デュエル・マスターズOverRevolution(オーバーレボリューション) 作:シグレサメ
夕哉達はUta~Awase-Fesを成功させ、どうにかアルテナのアジトに辿り着き、才能の入ったオーブを回収できる範囲で回収することに成功した。しかし首謀者である須谷風音(かぜね)は、プロフェシーに擬態していたあるクリーチャーと契約をしなおし、新たな禍々しい力を手にしてしまうのであった。
クラヤミを払うまで
デュエマ部の5人は、風音の姉である遥風(はるか)と、その上司であり協力者の正堂公輝(しょうじ こうき)と共に、あの時クリーチャー界で起こったことを纏めていた。とは言っても、遥風は自分の妹のやったことによるショックでなかなか話せる状態になってはいなかった。
「整理すると、飛水(ひすい)くんが垣外(かきそと)くんに勝って、今彼は病院で休んでいる。そしてその時たまったエネルギーで水文明の汚染を止められたわけだね、おめでとう」
「カクメイジンはあっちの世界で海の状態の経過観察してて、何かこちらの世界にあったらすぐに来るって言ってくれました」
飛水は大事そうにカクメイジンとDracheのカードをさする。あの時の宝物のような経験が、飛水の強さになるだろうと公輝は確信していた。
「夕哉(ゆうや)くん、火奈くん、緑くんは、刃金(とがね)くん達に勝って、フェスを守り切ってくれた。改めてありがとう」
「でも結局あたし達、大した成果は出せてないよね」
「そうだよね…。ボク達役に立たなかったんじゃ…」
「そんなわけない、2人がいなかったら俺はまず刃金と戦えなかったと思う」
火奈と緑を励ますものの、2人は少し浮かない顔をしている。それをポケットから見ていたボルシャックが、何か思い当たるような感覚を覚えた。
「公輝さん、結局皇心(おうしん)は風音のところに戻ってます、できることなら助けてあげたいです、あんなに悲しそうにデュエマをする人、初めて見た…」
「それは分かるよ。御白(みしろ)くん、風音くんについて教えてもらえるかい?」
「えっと…とにかく、なんか全部憎いー!って感じに見えました、自分の目的達成に向けて必要なものは躊躇なく取るというか」
「なんか、前に戦った時の叔父さんに似てるな」
飛水が真沢(まざわ)のことを思い出し口を挟むと、御白が軽く否定する。
「それは、ちょっと違う気がします。私も夕哉くんと同じく、戦ってて悲しそうにデュエマする方だと思いました。本当に、デュエマも、クリーチャーも、自分が才能を得るための手段になっているみたいで」
「クリーチャーって、あの機械仕掛けのやつ?夕哉が簡単に描いてくれたけど」
「ゆうや、絵が上手いし疑うつもりもないけど、そんなクリーチャーが本当にいるのかちょっと信じられないよ」
「うん、禍々しいなんてものじゃなかった。ずっと見ていたら、俺の大事なものが取られるんじゃないか。そんな感じ…」
「夕哉の予感は正しい。実際、あのままあの場所にいたら夕哉も小娘も人間の心を奪われていただろうからな」
突然口を挟んだジャシンとその言葉に皆が驚く中、公輝がその意図を尋ねる。
「クリーチャー世界はプレイヤーのこのクリーチャーに会いたいという気持ちが集まって出来上がったものと、君は言っていたらしいね。じゃああのクリーチャーは何だい?どうして何処にもいないようなクリーチャーが…」
カードから顔を出したジャシンは、夕哉に近くからコップを取り出させる。
「お前らはデュエマに負けた時どう思う?」
「そりゃあ、悔しい!だよ!」
「まぁ次頑張るって気持ちになる時もあるが、あまりにも理不尽な負け方した時はやり切れない気持ちになるな」
「ボクも、そうかなぁ。マイナスな気持ちになることは多いよ」
「クリーチャー界に溜まった気持ちは、何も人間やクリーチャーのプラスの感情だけではない、マイナスな感情は一つ一つは少なくても段々と蓄積し、いずれは…」
「「コップから溢れ出し、外に出る(のですね)」」
「そうだ、夕哉と小娘よ」
「じゃあ、マイナスな感情の塊みたいなクリーチャーってことであってるかい?」
「そうだな、眷属の口伝えだが、闇文明の奥深くにそういう壺、入れ物があって、それを溜めていたという話だ。そいつの名前は… DARK MATERIAL COMPLEX(クラヤミノコンゲンコンプレックス)、と伝わっているな」
夕哉と御白は見てきたものを逡巡し、お互いを見合わせる。
「じゃあそのCOMPLEXが風音の劣等感を利用して!」
「人から才能を奪い取るという形で願いを叶えて、自分の力に変えていたんですね…!」
「最悪…」
「思ったよりも、悍ましいクリーチャーだな…」
「ゆうや達も、もう少しでそのクリーチャーの犠牲になってたんだ…怖い…しかもかぜねって人はちゃんとそれをやる気で…あ!ごめんなさい…!」
他の3人も、風音とCOMPLEXの歪んだ助け合いの関係に各々の感想を漏らす。緑が遥風のことを考えられていなかったことに気づき頭を下げるが、彼女は「大丈夫ですよ」と元気なく声を返すだけだった。
「こやつの厄介なところは人間に寄生して力を蓄えるまで殆ど姿を確認できない上に、その人間をどんどん自分に依存させる点だ、早く止めなければ文字通り、何が起こってもおかしくはないだろうな」
「公輝さん!早く風音を止めなきゃ!」
「そうは言うが、先程の通り彼らと対峙すれば寧ろそのクリーチャーの思う壺だ、簡単には動けない」
「…すいません、少し焦ってしまいました…でも!」
重苦しい雰囲気となる一同に、ボルシャックライダーが手を挙げる。
「俺に、少し考えがある」
「ライダー、なんかあるの?」
「火奈、朱野(あけの)という人間に負けて、お前が強くなると言葉にした時に俺が濁した理由だが…。この状況なら仕方あるまい。…少し火文明の話をしても良いだろうか」
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ボルシャック、ジャシン、そしてボルシャックが呼んだドランの3体がカードから顔を出し、夕哉達がそれを囲む形でテーブルに座る。何だかお茶会みたいだねと緑は言ったが、それでもボルシャックを見る目は真剣そのものだった。
「まずは何処から話すか…。お前達は自然、光、水文明を回ってきたが、実のところ火文明は壊滅に近い状態になっている」
「壊滅!?ってなに?」
「まぁ、まともに住める状態じゃないってことだろうな」
「嘘、そんな話一度もしてないでしょ、ライダー!」
「言うつもりも無かったんだ…。契約したクリーチャー達が元の世界に戻っていく中で、火奈に言う勇気が中々起きなかったんだ」
「その、何でそんなことになったんですか?それが分かれば…」
「内戦だ」
「内戦…仲間割れしたってこと…?」
夕哉と火奈が言葉を失う。代わりに飛水が言葉を続ける。
「その内戦の理由に、COMPLEXが絡んでるのか?」
「あぁ、クリーチャー達が我を失ったかのように暴れ出し、仲間同士で潰しあった。思い出すのも憚られるような凄惨な光景だ」
「じゃあ、かぜねに取り憑く前にCOMPLEXが…」
「今なら確信を持ってそいつの仕業だと言えるが、当時は次々と狂っていく仲間達を見ていることしかできなかった。何も、できなかった…」
「ライダーはどうして助かったの?」
「火文明の責任者、統治者として俺は最後まで全うするつもりだったが、側近のルピア達に人間界のゲートを見つけたと、無理に追い出された。恐らくだが、狂っていく自分達を見せたく無かったのだろうと思う」
「そんな…」
「その後は火奈の知っている通りだ。カードとして人間界に現れ、火奈と契約した。正直なところ、クリーチャー世界から出た後は故郷のことを考えないようにしていた。他の仲間達が別々の文明に行く度に、俺の心は痛んだ」
ボルシャックライダーの独白に、5人は何も言えなくなった。ライダーは火奈に、深々と頭を下げる。
「俺は英雄なんかじゃない、ただ仲間に生かされた生き残りだ。だから、火奈が強くなると言った時、他の文明を取り入れる程度で済ませようと思ったんだ、俺は、また全てを失うのが怖い、火奈のことも、火文明のことも…。俺は、ただの弱虫なんだ…!」
ライダーの言葉に対し、ジャシンが肩をすくめ、ドランが悲しそうに小さくエンジンを鳴らす。そしてその言葉を聞いた火奈は、ボルシャックライダーの手を取った。
「じゃあ…今から強くなろうよ!あたしも!ライダーも!そしたらライダーの辛さ、少しは軽くできるんじゃないかな!」
「そんなことは…!」
「ライダーさんはもう十分強いよ。それはずっと一緒に戦ってきたあたしが証明する。だからこそ、もっと強くなろう!火文明を救えるような、英雄に!」
「火奈…!」
火奈の言葉に感涙するライダーに対し、ジャシンが急かすように言葉を煽る。
「そんな茶番をしたかったのか?違うだろう?COMPLEXに対応できる手段があるから、そこの小娘の相棒共々呼んだのだろう?」
「…そうだ。火文明の古文書に、闇に世界が支配される時にボルシャックの英雄がそれを使ったという『太陽の力』が存在する」
「太陽の力…ライダーがそれを使えばパワーアップできるってこと!?」
「あぁ、だがそれには凄まじいエネルギーを使う上に、道中はとてつもない道のりだ。クリーチャー1匹程度では危ないとされている」
「あたしも行くよ!ライダーの相棒だもの!」
「あぁ、お前がいてくれた方が心強い、だから…」
そしてライダーはドランの方を一瞥する。
「…ボルシャックとは昔からの仲間です。御白さん、着いてきて下さりますか?」
「はい!火奈ちゃんもライダーさんも、大事な友達ですから!」
「あとは、墓参りになりますね…」
「お墓参りですか…?」
ドランの代わりにライダーが説明する。
「あぁ、その神殿には、当時のボルシャックと一緒に戦ったどらんの先祖が、本人たっての願いでそこに埋葬されている。そこに向かうのも今回の目的になるだろう」
「女子2人だけに行かせるのもどうかと思うわ、俺も連れてってくれないか?」
飛水も手を挙げ、ボルシャックは安堵の息を漏らす。
「そうか、俺は何処までも遠く思えたあの神殿に行くことが出来るのだな…」
「ねぇ、俺たちも行っていい?ジャシンは嫌がるだろうけど、俺も手伝えるなら手伝いたいよ!」
「ボクもボクも!暑い火文明は苦手だけど…!」
「COMPLEXがいつ何を起こすか分からない以上、クリーチャーを使える人間が2人は残った方がいい、COMPLEXでなくとも、アルテナが何をするか分からぬからな、頼めるか、夕哉、緑」
「…分かった、気をつけて」
「りょうかい!確かにこれも大事な仕事だよね!」
「あぁ、そちらの世界を頼んだぞ」
夕哉と緑に対し、ライダーがこう返す。しかしこの時のライダーの様子は、今までと比較にならないほど、勇気と自信に満ち溢れていると皆が感じた。
「ありがとう火奈、お前のお陰で俺は勇気を貰えた」
「あたしもだよ、士穂先輩に立ち向かうために、頑張ろう!」
「じゃあ私、火奈ちゃん、飛水くんは神殿探索班、夕哉くんと緑くんは人間界防衛班ですね!デュエマ部、行きますよー!」
「「「おー!」」」
「お、おー!少し遅れた…」
「いや、即席で合わせられるの凄いよお前ら…」
飛水は他の3人と夕哉に少し驚きと呆れを混ぜつつも、1種の安心を覚えるのだった。
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遥風は、自分の殆どものの置かれていない自分のアパートへと帰宅する。自分達の追っていたクリーチャーを悪用する人間の一人が、それもその首謀者が、自分の実の妹だったと言う事実を、頭が受け止めても心が受け止めない。
公輝から早めに帰るように言われて5人より早く帰り、外は夕陽が優しく照らしているがどうしても頭が働かず、何とかカップラーメンを作って待っていた。テレビの中ではバラエティが流れ、芸人が司会と小気味いい掛け合いを続ける。
『覚えるものだよぉ。私は全部覚えてる、私に向けられた感情全部。だから才能を手に入れた。もう2度と誰にも出来損ないと言われないよ。むしろ今は、お姉ちゃんが私の出来損ないなんじゃない?』
風音から言われた言葉が遥風の中をぐるぐると回る。自分の中で何かが出そうになって、必死にそれを抑えようとするが、身体は溜まったストレスと疲れに正直だった。
「うう、うぅっ…!」
トイレにどうにか辿り着き、込み上げたものを片付けて、どうにかベッドに向かう。やかんの火を消して、今日はもう寝ようとした時…ピンポーンと呼び鈴が鳴る。
「須谷さん、今大丈夫ですか?ジャブラッド用の唐揚げ作りすぎちゃって…」
遥風の目からは、涙が溢れ出ていた。
「公輝さんに頼まれたんです、どう見ても調子が悪そうだったから、食べられそうなら料理作ってあげて欲しいって」
『あぁ、忙しくて行けなくてすまない、代わりに夕哉くんが行ってくれて本当に助かったよ』
スーパーで買ってきていたうどんを茹でながら、夕哉は遥風に話しかける。公輝も仕事の合間に、リモートで少し口を挟んでくれるようだった。
「正直、反省してるんです。風音が遥風さんに連絡しようとした時、2つ返事で繋がなきゃよかったって」
「そんなことは…。全部、私が悪くて…!」
「そんなこと言わないで欲しいって、公輝さんが言ってました。俺も同じ気持ちです」
夕哉はうどんにネギやほうれん草などいくつか身体に優しい具を入れて、遥風に出した。
「料理、得意なんですね」
「…妹のためにって頑張ってました」
「…そうなんですね」
遥風がそれを食べると、優しい味が広がって、また涙が止まらなくなってしまった。
「あ、大丈夫ですか!?苦手なものあったり…」
「大丈夫です、あったかくて、美味しいです…」
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うどんを食べ終えて落ち着いた遥風を見て、夕哉は帰ろうとする。それを見た遥風は、夕哉のパーカーの袖を掴んで、引き止める。その行動をした自分に遥風自身も驚いていた。
「少し寒くなってきた日に引き止めるのは、申し訳ないのですが」
「話せますか?無理しなくても…」
「…夕哉くんに話したいです、でも、公輝さんにも聞くだけ聞いていて欲しいです。わがままですね」
「俺たち普段散々わがまま聞いてもらってる側ですよ、大丈夫です」
夕哉はスマホのビデオ通話を開いて、公輝に声が届く状態で、テレビとソファ以外ほぼ何もないリビングで話を聞き始める。
「…風音とは、何となく仲が良いわけじゃない、そんな感じの関係だったんです、何となくつかず離れずって感じの姉妹って感じで」
「…はい」
「昔から風音には言葉を喋るようになるのが遅かったり、勉強についていけなかったりと色々あったんです。沢山努力しているはずなのに、どうしてもそれが身にならないタイプという感じで」
「そうだったんですね…」
「それで両親が亡くなった時、別の親に引き取られることになったんです。でも自分達姉妹のことを忘れないようにしてほしいって言うことで、父と母が須谷の名前を残すようにとも」
「じゃあ、その後のことはそこまで知らないんですか?」
「はい、風音とは時々連絡を取り合っていたのですが、あくまで名目上連絡をとっているというほどの簡単なもので。私が仕事で忙しくなるに連れて連絡の頻度も落ちていってしまったのです」
『それで自分を責めるのはやめたほうがいい、こんなことになるなんて、誰も思わないだろうからね』
公輝の言葉を受けて、遥風はまた泣いていた。
「夕哉さん、私、どうすれば良かったのでしょうか…」
「俺にも、断言できるようなことは言えないです。でも、あくまで俺の経験則ですけど、もう少しだけ風音に向き合えたら、少しいい方向に行けるんじゃないかって思います」
「…夕哉さんは凄い方です、危険なクリーチャーと言われるジャシンと契約して、沢山のデュエリストの方と戦って、人と繋がれて…」
「でも、風音の気持ちを助けられるのは遥風さんだけだと思います」
「…え?」
「俺は正直、目の前にあったことを必死にやってきただけです、要領が悪いから何回もやらないと覚えられないですし、察しも悪いから御白達に指摘されることもあるし。夕花が俺の足を引っ張っていたくなかったって考えに気づけた時は、もうデュエマをやってる最中ですよ?」
夕哉はこう続ける。
「だから、自分の辛さを消すためには、人に頼るのも良いですけど、自分で向き合わなきゃいけないものもあると思います。自分の家族のことなら、尚更」
「夕哉くん…」
「ごめんなさい!年下なのに厳しいこと言っちゃって…。でも、もし風音に向き合う気持ちがあるんだったら、俺が風音のところまで遥風さんを守ってみせます。ここまでいっぱいお世話になったんですから、これくらいはさせてください」
「…ふふ、ありがとう、ございます…」
遥風は満足そうに笑って、夕哉に一度頭を下げた。
「夕哉さん、来てくれてありがとうございます。近いうちに、私も私の答えを出すつもりです。いや、出します。もしその時は」
「はい、協力させてください!」
そう言って夕哉は唐揚げを遥風の冷蔵庫に置き、家に帰っていった。
「本当に家庭教師なんですね…。多分、私よりずっと面倒見が良い人なんでしょうね」
「私も、風音と向き合わなきゃ…。いや、向き合いたいな…」
遥風はようやくゆっくりと休むことができた。そして、彼女は安心したように、ゆっくりと、夢の世界へと微睡(まどろ)んでいった。
夕哉と!御白の!今日のカード紹介!
「今日のカードは…」
「「ア:エヌ:マクア!」」
「出た時に2ブースト1マナ回収、どちらかの墓地リセット、コスト5以下のクリーチャーでないエレメントを全てマナゾーンに送るの3つから選べる万能なクリーチャーです!」
「マッハファイターも持ってるから覇ロードとの相性は抜群。今の俺を支えてくれてる大事な1枚だよ」
「というわけで次回、『龍は神になれるのか・前』」
「「お楽しみに!」」
「夕哉くん、最近アビスもっと好きになったんじゃないですか?」
「……うん、なんだかんだ、愛着湧いてきたかな」