ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise 作:Haturu
氷の大地に根付く白銀の塔。
その麓には、ガンプラが何台も入りそうなほどの巨大な空間があった。
そこにエルドラGMを並べると、簡素な野営地のようになった。
野営地と化した氷の上に、フレディ達の声が響く。
「まさか……そんなことが……」
ムランの言葉にフレディが被せる。
「本当なんです!信じてくださいっ!ムランさん!」
遠目にその様子を眺めながら、フレディを連れてきて正解だったな、と私は心の中でそう呟いた。
レジスタンスの正式なリーダーであるムランは、私たちに懐疑的な視線を向けた。
今までガンプラの民だからと信用されていたのもあって、値踏みするかのような疑いの視線は私の中の彼の評価をかなり下げた。
だが、その誤解は話を聞いているうちに段々と解けていった。要するに、ムランは責任感が強く、それ故に誤解されやすい性格なのだ。
『ガンプラの民……。タツカ、と言ったか。』
「は、はいっ!な、何でしょうか!?」
フレディとムランの会話を聞きながら、ぼんやりと思考していた私。
その横からふいに、威厳のある声が聞こえたことで私の喉はおかしな挙動をした。
そんな私を、声の主である聖獣クアドルンがじっと見つめる。
ムランとは打って変わって、慈愛に溢れた温かな目つきだ。だがその裏には、聖獣と呼ばれるに相応しい力が溢れている。
もし、こちらが敵意を示したら、一瞬にして灰にされてしまうだろう。
そう確信を抱かせるほどに、クアドルンの醸し出すオーラは凄まじいものだった。
『……"マサキ"と言う名に聞き覚えはないか』
「マサキ?確か……ビルドダイバーズと一緒に先の戦いを駆け抜けたという……」
クアドルンがほんの少し目を細めた。
指名した生徒から的外れな回答が返ってきた時の教師のような感じだ。
私の口からは自然に謝罪の言葉が出ていた。
「ご、ごめんなさい……」
『いや……非があるのはこちらだ。謝る必要はない。』
「は、はぁ……」
質問の意図が気になったが、答えを得る間もなく、フレディ達の話が纏まってしまい、次の行動を余儀なくされた。
* * *
「ノザトっす!少しの間よろしくお願いします!タツカさん!!」
「よ、よろしく……ノザトさん」
差し出された手を握り返すと、ノザトはぶんぶんと嬉しそうに掴んだ手を振った。
「さ、どうぞどうぞ!」
元気いっぱいのノザトに促され、車の助手席へとお邪魔する。
ノザトはハンドルを握り、隊列の最後尾を進み始めた。
フレディから状況を説明されたムランは、部隊の分割という判断を下した。
一方は既存のルートを使い、セグリへと向かうように見せかける部隊。
補給するふりをしながら、各地に隊員を逃げさせる算段だ。
もう一方は、クアドルン含めた戦力を連れ最短でセグリへ向かう部隊。
スルトの企みが果たされる前に、強行突破してしまおうという考えである。
私とシンラは後者に加わった。
そのシンラは後ろの荷台でMSとして積まれている。
通信を繋いでいるので会話は可能だが、何やら情報をまとめる事に勤しんでいるようだ。
フレディ処刑をやらかしたスルトの元へと急ぐ。
一見、自殺行為のようにも思えるが、大衆の前で聖獣に手を出そうものなら、全山の民を敵に回す事になるのと同義らしい。
流石のスルトでもそんな事はしない、その様に話はまとまった。
だが同時に、クアドルンほどではないにせよ、先の戦いの功労者であるフレディの処刑があっさりと進んでしまった事実は、山の民の間に深い亀裂が生まれている何よりの証拠でもあった
本人もムランもその事に気づいているだろう。
「タツカさん、さっき何話してたんすか?」
「へ?」
ノザトは運転しながら、話を続けた。
「さっき話してたじゃないっすか。ビルドダイバーズどうのこうのって」
「あぁ、聖獣さんに聞かれたんですよ。マサキって名前に聞き覚えはないかって……」
「あぁ、成る程。」
ノザトが妙に納得した表情を浮かべた。
私はそれが不思議で、ノザトに聞き返す。
「何か心当たりありますか?私、失礼なことを言ったかもって……」
「あー……それは多分……」
少し言い淀んだノザトだったが、すぐに話を脳内でまとめて話す。
「マサキって人が、ビルドダイバーズと一緒に戦った……これは合ってるけど間違ってもいるっす。と言うのも、マサキさん、ヒトツメに洗脳されてたらしんですよ」
「洗脳?!」
私が驚き、叫んだ。ノザトは頷き、再度口を開く。
「んで、あの人はビルドダイバーズと比べてこっちに来る頻度が少なくて……来たとしても、ヒトツメを倒すためだけって感じだったんす。
長いこと戦友だったあの人は、それが寂しくてタツカさんに聞きたくなったんじゃないっすかね……」
ノザトは「勝手な予想ですけど」と語尾に付け足した。
「そっか……説明、ありがとうございます」
「いえいえ、この程度、感謝されるまでもないっすよ。質問があるなら他にも……」
ノザトの親切な提案は、突如車内に鳴り響いたアラートによってかき消された。
アラートに続き、ムランの声でヒトツメの部隊が接近しているとの伝令が入る。
「タツカ!出番だ!」
シンラの掛け声で、私の中のスイッチが切り替わるのを感じた。
思考が瞬時に戦闘用へと切り替わる。
「じゃ、行ってきます。ノザトさん」
「…………護衛、よろしくっす」
ノザトの言葉を聞き流し、私は車後方の小さな小窓から私は後部で待つシンラの元へと向かった。
* * *
荒野を進んでいた私たちがヒトツメと接敵したのは、セグリと10キロほど離れた場所。白銀の塔とセグリの中間ほどだ。
進行方向にある森の木々の間から続々とヒトツメが現れる。
セグリの目前でヒトツメとの戦闘をしなければならないタイミングの悪さに、私の口から思わず舌打ちが漏れた。
苛立ちを抑えながら視線を下ろし、平面上のモニターに映る敵機の数を確認する。
その数なんと20体。大部隊といっても差し支えのない数だ。
そして、敵機を示すマーカーは半分ずつ、色が分かれている。
その色は、部隊が上下に分かれていることを示唆していた。
その証拠に、10体を皮切りにヒトツメが森の中から現れる事はなかった。
上空の方は視認できないが、地上部隊のヒトツメには見覚えがある。
灰色の装甲に身を包み、ホバーの四脚は上半身に比べて細身であるのに関わらず、力強い振動音を響かせ、地面を揺らしている。
「エルドラブルート」
デスアーミーの改造機が、フォーメーションをなして私たちに迫る。
『私が空の方をやる……!残りは……』
「あぁ、任せてくれ!聖獣さん!」
シンラが勇ましく叫び、機体が弾丸のように加速した。横軸の引力によって、体の重みが増す。
「タツカ!頼んだぞ!」
「……はい!」
今、Gラグナを動かしているのはシンラ自身だ。
私に出来ることは無い。
ーーーー今までと、同じならば。
私が、操縦桿を握り直すのとほぼ同時に、シンラが最前列を走っていたヒトツメと衝突する。
充分に速度の乗ったその一撃は、ヒトツメのエルドラブルートを易々と吹き飛ばした。
ボーリングの様にダルマ倒しになることを期待したのだが、そこまでヒトツメは愚かではなかった。
四叉の槍を地面に突き刺し、空中に投げ出されるのを阻止する。
後方のヒトツメ達はそれを巧みに躱し、進撃を続けた。
こちらへの反撃を企むのが三機。槍を構えながら逆三角形のフォーメーションを作る。
「ーーーー!!!」
逆三角の頂点に位置するエルドラブルートが、気迫をモノアイに込め、四叉の槍をシンラに振り下ろした。
シンラは刀の脇でそれを受け止める。
「くっ……!」
シンラの喘ぎを合図にしたかのように、残りの二機が左右から飛び出した。
挟み撃ちだ。
逆三角を描いていたフォーメーションが薄く引き延ばされた二等辺三角形のようになる。
「援護を……」
「要らんっ!よく見ろタツカ!」
私が出そうとした助け舟は、すぐさまシンラによって跳ね返された。
私は、すぐさま彼の言葉の意図を理解する。
他のエルドラブルート六機が、こちらへ目もくれずに私たちの横を通り過ぎ、レジスタンス達の方へ向かっていたからだ。
「……っ!!させないっ!!」
宣言にも似た叫びを発しながら、私は指を動かした。入力されたコマンドが、機体のバックパックに伝わりがこんっ、という音と少しばかりの振動がコックピットに響く。
「行けっ!ファンネル!!」
その命令に、六機のファンネル達が応えた。
大刀を模したソードファンネル二機は、ヒトツメの背後から、分厚い装甲をものともせずに貫いた。
エルドラブルート二機が内部から火を吹き出し、爆発に飲まれる。
小ぶりな刃を持つソードファンネル二機は、
四脚の中へと潜り込み、右側の足二つを集中的に切り刻んだ。
ホバー走行に異常をきたしたヒトツメは、機体のバランスを崩す。
スケートのようにスピンしたヒトツメは、同じく足を潰されたヒトツメ同士で衝突した。
これで、倒したのは四機。
残る二機のヒトツメは同胞が音もなく狩られることに気づいたのか、レジスタンスへの攻撃を中止し、立ち止まった。
仲間達を倒したのは何の攻撃なのか、探るように周囲を見渡す。
「ーーーー!!」
ヒトツメのモノアイが、流星のような放物線を描き、爆発の中から飛び出したSファンネルを捉えた。
コンマ数秒遅れて、Sファンネルが空を駆け、ヒトツメに突き刺さらんとする。
エルドラブルートは、左腕を犠牲にし、その一撃をかろうじて受け止めた。
右手の槍を投げ捨て、動きを止めようとしないファンネルを掴む。
よくもやってくれたな、そんな恨みを握るファンネルにぶつけようとしたその瞬間、ヒトツメの体を、ビームの熱線が灼いた。
六つの中で、最も火力のあるライフルファンネル。
囮としてSファンネルを使いながら、私はRファンネルの一撃を叩き込む事に成功した。
最後のヒトツメは、六つのファンネルの一斉攻撃で捻り潰す。
「や、やった!」
戦闘の最中であるにも関わらず、歓喜の声を発してしまった。
それをシンラが咎める。
「できて当たり前だ。そういうふうに作ってある」
丁度シンラも最後の一機、いや、ファーストアタックを仕掛け、吹き飛ばしたヒトツメに刀を突き刺した所だった。
ドロリと溢れる謎の液体を刀で払う。
時間にして僅か3分にも満たない戦闘が終わった。
「無事ですか?タツカさん!シンラさん!」
「問題ない。そっちはどうなった?フレディ」
「こちらも心配ありま……ふぎゃあ!!」
「フレディっ?!」
「だ、大丈夫です、失礼しました!爆撃機が、近くに墜ちて……」
「爆撃機……?」
戦闘中で気づかなかったが、レジスタンスが居るはずの後方では、断続的な爆発音と雷の落ちる音が響いていた。
後者は雷を操れるクアドルンのものだろう。
となると、前者は残り十五機のヒトツメの攻撃か。
フレディは大丈夫だと言っているが、万が一のこともある。
「了解した。すぐに向かう」
シンラが、ブースターを吹かし、空へ上がるために身を屈めた。
だがそれを阻む者がいた。
シンラの足元、壊したはずのヒトツメが再びその目に光を灯していたのだ。
ぐちゃぐちゃになった腕部でシンラの足を掴み離そうとしない。
「なっ……こいつ……まだ……!」
その瞬間、荒野の遥か彼方から一筋の熱線が放たれた。
熱線はヒトツメの体を容易く貫き、シンラの胸元に到達した。
蒸発する装甲。中にいた私の視界が、紅く染まった。