デュエル・マスターズOverRevolution(オーバーレボリューション) 作:シグレサメ
光が差し込み、秋風が吹きこむ皇龍病院。光屋御白は念の為の精密検査を終えて、自分の病室へと帰ってきていた。そこで病室のベッドの近くで待っていた人間を見て、御白は嬉しさに声を弾ませる。
「あ、夕哉くん!」
「御白、検査どうだった?」
「大丈夫です!何も見つかりませんでしたし、明日には退院できるそうですよ!」
「そっか、夕花も丁度明日退院なんだ。折角だしどこかでお祝いしたいよね」
「そうですね!皆を呼んで、盛大にやりましょう!」
夕哉は疲労で倒れたのみであったが、御白はあの決戦の後丸1日ほど眠っていた。しかしCOMPLEXに乗っ取られた時間が短かったこと、夕哉達が跡形もなくCOMPLEXを破壊し尽くしたことなどから後遺症なく、この病院で2日ほど安静にしていたのだった。
「夕哉くんは大丈夫ですか?夕哉くんもかなり消耗していた筈なのに…」
「それ飛水にも言われた。そうは言っても、やりたいこと、やらなきゃいけないことが沢山だったし。御白がいない分、風音や遥風さんにも話さなきゃいけないと思ったから」
「そうですよ風音さん!どうなったんですか!?」
御白は心配そうに夕哉の顔を覗き込んで、次の言葉を待つ。夕哉はそれに笑顔で返して、こう続けた。
「風音は今、公輝さんのところで話を受けてる。クリーチャーを使ったあのやり方である以上、どうなるかはわからないからって」
「そんな……!」
「でもさ、遥風さんがついてるんだ。それとこれも」
そう言って夕哉は御白に手紙を差し出す。字は読みづらく、そこまで綺麗なものではなかったが、間違いなく彼女の意思が、気持ちが込められていた。
「『御白ちゃんへ。私は今、貴方の仲間のところで色々と話を聞いてもらっています。クリーチャーの力を私利私欲に使った以上、この後どうなるか分からない。でも、前よりずっと、沢山の希望で溢れている。お姉ちゃんが仕事の合間を縫って私のところに来てくれていて、皇心も、自分の話の合間に来てくれています。絶対に1人にしないと、2人は約束してくれたよ』。そんな、私も行きますよ!」
御白がそう言ったところで、風音は言い当てるかのようにこう続ける。
「『正直、時々不安で心が押しつぶされそうになるよ。才能を沢山奪った以上、私の償いは絶対に終わらない。でも進まなきゃいけない。そう言ってくれたのは御白ちゃんだから。でも時々でいいから、私に少しだけ勇気をくれると嬉しいな。手を繋ぐ人の数は、少しでも多い方が素敵だから。風音より』」
「御白、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。そっか、届いたんですね…私の気持ち……」
涙を流していた御白は夕哉からハンカチを受け取り、そういえばと口にする。
「飛水くん達はどうしてるんでしょう?」
「それなんだけど、結構色々あったみたいでさ。どれから説明するべきかな?」
「じゃあ良いニュースからでお願いします!」
夕哉は御白らしい少しマイペースな台詞に笑顔をもらした後、こう続ける。
「えっとじゃあ…。Prayersの所には緑が時々話してるみたい。火奈曰く才能を奪い取ったりまではしてなかったから普通の生活に戻るまでそこまで長く時間はかからないって」
「そうなんですね。改心してくれたのならば、できることならそう長くはいて欲しくないですよね」
「そうは言っても、朱野士穂さんとか、垣外礼児くんとかの本当に才能を奪ったり、弄んだ人に関しては、そう簡単にはいかないだろうって公輝さんが」
「そう、ですよね……」
「でも火奈と飛水がいるから大丈夫だと思う。公輝さんや遥風さんも、できる限り頑張るって言ってるし、俺たちが信じなくてどうするんだって話だって」
「……確かに、少し考えすぎてたかもしれません」
「なんか食べれそう?」
「はい、食欲でいっぱいです!」
夕哉は林檎を剥いて御白に出すと、御白は美味しそうに食べながら夕哉にも1つと渡してくる。夕哉はお言葉に甘えてと林檎を食べて、話の続きを始める。
「あとはさ、才縁高校で大きな事件が起きたってことで、色々起きてるみたい」
「それは、良いニュースですか?それとも…?」
「両方。表向きのニュースでは高校生が暴れたってことになって、才縁高校の管理耐性が問われてる。要するに、まだ見つかってなかったものが色々と見つかるんじゃないかって話かな」
「あぁ…。あの学校、色々ありましたものね」
「うん……。まともにやってた人達にも矛先が向くから、良いニュースって言い切れないんだよね。でも良いニュースはあってさ。Prayersのところに才縁高校生徒からの相談が来るようになったんだって、それも1つとかじゃなくて、複数」
「それって!とっても良いことじゃないですか!」
「今後高校がどうなるかっていう不安があるからって颯星は言ってたけどさ、とっても大事なことじゃない?なんか意識が変わってるっていうか」
「はい!とっても素敵なことだと思います!」
2人でそんな風に話していると、夕哉の電話が呼び出しをかける。
「そうだ、夕花の退院準備!流石に婆ちゃんにさせるのもって俺が請け負ったんだ!」
「そうなんですか!?それは優先してくださいよ!」
「そうだよね、また今度、御白!!」
「はい、また今度!」
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1人になった病室で周りを2回ほど見回した後、御白は鞄からデッキを取り出し、ドランを呼び出す。
「ドランさん」
「はい、エン・ゲルス様やカオスマントラは激戦によって眠っていますが、私なら」
「ドランさんが良いんですよ」
ドランはカードの中から周りを見回して、御白に近くの机の上にカードを置いてもらう。
「これで大丈夫です!」
「はい、何かあったのですか?」
「こっちで3日ってことはクリーチャー世界では1週間です。色々あったんじゃないのかなと思ったのですが…教えられる範囲で教えてもらっても良いですか?」
「はい、各文明の長が戻ってきたことで、闇文明以外の全ての文明の治安はある程度取り戻されました。火文明のあの状況は御白さんも知っての通りですが、他の3文明が助ける形の関係が決まっています」
「本当に良かったです!あの火文明が、どうしても心残りだったので!」
御白が嬉しそうに手を合わせると、ドランも嬉々として言葉を返す。
「はい、普段はお互いに不干渉と取り決めていますが、それでも貴方達のおかげで文明間の繋がりができたのも、喜ばしいニュースの1つとなっていますね。御白さん達と出会っていなければ、できなかったことでしょうから」
夕哉達の行ってきたクリーチャー界の探検が一つの大きな繋がりとして結実したこと。それは御白にとって間違いなく良いニュースではあったが、彼女はもう一つの疑問を思わず溢していた。
「闇文明は…どうなったんですか?」
闇文明、アビスロイヤルをはじめとした文明。ジャシンを通してなんとなしに状況は分かっていたものの、結局探索できなかったものであるため御白の心残りとなっていた。そして何より…
「夕哉さんのことですよね、御白さん?」
「……はい」
「闇文明は火文明の復興と同時並行で探索班を出す予定です、アビスベル=ジャシン帝は決して協力しないでしょうけどね」
「そうなんですよね、夕哉くんの使ってるアビスのことが、少しでも分かれば良かったんですけど…」
「…やはり、心配なんですね」
「それは!心配、ですよ…。あの時なんともなかったとはいえ、刃金さんと初めて会った時と言い、ジャシンが無条件に力を貸してくれるわけではないのは知っているので…」
ドランは口を閉じる。光文明と闇文明は昔から対立の歴史だ。古くはバロムとアルカディアス。今はジャシンという危険因子。しかし今目の前にいる相棒は、そんな垣根などすぐに飛び越えて、そのまま彼を、ジャシンの契約者を助けにいきそうと思っていた。ドランは彼女のためなら、光文明の教えなどどうでもいいとすら思えた。
「御白さん。夕哉さんのことは、大事ですか?」
「……?それは、初めての友達ですから」
「そうですよね、私達のことも救ってくれましたし、沢山一緒に色んなことをやって、今この日まで続いてきました」
「……はい」
「だからこそ私に貴方を守らせてください。少し頭が硬いと言われるかもしれませんが、それでも私にとって、貴方の安全が人間界における一番なのです」
「………そうだと、思います」
御白は静かにドランの話を聞いている。ドランも自分がプライベートな人間関係に口出ししている自覚はある。でもジャシンというものは、古くから伝わってきた厄災なのだ、アルテナ、COMPLEXという共通の敵を失った今、ドランが焦るのはある種当然のことだった。
「でも、風音さんを救えました。教えてもらいました。それで自分が夕哉くんだけ助けないなんて、風音さんのためにも、私の気持ち的にも、できないことです」
「…御白さん……」
「だからこそ、これからも私のことを助けてください。問題はまだまだ山積みなんですから。まだドランさんとお別れするつもりはありませんよ」
ドランは涙を気づけば流していた。自分の気持ちが伝わり、それを汲み取って自分の意思で進んでくれた。そんな自分の相棒に、お金で繋がらなかった友情などの繋がりの最初に立ち返り、ドランは闘志を燃やしていた。
「ありがとうございます御白さん、疑うような言葉をかけて申し訳ありません。私はこれからも、全力で御白さんを守ります」
「大丈夫ですよドランさん、これからもよろしくお願いしますね」
2人の合わせた手のひらに、夕焼けの光が跳ねていった。
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「入るよ、夕花」
夕哉が扉を開けると、長い間、ずっと待っていた光景がそこにはあった。夕花がそこに立ち、嬉しそうに手を振ってくれていた。
「お兄ちゃん!」
「夕花。良かった……」
「お兄ちゃん達のお陰。ヒーリスだよね、お兄ちゃんが取ってきてくれて、それで私の怪我も治ったんだから」
自然文明でヒーリスを見つけたとチアスカーレットアカネ達から連絡がかかり、夕哉はすぐにそれを取りに行った。公輝の知り合いの海外の研究所でそれの安全性が証明されており、クリーチャー由来の傷にはこれが使えると、秘密裏に薬として認可されたのだ。
「思えば、長かったな……」
夕哉は思わず声を漏らす。入院費の為に始めたバイト、そこからジャシンやデュエマと巡り合い、様々な出会いを通じて、今夕花は夕哉の前に立っている。感極まった夕哉は、思わず夕花に抱きついていた。
「ありがとう、夕花、ありがとう……」
「もう、お兄ちゃんたら…。今度パーティやるんだから、それまで涙は待ってよ」
「でも、だって……」
「……いっぱい心配かけてごめん、お兄ちゃん」
「……大丈夫、大丈夫だよ」
2人は喜びを分かち合った後、夕哉は夕花の前日にできる退院準備を進めて、部屋から出る時間が来た。
「夕花、また明日迎えに行くよ、じゃあまた明日!」
「うん、また明日ね!…ねぇお兄ちゃん!!」
「な、何?」
「お兄ちゃんが自分の好きなことやれてるの、私から見てすごく幸せだったの!それは忘れないで!!」
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「夕哉、ご飯できたよ、大丈夫かい?」
「ごめん婆ちゃん、少し食欲出ない」
「そうかい、無理して食べなくてもいいけど、お腹空いたらすぐ来るんだよ」
「ありがとう、婆ちゃん」
「ジャシン」
夕哉はカードを自分の部屋の中に並べていく。初めて御白と会った時から一緒に戦ってきたアビス達、初めて心を通わせた邪龍 ジャブラッド、大事な人を守るという意志を固めた際に現れた邪闘 シス。そんなカード達を並べながら、夕哉は考える。
「これからは、俺はどうするのだろう?」夕哉の中にこの感情が渦巻き始める。夕花を助けられた以上、最初の目的は終わっている。ジャシンを何処かに封印さえしてしまえば、自分のやることは終わるのだと思う。
「夕哉よ、先の戦いで余は全ての力を復活させた。愛馬スベルニルを手に入れた以上、貴様との契約は終いだ」
「俺もそう思うよ、間違いなくやりたいことは終わった。皆の力でジャシンをどこでもクリーチャー界の奥に封印し直せば、ジャシンはそこからは出られないけど、その手に入れた力を手放さずに済む」
「フン、やれるものならばな」
ジャシンを手放すことは普通の生活に戻れるということだ。やってみる価値はあるだろうし、ジャシンと別れる理由はある。それでも、夕哉の中でとっくに答えは決まっていたのかもしれない。
「でもさ、俺ジャシン達アビスのことが大好きなんだよね…」
「ほう?愛着で手放さないというのか?貴様が力を手放さなければ、小娘などはまだしも、また妹が危険な目に遭う。分かっているのだろう?」
「分かってるよ。でもさ、もし最初に始まった関係が利用し合うだけだったとしても、今そこにあるのは無視したくないんだ。俺に沢山友達ができた。そのきっかけを作ってくれたのは、ジャシンと御白なんだよ。危険なクリーチャーだからと言って、それを棚上げしたくない」
「貴様、時々言っていたな。一緒に過ごす時間が楽しいと。余にはずっと理解できなかった。何なら今は邪魔とすら思っている、余を手放せば両者自由なのだぞ?」
「でもさ、本当に我儘だけど…。まだ、嫌かなぁ」
「………フン、ならば元の通り隙を縫って契約の破棄を狙うだけだ」
ジャシンの捨て台詞を聞き流しながら、夕哉は結論を固める。
「それを決めるのは俺、なんだろうな……」
「………」
「決めた、闇文明の探索が終わるまで、俺はジャシンを手放さない。それで本当にジャシンの住んでいる場所を見つけて、ジャシンをちゃんと元の場所に帰すまで頑張る、それが、俺が始めた関係のけじめ」
「ほぉ?結論は決まったようだな」
「うん、もう少しだけ、よろしくね」
「フン、闇に飲み込まれるのを楽しみにするがいい」
夕哉とジャシンは、お互いに顔を見ずとも、お互いの意志を確認するのだった。空には、眩い満月が浮かんでいた。
デュエル・マスターズOverRevolution 完
デュエル・マスターズOverLordへ続く
最終話まで読んでくださり本当にありがとうございました。作者のシグレサメと申します。ここまで読んでくださった皆様への御礼、そしてこの作品のこれからについてこの場を借りて説明させていただきます。
まずはこの作品、デュエル・マスターズOverRevolution(オーバーレボリューション)は、次に投稿する予定の「番外編:打ち上げ花火は派手であれ」の投稿を持ってこの作品は完結といたします。
そしてもう一つ、この物語の続き、次回作のデュエル・マスターズOverLord(以降デュエマOLと略させていただきます)については少し時間を空けての投稿となります。設定などの調整、推敲などで時間がかかるため、ゆっくりお待ちいただけると幸いです。
デュエマOLは2024年のエキスパンション、王道編をモチーフにしたものとなり、新キャラや、新しいカード等が沢山登場し、夕哉くん達の物語は新たな岐路を迎えます。ぜひ皆さん楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。
重ねて、少しでもこの作品を読んでいただき、触れていただいた方全てに、ここで改めてお礼をさせていただきます。次回の番外編と、デュエル・マスターズOLでお会いしましょう。
最後に贈り物として、少しだけ次回作のヒントになる短めのエピソードを用意いたしました。ネタバレになるかもしれないので、見たくないという方はここでブラウザバックをお願いします。改めて、シグレサメでした。
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不気味な魔法陣が、異様な雰囲気が、その部屋を支配していた。その中心にはある男が、その周りには4人の男女が円を組み、何か呪文を唱えている。
クリーチャー界と人間界。その扉は夕哉達によって見つけられ、そして様々な繋がりの助けとなった。確かに、その2つの世界では。
例えば、人間界は人間界でも、別の人間界と繋がっていたならば?もしその世界から、悪意を持って何者かがやってきたのなら?
「なるほどな。これが我らが目指す世界……」
その男は興味深そうに、そして決して消えない欲望を妖しく燃やし、扉から見えるその世界を観察している。
「さぁ、我らが神よ。あの世界を手に入れるため、儀式を始めようではないか」
その男が腕を振り上げると、4人の男女が集めた闇のマナが続々と魔法陣の中へと溜まっていく。その男の本当の名前も、目的も。まだ誰も知り得ない。