ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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何処に行った?①

ーーなにも、あそこまで言わなくったって良いだろう……。

 

シンラは森の中にある一本の木に腰かけながら、ここに辿り着くまでの様子を思い出していた。

 

シンラはアクロバティックに機体をよじ登ったタツカに「下ろして」もらった後、いくつかのエルドラGMを解体し、そこから出た鏡砂でGラグナと比較的損傷の少ないエルドラGM二機を修理した。

 

カリコとザブンに一人づつそのエルドラGMを操縦してもらい、タツカはフレディを後ろに乗せ、車を動かし、三機と一台は目的地である村へ向かう。

 

移動しながら、シンラとレジスタンス用の通信を繋げる為にタツカに車を弄ってもらったのだが、これがいけなかった。

 

通信が繋がった途端、タツカの不満が爆発し、ありがたいお小言を数時間に渡って流される羽目になってしまったのだ。

内容は報連相が少ないだとか、そんな所だ。

 

だが、タツカは説教の合間合間に二人のレジスタンスに同意と説明をするもんだから、体感時間は非常に長く引き延ばされた。

 

そんなことをしていたら、すぐに夜が訪れた。説教タイムは一旦の休息を挟み、この荒野と森の境界線で一晩を過ごす事に。

 

皆が疲れでぐっすりと寝付く中、体質上睡眠があまり必要のないシンラは木に登り、勝手に哨戒任務に就いている。

 

荒野の様子をチラチラと伺いながら、ウィンドウを操作し、今まで手に入れた情報をまとめる。

ぼんやりと光るウィンドウが、シンラの手元を照らす。

 

「スルト……」

 

ごくごく小さなこの呟きは、風の揺らす微かな木の葉の擦れる音にかき消された。

それを見計らったかのように、シンラの足下がまばゆい光に照らされる。

 

「よぉ、寝れねぇのか」

 

言葉を発した人物に、シンラが焦点を当てた。

 

あれはレジスタンスの太い方、確か……ザブンだ。

 

シンラは失礼な思い出し方でその声の主を確かめると、ずるずると木の幹を掴みながら、滑り落ちた。

 

「寝ようと思えば寝れるがな……そっちはどうした?」

 

「いやぁ、ちゃんとお礼をしてなかったなって思ってよ」

 

ザブンはそういうと、シンラの目線に合わせるために少し身をかがませながら、右手を差し出した。

握手。こちらの惑星でも、礼儀作法の類は地球と似通っているらしい。若しくは、ビルドダイバーズによって持ち込まれたものか。

 

「……ん?どうした?」

 

それが分かっていながら、シンラは自身の右手を差し出そうとしなかった。

行き場を失ったザブンの右手が、空を握る。

 

「……礼を言うならタツカに言ってくれ」

 

「礼を言われる筋合いはない……そう言うことか?」

 

少しだけおちゃらけた雰囲気を見せるザブンだったが、シンラの表情は眉一つ動かなかった。

 

「筋合いとか、そういうんじゃない……僕には、感謝される資格がないんだ」

 

だって、とシンラが続ける。

 

「月の雷を使ったんだから」

 

暗い表情を続けるシンラとは対照的に、ザブンの表情が変化した。

先ほどまで醸し出していたおちゃらけた雰囲気は消え去り、眉根に影を落とす険しい表情へと変わった。

その変化には、怒りだとか、哀しみだとか、そういった類の負の感情が込められているように見える。

 

「おかしいなとは思ってたんだけどよ……」

 

ザブンとカリコは、本物の月の雷を体験したことがある。

といっても、遠目にビームの光を見た程度だが。

 

だからこそ、今回の月の雷が全くの別物だと瞬時に理解できたのだ。

あの混乱の中、冷静でいられたのはレジスタンスの兵士だからという訳ではなく、ただ単に本物を経験済みだったというだけの話。

 

シンラも同様に、月の雷がどういったもなのか説明を聞いていた。

他でもない、ザブンやカリコと同じ場所で月の雷を見ていたストラから。

 

しかし、シンラは引き金を引いた。

フレディを確実に救ける為に、多くの人の心を傷つけた。

後悔がないわけではない。

だが、シンラには、このような人の心を利用するやり方しか思いつかなかった。

ザブンの拳が、ワナワナと震えていることに、シンラは気づいていた。

殴られる。そう思った。

 

が、その拳は、振り下ろされることはなく、震えるだけでそれ以上動くことはなかった。

 

「……殴らないのか」

 

シンラは耐えきれなくなって、ザブンに尋ねた。

この一言で、拳が動く可能性は大いにあったが、このまま焦らされることの方がよっぽど苦痛だったからだ。

 

「本当ならセグリの……いや、全エルドラ人を代表して、何やってんだってぶん殴ってやりたい所だけどよ……」

 

ザブンが見せつけるかのように拳をパーにした。降伏にも見えるその行動をしながら、無理やり頬を動かし、笑顔を作る。

 

「恨みつらみで動くのは、しないって決めてんだ。それに元を辿れば……俺たちがヘマしなきゃよかったんだ」

 

ザブンは責任を感じていた。カリコもおそらくそうだろう。

 

二人がついていながら、フレディは連れ去られ、処刑されかけてしまったのだ。

その上、フレディを助けられたのは、見ず知らずのガンプラの民のおかげときている。

自身の無力感に苛まれるのには、それで充分だった。

 

「アンタの行動は確かに褒められたもんじゃないけどよ……改めて礼を言わせてくれ。もし、フレディをあのまま助けられなかったら……ジェドに笑って会いにいけなくなる所だった。ありがとよ」

 

ザブンが再び、右手を差し出した。

 

「……あぁ」

 

シンラはそれを、たじろぎながらも、小さな手でしっかりと握った。

 

* * *

 

翌朝、出発前。

 

私はシンラを殴った。右で、一発。

 

あのビームにそんな意味が込められていたなんて思わなかった。

事情を説明されると、あの大衆の反応も大袈裟なものではなかったのだと思い直せた。

 

カリコやザブンは、大人の対応をした。

助けてもらって、手をあげることなんてできないと。

私だってそうだ。あのビームが無ければ、隊長機にトドメを刺されていただろうことは容易に想像できる。

 

だがしかし、私はそもそもが無茶な作戦に、何の相談もなく放り出されているのだ。

この事実は、私の暴力にそれなりの正当性をもたらした。

 

カリコとザブンは見て見ぬ振りをしながら出発の準備を進め、殴られた当人は反抗もせず、素直に謝罪をした。

 

私も少し大人気なかったと頭を下げ、お互いもう勝手な行動はしないようにと、約束を取り立てた。

一件落着とまではいかないが、この約束で私たちの対立は収まった。

 

嬉しいニュースもある。なんと、フレディが目を覚ましたのだ。

 

少し虚な目をしていたが、ちゃんと自分で体を動かし、たどたどしく口を開いた。

それを見たレジスタンス二人組の様子は凄まじいものだった。まるで赤子が初めて2本の足で直立した時かのようなリアクションを披露したのだ。

だがそれは、三人の関係が家族のように近いということの現れでもあったのかもしれない。

 

村に向けて出発してすぐに、フレディは輝きを取り戻した眼をすぼめ、数分もせずに寝息を立ててしまった。

疲れが溜まっていたのだろう。彼を起こそうとする者は居らず、帰り道中の会話はぐっと減った。

彼が目をを覚ましたのは、村に着く十分ほど前だ。

その僅かな時間で、簡潔に今の状況説明と自己紹介をした。

 

ここまでが、移動中の出来事だ。

 

村に着いた私はようやくゆっくりできる……そう思っていた。

 

* * *

 

「ありがとうございます……!本当に何とお礼を言えばいいのやら……!」

 

事の顛末を聞いたトノイは、感極まって涙を流していた。

こうやって感謝をされると、溜まった疲れが吹き飛ぶのと同時に、作戦が無事に成功したのだと改めて実感する。

 

本来なら、この感謝を受け取るべき人が二人いるはずなのだが、あのレジスタンスの勇敢な戦士二人は、フレディが自分の足で家へ入っていくのを見届けたのと同時に倒れてしまった。

今は二人とも、2階で泥のように眠っている。

 

「アンタはっ!もう……いつも人を心配させてっ……!!」

 

「ごめんなさい……ねえさん」

 

フレディ自分の手の届かない所で殺されかけていた事実は、トノイ含め、その場に居たマイヤを愕然とさせた。

 

マイヤが涙ぐみながらフレディを抱きしめる。

フレディが申し訳なさそうな顔をすると、マイヤは気の毒におもったのか、お帰りなさい、と言って、もう一度強く抱きしめた。

 

「……フレディ。無事でよかった」

 

「うん。ただいま……ストラ」

 

抱きしめこそしなかったもの、ストラもフレディの無事を心の底から喜んでいた。

 

「ほれ、マイヤ、そろそろ……」

 

「あぁ、ごめんなさい、つい……」

 

マイヤは頬を赤く染め、フレディから離れた。

 

外が騒がしくなってきたことに気づいたストラが「村のみんなに説明してくるよ」と言い、マイヤもそれに続いた。

 

部屋に残されたのは、私とシンラ、フレディと村長の四人だ。

 

「すいません……お話の途中でしたのに……」

 

「いいんだよ。家族仲が良いのは悪いことじゃない」

 

村長の謝罪に、少し含みを持たせて返答するシンラ。フレディの方に向き直り、軽いお辞儀をする。

 

「改めて自己紹介かな。僕はシンラ。こんなナリだけどガンプラの民だ。こっちがタツカ。よろしく」

 

「タツカです、よろしくお願いします」

 

「フレディです!この度はどうもありがとうございましたっ!」

 

意外なことに、フレディはシンラの姿に対して何の疑問も抱いていないようだ。

それどころか、心当たりすらありそうな様子である。

ビルドダイバーズの中にも、姿が特徴的なダイバーがいたのだろうか。

 

「礼節もほどほどにして……フレディ。君に聞きたいことが山ほどあるんだが……」

 

「はい、もちろんです!僕が知っていることなら……!」

 

「ならお言葉に甘えて……他のハト派のレジスタンスはどこに行ったんだ?それに、聖獣さんも。和平派のリーダーである君なら、知っているはずだ」

 

シンラの質問を聞いた途端、フレディが少しだけ顔をしかめた。嬉しくない回答が返ってくる可能性が高まる。

 

この二つの質問は、私も気になっていた。例えシンラが質問しなくとも、私が切り出していただろう。

 

和平派の行方。"派"と呼ばれる程なのだから、まさか筆頭のフレディを除いて、カリコとザブンだけの組織というわけででもないだろう。

トノイから聞いた話でも、レジスタンスを二分しているというのだから人数は百単位でいるはずだ。

だが、あの牢獄にいたのはたったの二人。

それに、聖獣さんもあの場にはいなかった。

フレディ捜索時に人のいそうな空間はあらかた探したのだ。

何らかの理由で、セグリから離れていると考えた方がいいだろう。

 

(もしくは……もう、既に……)

 

脳内の嫌な想像を掻き消すと、フレディが重い口を開いた。

 

「えっと……その話をする前に、訂正させてください。僕は和平派のリーダーじゃないんです」

 

「ち、違うのか?」

 

狼狽えたのはトノイだ。私たちと同様かそれ以上に驚いている。

 

「前にも説明したでしょ!父さん!僕はリーダーじゃなくて、あくまでシンボルとして……」

 

「すまない。それに何の関係が?」

 

「あぁ、すいません……。えっと、本当のリーダーはムランさんという方で、今は遠征隊として、ヒトツメ残党の調査に出てるんです。聖獣さんも一緒です」

 

私は少しホッとした。だが、シンラは違った。

冷や汗を浮かべながら、質問を続けていく。

 

「遠征に出たのは……いつ頃だ?」

 

「半年ほど前です。そろそろセグリに帰って来るはずなんですけど……」

 

「……聖獣さんと、その遠征隊の戦力は?」

 

「心配には及びません!プロトタイプのエルドラGMが十機に、聖獣さんもとってもお強いですから!」

 

それを聞いたシンラが、ガタンと机を叩き、勢いよく立ち上がった。衝撃で、用意された飲み物がコップから溢れそうになる。

 

「フレディ!遠征隊のルートは分かるか!」

 

「え、えぇ……帰投中の筈ですから、大体のルートなら……」

 

「どうしたんですか、いきなり!」

 

私が怒鳴りかけると、シンラはそれ以上の声量で返した。

 

「分からないのか!タツカ!いいか、スルトも遠征隊が帰投中な事は重々承知のはずだ!なのに、フレディの処刑なんてもんを大々的にやった!」

 

まだ私が理解出来ないような顔をしていると、シンラは苛立ちながら叫ぶ。

 

「つまり……奴には、スルトには……!!遠征隊も、聖獣も、どうにかできる算段があるって事だ!!」

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