ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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模造品たちの戦い②

空が光ったあの瞬間を言葉で表そうにも、どうにも上手い言葉が見当たらない。

俗っぽい言い方をすれば、絶望に満ちた……いや、この表現ですらいささか生ぬるく感じる。

 

フレディを救出し、いざ脱出しようとした私の前に現れた灰色のガンプラ、エルドラGMだった。

 

私をセグリに連行してきた隊長の乗るその機体は、私の乗る物と同じ性能だというのに、その圧倒的な操縦精度で私を窮地に追い込んだ。

 

そんな技術を持った人がよりにもよって、その力を使って子供の処刑をしようとしている。

 

何故こんなことをするのかと問うた私に返ってきた答えは、激しい憎悪と哀しき怨嗟だった。

 

「あぁ、そうさ、子供を処刑だなんて間違ってるさ……だが、だがな……正気で戦争ができるかよ……」

 

モータの駆動音を撒き散らしながら前方から迫る敵機。後ろにはレジスタンスの本拠地。

横に逃げようにも、そこは市街地だ。

 

もうダメか。そう思った瞬間だった。

空から、紫がかった色のビームが落ちてきたのは。

 

ビームはセグリ上空、レジスタンスの本拠地である古城のてっぺんよりほんの少し上で、薄い膜のような何かに阻まれ静止した。

 

枝分かれしたビームの流星が、セグリ都市部を避けるようにして周辺に落下する。

 

体感にして10秒ほどでビームはその原動力を失ったのか、パシッと乾いた音を出して消滅した。

 

それだけだ。街には何の被害もない。

 

ーーにも関わらずだ。

 

「「うわああああっ!!!」」

 

人の喉から出たとは思えない、歪で大きな悲鳴が、コックピットの外から聞こえてきた。

 

路地裏に目を凝らすと、今まで物陰に隠れて私達の戦闘を見守っていたエルドラ人達が、一斉に一つの方向へ走り出している。

 

人の波は路地裏をはみ出し、私たちが戦っている大通りにまで溢れ出してきた。

 

「あ、危ない!」

 

エルドラ人達は隊長の乗るエルドラGMの足元にまで到達し、機体の股下や、ほんの僅かしかない脚部と建物の間を必死に通ろうとしていた。

 

いくらレジスタンスが民衆の味方の立場をとっているとしても、MSの足元なんて恐ろしくて近寄りがたいはずだ。

 

だが民衆は巨人に目もくれず、一歩でも早く、外へ、外へと必死の形相で足を動かしている。

 

ーーチャンスか!?

 

私は横たわったフレディから、フード付きの外套を外し、彼を抱き抱えながらウィンドウを操作。

浮かび上がるパネルから「ガンプラから降りる」のコマンドを選択してタッチ。

 

一瞬、視界がふっと暗くなり、体が光となって外へ再構築される。

 

隊長の乗ったエルドラGMは、足元の人々のお陰かこちらへ来ようとする気配はない。

 

「う……」

 

(ごめんなさい……フレディさん、あと少しだけ我慢して下さい)

 

うめき声をあげるフレディに心の中で謝罪を済ませ、外套を羽織り、彼をおんぶする形で背負う。

 

フレディは想像以上に痩せこけていたのか、背負う時に重量感をほとんど感じられなかった。

私は痛々しいその重みを噛み締めながら、正面に広がるいまだ収まりそうのない人の波に体を押し込む。

 

少しばかりの懸念として、私の顔はエルドラ人特有の獣のような外観ではない。

そのことが新たな混乱を呼ぶかもしれないと、わざわざ外套を羽織り直してフードまで被ったのだが、そのことに気づくものは誰一人としていなかった。

 

余裕がなかったのだ。

その証拠ではないが、皆同じような感情をその顔に滲ませていた。

 

ーー恐怖だ。

 

血相を変えて喚く者。

息も絶え絶えに懸命に足を動かす者。

赤子を抱き抱えながら涙を流して走る者。

 

一体何が彼らをそこまで掻き立てるのだろうか。

 

数分前まで戦闘をしていた私が言うことではないかもしれないが、ここは戦場ではない。

家があり、人があり、生活がある。それが数時間前までのセグリだったはずだ。

 

にも関わらず、今の大通りにはまるで戦場のど真ん中にいるのかと錯覚するほどの、阿鼻叫喚の様相が蔓延している。

 

セグリをここまでの混沌に陥れたのは、間違いなくあのビーム兵器だ。

だが、ここまで恐れられる理由がわからない。

 

と、ここまで考えたところで、私の目の前に静止したエルドラGMが現れた。

無意識のうちに、唾をごくりと飲み込んでしまう。

 

ビームの正体がわからない私にとっては、このガンプラの方がその何倍も恐ろしい。

 

数分前まで争いあっていた敵機の足元を潜り抜ける間は生きた心地がしなかったが、通り抜けてみると、案外呆気のないものだった。

 

エルドラGMはピクリとも動かず、ただ空の一点を見つめている。

 

「おい、タツカ!こっちだ!」

 

通り過ぎたエルドラGMを横目で見ていた私は、突然の呼び声と共に伸びてきた腕によって、建物のなかへと引きずりこまれた。

 

「うわっ」

 

情け無い悲鳴をあげながら、私は建物の玄関に滑り込んだ。

一般住宅であろうこの建物の中に本来の住人は居なかった。あるのは散乱した家具と、開きっぱなしの裏口。

 

部屋を見渡すと、日の光で充分に照らされているにも関わらず、廃屋と見間違うほどに荒れているのが分かる。

 

「わりぃ……こうでもしないと、アンタ先にいっちまいそうだったから」

 

「大丈夫です……わかってますよ、カリコさん」

 

尻餅をついた私に手を差し出してくれたのは、牢屋で出会ったレジスタンス、カリコだった。

彼は私が背負っているフレディの存在に気づき、私に容体を尋ねた。

 

脈もあり、生きてはいるが、早く安静にした方が良いと言うと、彼は一瞬安堵の表情を浮かべつつ、緊張の糸を切らさないよう、自ら顔を叩き気持ちを切り替えた。

 

「今、ザブンが車を取りに行ってる。レジスタンス専用の道路があるんだ。避難民で溢れてるけど……かえって紛れ込みやすいはずだ」

 

カリコが脱出のプランを伝えると、丁度良くザブンが裏口から顔を出してきた。

彼の用意した車に乗り込み、レジスタンス専用だというセグリの出口へと向かう。

 

出口には、長蛇の列が出来ていた。頭の回る避難民が緊急事態であるのを良いことに、レジスタンスに通行許可を求めていたからだ。

 

混乱の中、対応を迫られたレジスタンスは、見せかけだけの検問所を作りはしたが、避難民があまりにも多かった為に、少しの変装をしたカリコ達を正しく認識せず、また、荷物のフリをしていた私達にも気づかずに、すんなりと通行を許可した。

 

私達は、セグリから脱出することができた。

 

フレディ奪還作戦は、ほぼ成功したといって良いだろう。

 

そして、ザブンが医薬品や食料をレジスタンスの倉庫から拝借し車に詰め込んでくれていたおかげでフレディへ応急処置を済ますことができた。

 

呼吸が安定し、脈も正常。顔色も随分マシになった。

危険な状態は完全に脱したと見て良いだろう。

 

しかし、しっかりとした休息を取らなくてはならないことに変わりはない。

カリコやザブンも、拘束されていて、体力はもう擦り切れる寸前のはずだ。

 

私達は話し合い、フレディの村へ避難することした。

 

近くには他の村が何個か存在するらしいが、スルトの部下、過激派がいるリスクが高く、潜伏先には適していないとのこと。

 

どちらにせよ、スルトにフレディの村の所在はバレてはいるのだが、他に選択肢はなかった。

 

最短のルートを目指そうと、ハンドルを握りなおしたカリコに頼んで、シンラをピックアップする為、少しだけ寄り道をさせてもらった。

 

「すげぇな……こりゃあ……」

 

そう呟いたのはカリコだった。

 

煙を空に上げている無数のエルドラGMの残骸たちは、いかにその戦いが激しかったのかを表していた。

グロテスクに破壊された機体たちの横を通り過ぎる度に、私はコックピットが残っているかを確認した。

 

幸いなことに、確認した全ての機体のコックピットが残っており、搭乗者が脱出した跡も何個か見つかった。

 

シンラは殺人をしていない。戦いなのだから仮にしていたとしても、責める謂れはないのだが。

気がかりだったことが片づき、ほんの少し心が軽くなった気がした。

 

だが、その当のシンラ本人が見当たらない。周辺を見渡すと、沈みかけの夕日が、残骸達を弔うかのように明るく照らしていた。

 

「あっ……」

 

残骸が密集している所から少し離れた場所にその機体はひざまづいていた。

 

左腕を失くし、骨格に切り貼りされた装甲は、半分以上が元の形を保っていない。比較的ダメージの少ない頭部ですら、アンテナが焼け爛れ、本来の紅いメタリックな輝きを失っている。

 

「カリコさんっ!止めて!」

 

「お、おう……って、あぶねぇぞ!」

 

カリコが踏んだブレーキが役割を果たすよりも前に、私はドアを開けて後部座席から飛び出した。

 

つんのめって前のめりになり、転びそうになるのを堪えながら、地面を蹴りボロボロになったシンラの元へと向かう。

近寄れば近寄るほど、機体へのダメージは深刻に見えた。

 

「……タツカ?」

 

「無事、なんですか!?」

 

「あぁ……問題ない」

 

言葉とは裏腹に、彼の声はひどく衰弱しているように聞こえる。

 

「本当に……大丈夫なんですか」

 

「あぁ、けど、少し……手伝って欲しい」

 

普段よりも素直な彼からの助け船。私は喜んで返答した。

 

「もちろん!でも何をすれば……」

 

「……おろしてくれ」

 

またも、弱々しく彼が呟く。

私と彼との間にある物理的な距離が、その呟きを更に小さくしている。

 

「はい?」

 

聞き返した私に、シンラは何を思ったのかわからないが、先ほどよりも声を張り上げて、こう言った。

 

「その、機体を解体するために……コックピットの上に体を構築させたんだけど……ほら、この高さだと……」

 

「まさか……"降りられなくなった"?」

 

「そう……なるのかな?」

 

私はため息をついていた。

彼の勿体ぶった言い方と、私自身が先ほどまで抱いていた焦燥感に呆れて。

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