ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise 作:Haturu
ーーレジスタンス本部、執務室にて
「ふぅ……」
集中力が限界に達し、何時間も走らせていた筆が動きを止めた。
疲れを訴える眼球をなだめ、椅子の背もたれに寄りかかる。
無駄に豪華に仕立てられた背もたれは、投げ打った体を優しく包み込んだ。
「もうこんな時間か……」
つい先程まで、星の煌びやかな輝きが空を照らしていたはずなのに、今は窓の外から陽光と白く淡い雲達が顔を覗かせている。
その雲の切れ目から、鈍色に光る欠けた星が姿を現した。
かつて我々を苦しめた衛星砲のある巨大な衛星。
ある意味、太陽よりも存在感を醸し出すその星は、見ているだけで数々の激戦を思い出す。
当然、いい思い出ではない。だが、悪いと断ずるには多くの人と出会いすぎた。
そんな答えのないことを考えていると、疲れが更に酷くなる気がした。
慌ててその星から目を逸らす。
「あれ……まだ居たんですか」
木製のドアが、ギシギシと軋みながら開かれた。
ドアを開けた人物は右手に紙束を抱えている。
思わずつきそうになったため息を、彼に悟られないように飲み込んだ。
「あぁ……色々忙しくてな」
机の上に積み上げられた報告書の束に指を指す。
もう半分以上処理したはずなのに、ランプの背丈ほどに積まれた書類を見ると、とてもじゃないが息が詰まりそうになる。
「全く……ほどほどにしないと奥さんに呆れられますよ」
「言わないでくれ……昨日叱られたばかりなんだ」
彼は肩をすくめ、つかつかとブーツを鳴らし、部屋に入ってきた。
抱えていた資料の表紙を私に差し出す。
「ようやく量産に漕ぎ着けましたよ。と言ってもまだ数十機機程度ですが……」
「やっとだな……暗号名は……エルドラGMか……」
「はい。星の名を冠する……我ら"レジスタンスのガンプラ"。文句なしの傑作機です」
彼の差し出した仕様書を受け取り、ざっと目を通す。精巧に描かれた図面は、夢物語だと思われていた計画が遂に現実になったことを如実に語っていた。
思えば、ここまで辿り着くのに、いくつもの困難があった。
特に、原料である鏡砂の調達。
古代の民の遺産である鏡砂を使う事は、私含め多くの民が忌避感を示したが、今目の前にいる彼の力強い説得と、数々の実証試験に裏付けられたその有用性が認められたのだ。
「ありがとう……スルト」
私は無意識に呟いていた。
「何です?いきなり……」
「ビルドダイバーズにクアドルン……君のお陰で彼らの負担も減らせそうだ。それに、セグリの復興も予想以上に進んでいる」
「ムランさん……おだてても何も出ませんよ」
「そんなつもりじゃないさ」
ヒトツメの活動が活発化した際に、ゴルスにリーダーを託された時はどうなるかと思ったが、このガンプラさえあれば、先の戦いよりも犠牲を出さずに、また平和な日々を取り戻すことが出来るはずだ。
その時だった。急に廊下が騒がしくなった。
ドタバタと走る足音の中に少しばかり、歓声のような甲高い声が入り混じっている。
何事かと立ちあがろうとすると、開けっぱなしのドアから息の上がった一人のレジスタンス兵士が顔を出した。
「ム、ムラン殿!きゃ、客人がお見えです!」
「客人?」
オウム返しをしながら、私は脳内で今日のスケジュールを見返した。
だが、訪ねてくる人物に心当たりはない。
兵士に促され、"客人"が顔を出す。
「よおっ!ムラン!」
「カザミ?!カザミじゃないか!?」
意外な客人として現れたのは、戦友であり恩人でもあるビルドダイバーズのリーダー。カザミだ。
息の上がった兵士に、カザミは「案内サンキューな!」と言い部屋に入った。
先程の歓声の正体はこれか、と私は苦笑する。レジスタンスと言っても、加入して間もない若い兵士たちは、ビルドダイバーズと会話すると、こうやって尊敬と羨望の混じった反応をするのだ。
「久しいな……一体いつぶりだ……?」
「お互い忙しかったからなぁ……ヒロト達も下に来てるぜ……って、何だコレ?」
カザミは私がいつの間にか落としていたエルドラGMの報告書を拾い上げ、首を傾げた。
「丁度良かった……!ガンプラの民としての意見が欲しかったんだ」
「おお!例のアレ、出来たのか!なら、早速見せてもらおうか……エルドラの民が作ったガンプラの性能とやらを……なっ!」
本家本元のガンプラの民に意見を貰えるのなら、これほど参考になるデータはないだろう。
そう考えた私は、カザミに完成したエルドラGMを見せることにした。
資料相手との睨めっこも飽き飽きしていたので、そう言った意味でもありがたい。
それならばと、スルトは急いで執務室を出て行った。ビルドダイバーズに見せたい資料を取りに行くそうだ。
執務室を出て、兵士達と一緒に、カザミを格納庫に案内する。
「そういえばカザミ、ジュケンとやらはどうなったんだ?かなりの強敵だと聞いているが……」
「お、おう!何とか……いんや!バッチし倒してやったぜ!!」
「それは良かった……こっちに来る頻度は上がりそうか?」
「いやぁーそれがさ、今度はパルの奴がよ……家庭の事情っつーか……アレなもんで……」
廊下に、二人の足音がこだまする。
だが廊下を進んでも進んでも。一向に目的地に辿り着かない。
私は視界がぼやけてきたことに気づいた。
段々とカザミの声も、足音と一緒にぼやけてくる。
ーーーー
『ムラン……ムラン!』
「む……」
荘厳な低い声に叩き起こされた私は目を擦り、霞む視野を元に戻そうとした。
真っ先に視界に入ってきたのは、青い空だ。
どうやら仰向けになって寝ていたらしい。
先程までの夢は一旦棚に上げて、本来の状況を思い出す。
私は遠征隊のリーダーとして、復活したヒトツメの調査をしていた。
そして半年ほどセグリを開けて……ようやくその原因であろうものを突き止めた。
そしてその情報を、セグリに持ち帰ろうとしている。
今はセグリへの道中の関門、氷河を何とかして渡ろうとして……そこから記憶が朧げだ。
先程まで座っていた椅子とは固さが悪い意味で段違いのベッド……いや、車の後部座席から立ち上がる。
私は車から降り、その近くで横たわっていた私を起こした"人物"に話しかけた。
「クアドルン、私はどのくらい寝ていた……?」
視界の隅では、仲間達がテキパキと、海を渡る準備をしている。だが、寝る前の記憶があやふやで、指示を出した記憶もない。
『丁度半刻だ。指示は私が出しておいた』
「いつもすまんな……」
リーダーとして不出来な私を、彼はいつもフォローしてくれる。この遠征で何度彼に助けられたことか。
戦力としても頭数に入らないのに、自分の情けなさに腹が立つ。
『疲れが溜まっているのだろう。気にするな』
その時、若い兵士が一人駆け寄ってきた。私たちの会話が一区切りついたのを見計らった後、敬礼をしながら声を張り上げる。
「ムラン殿、クアドルン様!報告致します!エルドラGM全七機、及び移動用車全十機!筏との固定完了致しました!」
クアドルンが横目で私を見つめた。
「指示を出せ、リーダー。」そう言われた気がした。
私は、寝起きの喉を整え、全員に聞こえるように叫んだ。
* * *
「……うーむ」
私は操縦桿を握りしめながら、低く唸った。
背後で私に掴まっているフレディが、怪訝な顔をする。
「どうした?タツカ」
スピーカー越しに聞こえてきたのは、今私が操縦しているシンラの声だ。
「いやぁ……なんか、空を飛んでるのに違和感あって」
私は率直な感想を述べた。「そんなことか」と、シンラが呆れる。
シンラがスルトの脅威に気づいた後、私たちはすぐに村を出た。
パーティメンバーは私、シンラ、そしてフレディ。
まだまだ休みが必要なはずのフレディを連れ出すのは気が引けた。
しかし、そうでもしないと私たちが遠征隊に、新型のヒトツメだと勘違いされる可能性がある。
聖獣様やムランと面識のあるマイヤを連れ出す案もあったのだが、「姉さんに行かせるぐらいなら、僕が!」とフレディ本人が強く希望したのだ。
「空……飛べなかったんですか?」
フレディが申し訳無さそうに口を開いた。
「あぁ、鏡砂の調達に手間取ってね……ようやく完成体になれた」
シンラが満足そうに返答する。
村を出る直前に、シンラは奪ってきたエルドラGMの片方を解体して、専用のバックパックを作った。
砲台に羽を生やしたようなデザインのそれは、Gラグナに「飛行スキル」を付与した。
「飛行スキル」は想像以上に使い勝手が良かった。
コレのおかげで、進行方向にあったセグリも迂回せずに上空を突っ切ることができた。
……とても緊張はしたが。
そういうわけで私達は今、念願叶って空の旅をしている。
といっても、気分はそれほど晴れちゃいない。
ある程度のルートが分かっているとはいえ、この広大な惑星で人探し、もとい隊列探しは骨の折れる作業だ。
幸いなことに、エルドラGMと回線繋いでいたおかげで、ある程度隊列に近づけば目視出来なくとも通信をすることが可能だ。
だが、条件はスルトの側も同じである。
シンラの見解では、あのセグリの混乱で追撃隊を編成するのにも時間がかかると踏んだ。
捜索時間。それが唯一、私達がスルトに優っているアドバンテージだ。
「……僕はまだ信じれません、聖獣さまに、あの人が刃を向けるなんて……」
フレディがゆっくりと、そう言った。
「処刑されかけたってのに、信頼しているんだな」
「ちょっと!そんな言い方はないでしょう!」
シンラの辛辣な言い方に、私は激昂した。
すぐにシンラの訂正が入る。
「すまない……責めたわけじゃないんだ、フレディ」
「大丈夫です、分かってます!……けど」
フレディの言葉が歯切れの悪い形で終わる。
「けど……シンラさんの言う通りかもしれません……仲間だと思ってたのに……裏切られて……騙されてたなんて思いたくなくて……」
フレディの体は震えていた。北風に吹かれたかのように、手までもがガクガクと震えている。
私は操縦桿を握る手を離し、そっとフレディの手を握る。
「タツカさん……?」
「あっ、ええと、安心するかなって……」
こういう時に上手い返しができないのがもどかしい。
そんな情けない私にフレディは大人の余裕を見せた。
「えへへ……ありがとうございます」
恐怖に支配されていたフレディの表情があどけない少年の顔立ちに戻る。
彼を見ていると、大人なのか、子供なのか、よく分からなくなることがある。
「……?!何だアレは!?」
私の感傷は、シンラの叫び声によって中断された。
大地はいつのまにか消え去っていた。
下に広がるのは海水とそこに浮かぶ氷の塊。
氷河だ。その美しい情景は、地平線の先まで広がっている。
そこまで確認すると、モニターに白い塔のような建造物がアップで映し出された。
シンラが叫んだ原因だ。
こちらもかなりの高さを飛行していると言うのに、塔の先端は霞んで視認することができない。宇宙にまで繋がっているのではと思うほどのスケールだ。
「あっ、白銀の塔!」
フレディが身を乗り出してモニターを見て叫んだ。
「白銀の塔?」
私の質問にフレディはすぐさま答えた。
「はい、ヒロトさ……ビルドダイバーズの皆さんは"軌道エレベーター"と言ってました!大丈夫です、ヒトツメの基地とかじゃありませんから!」
「そうか……アレが……」
白い塔が目前へと迫る。対空火器などの武装も全く無い。
ただの美しい建造物だ。
機体は何事もなく、白銀の塔を横切った。
「ブフッ……!」
「……何で笑った?タツカ」
シンラの質問が更に私の腹筋を刺激した。
「だって……『何だアレはっ!?』てマヌケだなぁってっ!」
「……なぁタツカ。最近僕は君に下に見られてるように感じるんだが……」
「気のせいですよ……あっアレ!」
偶然にも、先程のシンラと同じような驚き方になってしまった。私がそれに指を指す。
そこには、白銀の塔の先には筏に乗った車と巨大な布に包まれた物体が筏に乗って氷河を渡っていた。
「バカにして……」
シンラがそう呟いた。別にそんなつもりじゃなかったのだが、まぁ、いいだろう。
氷河を進む筏達目掛け、私達はブースターを噴かした。通信を傍受し、レジスタンス専用回線が繋がれる。
捜索ミッション、完了だ。