デュエル・マスターズOverRevolution(オーバーレボリューション) 作:シグレサメ
カクメイジンが指定したポイント、才縁高校の中心にあるのは学校にある全ての運動部がお互いに邪魔しないほどの運動場。その陸上トラックの上だった。そこには大量の才縁生がいて、まるでゾンビのように自分の感情を奪われ、まるでそれ以外にやることなんて消えてしまったかのようにお互いに憎悪をぶつけ合う。
そんな様子を見て火奈は絶句する。まるで今まで様々な方法で活躍し、脚光を浴びてきた人間のするようなものではない。お互いに原始的に相手を傷つけ、どちらかが力尽きるまでお互いに憎悪を吐き出し続ける。
「火文明も、こんな感じで…」
「あぁ、またもこのようなものを見せられるとはな」
ボルシャック・カイザーが悔しそうに唇を噛む。その様子を見て火奈は自分の胸に手を当て、受け継いだ太陽の力の温もりを確かめる。
「大丈夫だよ、カイザー。今度は、皆がいる」
「…あぁ」
「ようやく来たの?『赤坂さん』」
夢にまで出た声に、火奈はすぐに後ろを振り返る。
「士穂先輩…!」
「まだ先輩って呼んでくれるの嬉しいな」
「お前は、これを見て何も思わないのか!」
火奈の代わりにカイザーが怒りを露わにする。
「…だいぶロクでもない連中だよ?この学校に来れたからとか、家にお金があるからとかで抜けないエリート意識が会話に出てくるんだ、先生も生徒もね。助けたところで彼らは変わらないだろうし、私としてはむしろ痛快なまで…」
「士穂先輩。昔の貴方は、絶対そんなこと言わなかったです。なんで、そうなっちゃったんですか」
「言ったでしょ、全部を助けるのは無理だって。結果的に恣意的に人間を助けなきゃいけないなら、少しでもマシな人間を残すに決まってるじゃん」
「マシとかマシじゃないとか、貴方に決める権利はない!」
「権利はあるよ、実際風音から支配下に置いた人間をどうするかを決めるのを任されたんだ」
「士穂先輩…!」
士穂が手を二度振ると、先程までお互いに潰しあっていた100人はあろう群衆が火奈の周りに集まり始める。
「え、何、これ…!?」
「不味いぞ火奈!このままCOMPLEXの眷属になった人間に取り囲まれたら、流石に俺の力でも結界内の力に耐えきれない!」
少しずつ距離を詰めてくる群衆に冷や汗を伝わせる火奈を見ながら、士穂は愉快そうにその様子をこう例える。
「救う相手に潰される気分はどう?大体そんなものだよ、助けたらそれ以上を求められる。それに終わりなんてないから、結局は選ぶしかないの。それが現実。それが…」
突如としてブロロロと大きな駆動音が鳴って、大きな声で何かが聞こえてくる。
『火奈、カイザー!耳を塞げ!』
「飛水!?」
『早く!頼む、Drache!!』
『♪この土を 駆ける戦士に 休息を』
「うわぁぁああ!何、これ…!?」
Dracheの魔力を込めたハイクを聴いた人々の動きが一気に止まる。特に正気の状態で声を聞いてしまった士穂はそこに座り込むほどだった。
「飛水!間に合ってくれた…!」
『すまねぇ遅くなった!簡潔に説明する!Dracheはさっきからかなり魔力使ってる上にこの人数を長時間止めるのは不可能だ!カクメイジンが夕哉達の道案内をしてる!俺がドローン飛ばしてDracheのハイクを考える!Dracheはありったけの魔力を込めて周りの人間を止める!火奈とボルシャック・カイザーは…!』
「士穂先輩と戦って…」
「太陽の力を解放するのだな!」
「あぁ、この群衆を統率するやつを止めるのが一番だ、頼むぞ火奈!」
「分かったよ、飛水!」
火奈は群衆の間をかき分け、士穂の前に立つ。
「すまない火奈、力を蓄えるために暫く一人で戦ってくれ。必ず太陽の力を使う時には間に合わせる!」
「分かった、行くよ士穂先輩!」
「火奈、そんな隠し球があったなんてね…。まぁいいよ、とっとと終わらせるだけだから」
「「デュエマ、スタート!」」
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「これって…」
「武者ドラゴンが私たちのために準備してくれたの、いいでしょ?」
そう言って士穂は武者ドラゴンに命じて、まるで合戦場のようなフィールドを校庭に展開する。火奈と士穂のデッキは、お互いに火と光文明を使うまさに鏡合わせのデッキ。お互いに決して気を抜けない戦いの火蓋が切って落とされた。
「《飛工!デネビア&ドッペル》を2マナで召喚!!」
「《竜装 ゴウソク・タキオンアーマー》を2マナでジェネレート。これからクロスギアのジェネレート、サムライの召喚コストが1下がる」
「呪文、《決闘者・チャージャー》!《ボルシャック・ヴォルジャアク》、《業炎の龍皇 ボルシャック・カイザー》を手札に!
「気合い入ってるね、前とは違う感じ?」
「そりゃ、士穂先輩に勝たなきゃって、今日まで特訓してきましたから!」
「……無駄だよ、貴方は私に追いつけない。私からの勧めを断って、デュエマ部なんかに、皇龍高校なんかにいるうちはね」
「所属なんかで勝手に括らないでください!私は、私に与えられた環境で強くなった!だから負けられない!」
「人間は所属で括るの、就活だったり。残念だけどね」
「……それは士穂先輩がそうしたいだけなんじゃないですか?」
「…は?なんて言ったの?」
士穂が火奈の前で初めて眉を顰(ひそ)める。
「士穂先輩は凄い人です。凄い強いですし、ストイックですし、それでいて人に優しくできる。でもそれって、自分が相手より上だからっていう確信があったからなんじゃないかって今は思います」
「……へぇ」
「だから『あげる』、なんですよ。まるで神様がプレゼントを上げて『あげる』みたいな。だからあたしが先輩に負けることに、自分が負けることに、少しの疑いもない。だからそう言うんです」
「で?私が貴方に負けるとでも?」
「この決闘は先輩だとか後輩だとか関係ない、赤坂火奈と朱野士穂の戦いにします、そしてあたしが、真正面からあなたを越える!それがあたしにできる、先輩への恩返しです」
「……言うようになったじゃん。やってみなよ」
士穂が不機嫌そうにカードを引き抜く。
「私のターン、3マナで《ボルメテウス・武者・ドラゴン「武偉」》を召喚。シールドを1枚ブレイクして、パワー6000以下のデネビアドッペルを破壊。さらにサムライ流ジェネレートで、《竜牙 リュウジン・ドスファング》をバトルゾーンに」
士穂 シールド4
「やっぱり強い…」
「ドスファングの効果でサムライメクレイド、《ヴァルキリアス・武者・ムサシ「弍天」》を召喚。場にある光エレメントの数(2枚)だけドローして、火のエレメントの枚数(4枚)以下のコストのクリーチャーを破壊する。今回は空振りだけど。ターンエンド」
「あたしのターン!カイザー!行くよ!」
そう言って火奈は太陽が登り始めた南東の青空にボルシャック・カイザーのカードをかざし、空に祈る。春風と共にやってくるような暖かい日差しが火奈の身体に広がり、少しずつカイザーのカードが変わっていく。
「それが太陽の力?火奈は本当に強くなったんだね。でも…」
しかし士穂はそれを憐れむように言い放つ。
「でも、それは多数の悪意の前では塵にも等しい」
いつの間にか火奈と士穂が戦う決戦の場の周りにはいくつもの才縁生達が集まっており、各々不平や不満、悪意に満ちた罵声、更には物を投げて火奈を妨害しようとするものまで現れる。
『おい、止まれ!クソ、Dracheの魔力切れか!?』
『すまない飛水!抑え切れない!』
「私はオーブを使って心を開け渡した人間の意識を預かる権利を風音から貰ってる。多少無理してでもあのハイクから引き剥がせるし、今貴方は彼らのコンプレックスの対象になってる。それぞれから止めどなく溢れる闇のマイナス感情をぶちまければ、太陽の光も足りなくなる」
いつの間にか太陽は雲の中に隠れ、ボルシャックカイザーのカードの変化が止まってしまう。
「そんな…」
「風音から何が何でもそのカードを使わせるなって言われてるの。これを使えば逆転できる、そう言うものは使わせなければいいだけだからね。さぁどうするの?」
「……カイザー、手札で休んでて。今はあたしにできることをする!耐え抜いて、チャンスを待つ!呪文、《ドラゴンズ・サイン》!コスト7以下の光のドラゴン、《ボルシャック・ヴォルジャアク》を手札からバトルゾーンに!ヴォルジャアクは各ターンクリーチャーが出た時シールドを1枚追加する!」
火奈 シールド6
「ターンエンド!」
「7コスト、パワー11000の大型クリーチャー。ドラゴンズサインで早出ししたスピードアタッカーなのに攻撃してこなかったあたり何か残したら不味い効果がありそうだね?取り敢えず私のターンか」
(……読まれてる。そりゃそうか、士穂先輩だもの…)
「あ、ダメダメ!負けるイメージをしない!」
「ふふ、必死だね。私のターン、4マナでリュウジン・ドスファングの2枚目をジェネレート!サムライ・メクレイド5で《戦術の天才 マロク》を召喚。更にドスファング2枚を武者ムサシにクロス(装備)」
「ヴォルジャアクの効果でシールドを追加!」
火奈 シールド7
「さぁ、叩き潰すよ。武者ムサシで攻撃する時、革命チェンジ」
「革命チェンジ!?」
火奈が空を見ると、雲間からまるで天使のようなドラゴンが優雅に降り立ってくる。そのドラゴンは時計のような12の時計盤を周囲に従え、さらに武装というより天使が羽衣を纏ったかのような出立ちに、火奈は敵ながら言葉を失う。
「《時の法皇 ミラダンテⅫ(トゥエルブ)》!!このクリーチャーが出た時にカードを1枚引き、ファイナル革命発動!私の次のターン開始時まで、あなたは『コスト7以下のクリーチャーを召喚することができない』」
「召喚、ロック…!?」
「まだ効果は終わってない!ドスファングを装備したクリーチャーの攻撃時効果でメクレイド5を2回発動!《爆炎ホワイトグレンオー》、ヴァルキリアスの2枚目を召喚!更に革命チェンジしたヴァルキリアスの効果で手札枚数以下のコストのサムライ、先程手札に戻したヴァルキリアスをバトルゾーンに!」
「そんな…!?」
「ヴァルキリアス2体の効果で光エレメントの数(5枚)だけドローして火のエレメント(7枚)以下の数だけ破壊。ボルシャック・ヴォルジャアクを破壊する。これを2回分。2回目は山札切れをケアするために破棄するけどね」
武者ムサシがヴォルジャアクに切りかかり、ヴォルジャアクがどうにか刀を受け止めたところで周りのサムライ達に囲まれる。
「戦いって数なんだよね、多数派でねじ伏せて、少数派のやることを封殺する。そういうもの」
そう士穂が言い放ち、ヴォルジャアクは2体目のヴァルキリアスに切り伏せられる。
「諦めないでください!貴方はそんな人じゃなかったはず!ヴォルジャアクの効果発動!破壊された時、コスト7以下の《ボルシャック》をバトルゾーンに出す!」
そう言って火奈は自分の数少ない手札に目を落とす。士穂との盤面差、リソース差は歴然だ。前より酷いとすら言って良いだろう。しかし火奈は、まだ諦めていない。
「ボルシャック・ヴォルジャアクをバトルゾーンに!各ターンクリーチャーが出た時、シールドを1枚追加!」
火奈 シールド8
「ふぅん。ミラダンテてシールドをブレイク」
火奈 シールド5
「シールドトリガー、無し…!」
「ふふ、ホワイトグレンオーで全てのサムライはスピードアタッカーを得てる。ヴァルキリアスで攻撃する時、《音卿の精霊龍 ラフルル・ラブ》に革命チェンジ、ラフルルの登場時能力で今度は呪文が止まる。そしてヴァルキリアスをさっきと同じ方法で出し直す。だからヴァルキリアスで、ヴォルジャアクの2体目を破壊するよ」
(手札のボルシャックは、もうこれだけ。だから…)
「ボルシャック・カイザー。バトルゾーンに出す」
「へぇ。パワー5000の一人だと何もできないカード?それはだいぶ可哀想だね?まるで今の、『火奈』みたい」
「……本当に私のことを守るべき対象として見ていたんですね」
「うん、守るべき、『可哀想な子』。ようやく分かった。だから助けるの。私の大好きな火奈」
火奈 シールド2
「シールドトリガー、8コストの《ボルシャック・マンリキ・ドラゴン》!パワー7000以下になるように相手クリーチャーを破壊する!ホワイトグレンオーを破壊!」
「えぇピンポイントメタ?凄いね、リーサル消しちゃうなんて」
「ボルシャック・ヴォルジャアクの終極宣言を生かすため、に…シールド、トリガーを多めに…あれ?」
火奈の意識が、少しずつ燻っていく。
「そっかぁ。ボルメテウス武者ドラゴンでシールドを割り切るよ」
火奈の進もうとする意思が、少しずつ士穂の手によって止められていく。
火奈 シールド0
「シールドトリガー、なし…」
「火奈、虚勢はもうやめなよ。私と昔通りに戻りたいなら、私の仲間になればいいの。一緒に、また楽しい日々を過ごそう?」
「お前、火奈に何を!」
ボルシャック・カイザーが士穂に食ってかかるが、契約者の意識に引っ張られ、自分もふらついてしまう。
「才縁高校の皆と同じ。時間が経てば少しずつCOMPLEXの闇が入ってくる。ずっと対処してた火奈なら尚更ね。だからもう火奈は抵抗できないはず……」
「……嫌、です。嫌…」
「火奈?」
「嫌!!!」
火奈が今まで誰も聞いたことない大声で士穂に反抗する。
「あたし、皇龍高校で陸上するの、凄い楽しいの!デュエマ部の皆と色々やるの、今まで絶対できなかったことで毎日ワクワクしてる!嫌いな勉強だって、夕哉や飛水、緑や御白ちゃんがいたら乗り越えられる気がしてる!今士穂先輩の元に戻ったら、あたしが手に入れたもの全部なくなる!そんなの、嫌だ!!!あたしは…」
「火奈!!聞き分けのない貴方は…」
『お前、今後輩が喋ってる途中だろうが!』
飛水が怒りに声を上げ、士穂が怯む。
「年上に向かってなんて口の聞き方…」
『お前、火奈がどれだけお前を慕ってたか知ってるのか、お前がアルテナにいるって知った時、どれだけショック受けたか知ってんのか!先輩なら、年上なら、後輩に心から向き合ってやれよ…』
「私も最初はそのつもりだったのよ!」
士穂は、絞り出すように言葉を続ける。
「私は、後輩からの全てに向き合ってきたの。些細な気持ちのトラブルから、何まで。でもそれによって起きた妬みで、手がつけられなくなった。だから絶対にそんなこと起きない素直な子が欲しかった。火奈や、操り人形の才縁生。そんな感じのね」
『だからって…』
「才縁生を操ることに最初は罪悪感もあった。だけど途中からどうでも良くなったの。火奈にも同じことしたじゃないって。私は優しい先輩じゃない。救えるのだけ救うの。それくらいの権利、欲しいじゃない?」
「先輩は優しいですよ、だからそんなに心痛めたんじゃないですか」
「……え?」
士穂が飛水の方から振り向くと、火奈は力強く立ち上がっていた。
「あたしは迷います。いっぱい。でも先輩も迷うなら、少しだけその荷物譲ってください。それくらいは、後輩としてさせてくださいよ?」
「火、奈……?」
火奈は勢いよくカードを引き抜く。引いたカードは、もう1枚のボルシャック・カイザー。
「あたしのターン!ボルシャック・カイザーでボルメテウス武者ドラゴンを攻撃!!」
ボルシャックカイザーは武者ドラゴンと殴り合うが、あえなく沈んでしまう。
「太陽は、カイザーは、昇ります。何度だって。何度だって、皆を照らします」
火奈の手には、もう1枚のカイザーのカードが輝く。そこから何かが、再び雲間から見えてきた太陽に反応して、少しずつ剥がれていく。
「駄目、皆、火奈を止めて!」
そう言っても操り人形達はピクリとも動かない。
「なんで、また青海飛水の仕業…?」
『…俺は何もしてねぇよ。Dracheはとっくに魔力切れしてる』
「先輩が。迷ってるんです。人を踏みつけにすることに。優しい先輩は、まだそこにいるはずです」
「嘘、そんなはず…!?」
「あたしが、照らしてみせます」
剥がれ切ったカードを見て、火奈は笑みをこぼす。
「カイザー!なんて綺麗な光…!」
「やめて、火奈、私は照らされたくなんかない!私は、助けられたくなんか…」
「ボルシャックカイザーは破壊された時、ボルシャックをコスト無制限でバトルゾーンに出す。《竜皇神 ボルシャック・バクテラス》をバトルゾーンに呼び出す!」
太陽が、いやクリーチャー世界の太陽そのものがバトルゾーンへと降臨する。それによって操り人形達は全て校庭の隅まで飛ばされて、士穂も焼き尽くされる程の熱に遭う…はずだった。
そこにいたのは、確かにカイザーが太陽に身を纏った姿。赤き太陽の鎧を身に纏い、太陽の仮面を被り、大きな爪を2つ備えた太陽の神であるはずだった。しかしそこには、まるで春風と共に来たような、心地のいい太陽の恵みがあったのだ。
火奈の!今日のカード紹介!
「今日のカードは…」
「時の法皇 ミラダンテⅫ!」
「コスト5以上の光または水のドラゴンから革命チェンジできるカードで、先輩はヴァルキリアス・武者・ムサシを出してきたんだ。登場時に1ドローかコスト5以下の呪文詠唱、さらにファイナル革命で7以下の召喚を次の自分のターンまで止める最強のロック能力を持ってて、あたしのデッキは追い詰められた」
「というわけで次回、『照らした先にあるものは・後』、お楽しみに!」
「…絶対に負けない、負けられない!」