ISS 聖空の固有結界   作:HYUGA

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 久しぶりのプロローグの更新です。
 時々、氷菓のネタを入れてるので暇だったら探してください。

 ちなみにタイトルの和訳は【あなたは罰されるでしょう】です。
 誰かは…本編を見て確かめてください。
 そしてもう1つだけ。実は書いてるうちに気づいたのですが、シャルの話なのにシャルがあまり出てないということに!?もちろんわざとじゃありません。断じて。まったく。

 ホントにごめんなさい<(_ _)>
 次回はちゃんと出します。

 ま、なにはともあれそれでは本編に、どうぞ!(^^)!




第二話『 You shall be punished 』

 □ You shall be punished

 

 暑い。暑い暑い熱い暑い暑い厚い暑い暑い暑い暑い暑い篤い暑い厚い…暑い…暑い…。

 

 以下、無限ループ。

 夏休みに入って10日目。

 まだ7月だというのに、夏は容赦なく俺を苦しめていた。

 さっきまではクーラーがガンガン効いたデパートにいたはずなのに、俺はなぜ今、ヒートアイランド現象で熱帯と化した街中を汗を垂れ流しながら歩かされているのだろうか。

 おかしい。何かおかしな陰謀が働いているとしか思えないこの状況。

 ザコか、と言われた戦闘力たったの5のあのオジサンもこんな気持ちだったのかもしれない。

 

 つまり、先に絶望しか見えないこの状況のことである。

 

 そもそも今日の目的は鈴の水着を買うことだったはずだった。

 半ば強制だったとはいえ、そのことに文句はない。

 寧ろ、楽しげに水着を物色する鈴の姿を思い浮かべてだけで、なぜだかこう一人娘を見ているような気持ちで何となく嬉しくなるような気がしたくらいだ。

 この場合、彼女ではなく娘という所が肝である。

 

 けど、流れは完全に悪い方にへと流れていった。

 その理由は言わずもがな。目の前でなぜか仲良さげに会話している女たちのせいだった。

 

 

 

 「くっ…。なんてこと。なんで同い年なのにここまでの戦力の差が…。おかしい。絶対におかしいに決まってる。こんな運命、あってなるものか…」

 「あ、あの…鈴さん?そ、そんなに見つめないでください…。そ、その…は、恥ずかしいです…」

 「あ~もう!それ!それよそれ!その淑女みたいな恥ずかしりかたがさらに男の目をくぎ付けにするのよ!いや、そんなことよりその胸!おっぱいよ!なんでそんなに大きいのよ!?あたしはぜんぜん育たないのに…理不尽じゃない!!」

 「い、いえ。私も育てたくて育ったわけじゃなくて…」

 「そんなわけないでしょ!!何もしてないでそんな戦力手に入るわけ…。吐け!吐きなさい!いったいどうしたらそんなおっぱいになるのよ!?」

 「ひゃっ!!ちょ、ちょっと鈴さん…ど、どこ触ってるんですか…!やっ…だ、だめですって…そんな所…やっ…だ、だめ…ら、らめぇ…」

 

 

 

 …訂正。仲良さげという所はなかったことにしていただきたい。

 大体の状況は、ご想像にお任せしよう。

 俺は口に出したくはないからな。

 俺は目の前の光景に思わず頭を抱えたくなった。

 

 ま。ともかくとして、俺達男子三人は女の子の可愛いお願いにまたしても負けたわけである。

 

 

 

 「…。どうしてこうなった」

 

 

 

 そして、俺の心の叫びは大都会の街中に消えて行った。

 

 

 

 「うひょーっ!?すっげー!!おい、おい見ろよ一夏!弾!鈴とシャルロットちゃんの百合展開キター!!すっっげーあんなとこも…女同士なら平気でやっちまうのかぁ…。あぁ、鈴。違う。違う、そこじゃない。もうちょっと上の方をだな…こうギュギュっと―――」

 

 

 

 そして、できれば俺の隣でそんなことを叫んでいる数馬を殴りたい。

 うっ…右手が…。右手がうずく。

 俺は必死に本能のままに動きそうな右手を左手で抑え込めた。厨二病?違う。これは制裁だ。もし、ここで弾を殴ってもきっと誰にも文句は言われまい。

 けど、俺はどうしてもそうしたくなかった。

 

 理由?そんなの、知り合いだと思われたくないからに決まってるだろ?

 

 俺と同じように、隣で右手を抑える弾が、苦虫を噛むように呟いた。

 

 

 

 「…なぁ、一夏。逃げよう。知り合いなんていないどこか辺境の地へ、二人っきりで。そこで、幸せに暮らそうぜ?」

 「…。すごく魅力的な提案だが俺は遠慮する。あと弾。キモい、死ね」

 「…。あいも変わらずお前の毒舌は心の底に突き刺さるぜ…」

 

 

 

 そして俺と弾は同時に大きなため息を吐きだすのだった。

 

 

 

 「あ~ぁ。違う!違うんだって鈴!そこじゃない!そこじゃない!相手はキャミソール着てるんだからそこはもっと谷間を強調して揉むべきだ!!そう…そんな感じ!やっふぅうううううい!!さすが鈴!そこまでやってくれると信じてたぜ!!そうだ!そして、そのままブラをずら―――」

 「…。さすがにアウトだ、変態。自重しろ!」

 「くぺっ…!?」

 

 

 

 あ、ヤバい。殴っちゃった。

 気づいたとき、俺の拳で吹っ飛ばされた数馬は某ファーストフードのマスコットであるアーネルおじさんにダイナミック接吻(キス)をしていた。地味に痛そうだ…。

 俺は少しだけ反省する。けど、すぐに思った。「ま、いっか。数馬だし」と。

 だって、その方が世界は平和なんだから。

 

 

 

 「…。それで?結局俺達は今、どこに向かってるんだ?」

 「何もなかったかのようにスルーするとか、さすが一夏だぜ」

 「そこに痺れる…あこが…れ…る…、……がくっ」

 

 

 

 ごめんなさい、アーネルおじさん。

 だから、阪神ジャガーズみたいに呪わないでね?そのゴミのことはどうでもいいから。

 そして俺の記憶から、ゴミもとい数馬は完全に消去されたのだった。

 

 

 

 

 

 

          *

 

 

 

 

 

 

 「…。それで?結局俺達は今、どこに向かってるんだ?」

 「何もなかったようにテイク2しないでください。マジでお願いします!」

 「…。もう一回逝っとく?」

 「字がマジだ!?やめて一夏くん!!俺のHPはもうゼロだよ!?」

 「…。そもそも、誰だ?お前?」

 「御手洗数馬で~す!!忘れないでね~!!」

 

 

 

 だいぶ反省したようだから、俺は「冗談だ…」と数馬に言った。

 それに数馬は「一夏くんの冗談は冗談に聞こえない…マジで」と口にする。それに同感とばかりに、弾も首を大きく縦に振っていた。

 俺、これでも身内にはそれなりに優しかったと思うんだけど…?

 ま、それはともかくとして、いい加減俺は話を進めるため、再度二人に問うた。

 

 

 

 「…。それで?結局俺達は今、どこに向かってるんだ?」

 「まさかのテイク3!?ていうか、その質問マジだったんだ!?それさっきシャルロットちゃんが二十分近くかけて説明してたよね!?」

 「…。知らん。聞いてない。ていうか興味ない」

 「確かあんたが聞いてないから何度も何度も繰り返し説明したはずなんだが…?」

 「…一夏、俺はときどきお前が本気で怖くなるよ…」

 

 

 

 そう言う弾の表情はどこか引きつっていた。

 

 

 

 「…。それで?結局俺達は今、どこに向かってるんだ?」

 「まさかのテイク4!?ってもういいよ!!いつまでこの件(くだり)やる気だよ!?」

 「…。お前らが俺の質問に応えないからだろ?」

 「え゛?もしかして俺達が悪いの?」

 「…。当たり前だろ?」

 『『はいはい。俺達がわるーございましたー!!』』

 

 

 

 そう言って、二人は同時に大きなため息をつくのだった。

 

 

 

 「…。それで?結局俺達は今、どこに向かってるんだ?」

 

 

 

 そして、俺はもう一度同じ質問を二人に問うた。こんな暑い街中を歩いている理由を俺はいい加減知りたくなったからだ。

 それに対し、二人は「もうツッコまないよ…」と口にし、次いで二人そろって大きくため息を吐き出す。その顔は、どこか残業疲れのサラリーマンのように擦れているような気がした。

 

 

 

 「そっか、そりゃ一夏だもんな…。身内以外の話を聞く訳ないか…」

 

 

 

 ため息交じりに弾が呟く。

 数馬の方も、もう慣れたという感じで首を大きく縦に振り同意の意を表していた。

 その仕草に、俺は少しだけムッとする。

 

 

 

 「…。で?なんで俺はこんなクソ暑いのに街中を歩いてるんだ?」

 

 

 

 俺はそんな二人の小言を無視するように、再度二人に問いかける。

 すると、俺の言葉に二人は呆れながらも、どこか優しい顔つきで慣れた調子で応えるのだった。

 

 

 

 「はぁ…いいか一夏君?まずシャルロットちゃんについての話は聞いてた?」

 「…。あぁ。そのあたりは耳に入って来たな。確か、フランスかどこかの企業の令嬢なんだろ?あれだけ箱入り娘してんだ。否が応でも気づくさ」

 

 

 

 数馬の言葉に、遠くで鈴と楽しそうに話す彼女の姿を見て、俺は正直な感想を言う。

 まるで子供みたいに顔全体で笑う鈴に対し、口元に手を当ていかにもお嬢様という感じで笑う彼女の姿は誰がどう見てもどこかのいい所の令嬢だ。

 世間の常識がない俺にも、それは分かる。

 俺の言葉に、数馬はさらに続けた。

 

 

 

 「ま、だよな。んで、今回シャルロットちゃんの会社が日本に進出するらしいんだ。なんでも、IS発祥の地であるここでISの研究がしたいんだそうだ」

 「…。ISの?でも、いくらIS発祥の地とは言え、それ以外はここは普通の日本の町だぞ?」

 「あぁ。うん。そうなんだけど…さ。シャルロットちゃん。どうやらIS適正がかなり高いみたいでな、日本に来た理由の一つには学校関係の事もあるみたいなんだ」

 「…。学校…【IS学園】か?」

 「ま、そういうことだな」

 

 

 

 なるほど、と俺は思った。

 確かに、ここからIS学園は近いともいえないが、そう遠いともいえない距離にある。

 地価もそう高くなかったと思うから、まさにうってつけの場所というわけだ。

 

 

 

 「…。あいつの会社はいったいどんな会社なんだ?」

 「ん。どうやらISのパーツなんかを発注する子会社らしいよ。なんでも、あのISシェア世界第三位のデュノア社みたいなところにも発注してる結構な大手みたいだ。で、そういう経緯で数年間だけだけど、彼女も日本に住むことになったみたいだな」

 「…。なるほど、だいたいの話は読めてきた」

 

 

 

 要はオルヴォワールに街中を案内しているわけか。

 だったら、今このクソ暑い中街を歩いていることにも納得がいく。だけど、それになぜ俺が付きわなければいけないのか、それには納得はできなかった。

 

 

 

 「…。結局、なぜ俺はお前たちに付き合ってるんだ?」

 「それは一夏君が鈴ちゃんの尻にひかれてるからでしょ?」

 

 

 

 …おい、それはどういう意味だ?

 それはそれで聞き捨てならない言葉だった。

 

 

 

 「…。ちょっと待て…。誰が、誰の尻にしかれてるって?」

 「うん、いいよ。今日は俺、機嫌好いからリア充の言葉だって喜んで応えてあげるよ!

  一夏くんが、鈴ちゃんの、尻に、しかれてるんでしょ?ね?」

 「…。っ!?」

 

 

 

 俺はまるで雷に打たれたような衝撃を受けた。

 そんなバカな。俺が…この俺が…鈴の尻にしかれているだと?な、ななななにを根拠にそんなことを言っているんだ!?

 そ、そそそんなこと、そんなことあっていいはずがないじゃないか!?

 

 

 

 「…。ば、バカな…そ、そんなこと…、……な、なぁ弾?俺は、俺は鈴の尻にしかれているのか?」

 

 

 

 俺は縋り付くように弾に問いかける。が―――。

 

 

 

 「?何言ってんだ、お前?今更そんな分かりきったことを…」

 「!?」

 

 

 

 俺は思わず後ずさってしまった。

 ま、まさか…俺は周りからそんな風に思われていたのか…。

 周りを気にしない性格が、まさかこんな所で悪循環として回ってくるとは…。

 俺は天を仰いだ。自分のイメージにはさほど興味はない。が、ここまでのことを周りに思われていると思うと…なんか、こう…胸がざわつく。

 

 あれ?この感情は一体なんだっけ?

 

 いや、そんなことは今はどうでもいい。

 問題なのは、周りにそんなことを思われているとなると、鈴のイメージが悪くなってしまうかもしれないということだ。これでも、鈴には感謝しているのだ。

 そんな俺達の様子に異変を感じたのか、鈴とオルヴォワールまでこっちにやって来た。

 

 

 

 「なに?あんた達何の話してんのよ?」

 「さっきから私たちを置いてけぼりにして、すごく楽しそうですね?」

 

 

 

 そう言う彼女達にはきっと悪気はないのだろう。

 だが、俺は声を大にして言いたい。俺達のこの雰囲気の、いったい、どこが、楽しそうなのだと?

 まさか、彼女達には俺とこいつらが仲のいい友達に見えるのだろうか?

 

 もし、そうならば―――。

 

 

 

 「…。鬱だ…死のう…」

 「?一夏?ホントにどうしたの?なんかいつも以上にネガティブじゃない?」

 「…。鈴、お前の俺に対する心象を一度じっくり聞こうじゃないか」

 「大丈夫よ。半日はしゃべってられる自信はあるから♪」

 「…。あぁ、ホント『哀』を感じるよ…鈴」

 「ありがと、一夏♡」

 

 

 

 いつも以上ってなんだ。俺はいつもネガティブなのか?

 いや、言わなくてもいい。自分でも分かってますから。

 俺の様子に疑問を感じたのか、鈴は弾と数馬を仰ぎ見る。二人は鈴の視線に肩をすぼめヤレヤレと首を振った。

 鈴はそれだけで何かを悟ったように「あぁ…なるほど…」と、いう感じの表情を浮かべるのだった。

 

 

 

 「あんた達…。一夏をからかうならあたしも混ぜなさいよ♪」

 『『これからは善処しま~す』』

 「…。絶望した。俺は今、この世界に絶望した…」

 

 

 

 叫びたいのに叫べない。

 俺はただ、ニヤニヤと俺を眺める三人を表情の変わらない瞳で見ることしかできなかった。

 俺の隣を仲のよさそうな母娘が横切る。彼女達の持つアイスクリームが、今はなぜかとても恋しく思えた。

 

 

 

 「あ~ぁ。ホント、一夏が羨ましいぜ…俺も誰かの尻にしかれたいよ…、……物理的に」

 『『自重しろ変態!!』』

 

 

 

 数馬は鈴と弾に殴られました。ザマ~見ろ。数馬。

 吹っ飛んだ先でまたアーネルおじさんにダイナミック接吻(キス)交わす数馬。二回目だけど、やはり地味に痛そうだ。

 ごめんなさいアーネルおじさん。呪うならそいつにしてください。

 俺は少しだけすっきりした。

 

 

 

 

 

 

          *

 

 

 

 

 

 

 

 「…やばっ」

 

 

 

 それは誰にも聞こえないほど小さな声だった。

 コントみないなノリでぶっ飛んだ数馬。その光景にただおどろくシャルロットに、一緒になって数馬をぶっ飛ばした弾にも、そしてもちろん隣で無表情にアーネルおじさんにダイナミック接吻(キス)した数馬を見る一夏にも―――。

 誰にも聞こえないほどの小声で、あたし。鳳鈴音はボソリと呟いた。

 

 その視線の先にはもちろん、アーネルおじさんに突っ込む数馬の姿があった。

 

 

 

 「…あ~ぁ。数馬の奴。まさか“あの”アーネルおじさんに突っ込むなんて…ついてないわね…」

 

 

 

 そしてあたしは「あちゃー」という感じで、額に手を当てるのだった。

 

 事は夏休みが始まる前。二週間前まで遡る。

 その日の昼、めずらしく誰とも予定がかち合わなかったあたしは、普段から仲の良い自分のクラスの友達と一緒に昼ごはんを食べていた。

 いつも一夏や弾。数馬などの男連中に囲まれたあたしだが、別に女子の友達がいないわけではない。

 今回のシャルロットの件もそうだがあたしは基本的に誰とでも仲良くなれる。

 

 弾と数馬に会うまでの一夏の唯一の友達だった、と言えば大方納得するはずだ。

 

 これは、そんなあたしがたまたま聞いた話だった。

 

 

 

 『あ、ねぇねぇそういえば知ってる?呪われたアーネル人形のう・わ・さ』

 『?呪われた…アーネル人形?』

 

 

 

 お弁当の卵焼きを口に運ぼうとしていたあたしはその話に思わず眉を潜めた。

 アーネル人形の呪い。それは日本では有名な話だ。関西人に圧倒的な人気を持つ球団、阪神ジャガーズ。その球団に訪れた不幸な話である。

 だが、それももう10年以上も昔の話。日本に来て3年弱の鈴が知るはずがなかった。

 

 しかし、あたしが言うアーネル人形の呪いはまったく別のことだった。

 

 

 

 『ほら鈴ちゃん、駅前のケンケンッキー知ってる?あそこのアーネルおじさん人形なんだけどさ。なんでも、実はあそこでね―――』

 

 

 

 それから聞いたあたしの話はにわかにも信じられない話だった。

 聞いているだけで思わず鼻で笑ってしまいそうになるを我慢しながら、頑張って聞いた。だがしかし、彼女の結論を聞き、鈴はもう我慢できずに思わずため息を吐いてしまった。

 結論を言わせてもらうと、それはあまりにもバカバカしい話だったからだ。

 

 

 

 『…この町って、暇人ばっかりね…』

 

 

 

 そしてあたしはそれ以降、その話を綺麗さっぱり忘れようと思った。

 こんなくだらない事、覚えているだけ損だと思ったからだ。だから、あたしの記憶から、その話に関することはきれいさっぱり消えたはず…。

 

 そのはずだった―――。

 

 

 

 「…けどまさか、あれを本当にやるやつがいるなんて思わなかったわ…」

 

 

 

 時は戻り、真夏の街中。あたしは目の前の光景に思わずそう呟いた。

 それは、有り得ないほど非日常の光景だった。まるでアーネルおじさんにひれ伏すように地面に頭を突っ込む数馬の姿。どうやら完全に伸びてるみたいだ。

 だが、その表情はどこか幸せそうにも見えた。

 

 

 

 「ぐへへへ…シャルロットちゃんのセクシーボディー…。シャルロットちゃんのセクシーボディー…あぁ…もうたまらん…ぐへへ~…」

 「…。キモ。なにこいつ。死ねばいいのに。死ねばいいのに」

 「あ~うん。大事なことだから2回言ったんだな、一夏?」

 「…。違う。弾の分も含めて2回言ったんだ」

 「あれ?俺なんで流れ弾食らってんの!?」

 「日頃の行いでしょ?」

 

 

 

 そう言って、あたしはシャルロットを数馬と弾から引き離す。

 その結構リアルな態度に、弾は少しショックを受けたようだった。さて、でもどうしたものか―――。

 あたしは伸びきった数馬を見て思案顔になる。

 このバカをどうやって連れ出そうか。それについて思考を巡らせるためだ。

 

 

 

 「う~ん…別にほうったままでもいいんかもしれないけどね…」

 「あははは…鈴さん。それはあんまりだと思いますよ?」

 

 

 

 一瞬グッドアイデアだと思ったんだけどな…シャルロットに感謝しなさいよ?数馬?

 

 

 

 「だったらどうしよう?こうなったら引きずって連れてく?」

 「おい鈴。それこそ誰がだよ?俺は嫌だぜ?」

 「…ねぇ、弾。あんたら一応幼馴染じゃなかった?別にいいじゃないの?」

 「断固拒否」

 「あっそ。薄情者。んじゃ、一夏は―――」

 「…。俺がやると思うか?」

 「安心しなさい。はじめっから当てになんかしてなかったから」

 

 

 

 お前らホントに友達か?と数馬の声が聞こえた気がした。

 ま、その辺りのことは気にしただけ無駄よ。あんたの日ごろの行いが悪いだけなんだから。

 

 それにこいつらだって、こんなこと言ってるけどあんたに対する好感度はかなり高めのはずよ? なんだかんだ言って、あんたを放ってどっかいったりはしないって。

 あたしはしょうがないなぁ…と、息を吐き再度、弾と一夏に視線を向けた。

 

 

 

 「はぁ…しょうがね~な…。一夏、手出せ。じゃんけんだ。一回きりの恨みっこなしでOKか?」

 「…。うん。問題ない」

 「よし、それじゃ行くぞ。じゃ~んけ~ん―――」

 

 

 

 二人とも、いつの間にかじゃんけんを始めていた。それでどっちが運ぶか決めてるみたい。

 あたしは安心した。ほらね数馬、言ったとおりでしょ?

 こいつらだって、そこまで薄情じゃないってね?

 

 あたしは幸せそうに眠る数馬の頬をギュムッと引っ張りながらそんなことを思った。

 

 

 

 「ぐへへへ~…おぉい鈴ちゃ~ん。今日も可愛いね~その…ひんぬー幼児たいけ~…」

 

 

 

 …。瞬間、空気が凍った。

 

 お互いにグーを出したまま固まる一夏と弾。今まで傍観を極めていたシャルロットも、なぜか苦笑いのまま表情を凍らせているし、どこか寒気もした。

 けど、そうなった原因は分かる。他ならぬ、あたし自身なのだから。

 

 

 

 「…一夏、弾。あたしの家の店に行くわよ。そこでお昼にしよっか?」

 

 

 

 それは、自分でも驚きなくらい冷たい声だった。

 

 

 

 「え゛…あ、あぁ~、そ、そうだな鈴!お、オルヴォワールさんもそれでいいかい?」

 「え…えぇ~と…ぼ、ボク、じゃなくて…わ、私はどこでも構いませんよ?鈴さんのお店の料理。すっごく楽しみです!」

 「き、きき期待していいぜ!オルヴォワールさん!なんて言っても鈴の家は地元でも有名な隠れた名店ってやつだからな!しょ、食堂の息子の俺が保証するんだ!ま、間違いないさ!」

 「そ、そうなんですか? ぼ…、じゃなくて、わ、私気になります!!さ、早く行きましょう?お昼の時間がもったいないですよ?」

 「そ、そうだな。さ~行こう!!こっちだ!オルヴォワールさん!!」

 「はい!!」

 「…。弾。そっちは反対方向だ…」

 「んぎゃわっ!?い、一夏!?わ、分かってるってもちろん!!わ、わじゃとだぜ!?」

 

 

 

 「あ~今日は何たのもっかな~」最後にそんな会話を交わしながら、二人はあからさまにあたしから遠ざかっていった。

 明らかにおかしい態度。けど、文句はない。むしろありがたい。

 だって、このほうが数馬を―――。

 

 

 

 「…。いいのか?」

 

 

 

 ふと隣に一夏が現れ、そんなことを耳打ちしてきた。

 その質問の意図は言わずとも分かる。でも、今のあたしはどうやら耳が悪かったみたいだ。

 

 

 

 「ん?な~に一夏?今の言葉、よく聞こえなかったの~?もう一度聞きたい?」

 「…。いや、俺の聞き間違いみたいだ」

 

 

 

 そうそう、それでいいのよ一夏。

 聞き分けいい男って、あたし好きよ?目の前のこいつと違って―――。

 

 最後に一夏が数馬に手を合わせ、何かを言う。

 いつもの無表情ではあったが、その雰囲気はどこか、戦場へ友を見送るような雰囲気だった。

 

 たった今、あたしは悟ったのだ。こいつは友達でも何でもない。あたしの敵なのだと。

 そしてあたしは、数馬の頭を力いっぱい踏みつけるのだった。

 

 

 

 

 

 

            *

 

 

 

 

 

 

 『あ、ねぇねぇそういえば知ってる?呪われたアーネル人形のう・わ・さ』

 『?呪われた…アーネル人形?』

 『あ、私知ってるよ』

 『有名な話だよね~』

 『あんたたちが何言ってるのか、あたしにはよく分からないんだけど…』

 『もう、鈴ちゃんたら世間の噂に疎いんだから』

 『でも仕方ないんじゃない?鈴ちゃん。いつも織斑君と一緒にいるんだから?』

 『あ~確かに、あの人そういうことには疎そうだもんね~』

 『でもさ、よく見たらカッコよくない?あの雰囲気もどこかクールっぽくてさ』

 『あ~それ私も思ってた!なんか他の男子と違うよね!どこか大人~って感じでさ!』

 『クラスの男子ってどこかガキって感じよね~』

 『そういえば知ってる?隣のクラスの今野さん。ラブレター書いて渡したんだってー』

 『え~!?それホント!?』

 『まじまじ』

 『今野さんって、あの学校五指の美少女って噂の?彼氏いないって噂だったけど、そうだったんだ~』

 『で?結果は?』

 『んふふ…それがね―――』

 

 『あ~もう!ちょ、ちょっと待ちなさいよ!い、今は一夏の話じゃなくて、呪われたアーネルおじさんの話じゃなかったの!?』

 

 『あらら?鈴ちゃんたらもしかして焼き餅?んも~可愛いんだから~』

 『幼馴染が取られそうで怖かったの?』

 『『あたしの一夏が~』ってこと?ホントに鈴ちゃん―――』

 『『か~わ~い~い~!!』』

 『あんた達…あたしをからかって遊んでたわね!?』

 『『バレタか』』

 『よし、表に出なさいあんた達!リアル【逃亡中アルティメット】やるわよ!!』

 

 

 しばらく聞くに堪えないやり取りが続くため、早送りをする。

 

 

 『あはは。もう鈴ちゃんたらムキになっちゃって。大丈夫。そんなに心配しなくても織斑君は彼女の気持ちに応えなかったよ?』

 『え?』

 『そもそも手紙すら受け取ってもらえなかったみたい。彼女泣きながらゴミ箱に手紙を捨てるのを複数の生徒が目撃してるしね』

 『ていうか織斑君。鈴ちゃん以外にまともにしゃべろうともしないじゃん。この場合、織斑君と普通にしゃべれる鈴ちゃんを尊敬すべきか…』

 『玉砕覚悟でアタックした今野さんを尊敬すべきかは難しい所よね…』

 『ま、結論を言うとそういうことよ。だから気にしないの鈴ちゃん』

 『あ…うん。わかった。ありがとう…』

 『そうそう。それじゃ、話を戻すね鈴ちゃん』

 『話って?』

 『もう忘れたの?アーネルおじさんの話だよ!』

 『あぁ…すっかり忘れてた』

 『あははは。そうだと思った』

 『ほら鈴ちゃん、駅前のケンケンッキー知ってる?あそこのアーネルおじさん人形なんだけどさ。なんでも、実はあそこでね―――』

 

 『とあるカップルがプロポーズしたみたいなんだ』

 

 『いやいやいや、なんでそんなムードもへったくれもない場所でプロポーズなんてしてんのよ!?そのカップルなにやってんの!?』

 『うん。なんでも彼氏がすっごいケンケンッキ―フライドチキン好きみたい。それでね、そのフライドチキンを50本食べたらプロポーズするって決めてたみたいなの…』

 『うん。そいつがすっごいバカなのはよく分かったわ』

 『で、プロポーズしたからもちろん食べたのよ、その人。30分で』

 『すごっ!?一本一分のペースを超えてる!?その人絶対フードファイターになった方が儲かるって!』

 『そのときのプロポーズの言葉がこれなんだけどね『ボクは今日、フライドチキン50本を食べた。来る日も来る日も、君に逢うのを我慢し、お金を食べ、給料三か月分を使って…ね。だから指輪は買えなかったんだ。こんな俺でも…結婚してくれるかい?』』

 『本格的に何がやりたいのそいつ!?』

 『それに対して彼女はこういったらしわ『はい。もちろん。これからも店の売り上げに貢献してくれるなら♡』』

 『それ絶対お店の回し者でしょ!?明らかにお金貰ってるよね!?』

 『こうして二人は結ばれ、アーネルおじさんの前でキスしたらしいわ…。どう?なかなかにいい話だと思わない?』

 『どこが!?』

 『ちなみにこの話、あと三時間は続くんだけど…聞く?』

 『長い!どう続くのそこからっ!?』

 『うん。実はこれからマッスルバーガー。通称マッス好きの元彼が出てきて修羅場になったり、彼女のお母さんが実はポッテリアの半熟テリタマバーガー派だったりして、いろいろどろぬまな展開になっていくんだよ』

 『そんなラブコメなんか嫌…』

 『そして異世界を旅するの!』

 『なんで!?話が飛びすぎじゃない!?なんでいきなり異世界に行くわけ!?ていうかこれ絶対現実の話じゃないよね!?明らかにフィクションだよね!?』

 『細かいことはきにしな~い気にしない』

 『もう…それでいいです』

 『で、ここからが本番なんだけどね…』

 『今までの話はいったいなんだったの!?』

 

 『そのケンケンッキ―のアーネルおじさんがね。目の前でプロポーズしてキスしたカップルを妬んで自分も彼女が欲しくなったんだって。それで、彼女を求めいつも目の前を歩く女の人に声をかけたいんだけど、おじさんは人形だから声を出せない。いつしか、おじさんは男でもいいからキスしたいって思うようになったみたいなの。一度だけならいいみたい。けど、そのおじさんに二回キスしたらアウト。その人のことが欲しくて欲しくて―――』

 

 『彼の一番近くにいる人を呪うんだって』

 

 『導入部分に比べて本文は一気にやっちゃった!?どうせ大人の事情でしょ!そうなんでしょ!?』

 『これがこの町の名物。アーネルおじさん呪いらしいわ。ちなみにこの呪いにかかった人によると、これだけで一本ホラー映画が作れるほどに強烈な呪いらしいわ…』

 『なにそれ怖い』

 『と、いう話よ。どう鈴ちゃん?おもしろかった?』

 『はぁ…話は終わった?』

 『ま、概ねね。で?で?どうだった?鈴ちゃん?』

 『あ~…うん。まぁ、とりあえず、一言だけ言いたいわ』

 

 

 

 

 

 『…この町って、暇人ばっかりね…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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