ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise 作:Haturu
ジェド兄さん。僕は間違っていたんでしょうか。
此処は3年前、多くの命が失われた場所。
ジェド兄さんが、月の雷に飲まれた場所。
悲しみを乗り越えた人々が作り直した場所。
地平線の向こうには、夕陽に照らされた湖が淡く輝いていた。これが最後になると思うと、何気なく見ていた景色も不思議と儚く見える。
「ぼさっとするな」
背後から武装した兵士が僕の背中を槍の柄で叩き、僕の前進を急かす。目の前にある木で作られた階段は急いで作られたせいか、不安定で一歩進むごとにギシギシと踏むのが不安になるような軋む音がした。
階段を登り終えると背後の兵士は僕の首を強引に掴み、大衆に見せつけるように僕を晒した。
その瞬間、僕を見上げる人々が眼前に広がった。人々は頭をそろえてこちらを凝視している。兵士は僕の隣に立ち、声を張り上げた。
「セグリ破壊計画、それに伴うヒトツメの誘致!!かつての動乱を終わらせた英雄といえども、これらの罪はあまりにも大きい!!」
兵士は人呼吸置いた後、さらに喉から声を絞り上げた。
──よって我らレジスタンスの名の下に……大罪人"フレディ"の死刑を執行する!!
* * *
第一話
エルドラへ征く
コックピットの外でアラートがけたたましく鳴り響く。無機質な灰色の通路は警報器によって赤色に染められていた。
「そこを右だ」
「了解!」
言われた通りに操縦桿を右へ傾けると、モニターに映る画面が霞み、グンッと加速した。
視界の隅で隔壁が下ろされているのを確認。運営がこちらを捕捉している何よりの証拠だ。
「ようやく着いた……さぁ、それを壊して」
私は操縦桿を傾けることで命令に応えた。繰り出された正拳突きは目の前の扉を容易に破壊した。
扉の先に佇むカタパルトに機体を乗せ、強制起動のコマンドを入力。
こちらを貫かんとする機銃の嵐を潜り抜け、私とその機体は青い空に打ち出される。
* * *
──クソッ!やられた!!
──カツラギさんへの連絡はまだか!?
──こちらコントロールルーム!!拘束対象が脱走!!繰り返す、拘束対象"シンラ"が脱走ーー!!
数分前。
「起きろ」
「うーん……うん?」
目を開き、瞼を擦る。しかし、視界は真っ暗のまま。瞳をぱちぱちと開けたり閉じたりしても、何も変わらない。
そうやって目をぱちくりさせていると、またどこかで聞いたことのある声が部屋に響く。
「待っていろ。今明るくする」
言葉と共に、部屋に光が灯った。真っ暗な部屋が隅々まで照らされる。
ボロボロの布切れを纏った私は眩しそうに一瞬目を細めた後、ゆっくりとまわりを見渡した。
そこは異様に天井の高い部屋だった。
視界に映るのは灰色の壁と床。
目と鼻の先には、背丈ほどの大きさの輪っかで構成された鎖。
そして私の髪色と同じ色をした黒い巨人。
──巨人?
「ひ……」
あまりの迫力に口が上手く開かず、叫びにならない叫びが口から漏れ出る。よく見ると巨人はボロボロで今にも壊れてしまいそうだ。
「なんだ、その反応は」
また先ほどの声。しかし辺りを見渡しても、この部屋には誰もいない。何もない。
あるのは……
「ま、まさか」
ワナワナと震えながら巨人を指差す。
巨人はギチギチと駆動音を鳴らしながらゆっくりと首を傾げた。
「おかしいな……記憶は全て転送したはず……それに……女……?」
チカチカと巨人の眼が言葉と共に点滅した。
「あー……君、名前は?此処がどこか分かる?」
迷子の子供に聞くような優しい口調で、巨人は私に質問してきた。
「え、えっと、私はタツカ。此処は……何処ですか?」
「……どうやら手違いがあったみたいだ」
私の様子を見て、ため息をついた巨人。(と言っても、ため息を吐くための口は見つからない。それらしい音が聞こえただけだ。)
巨人はシンラと名乗り、懇切丁寧に今の状況を教えてくれた。
此処はGBNというゲームの世界であること。
私はそこで生まれたELダイバーという電子生命体であること。
それと……
「つまり……その、シンラさんは実験体として捕まっちゃったってことですか?!」
「そうなんだよ。丸一年間ずっとこんな状態でさ……」
「そ、そんな……」
なんて可哀想なんだろう。
その思いを感じ取ったのか彼はとびっきり悲しそうな声で言葉を続けた。
「僕もかつては……君のように普通の人間だった……なのにこんな体にされてしまって……」
彼は自身の体へと視線を動かした。私も、その鋼鉄の体に目を向ける。
鈍く光るその体はとても頑丈そうではあるものの、人間の肉体としてはあまりにも無機質で冷たい。
「な、なんとかならないんですか?!」
彼は、唯一鎖に繋がれていない首を横に振った。
「無理だろうね……もう、普通の人生は諦めている」
私が口を開こうとした瞬間、シンラは「でも」と言葉を続けた。
「君が来てくれたことで……少しはマシになるかもしれない……こうして、話相手が出来ただけでも……僕は満足だよ」
「そ、そんなことって……」
「それよりも心配なのは君の方だ……こんなとこにいたら君も運営に捕まって私のように……」
「い、嫌です!そんなの!」
──それを聞いたシンラは心の中でほくそ笑んだ。
コイツを使って、此処から脱走してやろうと。
そんな思惑を隠しながら、シンラはタツカに言った。
「……二人で力を合わせよう。そうすればここから出られるかもしれない」
* * *
GBNには大小様々な市街地が多く実装されている。その中の一つ、『カテーラ』に私たちは訪れていた。
『カテーラ』は切り開かれた山の中腹に居を置いたいわゆる山岳都市である。溢れ出る秘境感と独特のセンスを持ったプレイヤーショップが多く、知る人ぞ知る街として多くのダイバーに愛されていた。
「うまくいきましたね!」
「あぁ、念願の外だ」
木を隠すなら森、という言葉があるようにダイバーの中に紛れようというシンラの考えである。私も格好も整えておきたい。いくらゲームの世界とはいえど、女の子の服装がボロい布切れ一枚では色々と問題があるし、無駄に目立ってしまう。
ボサボサだった髪型を切り揃え、ショートボブに変更した。次は装備屋だ。
「お買い上げありがとうございましたー」
NPDの設定に沿った腑抜けた声を聞き流し、私は店の扉を潜った。
「うぅ……」
私は自身の服装を確認して、肩を落とした。薄いシャツの上から装備した革と少しの鉄を使った素朴なアーマー。下は洒落っ気のない簡素なスカート及び靴。
装備というにはあまりにも心許無く、服装というには少し角張りすぎている。
「なんでこんな格好……もっとおしゃれしたいよ……」
「気持ちはわかるが、堪えてくれ、タツカ」
頭の上から聞こえてきた声。シンラである。つい先程まで人の乗れるMSとして、20メートルほどあった彼の身長は、単位の先にセンチが付き、ぬいぐるみのような姿となっていた。
システムの扱いでは『ペット』というらしい。
「カテーラは初心者が多くいる。それが一番目立たない格好なんだ」
確かに、通りを横切るダイバーの多くが、私と似たような簡素な装備をしていた。
「でも、視線を感じます……」
しかし、周りの装備を確認しようとしたの過程で少なくとも街ゆく人々の5、6人と目が合っていた。
「……ペットは珍しいみたいだね」
不服そうに彼が口を開いた。
よく見れば、周囲の視線は私ではなく、頭上のシンラに向けられている。
追い討ちをかけるようにすれ違った女性ダイバーの二人組の「可愛い!!」という声も耳に入ってきた。
「……じゃあこんな格好した意味がないじゃないですか!」
「しょうがないだろ……僕だって好きでこんな姿になってるわけじゃないんだから……」
「あっ、す、すいません……」
失礼なことを言ってしまったと、焦ったものの、彼は気にすることもなく、背中に生えた天使のような羽をパタパタと震わせながら私ににマップを開かせた。
「なんです?」
「言い忘れてたけど、僕には仲間がいるんだ。その仲間が近くにいるらしい。」
そう言いながらマップのある地点にマーカーをつけ、SD化した可愛らしい指でそこをコツコツと叩く。
「じゃあそこに行きましょうか」
「ありがとう。タツカ」
その様子を見ていた女性ダイバー達はやはり反応を見せた。
──喋った!今喋ったよね!!可愛いすぎるんですけど!!
「………なるべく急いでここを出よう」
「………はい」
私達はざわついた人混みから、ばつの悪そうな顔をして離れた。
* * *
「ここ……ですよね」
「あぁ」
見渡す限りの木、木、木。彼の示したマーカーの先はなんの変哲もない森の中だった。すでに日は沈み、頼りない星の光だけが二人の視界を照らしている。
生い茂る茂みの一つに身を隠しながら、私達はその仲間を待った。
「……シンラさんの仲間ってどんな人ですか?」
私がボソボソとシンラの耳元で囁く。
「……どんな……か、形容し難いな」
「……仲間と合流した後はどうするんですか?」
「そうだね……とりあえず現状把握かな。そして……合流ができたら君ともお別れだ。タツカ」
「え、どうしてーーー」
その囁き声は森の奥からの銃声でかき消された。
私が口を開こうとした瞬間、脇からシンラが口を塞ぐ。黙っていろ、ということだろう。森の奥から聞こえた銃声はピッタリ5秒の感覚で放たれ、段々と近づいてくる。
「よし、スルトだな」
彼はそう言い、私の手を取って茂みから抜け出した。さらにもう一発、銃声が聞こえた後、木々の影から一人の獣人が姿を現す。
銃声さえなければ御伽話みたいだったのに──。
私は彼に手を引かれながら、そんなことを考えていた
「シンラ……さ、ま?」
幻でも見ているかのように、その獣人の瞳が揺れた。
「久しぶりだな、スルト。」
「まさか……いや、そんな……」
「驚くのも無理はない……が、そんなに疑われるのも腹立たしいな」
スルトの瞳孔がほんの一瞬大きく開いた。
「……本当にシンラ様なんですね……そちらは?」
「タツカと言う。僕が作ったELダイバーだよ。」
私は少しシンラの言葉に違和感を覚えつつ、会釈程度に頭を下げた。スルトとよばれた獣人はそんな私をまじまじと見つめ、
「そうか。」と、ただ一言呟いた。
「そうか。また繰り返したのか」
その後、仲間というには少し仰々しい会話が続いた。
勝手に感動の再会というものを想像していたが、彼らの関係はそうではないらしい。
「本当に久しぶりだ……貴方をこの目で再び見ることになるなんて……」
相槌をうち、シンラが指で数えるふりをしながら言った。
「そうだな……一年ぶりか?」
「違う」
食い気味でスルトが否定した。
「……スルト?」
「違う 違う 違う 違う 違う 違う 違う 違う 違う
一年じゃない "あの時"から457日。正確に言えば10968時間。正確に言えば658080分。正確に言えば39484800秒」
突然のスルトの大声にシンラは顔をひきつらせた。
「ど、どうしたんだ、スルト……」
「私があなたを待った時間だ。あなたが私を裏切った時間でもある。」
「いまさら何を……」
おもむろにスルトはコンソールを開き、自身のガンプラ、黒いνガンダムを呼び出し、それに搭乗した。そのまま何の躊躇いも無く、当然であるかのように脚部を動かす。
私達は巨大な影に包まれた。
「……?!」
「……っ!走れ!タツカ!!」
突然向けられた殺意に困惑してしまい、数秒思考が停止した。見かねたシンラが服を無理矢理掴み、叫びと共に羽を震わせ、迫り来るνから逃走する。
私が走り出したコンマ数秒後、二人が立っていた場所をνが踏み潰した。
地震に近い巨大な揺れが森の木々を揺らしたことで、小鳥たちが驚き、羽ばたく。プレイヤーキルの通知が出ないことにスルトはコックピット内で舌打ちをした。
「仕留め損ねたか……」
スルトがウェポンスロットをカチカチと順繰りに動かした。
無造作に生えている木々が邪魔でライフルやファンネルは使い物にならないと判断すると、ビームサーベルを背部から抜き放ち、頭部バルカンを斉射しながら、彼らの息の根を止めるための追撃を開始する。
木々を薙ぎ倒しながら、ひとしきり破壊活動に勤しんだ後、先ほどと似たような揺れが森を襲った。
「……やる気か」
スルトはターゲットカメラを操作して森に出現した黒い巨人シンラのMS形態"Gラグナ"へと向けた。
* * *
「仲間じゃなかったんですか!?」
私のその叫びはシンラとスルト、両方ともに向けられていた。
最初に回答したのは私を乗せ、MS状態となったシンラ。
「数秒前まではそのつもりだったが……どうなんだ?スルト。」
スルトは意外にも彼の問いかけに反応した。わざわざオープン回線を開き、コックピットに語りかけてくる。
「私は目が覚めたんです。それに新しい居場所も見つけた。もう貴方は……」
νガンダムがファンネルを一斉に展開し、両手にビームサーベルを握った。
「……必要ないんだよっ!!」
雄叫びと共に加速したνガンダムがラグナに切りかかった。一息で距離を詰め、ビームサーベルを上段切りの形で振り下ろす。
「タツカ!!」
「はい!」
私は掛け声と同時に素早く操縦桿を手繰り寄せ、ラグナがそれに呼応した。前のめりになり、νの斬撃をギリギリの間合いで回避。
だが、脱走直後のラグナの耐久値は既に7割を切っていた。それは戦闘をするには充分な値とは言えない。
それを理解したのだろう。ニューガンダムはバックステップで距離を取り、ファンネルを展開。ラグナは四方から迫るファンネルの対応を余儀なくされた。
「右……近いっ!」
GBNのシステム上、ファンネルは自動操作であることが多い。操作を割かずに攻撃の手数を増やせると言う利点はあるが、最適な軌道を描かないという弱点がある。
今回の場合では、ラグナを右側から攻めてきた一つのファンネルが、適切な距離感を保たずに攻撃を仕掛けようとしていた。
私はそれに気付いていた。ラグナをファンネルの元へと走らせ、帯電状態のファンネルを捕縛した後、ジョイント部を無理矢理稼働させ、棒状にする。
「……な?!」
「くらえぇっっ !!」
フィンファンネルを棍棒のように扱った攻撃はめいいっぱいの掛け声と同時に振り下ろされた。フィンファンネルは重さと慣性が乗った結果、νガンダムの頭部に見事衝突し、金属同士のぶつかり合う音が周囲に響く。
νの足下に砕けたアンテナとツインアイの破片がパラパラと散らばった。
「くっ……」
「今だ!タツカ!SPスロットを!!」
「はいっ!!」
トリガーを引き、コマンドが入力された。それはGラグナの唯一の武装にして、最強の必殺技。
"パルマフィオバーナー"
掌に熱が収束し、ほんの一瞬の静寂の後、莫大な熱量を持った光が解き放たれた。
灼熱が夜空を白昼のように染め上げ、大地を抉り周囲の木々や草花を飲み込みながら森を突き抜けていった。
νは回避を試みたものの、体勢を崩したことが災いした。
苦し紛れにフィンファンネルバリアを展開したが、何の意味もなさず、熱線に照らされた左半身が融解し、ニューガンダムは片膝をつくように倒れ込んだ。
ツインアイの光は完全に消灯し、スルトは悔しさで唇を噛み締めながら、爆発寸前のνから這い出るように離脱した。
「う……あ……」
「逃さんぞ、裏切り者め」
ふらふらと立ち上がり、森の中へ消えようとするスルトをGラグナの右腕が掴んだ。
「あ"……あ"あ"!!」
金切り音のような悲痛な叫びをスルトがあげた。
「これで……いいんですか?」
「あぁ……」
コックピットの中では、シンラの顔は見れない。それでも私は彼の声に一抹の悲哀が込められているように感じた。
「ふざけるな……ふざけるなよ……!」
落ち着きを少しだけ取り戻したスルトがようやく意味のある言葉を呟く。
「それはこちらの台詞だ。スルト、僕が与えた使命を忘れたか?」
「黙れっ!今の私の使命は貴様に尽くすことではない……!!
"私の使命はあの星を守ること"…!!貴様に邪魔はさせない!!」
そう言ったスルトは右腕を天に掲げた。紫の禍々しいウィンドウが彼の掌の上に現れる。
「……!?一体何を……」
「しまっ……!!タツカ!!奴を放り投げろ!!」
スルトがウィンドウを操作すると、そこに強烈な磁場が発生し、閃光が走った。
「うわっ!」
突如白色に染まった視界。スルトはラグナの右手から滑り落ち、10メートルを優に超える高さから落下する。
しまった、と心の中で叫んだ。
だが、スルトは地面に衝突するかと思ったその瞬間、暗がりの中に忽然と消えた。
「え?どこに……」
ガクンっ。
モニターで周囲を見渡していた私の体が沈んだ。
「遅かったか……」
足元を確認するとそこに地面はなかった。
いや、先程まで地面があった場所が黒く塗りつぶされたかのようになっていたのだ。そこにGラグナが飲み込まれていく。
「う」
──炎で照らされた夜の森。
3人のELダイバーの痕跡は、それを最後にパタリと消えた。
こんにちはハツルです。
第一話閲覧ありがとうございます。
出だしからアレな展開ですが、原作の終わり方を愚弄するような作品にはしないことをここに誓います。
絶対に後悔させないので、是非最後までお付き合いください。