デュエル・マスターズOverRevolution(オーバーレボリューション) 作:シグレサメ
Side:風音
同じ夢を見る。
親が死んだ日の夢。お姉ちゃんと離れた時の夢。そして…。
「なんだよ、期待外れじゃねぇか」
新しい親元で、『須谷の子供』を演じるように言われた時の夢。
お父さんはパイロット、お母さんはピアノの先生。皆が羨むような家に私は生まれ、そして私は、可哀想な子、出来損ないとまで言われた。
言葉を喋り始めるのが遅かった。多少は個人差のある範囲だけど、私は明らかに遅かったらしい。自分の意思に関わらず語尾が伸びてしまう癖はその頃からのもので、直そうと思っても直せなかった。
物事を覚えるのが遅かった。同じものでも何回も覚えなければいけなかったし、覚えられる量も正直多くはなかった。どちらかというと覚えてしまったのは、周りからの変な子という目。何度も見られているうちに、自分は変な子、普通でない子だと思うようになった。
お姉ちゃんは才能に溢れていた。スポーツもできるし、勉強もできるし。少し不器用ながらも、私に気にかけてくれていた。それは分かっているつもり。お父さんとお母さんのことも大好きだったし、家族がいれば大丈夫だと思っていた。
お父さんとお母さんが死んだ。交通事故。大体そんなもんだよね、幸せが壊れる瞬間なんて。そこで2人は引き取れないということで、私はお姉ちゃんと離れ離れになった。段々と連絡を取らなくなって、お姉ちゃんとももう会わなくなると思った。
そこの叔父さんは須谷家の人材なら、楽に成果が出て、自分が育てたと褒めてもらあると思った浅ましい人間だった。それを知ってて私も必死で努力したけど、身は結んでくれなかった。私が何もできないのを見て、彼にとって私は希望から邪魔者へと変わった。それでも何らかの才能を探す叔父さんは、私から見ていて痛々しいほどだった。叔母さんは、何もしてくれなかった。
要領が悪かった。何でもやらせて何らかの才能を開花させようとする叔父さんに私の体はキャパオーバーを迎えた。叔母さんは助けてくれないし、倒れたとしても元気になったら私の才能を探す生活に逆戻り。風邪を引いた日にはそれがずっと続けばなんて思ってしまうほどだった。
身体が弱かった。叔母さんが病気で亡くなってからそれはエスカレートして、私の体は限界に向かっていった。ストッパーが無くなって、私は全部やって全部ダメな、正真正銘のいらない子になってしまった。必死に須谷の人間を演じても、意味がなかった。
中学3年生の秋、自宅で一つの壺を見つけた。何となしにそれを自分の部屋に置いた数日後、プロフェシーが私の前に現れた。教えてくれたのは才能を奪い取る方法のこと、クリーチャーのこと、デュエマのこと。それらを知って私は、自分が何のために生きているのかをようやく知れたような気がした。
まずは叔父さんの才能を覗いた。何もなかった。私に散々強要しておいて、搾りかすのような才能だった。私は近くの頭のいい学生から才能を奪い取って、才縁高校に入った。叔父さんは狂喜乱舞して私を祝ったし、こんなものかと思う自分もいた。人から才能を奪い取る以外に生きる方法がなかった私は、このようにプロフェシーいや、COMPLEXと出会った。
私は彼のお陰で命を繋いだ。それは間違いないし、自分のしたことに後悔はしていない。しなければ自分が駄目になっていたから。それは確信を持って言えることだし、皇心やお姉ちゃんに会えた以上上乗せしてそう思う。だから、もう2度と人との差で人が苦しまないように。それを全部消してやると、COMPLEXと約束した。
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火奈達が火文明に辿り着いたのと大体同じ頃、須谷風音は皇心に呼ばれ、2人で話していた。
「皇心。もうやめようってどういうことぉ?」
「……これ以上クリーチャーの力を使うことが、どんな影響をもたらすか分からない!これ以上はやめよう、風音…!」
「やだよぉ。久しぶりに会った時に約束したでしょ?今度は私を助けてくれるって」
「そういう意味で言ったのではない!俺は…!」
「でもそう言ってCOMPLEXが作ってくれたクリーチャー界への扉、その探索にも付き合ってくれたし、カイザー刃鬼とも契約したよねぇ。これ以上リスクを負いたくないから逃げるってことぉ?」
刃金は意を決し、風音の肩を揺する。
「そうじゃない!黒井夕哉に会って、彼と話して気づいたんだ!俺たちは自分達のために人を踏み台にしている!そんなことが長続きする筈がない!だから……!」
「だからぁ?」
「こんなことやめよう…。俺たち、ただの幼馴染に戻らないか…?」
「無理だよぉ、もう後戻りできないから」
「風音…?」
「皇心が知っているのよりも沢山、知られないように取ってきた才能はあるんだ。沢山、たぁくさん。せめて、踏み台にした人達を無駄にしないようにしないと、ね?」
「風音!!」
「私はそれがないと生きられないの。才能を手放したら、また元に逆戻りだよ」
「そんなことは…!」
「そんなこと、あるんだよぉ。私が才能がなければゴミクズなんてこと、私が一番分かってるんだから」
「………カイザー刃鬼!!」
刃金はカイザー刃鬼を呼び出し、後ろにある大量のオーブを壊そうとするが、すぐさま風音に呼び出されたCOMPLEXに阻まれてしまう。
「皇心。デュエマしよー。せめてお互いが満足する形で、この『ケンカ』を終わらせよぉ」
「…分かった。やろう」
「「デュエマ、スタート」」
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刃金の先行で始まったデュエマ。前とはデッキがまるで変わってしまった風音に刃金は細心の注意を払いながらデュエマを進めていく。
「マナチャージ。ターンエンド」
「マナチャージ。《DARK MATERIAL COMPLEX(クラヤミノコンゲン コンプレックス)を1マナで召喚。ターンエンド」
「1マナで、パワー25000…!?しかもタップインだと!?」
「うん、でも今は動けない。今は、ね」
その規格外のステータス、そして目の前に現れたのがただの緑色の目玉のついた壺ということに、刃金は目を疑う。
「今はCOMPLEXの仮の姿だよぉ。ある条件が達成された時、コンプレックスは動き出すんだぁ。さぁ、皇心のターンだよ」
「…俺のターン!」
(イラスト以外が黒塗りになっていて、何があるのか分からないが…)
刃金はCOMPLEXからの威圧感に物怖じするも、気を取り直してカードを引く。
「呪文!《地龍神の魔神》!山札上3枚から、《必然の頂 リュウセイ》をマナゾーンに、ターンエンドだ」
「私のターンだよぉ」
そういうとCOMPLEXが山札からカードを吸い込み出し、壺の中にカードが入ってしまう。そしてそのカウントは0から1へと変わる。
COMPLEXカウント 1
「COMPLEXは私のターン開始時、カードを1枚自分の下に置く。これが8になった時…ふふ。あとはお楽しみ。ターンエンドだよぉ」
「俺のターン!《ウマキン・プロジェクト》を召喚、マナと手札に振り分けてターンエンド!
COMPLEXカウント 2
「私のターン。《電脳の女王(ハックイーン) アリス》を3マナで召喚」
「水のマナだと…?」
「うん、闇だけじゃ、ね。アリスの効果で山札の上から3枚を見て1枚を手札、1枚を墓地、もう1枚を山札の上に。ターンエンド」
「俺のターン!《流星のガイアッシュ・カイザー》を召喚!2枚ドロー!次のターン、カイザー刃鬼でトドメを刺す!ターンエンド!」
「ねぇ皇心。黒井夕哉は、そんなに皇心を変えたの?あんなにかっこよかった皇心を?ずっと自分の価値を疑うなんてしなかったじゃん」
「それだけじゃいけないと気づいた。いや、気づかせてくれた。あいつは人に真摯に向き合う。どんな相手でも。だから気づいた。俺たちは、とんでもないことをしているのではないかと!」
「ふーん。私のターン」
COMPLEXカウント 3
「《同期の妖精》を召喚。さらに同期の妖精とアリスをタップして、《闇参謀グラン・ギニョール》をムゲンクライムで2マナで召喚。ガイアッシュカイザーを手札に戻すよ」
「それは、見たことないカード…!?」
「そんなことはないよぉ。ゴルファンタジスタの配下の中でもあぶれたものはいるわけで。それを通じてカードとして力を貸してもらってるだけだよぉ」
そう風音は言うが、同期の妖精は辛そうな表情をしている。刃金は、クリーチャー界のクリーチャーにも酷いことをしたのだとすぐに直感した。さらにガイアッシュカイザーが手札に飛ばされ、そこから黒いオーラをCOMPLEXが吸い取り出す。
COMPLEXカウント 4
「な、ターン開始時ではないのに…」
「COMPLEXは離れたクリーチャーの無念も敵味方関係なく自分のエネルギーに変えるんだぁ。さぁ、カウントはあと4つ。皇心は間に合うかなぁ?」
「俺のターン!呪文、地龍神の魔神!《「根性」の頂 メチャデ塊ゾウ》をマナゾーンに!さらにウマキン・プロジェクト!バズレンダで6マナで発動!手札とマナに振り分ける効果を2回行う!」
「ガイアッシュだと生き残るの待たないとだもんねぇ」
(今アリスと同期がタップしているが、そこに向かうとまたカウントを稼がれる。挙げ句の果てには同期のメガ・ラストバーストで更にアンタップのウマキンまで取られる可能性がある。ここは…)
「ターンエンド」
「おー!上手いよぉ皇心!」
「風音…!もう、戻れないのか?ただの友達に…!ただの風音に…」
その言葉に風音は一度微笑んだあと、真顔に戻って冷たく叫ぶ。
「そんなの、何の価値があるの?私にとって価値があるのは今才能がある私。誰にも無視されない私。誰にも邪魔されない私。私にはCOMPLEXが必要なの。分かるでしょ?皇心」
「……分かるからこそだ!お前の辛さも知っているつもりだ!その後にさらに叔父さんに色々言われたのもお前から聞いた!それくらい心を許してもらっていると思っている!だからこそ…!」
「皇心は、それが必要なくていいよね。私には、それがないと生きていけないの。人を踏み躙ってるとか、考えられるような余裕はないの。私に、『普通に生きさせて』」
「風音……!」
「私のターン」
COMPLEXカウント 5
「《奇天烈 シャッフ》を召喚、ある番号を宣言して、今場にいる相手のクリーチャーの攻撃防御と、その番号の呪文詠唱を止める。私が宣言するのは4。ターンエンドだよぉ」
(ウマキンが止められた…!)
「俺のターン!力を貸してくれ…!11マナで!《「勝利」(ビクトリー)の頂 カイザー刃鬼》を召喚!召喚時ハンター・W・メクレイド10を行い、「必然」の頂 リュウセイ!「根性」の頂 メチャデ塊ゾウをバトルゾーンに!更に攻撃時にもう一度ハンター・W・メクレイド10!《「勝利宣言 鬼丸「覇」》!《「合体」の頂 アクア・TITAAANS》!目を覚ましてくれ!風音!!」
風音 シールド2
「シールドトリガー。アリスの呪文側、《不埒な再侵入(プラチナ・ハッキング)》。アクア・TITAAANSを破壊。さらにシールドトリガー+、《終止の時計(ドゥームズデイ)ザ・ミュート》。2枚ドローして1枚捨てて、このターン皇心のクリーチャーは攻撃できないよ」
COMPLEXカウント 6
「かぜ……ね………!」
「なぁに皇心。なんか言った?」
「お前、そのシールドトリガーの踏み方は…」
「あーぁ。バレちゃった。そうだよ。礼児のだよ。まぁ完璧に戻せたわけじゃないんだけど。才能を与えられるんだから、元の場所に戻すこともそんなに難しいことじゃないんだよ。あとね」
風音がそう言うと、アジトの陰から礼児が顔を出す。しかし彼には生気がなく、まるで操り人形のようだった。
「風音…!そんな、悍ましいこと……」
「礼児もさ。同じこと言ったの。青海飛水には逆らわない方いいって。怖がってるだけな分こっちの方がダサいけどねぇ。才能を与えて奪い取り直すと、心を才能の為に明け渡した代償としていい人形になるんだぁ。でも皇心にはそうしたくないから。だからさ。リタイアしてよ。お願い」
「ダメだ…今引き下がったら、俺は黒井夕哉に顔向けできない!」
「そっかぁ。じゃあいいや」
「私のターン」
COMPLEXカウント 7
「呪文、《九番目の旧王(ザインティ・ザイン)》、パワー−3000を全体にかけるモードもあるけど、今回はこっち。必然の頂リュウセイをパワー−12000。これで、揃うよ」
COMPLEXカウント 8
COMPLEXから勢いよくギアを回す音をさせながら、壺の中から名状しがたい悍ましい怪物が現れる。大きな歯車が絡み合った身体、大きな目玉に、全てを破壊するような腕のアームとハサミのようなもの。その全てが、目覚めさせてはいけないものを目覚めさせてしまったという感覚を刃金に与える。
「COMPLEXはカウント8になった時、アンタップして攻撃可能になる。COMPLEXでシールドを攻撃、その時COMPLEXの下にあるカードを1枚コスト制限なしで呼び出すことができる。奇天烈シャッフを蘇生。コスト7を宣言するよ。そして、ワールドブレイク」
刃金 シールド0
強烈すぎる衝撃が刃金を襲いかかる。一瞬意識が飛びかけたが、どうにか意識を掴み、シールドに手をかける。
「シールドトリガー!《「その運命、我らもそれに従おう」!》」
「シャッフの効果で唱えられないよぉ」
「Gストライク!アクアTITAAANS!」
「選択する時必ず同期の妖精を選択しないといけないよぉ」
「同期の妖精の、動きを止める…!」
「じゃあね。皇心。シャッフで、ダイレクトアタック」
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シャッフがダイレクトアタックを決めた跡には、刃金の代わりにカイザー刃鬼が立っていた。
「……!?皇心、どういうつもり!?」
カイザー刃鬼はこれ以上先に行かせまいと、両手を広げ立ち塞がる。
「あーぁ。カイザー刃鬼に身代わりさせるの?薄情だなぁ、皇心」
「違う。我はここに自分の意思で立っている」
カイザー刃鬼が口を開き、風音が刃鬼を睨みつける。
「……どういうこと」
「彼の意思を尊重した。正しい道を進もうとしている彼を守る価値があると判断した。しかしお前が今から追っても追いつかない。何故なら私が、彼の盾になるからだ」
「…契約したクリーチャーってだけなのに…好き勝手言わないでよ!」
トドメを刺される直前刃鬼に庇われた刃金は、急いでクリーチャー界を経由して、自然文明の扉から、夕哉達のところに現れたのだった。
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病院で横になっている刃金に、夕哉は桃を出した。
「…大丈夫、食べれる?」
「あぁ。すまない、黒井夕哉」
「ううん。風音のために戦ってくれてありがとう。夕花を撃ったときは許せなかったけど、今はもう、君のことは敵に思えないから。勿論、治ったら警察に色々聞かれると思うけどね」
「…そうか。風音も、ここに連れて来られれば良かったのにな」
「…俺もさ。最初バイトでお金だけ稼いで、夕花達家族がいれば何でもいいと思ってたんだ」
「そうなのか?」
「うん。でもいろんなことをやっていくうちに、ジャシン達、御白達、公輝さん、遥風さん…。いろんな人が大事になっていったんだ」
「………」
「だから、少し後押ししてあげたい。自分は一人じゃないんだよって、風音に分かって欲しい。かな」
刃金は意を決して夕哉にこの言葉をかける。
「黒井夕哉。いや、夕哉。俺の代わりに、風音を助けてくれないか?」
「……勿論!」
桃を食べた刃金は、夕哉にアルテナの計画を話す。
「恐らくだが、後1週間以内に、風音は元からやろうとしていたあの計画を始める気だ」
「あの計画?」
「才縁高校を中心として、才能を管理する世界を作ろうとしている。今はCOMPLEXもいるし、正直何が起きるかわからない。そんな危険なことだが、やってくれるか」
「うん、任せて」
そう言った夕哉の携帯が振動する。
「緑?え、皆帰ってきた!?良かった…。火奈も御白もパワーアップしたの!?よし、これなら…」
「仲間からか?」
「うん、いい知らせを持って帰ってきてくれたよ」
「……そうか。俺のできなかった分まで、頑張ってくれ」
夕哉は病室を出て行った。
「刃鬼も、夕哉も、俺を認めてくれた。しかし俺は今このザマだ。風音は、助けられなかった…」
彼は悔しさに拳を握る。それは、手に自ら小さな傷をつけてしまうほどであった。
風音との決戦まで、あと5日。
風音の、今日のカード紹介
「今日のカードはぁ」
「DARK MATERIAL COMPLEX」
「パワー25000の1コストのクリーチャーで、ワールドブレイカー。その代わり最初はタップしてバトルゾーンに出て、ターン開始時にアンタップしないよぉ」
「ターン開始時またはクリーチャーが場から離れるたびにカウントが進んで、COMPLEXの下にカードが溜まる。それが8になったらアンタップして、動き出し始めるよぉ」
「そして最後には攻撃時COMPLEXの下のカードから好きなクリーチャーを呼び出すことができる、私の最強の相棒だよぉ」
「次回、『黎明』」
「COMPLEX。もうすぐ、貴方の望む日が来るよ」