デュエル・マスターズOverRevolution(オーバーレボリューション) 作:シグレサメ
番外編:打ち上げ花火は派手であれ
トントントンと包丁で小気味よく具材を切る音で、黒井夕花は目を覚ます。味噌の芳醇な香りを追って2階から降りてくると、兄の夕哉がお盆にご飯と味噌汁を乗せてテーブルの上に並べていた。
「おはよーお兄ちゃん!」
「おはよう、夕花は大丈夫?」
「大丈夫だよ。私が退院してから1週間経つんだよ?」
「あ…ごめん」
「もう、お兄ちゃんたら」
夕花は口ではそう言うが、夕哉がそうなることも無理はないと思っている。何故なら今日はデュエマ部の打ち上げ。色んな人を呼んで、折角なら派手にやろうと御白が提案し、折角なら夕哉の家に持ち込んでやろうと言う話になったのだ。
「お兄ちゃん、緊張してるでしょ?」
「そそそ、そんな、わけない、じゃん?御白達が家に来るだけなのに?」
「ふーん……?」
あからさまに動揺している。デュエマと出会うまで決して外交的ではなかった夕哉は、初めて人を自分の家に招くというイベントを行っている。朝ご飯のウィンナーを食べながら、夕花はニヤニヤと自分の兄を見つめていた。
話は逸れるが、夕哉の家は少し古い2階建ての一軒家で、外に小さめの庭がある。上の階が夕哉と夕花の寝室兼自室であり、2人の祖母は1階で眠っている。ちなみに今日は御白達がくる前にルーティンであるヨガ教室に向かうと彼女は言っていた。
「……ねぇ夕花。御白達が来る前に掃除した方が良いかな?」
「昨日したよ、2回」
「食べ物の好き嫌いとかないかな、足りなかったらどうしよう?」
「それ夜の私たちの負担が増えるだけ。だとしても皆自分で管理するでしょ?」
「あとは、なんか皆の地雷になるようなものがあったら……」
「そんなの、あっても予め言う人たちでしょ?お兄ちゃんしっかりして!!」
夕花に強めに叱責されて夕哉はびっくりする。あの兄妹喧嘩から、夕花は特に物事をはっきりと言うようになった。そんな風に夕花が兄のことを諌めていると、ピンポーンと音が鳴る。
「夕哉くーん?来ましたよー?」
「みみみ御白!?」
そう言って夕哉はカーペットに足を滑らせかけながらも玄関へ走っていく。ガチャリと扉を開けると、普段とは違う落ち着いた装いの御白が夕哉の視界に入ってくる。パーティというほどはっちゃけてもいないが、そのまま何らかの催しに出ても大丈夫なほど落ち着いた紫のフリルだった。
「また遊べて嬉しいです。色んな方が来られるので、折角ならこういう服でも良いかなと」
「う、うん。どうぞ……」
「夕哉くん?なんか緊張してません?」
夕哉が足早に御白のエスコートに入ったあたりで、夕花は机のジャシンに向かって、悪戯っぽく微笑みながら、
「今日のお兄ちゃん、すごく面白いね。やっぱり御白お姉さんのこと…」
「あやつにそんなものはない。あの友達家族バカは単純に今精一杯なだけだ」
「ふーん、ジャシン『様』がそういうならそうなんだろうなぁ」
「ジャシン様とかわざとらしく言うのを辞めろ、貴様は余が夕哉に逆らえないから調子に乗っているだろう」
「ねぇねぇジャシン様!2人がなんか話してるよ!」
「無視するな!!」
「荷物ここで良いですか?……改めて、前はありがとうございます。夕哉くんのお陰で今ここにいれるんですよ?」
そう御白は微笑むが、緊張でガチガチの夕哉を見てそれどころではなくなる。
「う、うん。そうだね……」
「……夕哉くん」
「はい」
「私が来てから30分経ったら教えます。その頃には他の方も来て緊張が治ってる筈なのであちらの部屋で休憩してください。今日来るのは全員知っている方ですしいずれ落ち着く筈です」
「……はい」
その様子を見ていた夕花とジャシンは同時に呟く。
「お兄ちゃん、気遣われてやーんの」
「客に気を遣われてどうする…」
そう言った夕花に御白が近づき、《聖カオスマントラ》のカードを渡した。
「夕花さんこんにちは。今回はこれを返しにきたのもあるんです。今まで使わせていただきありがとうございます」
「それは御白お姉さんが使ってください!」
「え、なんで…?」
「御白お姉さんはまだまだクリーチャーを使う、使わなきゃいけない気がする…気がするだけですけど!」
そう言って夕花は上の階に上がっていってしまった。
「……じゃあ!必要な時にはちゃんとお返ししますね!」
「はーい!御白お姉さん!シノビの皆をお願いします!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
10分後。
「来たぞ、夕哉」「しっつれいしまーす!」
飛水と火奈が『御白の案内で』家の中に通される。飛水は赤を基調としたパーカーと茶色のズボン、火奈はスポーティーな黄色のシャツとカーゴのショートパンツを着てきていた。
「ねぇ飛水?やっぱりもう少しオシャレしてきた方が…」
「お前らが気合い入りすぎなだけじゃねぇのか?それに今から行って戻ってもだろ……」
「あぁ、2人とも、いらっしゃい……」
「「夕哉!?」」
「あー夕哉くん!まだ座っててください!2人とも、今夕哉くんは墓地でマナ貯まるの待ってるんですよ!!」
「んなアビスロイヤルみてぇな…」
「今色んな意味で闇文明使いだね、夕哉…」
「面目ないです……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
15分後、夕哉が突然こう呟く。
「なんか、落ち着いてきた……御白達が家にいるって異常事態に、脳が慣れてきた」
「異常事態ではねぇ」
「でも良かったです、本来お友達と遊ぶって凄い楽しいことですから!」
その台詞に夕哉が頷くと、また呼び鈴が鳴る。
「きたよー、きうたちも一緒!」
「お、お邪魔します」
「お邪魔しまーす!さー何して遊ぶの?鬼鉄ある?」
「失礼します、夕哉、久しぶり」
緑に加えてPrayersの祈雨、千弥佳、颯星の3人が合流する。因みに緑は青のシャツと黒のズボンというカジュアルな服で入ってきた。
「Prayersの皆!久しぶり!」
「久しぶり。あれから色々あったけど、私たちはもう出歩いていいって。クリーチャーの力を使わない前提だけど」
そう祈雨が答えると緑が横でぴょんぴょん飛びながら、
「じゃあじゃあ!何で遊ぶ!?」
と言っている。他のメンバーが微笑ましいものを見るように言う中、夕哉の後ろから手が伸びてくる。
「じゃあスマシス!スマッシュシスターズ!!」
と夕花が提案する。今までデジタルゲームというものに殆ど触れてこなかった緑は興味津々に、
「え、やる!絶対やる!!」
と跳ねている。
「じゃあ皆でやろっか?一番ポイント取った人はお菓子の優先選択権が貰えるとかで」
「はーい!」「よし絶対取ります」
漸く本調子を取り戻した夕哉がそう提案し、周りの皆が乗る。
「フフフ、合法ギャンブル、ノるねぇ…!」
「夕哉、千弥佳はゲムミでジャッジしか使わないから凄く弱いよ」
祈雨の何気ないその言葉で、千弥佳はその場に崩れ落ちた。
「……じゃあ1つだけ3人戦にしよっか」
「お兄ちゃん、アイテムあり!」
「了解!」
1回戦第1試合
緑(ヨッピー)対御白(バリチュウ)
緑の動かす緑色の恐竜と、御白の動かす黄色い電気を扱うネズミのキャラが画面内を乱舞し、お互いの攻撃が…当たらない。
「御白ちゃん、こういうのやらないの?」
「私、アクションゲーム苦手で…。展開が早いのは特に……!あ!落ちちゃいました!!」
「緑は、そりゃそうだよね」
そう言って夕哉が緑の顔を覗き込むと、緑は顔を輝かせながらゲームを楽しんでいる。
「凄い凄い!こんとろーらーを動かしたらキャラが動くんだよ!?凄いよ!!」
「……なんか、めちゃくちゃ感動してるからいっか」
2人の戦いは極限までグダグダになった末、御白の復帰ミスで幕を閉じた。その時文化祭の時から夕哉達の友達である田崎朝陽と小森柚子が呼び鈴を鳴らし、夕哉が対応する。
「なんか、めちゃくちゃ人多くないか夕哉?他校までいるのか、またすごい人脈だな」
「確かに多いかも。でもそれだけ沢山の人と会えたんだと思う。朝陽も大事な一人だよ」
「お前、色んな人間にそれ言ってないよな?」
夕哉と朝陽がそんな風に会話をする中、柚子は同じクラスの飛水の試合に釘付けになっていた。
第二試合、飛水が勇者リングを、颯星がレーサー、キャプテン・ホークスで一進一退の勝負を演じる中、負けた御白はデッキケースが置かれている場所から声が聞こえると、火奈と共に来ていた。
「まぁ多分あたし達のクリーチャーだよね、これ…」
「でも何してるんでしょう?私達がいない時って……」
「指スマ……」「3!!」
ゴルファンタジスタ、カクメイジン、Drache、カオスマントラ、ドラン、エン・ゲルス、ボルシャック・カイザーの合計7体が、暇を持て余した余り指スマをしているとんでもない光景が、御白達の目に飛び込んできた。ちなみにドランはハザードランプを灯す形で、カクメイジンは首を上げる形で参加している。
「えーーング⁉︎」
驚く御白の口を押さえて、火奈は観察する。
「ねぇゴルファンタジスタ。この人数だと決着つかないんじゃ…」
Dracheの真っ当すぎる指摘にゴルファンタジスタはこう返す。
「そうは言ってもな……。緑から教えてもらった遊びでカードから出ずにやれるのって少ないしな。それに今日は夕哉達のパーティだ。緑がスマシス?をやると言ったのだから、俺様達が邪魔するわけにはいかない。何より俺たちのことを知らせちゃいけない人たちも来てる、だから余計にな」
「因みに御白さんによると夕哉さんは後で私たちにご飯を出してくれるみたいですよ、忘れられた訳ではありません」
その言葉に歓声を上げるクリーチャー達を見て、御白達はほっと胸を撫で下ろす。
「それはそうとして、ジャシンは参加しないのか?」
カイザーが悪戯混じりに爆弾を投げつける。
「ほう?余に話を振るか、良い度胸だな」
「確かに、ジャシンがこのようなゲームでどれだけ強いか見ものですね」
「我らの演算と深淵の闇、どちらが強いのか…」
カクメイジンがその話を広げ、ジャシンは不機嫌そうに返す。
「何故参加する前提で話が進んでいる、余はやらぬぞ」
「なるほど、確かにやらナイのが、負けはしナイ一番の方法デスネ」
カオスマントラの悪意のない一言に一瞬で沸点に到達したジャシンは両腕を出し、指スマに参加し始める。
「さぁ雑魚どもかかってこい!途中参加ハンデありでも余に勝てると思うな!さぁ行くぞ!!指スマ!!」
「じゃあ夕哉さん達と神谷さん達はそういう不思議なもの繋がりで仲良くなったんだ」
「そうそう」「私は皆にたくさん助けてもらったの」
夕哉、祈雨、柚子の3人の足音が聞こえた瞬間、8体はカードに戻り、何事もなくデュエマのカードとなった。
「あれ、どうしたの御白、火奈?」
「うぅん、何でもないよ?ちょっと忘れ物取りに来ただけ」
そう火奈が誤魔化す中で御白は、
(おもちゃが生きてるって人にバレちゃいけない映画を思い出しました……)
などとマイペースに考えていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
皆がゲームで全力をぶつけ合い、飛水が勝利を収めたところで、夕哉がカレーライスを全員分用意してきた。夏も終わり涼しい風が吹く中で、暖かくて辛いカレーライスは絶好の食事だった。
「これ凄く美味しい!」
「凄いなー、あたし料理とか全然で…」
「夕哉、後でレシピ聞いてもいい?」
そう口々に絶賛されてキッチンに立っていた夕哉は、
「本当に?それなら良いけど!」
と返した後、自分のカレーライスを持って食卓に向かい、いただきますと手を合わせた。そのところで、夕哉の溜めていたものが決壊した。
「……その、ごめん。ちょっと外出てくる。すぐ戻るから!」
「夕哉くん?大丈夫ですか?」
そう言って後を追おうとする御白を飛水が制止する。
「夕哉のこと、俺が見てくるから。光屋は代わりに片付けとか頼めるか」
「え、えぇ。分かりました!」
そう行こうとする飛水を今度は夕花が呼び止める。
「お兄ちゃんのことが心配なので、私もついて行っていいですか?」
「…あぁ。お願いする。光屋がいなけりゃ大丈夫だと思うからな」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
飛水と夕花が軒先の庭に出ると、夕哉は座ってうずくまり、大粒の涙を流していた。
「あ、ゆう、か…」
「お兄ちゃん!?凄い泣いてる!?」
「だよな……」
飛水の想定通り夕哉は何か蓄えていた感情が決壊したようで、夕哉は涙を拭いて平静を取り繕うも、すぐにまた涙が溢れ出てしまう。
「あ、ごめん、早く皆の元に戻らなきゃね」
そう言って夕哉が部屋の中に戻ろうとするのを、飛水が呼び止める。
「夕哉お前、自分がここにいて良いのかとか考えたんだな?」
「………」
「カクメイジンやDracheとフェスの準備してた時、自分がこんなに恵まれてていいのか、なんて思ったことがあるんだ。それに近い気がしてな」
「……飛水、流石だね」
「お兄ちゃん、そんなこと思ってたの!?」
驚く夕花の頭をさすりながら、夕哉は自分の思いを明かす。
「正直さ、半年前じゃ考えられないじゃん。夕花がここにいて、御白や飛水、火奈に緑。他にも沢山友達がいて。デュエマっていう新しい楽しみまでできて。自分には出来ないと思ってたことや、縁がないなんて思ってたことが沢山起きて。色々貰いすぎてるな、なんて思ったんだ」
「夕哉、まぁそういう性格だよな、お前は」
「お兄ちゃん…」
「ジャシンと出会わなかったら、デュエマを始めなかったら出来なかったことがいっぱいあるんだよ。そう思うと、自分がこんなに幸せで良いのかな、なんて思ったんだ。自分が幸せになれた分で、もう少し…」
飛水が夕哉の続けようとした言葉を勢いよく遮る。
「良いんだよ、そいつ自身が幸せになるのはそいつ自身の権利だ。早い話、自分に対して今回の事件の奴らを見て、自分だけ幸せで良いのか迷ってるっていう感じだろ?」
「まぁ、半分正解。俺がもう少し、出来たことがあるんじゃないかなって思ったんだ」
今度は夕花が夕哉の腕を掴む。夕花も気づけば涙目になっており、夕哉は夕花から目を離せなかった。
「お兄ちゃん、私は『お兄ちゃん』に幸せになって欲しい」
「分かってるよ、夕花は俺に幸せになって欲しいって。だからと言って…」
「だー!お前、今日打ち上げだって分かってんのか!?」
飛水が夕哉の肩を叩き、言葉をかける。その中にあったものは一切の嘘のない、本音と感謝の言葉だった。
「『お前だから』皆お前のために動いてんのを忘れんな。確かに須谷風音の境遇は同情に値するかもしれねぇ。だけど、あの手段を取ったのは須谷風音自身なんだ。夕哉、お前にも皆そいつの考えと行動に賛同して集まってる。ここにいる奴が自分に気遣って集まってくれてると思ってるのか!?」
「それは……」
「もっと自分を高く見積もれ。少なくとも俺はお前と会ったから少し人生が上向いたし、カクメイジンやDracheとも会えた。お前の幸せをお前自身が否定するなよ、もしそれでもするっていうなら、俺たちのことも否定することになるのを忘れんな」
そう言って飛水は「カレーの味忘れそうになっちまった」と悪態をつきながら家に戻って行った。後に残された夕哉は、先ほどの言葉を反芻する。
「俺が幸せになるから、皆が幸せになるの?」
「……お兄ちゃんさ、入院中の時もだけどさ、私のために昔っから頑張ってくれてたじゃん。昔からお兄ちゃんは責任感が強くてさ、私が困ってたらすぐに助けてくれるし、お父さんとお母さんが海外でいない分の親代わりまでしてくれたけど、それって私のためにしてくれてたんでしょ?」
「…そうだよ、夕花」
「確かに御白お姉さん達と私たちじゃ一緒にいる時間は違うかもしれないけど、私も御白さんも、お兄ちゃんが大事で、お兄ちゃんが大事にしてくれてる人には変わりないんだよ。だからさ…」
夕花が夕哉から離れ、ウィンクしてこう伝える。
「あなたの幸せは私の幸せ。私の幸せはあなたの幸せ。そう思えたら、きっと幸せって前よりもっと広がってくんだよ!それにきっと貰いすぎなんてことはないんだから!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夕哉が部屋に戻ってきてから、各自パーティーゲームや大人数でできるボードゲーム、勿論デュエマなども行い、濃い時間を過ごした。そしてそろそろ日が落ち始め、客人の帰宅の時間がやってきた。少しずつ祭りの終わりが雰囲気として輪郭を帯びてきた頃、夕哉は意を決した。
「夕哉くん、もう少しで時間なので、私そろそろ…」
「……御白。みんな。ちょっと、わがまま聞いてくれない?」
そう言って夕哉が倉庫の奥から引っ張り出したのは、昔から置いてあった線香花火だった。
「お兄ちゃん、これ…」
「線香花火?初めて見る!」
「もう夏も終わったけど、夕哉、やりたいの?」
「……うん。これ父さん達が海外に出る前に、家で1回だけやったんだ。家族の思い出だし、さっきからずっと考えてたんだけど、ちょっとやりたいなって」
照れくさい気持ちになった夕哉に、御白が告げる。
「それ、良いと思います!夕哉くんのご両親は中々帰ってこられませんし、少しでも私たちがその空白を埋められるなら…」
「埋めるんじゃなくて、御白達が良いんだ。お願いしてもいい?」
素直になった途端こういうことを言うのだからと飛水はため息混じりに苦笑いをしながら、恥ずかしがる夕哉に助け舟を出す。
「まぁ写真かなんかは撮っといた方がいいよな。緑、お前も欲しいだろ?」
「うん、僕も欲しいよ!」
「だってよ。夕哉、大丈夫か?」
「うん、お願い」
「Prayersの皆も良いか?朝陽達も!」
祈雨、颯星、千弥佳が笑顔で答える。
「断る理由がないよ」
「夕哉、初めて会った時から大分我が強くなったよな、いい意味で」
「飛水の頼みならしゃあないなぁ」
「別に誰の頼みでもだろ」と飛水が千弥佳に突っ込みを入れていると、夕哉自身が朝陽と柚子の元に向かって聞いていた。
「夕哉、本当に変わったと思う。いいよ、時間は空いてるし、空ける」
「文化祭の恩、これでも足りないと思ってたし!」
そして最後に御白達の元に顔を向ける。
「もう、わざわざ聞きます?大事な友達の頼みですから、喜んで!」
「俺も以下同文。そうやって少しずつ自分出してけ」
「ボクも。良い思い出はいくらあっても困らないから!」
「あたしも。この出会いは、夕哉がきっかけのものでしょ?」
「うん、じゃあ少しわがままだけど…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夕方の太陽が差し込む庭に、黒い天幕が降ろされる。ジャシンが作り出した弱めの闇が、線香花火の絶好の場所となっていた。
「成程、ジャシ…ゴホン!そう言うのが夕哉くんの家にありましたね!」
間違いなく取り繕えていない御白の言葉に、朝陽が呆れながらこう返す。
「まぁ、秘密だらけの友人だけど、今日はその秘密に乗せてもらうよ。どうせ青海たちもそう言う感じだろ?驚いてないし」
図星を突かれた他の4人は、観念したかのように自分の相棒たちを取り出した。
「まぁ見てたらしいもんな」
「ちょっと寂しいなと思ってたし、カイザーと一緒に遊んでいいなら」
「ありがとう朝陽、気を遣ってくれて」
「むしろ使ってくれる側だろ」
そう朝陽が言って花火大会が始まる。皆思い思いの花火を使って楽しみ、夕哉も笑顔でそれに応えていた。そんな夕哉に天幕の外からジャシンが声をかける。
「夕哉よ」
「ジャシン、君も花火に参加する?」
「要らん。だが、余の力で人を喜ばせるとはなと、少し感心しただけだ」
「アビスの皆は良い人ばっかりだし、ジャシンの力も何かに使えないかなぁなんて、文化祭の時から考えてたんだ」
「そんなに前からか…。相変わらず変わった人間だな」
「おーい!写真撮るよー!!」
そう緑が言ってゴルファンタジスタのカメラを彼らの正面中央に置く。他も各々スマホのカメラなどを用意して、写真の準備をしていた。
「夕哉よ、早く行かなくていいのか?」
「そうだね、皆揃わないと!」
(ずっと、こんな感じなら良いのにな。ジャシンとも、友達とも。楽しんでもらってこんな風に過ごせることが、俺の幸せになるのかな)
そう夕哉は思いながら、シャッターの音が切られるのを清々しい気分で聞いていたのだった。