ガンダムビルドダイバーズRE:Riiiiiiiiiise   作:Haturu

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コアチェンジ②

セグリ襲撃事件から一夜が明けた。

 

街の混乱はいまだ続いている。

逃げ出した市民や怪我人の保護、それに加えて状況の正確な把握。

やらなければならない任務は山ほどあった。

同胞の兵士たちは街や荒野を駆け回り、事態の収束に尽くしている。

 

その最中で……

 

レジスタンス強硬派、第八部隊隊長ユナクは恐る恐る執務室のドアを叩いた。

 

「来たか……」

 

「第八部隊隊長ユナク、招集命令を受けただいま馳せ参じました」

 

部屋の中にいる人物から許可を得て、ユナクは執務室の扉を潜った。

部屋中央の豪華絢爛な椅子に座るのは、我がリーダー、スルトだ。

ユナクはカーペットにひざまづき、スルトの言葉を待った。

 

「報告書を見させてもらった。ここに書いてある事は……全て真実として扱う。異論は無いな?」

 

「はっ……」

 

スルトの問いに、ユナクは顔を伏せる。

 

「ふむ……要約すると、だ。貴様はこのセグリに敵を招き入れ……

 

耳が急に遠くなった気がした。

いや、違う。

声が鼓動に邪魔されている。

読み上げられる自身の失態を心臓が拒んでいるのだ。

 

━━と言う事になる……私はレジスタンスのトップとして貴様に罰を与えなければならない」

 

スルトは立ち上がり、ユナクの方へ歩みを進めた。

また、鼓動が早くなる。

 

「……ついてこい」

 

スルトはユナクの横を通り過ぎ、執務室を出て行った。

ユナクは困惑しながらその後を追う。

 

* * *

 

「あの事件を、覚えているか」

 

ユナクは頷いた。

 

忘れるわけが無い。

数ヶ月前、穏健派いやフレディと我ら強硬派が決別したあの事件。

 

穏健派は戦意喪失したヒトツメを保護していた。反感を示す者もいたが、平和のためにと復讐心を抑え、恨みを、哀しみを忘れようとしていた。

 

だが、穏健派の殆どが遠征隊としてセグリを離れたある日。その事件は起こった。

和平派の代わりに保護したヒトツメの世話をしていた一人の兵士が、意識不明の重傷を負ったのだ。

幸いな事に、一命を取り留めたその兵士は我々に事故の原因を語った。

 

━━曰くヒトツメが自爆した、と。

 

容疑者は簡単に絞られた。

アルス亡き今、ヒトツメに命令する事ができ、尚且つ、ヒトツメと簡単に接触する事ができる和平派。

 

該当したのは、遠征隊に参加していないフレディとそのお付きの兵士二人だった。

 

不在のムランから、レジスタンスの全権を渡されていたスルトの行動は早かった。

 

溢れんばかりの証拠を集め、フレディを迅速に拘束し、その後の……

 

だが、最後の最後で計画は頓挫した。

その失敗の原因こそが自身である事にユナクは改めて思い至る。

 

「逃げおおせたあの悪鬼は、何処へ向かうと思う?」

 

突然投げかけられた質問に、狼狽ながらもユナクは答えた。

 

「それは……故郷、でしょうか?」

 

「無くはないな。だが、私が最も恐れているのは、遠征隊との合流だ」

 

ユナクはハッとした。スルトは構わず言葉を続ける。

 

「フレディ……奴はムラン殿と聖獣様を誑かし、我々に牙を向くだろう。そうなれば、私たちは先の大戦よりも悲惨な戦いが始まってしまう。それだけは、避けねばならない」

 

スルトが立ち止まった。背後にいるユナクに向かって振り向く。

 

「ユナク、罰を言い渡す。内容は私と共にフレディ追撃戦の参加だ」

 

「で、ですが……」

 

「あぁ、そうだ。遠征隊の反抗はもちろんあるだろう。……聖獣様も含めてな。」

 

無理だ。ユナクは心の中でつぶやいた。

 

聖獣様に刃を向ける。その行為がどれほど畏れ知らずなのかは幼き子供でも理解できる。

いや、仮に戦闘に持ち込んだとしても、勝ちの目はない。

 

自由自在に空駆ける翼に雷雲を操るその能力。いくらガンプラを使えるようになったとはいえ、制圧すらままならないはずだ。

 

その心情を察してか、スルトは声に力を乗せて口を開く。

 

「だが、我々は確固たる意志でそれを為さなければならない。

例え未来の子供達に、裏切り者だと罵られようとも……」

 

スルトの覚悟に呼応するかのように、格納庫の扉が開かれた。

中に佇むのは、三機のコアガンダム。

 

━━それと………

 

「ユナク……君の力を貸してくれ」

 

* * *

 

ーー狙撃?! どこから!?

 

機能を完全に停止したエルドラブルートを振り払い、シンラはビームの光った方を見やった。

 

方角は西。ほぼ平坦な荒野で姿を視認できないことから距離があるか、岩場に隠れているかもしくはその両方か。

 

「タツカ!ファンネルを出せ!」

 

ファンネルならば、上空から索敵が出来る。

対スナイパー戦を有利に進められる優れた武装だ。

そう考えたシンラはコックピットに居るはずのタツカに指示を飛ばした。

 

「タツカ……?おい、どうした?!」

 

だが、タツカは返事をしなかった。

 

まさか。

シンラの焦りが、再度放たれる狙撃によって、さらに増していく。

 

「くっ……」

 

ビームの火線がシンラの脇腹をすり抜けた。

身を捩っていなかったら、胸部に直撃していただろう。

 

「……っ!そういうことか!」

 

敵の胸部を執拗に狙った二度の狙撃は、シンラに意図を悟らせるのに十分だった。

脳内に走る一筋の躊躇いを無視し、シンラは

 

"MS形態を解除した"。

 

コックピットの辺りで小さく再構築されたシンラは同じく投げ出されたタツカと共に、溢れ出た鏡砂をクッションにしながら荒野に落ちる。

 

「タツカ!!タツカ!!」

 

またしても、返答はなし。

タツカを中心に、鏡砂が少しずつ血の赤に飲まれていった。

 

それは、凄惨という他なかった。

 

本来白く透き通っていた筈の肌は、熱に炙られ赤黒く変色している。

特に、右半身が重傷だった。右腕は肩から下が消滅し腹も少し抉れている。

 

「クソッ……!」

 

悪態をつきながら、シンラは鏡砂を使いタツカの体をなんとか元に戻そうとした。

 

だが、流れ出る血の量と、鏡砂がタツカの体に変わる速度が殆ど一致していたために、治療はその本来の意味を果たさなかった。

これでは、現状維持が精一杯だ。

 

「タツカ……!死ぬな……」

 

血だまりに手をかざし、シンラはすがるように呟いた。

 

* * *

 

岩場に身を屈めた狙撃手は、一瞬にして砂に変わった敵機に驚愕した。

 

が、致命打を与えた自信からくる余裕によって、呼吸を乱すことなく相手の更なるリアクションを待つことが出来た。

 

何故、ナノラミネートアーマーがビームによって貫通したのか。

シンラは焦りと知識不足のせいでそれに疑問を抱くことはなかった。

 

元より、GBN側のバランス調整によって、ナノラミネートアーマーはアニメ原作ほどの耐性を持ち得ていない。

だがしかし、生半可なビーム兵器なら直撃したとしても、充分な防御性能をもたらしてくれる。

 

つまり、今回の狙撃は生半可なものではなかったのだ。狙撃手の腕も、使われた兵器も。

 

狙撃手の名はレジスタンス強硬派。

第八部隊隊長ユナク。

 

搭乗機名アースリィガンダムALS。

そして狙撃銃、ビームシュートライフルUセブン改。

 

旧ミラーグの山、現在の水上都市セグリの端末から、スルトがデータを引き出し、耐久力を犠牲により強くより使いやすくした至高の一品。

 

それらによってもたらされた"完璧な"狙撃。

 

結果的にユナクは、スルトが遠征隊と交渉する間、暗号名「シンラ」を足止めせよとの命令を忠実にこなした。

 

それは彼自身の技量の高さと機体の完成度に加え、ヒトツメによる偶然のアシストが奇跡的に噛み合った結果である。

 

ユナクは、端末に表示された狙撃銃の耐久を尻目で確認した。

撃てるのは、残り一発。

心許ないが、いざとなれば接近戦も出来る。アースリィガンダムは、狙撃も可能なほど性能の高いバランス型の機体だ。

 

━━さぁ、来るなら来い。

 

ユナクは感覚を研ぎ澄ませ、汚名挽回のチャンスを待った。

 

* * *

 

━━ユナクが狙撃を成功させる数分前。

 

「どけ!スルト!自分が今何をしているか分かっているのか!!」

 

通信が必要がないのではないかと思うような声量で、ムランは行く手を阻むガンプラに向かって叫んだ。

 

「もちろんです。ムラン殿。さぁ……その裏切り者を、こちらに」

 

スルトは、ムランの怒声に何の感情も抱かず、当然のようにフレディの身柄を求める。

 

交渉とは名ばかりの、道理の通らない要求。

その様相は我儘を喚く赤子と、冷たくあしらう親と似ていた。

 

しかし、この場合我儘を通そうとしているのは間違いなくスルトの方だ。それ故に厄介さは前述の例えの比ではない。

周囲の苛立ちもまた、急速的に跳ね上がっていた。

 

仲間であるフレディを裏切り者扱いしムランや聖獣への敬意も感じられぬ物言い。そして……

 

『その機体は何だ』

 

埒のあかない言い合いを、クアドルンの一言が遮った。

スルトはわざとらしくため息を溢す。

 

「聖獣様……今はそんなこと……」

 

『その機体は、何だと聞いている』

 

再度、大きなため息が通信に乗る。

 

「見ての通りですよ。アースリィガンダム。かつて貴方と共に戦った英雄の機体で………」

 

『ふざけるな。あの若者達の事を何も知らぬお前が、その機体に乗る資格はない!!』

 

スルトは肩をすくめながら答えた。

 

「ハッ……意味がわかりません。ガンプラは道具です。兵器です。資格など必要ありませんし、触れることすら許されない御神体でもありません」

 

明らかな挑発だ。スルトは悪びれもなく言葉を続ける。

 

「身内贔屓も……大概にしていただきたい。貴方達は、レジスタンスの膿を匿っているのですよ!!」

 

誰も挑発に乗るものはいなかった。

ムランも、クアドルンもその他のレジスタンス達も。

もちろん皆、腑が煮え繰り返るほどの怒りを抱えていた。

 

が、この挑発に乗るべきではない。

 

歴戦の勘がその事を教えてくれた。戦士達は、唇を噛み締めながら、スルトの挑発を受け流そうとした。

 

「……なんで、そんな事を言うんですか……?」

 

ただ一人、齢十八にも満たない、戦士でもない普通の少年を除いて。

 

「フレディ!」

 

車から弱々しい足取りで降りるフレディを、ムランは止めようとした。

だが、フレディにムランの声は届かなかった。

ムランの静止を振り払い、車を降りる。

瞳孔は、焦点が合っていない。

明確に向けられた敵意が、フレディの精神を削っていた。

 

「僕が……何をしたって言うんですか……?僕は貴方のことを……大切な仲間だって……」

 

「何もしていないからですよ、フレディ。」

 

フレディの辿々しい涙声をスルトは切り捨てながら言った。

 

「……え………?」

 

「さようなら」

 

ビームライフルの銃口とフレディの目が合う。

 

ががあぁぁん!と、派手な爆発が地表を揺らした。

 

ビームは、フレディに命中することなく、雷によって防がれた。

 

『ムラン!!良いな!!』

 

クアドルンの言葉にムランは同調する。

 

「あぁ、もう我慢ならん!!スルト、私はもうお前を仲間だとは思えん!!」

 

フレディとアースリィの間に、車に乗ったムランと、クアドルンが割って入った。

 

「結局は暴力ですか……いいでしょう。そちらがお望みならば、此方もそうさせてもらいます!」

 

スルトが叫んだのと同時に、雷鳴が轟いた。

クアドルンによる雷の攻撃だ。

雷は大地を引き裂き、アースリィの左腕をシールドごと吹き飛ばした。

 

「ぐあっ……!」

 

「私達のの戦力を低く見積りすぎだ!」

 

ムランは心の底からそう叫んだ。

クアドルンに加え、エルドラGMが七機。

それに加えて、前方には戦闘を終えたシンラ達がいる。

ガンプラ一機には過剰過ぎる戦力だ。

 

「ハッ……ハハハッ!それはコチラのセリフだ!裏切り者どもめ!!」

 

空元気にも思えるその台詞を吐きながら、スルトは予想外の情けない行動に出た。

 

逃走だ。前方に広がる森の方へ、一目散に逃げていく。

 

「なっ……追え!!」

 

スルトの行動に困惑しながらもムランは兵士たちに命令を飛ばした。

それに応じて、兵士たちが口々に怒声をあげながらスルトの後を追う。

 

「フレディ!大丈夫か!」

 

ムランは放心状態のフレディを抱え、車に乗せた。

 

「ムラン!先に行くぞ!」

 

「待て!クアドルン!」

 

飛び立とうとしたクアドルンをムランが止めた。

ムランの脳内には、突如現れたガンプラの民、シンラが教えてくれた「聖獣すら凌ぐ兵器」の存在がチラついていたからだ。

 

「いや……すまない、行こう!」

 

だが、クアドルンの戦力は、使用しないと決断するにはあまりにも大きすぎた。

それに、スルトの逃げた森の方面には、シンラもいる。

 

(大丈夫だ……これなら、あのガンプラの民と挟み撃ちに出来る……!)

 

ムランの思惑は成功しない。何故なら丁度その頃にユナクの狙撃がタツカを貫いたからだ。

 

段々と、歯車が狂っていく。

この数十分後、レジスタンス達は絶望の淵に立たされることになった。

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