテハなどは何を考えているのか余にも分からんからな」
「まぁ、どっちでもいいかも。今は、この一瞬、1ターンを!」
黒く染まった泥が、カードから落ちていく。
「俺のターン、マナチャージして、ド:ノラテップでコストを1軽減!5コストで召喚する!」
「『人を助ける力、困難を跳ね除ける力、両方を俺のもとに!』来い!《邪闘 シス》!」
夕哉と!飛水の!今日のカード紹介!
「今日のカードは…」
「「コッコ・武・ルピア!」」
「出た時と攻撃する時に、どちらかの墓地を選んでそれをリセットしてしまうとんでもねぇカードだな」
「しかも戻したカード以下のコストを持つクリーチャーを破壊しちゃうんだ。場に残る限り墓地を消され続けちゃう!」
「というわけで次回、『逃げるな、進め・後』」
「「お楽しみに!」」
「墓地を使った戦い方だけじゃ、足りなくなってきたのかな…」